60 お人好しと兄貴(ルーカス視点)
「兄貴、なんで俺の部屋に居るんだよ……。俺はこれから仕事をやらないと殺されるんだ。」
メイリアに散々説教された俺はフラフラの足取りでやっと辿り着いた自室の部屋を開けると、そこには何故か兄であるカールハインツが辛気臭い顔をしていた。
「……。」
兄貴は俺の方をゆっくり見ると再び視線を落とした。
「いや、なんか言えよ!」
完全な無視に思わずそう言ったが、笑っていられる状況でもなさそうだった。
「ニコラに嫌われた。」
兄貴は下を向いたままそう言った。
「あぁ、ユリウス・トレーガーの事〜?」
ニコラさんはアーレント家の滅亡を望んでいないようだし表面上の事だけ言えば、嫌われるのも当然か。
え、まさかそれだけで人の部屋で落ち込んでるわけ?
兄貴が変な奴で友達が居ないことくらい知ってるけど怖いよ。
「そうだ。本当はあんな事言いたくない。もう言わない。」
うわ〜。兄貴が面倒臭いモードになってる。確かに愛している女性に嫌な事は言いたくないだろうけどさ。
「兄貴、ニコラさんの為にやると決めたんだろ。」
「だが……あんなに傷付いた顔を見てこれ以上続けられると思うか?」
俺もメイリアが傷付いた顔を見たら………そんな所見たことないな。
「あと少しなんだぞ。ニクラス・バーナーとの交渉も上手くいったと言ってたよな。兄貴。」
意気消沈したままの使い物にならなそうな兄貴に口調を荒らげてしまった。
「あぁ、証拠もそろそろ十分だろう。だが、ユリウスは危険な人間だ。ニコラと接触させる訳にはいかない。」
兄貴は納得しない表情のままだ。
この作戦は間違っていたのかもしれない。しかし、ここまできたらやり遂げるしかない。
全てはユリウスを油断させるためだ。きっとこのままではニコラさんはユリウスと単独で会うはずだ。
それが狙いだ。ニコラさん一人が相手ならば油断しペラペラと余計な事まで喋るだろうし、何故かこちらの情報が相手に筒抜けだから俺達は動かないと思わせた方がいい。
何故かと言わずとも、間者がいるだけか。それはメイリアが目星をつけていると言っていたから大丈夫だろう。それに、兄貴がユリウスの逮捕へ動かない事を間者が奴に伝えるはずだ。
それまでは泳がせておこう。
そして、ニクラス・バーナー。あいつはユリウスに脅されているようなもので、少し交渉すればこちらに協力する。
ニコラさんを危険に晒してしまうが仕方ない。兄貴は最後まで反対していたからな。だが、最後までやり遂げなければユリウスをアーレント家滅亡の前に捕まえることが出来ない。
クルトからの手紙の通りならば二日後が勝負だな。
兄貴がこんなで大丈夫なのか怪しいけどな。本当はアーレント家も纏めて捕まえればいいと思ったけど兄貴が猛反対するせいでそれも出来なかったし、こうなったら今の作戦を続行するしかない。
ニコラさんが怪我しないといいけどね。さすがに、すぐに手を出すことは無いだろう。それに、ニクラスも協力するはずだろうから大丈夫だと信じたいが……
「ニコラさんがユリウスと会うことは避けられない。それに、怪我しなければいい方だ。」
変に慰めた所で意味は無い。そろそろ覚悟を決めてもらわないとね。俺も覚悟決めないと……メイリアにはこの作戦止められてたわけだし。
全て終わったら鬼の説教だな。うわぁ〜。気が滅入る。




