6 お人好しの秘密
「今月もよろしくね、ニーナちゃん!」
「はい!よろしくお願いします」
私はいつもとは違う笑顔で返事をした。
「今日はお客さん多いからね。ガンガン働いてもらうよ!」
この人は、商人のメラニーさんだ。とても優しい人で明るくこの街でも人望が厚い。私も大好きな気のいい人だ。
「ニーナちゃんは、最近どうだい?地方で店をやるのも大変だろう?」
メラニーさんは忙しそうに手を動かしながらそう言った。
「えぇ、ぼちぼちですよ」
と曖昧に答える。
実は、これが私の秘密だ。
月に一回、街に行って買い出しではなく、ここのメラニーさんの店で一日だけ働かせて貰っているのだ。もちろん、侯爵令嬢ニコラ・アーレントであることを隠して。
ここでの私はニーナという地方の商人の娘で商売を学ぶために月一回街へ出て働いているという設定である。
初めて街に来た時────
あの日のことは今でも忘れない。
初めて見る庶民の生活
初めて見る食べ物
初めてこんなにも世界が美しく見えた。
ずっと領地の中と社交界しか知らなかった私には全てが新鮮で生き生きとしているように見えて……。
私も庶民の生活を送ってみたいと思った。でもそれは、あまりに楽観的な考えだった。民衆の生活を調べるうちに、私は何も知らなかったと痛感した。何も知らずに私が食べているものや着ているもの全て日々働く人々のおかげで賄われているものだと知った。
だから、一日だけでも経験したいと思って買い出しで行った店のオーナーであるメラニーさんに頼み込んで働かせてもらったのだ。
身分を偽って働くのは悪い事だとは思う。しかし、本当のことを言ったら働かせてもらえるわけがなかったから仕方がない。商人見習いとして働いている時は充実していて、いつもの自分が空虚なものに思えて仕方がなかった。
それから、毎月メラニーさんの店でお手伝いをするようになった。
私の嘘がバレているかは分からないが気立てのいいメラニーさんはそんな私にも優しくしてくれる。
「なぁーに、ぼーっとしてるんだい?もしかしてカイのことでも考えていたのかい?」
メラニーさんがニヤニヤしながら私に向かって言った。
「ご、ごめんなさい。カイ……ち、違いますよっ!」
「あら? そう……残念ね、カイ?」
え、カイ?
まさか…………?
と思って振り向くと、扉の前に長身の青年が立っていた。
「それは残念だな。ニーナ、久しぶりだな」
そう言ったのは、私がずっと会いたかった人だ。
カイ…………。
「久しぶり、カイ。元気だった?」
嬉しさが隠しきれず思わず声が弾むのが自分でも分かる。
「あぁ、もちろん。ニーナに会えてよかったよ」
笑顔でそう言う彼に目を奪われる。切れ長で少しきつい印象を与える目元に、黒髪はいつ見てもサラサラと髪質が良い。誰もが彼を端正な顔立ちというかは微妙だが、私にとっては彼が一番だ。
そう、この笑顔が見たかった。
この人に会いたかった。
会う度に実感する、この人が大好きなんだって。
これはきっと初めての恋だ。