54 お人好しの家出(3)
「あの……これから私はどうなるのですか?」
殿下たちに流されるままに船に乗ったはいいがこの後どうしたら良いのか分からなかった。
「どうって?城で暮らせばいいんじゃないの?」
何食わぬ顔でルーカス殿下はそう言うが……この人何言ってんの?
失礼を承知で言いましょう。この人恐らく頭おかしい!
「流石に無理ですよ。そんな、突然……。」
「大丈夫だ。俺が何とかしよう。」
カールハインツ殿下まで真顔で何を言っているのですか。そろそろ頭が理解の限界を越えてきた。
「俺の婚約者だって城に住んでるんだから平気だよ。」
ルーカス殿下は相変わらず呑気だ。本気なんだよね……?
「ニコラ様、あの家にいる必要はないですよね?貴方の幸せには家と縁を切るしかないですよ。」
縁を切る……。既に切られたような気がするけれど。たしかに追い出されたようなものではあるし、大丈夫というならいい方法が見つかるまでお世話になってもいいかもしれない。
「殿下……よろしくお願いします。」
戸惑いは隠せないが、今の私に殿下達を頼る以外に道はない。
「うん。まぁ、すぐお義姉様になるわけだしね。」
軽く言われた言葉に驚きどこから出たのか分からない変な声が出てしまった。
「え、そんな気が早いですよっ!」
今の私は自分でも分かるくらい赤いだろう。頬に熱が集まるのが分かる。
恥ずかしい……今の気持ちを簡単に表せばそうなるだろうか。
「いずれはそうなるな。」
否定もせず言い切るカールハインツ殿下にさらに私の頬は熱くなる。
結婚……確かに私が望んでいたことだ。しかし、いざ言われるとどんな反応をしたら良いのか分からない。嬉しいけれど相手は殿下……ゆくゆくは王となる人。釣り合うかと言われれば私にそんな自信はない。
「い、一旦この話は終わりにしましょう!」
「ニコラ様は恥ずかしがり屋ですね。」
なんだろう。セーラ、少し意地悪になった?
「恥ずかしがり屋ではありません。ただ、どうしていいか分からないだけです。」
赤い顔を見られたくなくてそっぽを向いたが、優しい手が私を包む。
「顔が赤いが大丈夫か……もしかしていきなり連れ出して具合が悪くなったのか?」
優しい瞳で顔を覗き込むように見る殿下に心臓がもちそうもない。
「大丈夫です!大丈夫ですから……」
必死に否定したが
「大丈夫ではないのだろう?先程より赤い。城に着いたら医者に……」
さらに心配する殿下を止められそうにはない。
「違います。元気です。とっても、とっても元気ですので!」
このセリフがルーカス殿下だったら、揶揄っていると分かるのだが真剣な顔でそう言われるとカールハインツ殿下が本心から言っているのが分かり恥ずかしさが増すばかりだ。
「ねぇ、メイドちゃん。あの二人って付き合ってたよね。」
少し遠くからルーカス殿下の声が聞こえる。
「はい。そのようですね。」
セーラが興味のないようにそう答えた。
「だとしたら、何であんなに初々しいわけ?」
笑いをこらえる様に言う殿下の声が聞こえ思わず二人を見た。
「聞こえてますよ。」
恨めしい気持ちで軽くルーカス殿下を睨み付けながら言ったが
「まぁ、聞こえるように言ったわけだし。兄貴がこんなだって御令嬢達が知ったら驚くだろうなぁ〜。」
私の言葉をかわすようにルーカス殿下は矛先をカールハインツ殿下へ向けた。
「そんな事はどうでもいい。ニコラが俺を嫌いじゃなければそれで。」
「え……ありがとうございます………。」
ド直球に言った殿下に驚きと嬉しさと気恥しさが込み上げ、私の言葉はどんどんとしぼんでいった。