58 お人好しと鬼嫁さん(2)
「あの、お姫様ってどういう意味でしょうか、」
「そのままよ。カールハインツ殿下の大切なお姫様でしょう?」
間違ってはないかもしれないがそう言われると、とても恥ずかしい。
「お姫様ではないですが恋人?ではあるでしょうか。」
「じゃあ、貴方がニコラさんね。会いたかったわ。」
「ありがとうございます。私も出会えて光栄です。」
噂ではとても厳しい方と聞くけれど大丈夫かな。
「堅苦しいのは要らないわ。メイリアって呼んで頂戴。私もニコラって呼ばせてもらうわね。」
メイリア様…………メイリアの勢いに頷いてしまったが仲良くなれるだろうか?緊張で体が強ばりながらそう答えた。
「はい。分かりました。メイリア、よろしくお願い致します。」
「そんな怖がらなくても何もしないわよ。あの馬鹿をしめて気分がいいの。この庭でお茶でもどうかしら?」
どうしようかな。断りにくい……しかし、彼女と何を話せばいいのだろうか。
「私等が御一緒して良いのでしょうか。」
「勿論でしょ。私が誘ってんのよ。愚痴でも聞いて頂戴ね。」
初めは怖い人かと思ったけれど意外とそうでも無いかもしれない、というよりそうであって欲しい。
「ありがとうございます。」
そうして私はメイリア様と美しい薔薇を見ながらお茶をした。しかし、なんでしょう。この状況……。
「それでねぇ!ルーカスのやつ、仕事しないで街に行ったのよ!」
「大変ですね。ルーカス殿下には手を焼いているようで……。」
この流れ知っているような気がする。延々と続けられる愚痴。勢いよく飲み干される紅茶。終始怒ったままの黒曜の瞳。
「そうよ。あの馬鹿ね、カールハインツ様にちょっかい出すの好きなのよ!まぁ、それは貴方の方が身をもって知っているでしょうけど。」
確かにカールハインツ殿下の事よく揶揄う事は多かった気がするけれど。
やはり政略結婚だと仲良くなれないことも多いのかな。
「ルーカス殿下はいつもあのような感じなのですか?」
「あははっ!違うわよ。私の前だとほんとっに情けないのよ。」
愉快そうに話を続けるメイリア様に若干恐怖を覚えながら、情けないルーカス殿下を思い浮かべようとしたがあまり想像がつかなかった。
「あら?信じられないって顔ね。ふふっ!そのうち分かるわよ。」
そんな私を見てメイリア様はそう言うと私の方を見た。
「そうですか。あまり想像できませんね。」
少し見てみたいかも。あの意地悪なルーカス殿下がメイリア様に尻に敷かれてると考えるとなんだか面白い気がするな。
「今日もガツンと叱ってやったわよ。人様の恋路の邪魔するなってね。」
人の恋路……私たちの事かな。邪魔されたと言われればそうなのかな。
「いえ。特に何もされていませんよ。」
「えぇー?貴方達のすれ違いを見て楽しんでるようだったけど?」
少し驚いた顔でメイリア様は言った。
え、楽しんでたの?ルーカス殿下……趣味悪いわ。そういえばいつから私達の事に気付いていたのかしらね。
「メイリア!何を言っているんだ、二、ニコラさん今のはほらメイリアの冗談だから……」
突然話に入ってきたのは見たことがないくらい焦った様子のルーカス殿下だった。
すると、すっと目を細めたメイリア様がゆっくりと立ち上がりルーカス殿下の元まで歩いて行った。
「私、そんな冗談言わなくってよ?それとも……私がこんな詰まらない冗談言うとでも。」
「あ、はい。言いませんよね。すみません。」
一瞬にして弱腰になったルーカス殿下に驚きが隠せない。メイリア様の事を疑っていたわけではないけれどここまでとは思わなかった。
「ほらっ!今までの事謝りなさいよ。あと、放り出した仕事勿論明日までに終わるのよね?」
「ニコラさん、本当に申し訳なかった!兄貴が恋愛なんて面白くて少しだけ意地悪しちゃったね。あ、これからは何もしないよ!ほんと……ほんとだから。」
ここまでノンブレスで言いきったわ。凄い。それより、何でここまで怯えているのかな。不思議だわ。