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48 お人好しと真実(2)

 


 未だ状況が呑み込めないままではあるが少し落ち着いた。考えてみればとんでもないことをしてしまったのではないだろうか。



「殿下、身分を偽っており申し訳ございませんでした。どんな罰も受ける覚悟です。」


 殿下に身分を偽っていたなど許されない事だ。全ては自分が招いたこと。然るべき罰は受けなければならない。



「いや、俺の方が王族という身分を偽っていた。君を騙すことになってしまった。すまなかった。」


「殿下が謝罪をする必要はございません。私の方こそ偽りだらけで……」


 騙したのは私だ。殿下に謝罪をさせるなどとんでもない。


「いや、俺が悪かった!」


 しかし、殿下も一歩も譲らない。だが、非があるのは私だ。


「いえ、私です!」


 その後、暫く私達は互いの罪を否定し続けていた。





「………………ふふふ。」


 何だか可笑しな状況に思わず笑ってしまった。


「………………俺達は似ているのかもな。」


 そんな私を咎めることもなく殿下は切れ長の目をさらに細くさせて微笑んだ。

 

 ふとした笑顔にカイを感じた。


 カールハインツ殿下がカイだった事が分かった今、殿下の全ての仕草一つ一つにカイを思い出してしまう。



 しかし、もうカイとはお別れだ。


「貴方の愛していたニーナはもう居ません。ニーナを殺したのは私です。それでも私を許してくださるのですか?」



「ニーナとはお別れだ。それに、君が今まで見ていたカイだってもう居ない。君はカイでは無い俺を受け入れられないかもしれない。」



 殿下は美しい緑色の瞳で真っ直ぐ私を見つめた。




「カイ……貴方の事を愛していました。しかし、お別れの時が来たようですね。」


 咄嗟に私はこんな事を口走っていた。


「ニーナ、愛していたよ。君も幸せになってくれ。」


 殿下と私はしばらく見つめ合っていた。


 その時の殿下と私は、確かにカイとニーナだった。





  人気のない海辺で私達はまるで世界に二人だけになったような気分になった。まるで時が止まったような……そんな気分だったのかもしれない。



「これでニーナとカイにはお別れだ。」


 そう言って殿下は私の頬を拭った。


「………え?」


 突然の殿下の行動で自分が泣いていたことに初めて気付いた。


 何の感情から流れている涙かはわからなかったが、止まることなく流れてくる涙は私の頬をさらに濡らした。



「初めて会った時も泣いていたな……。」


 涙の止め方が分からず戸惑う私に殿下は言った。


「ニーナとはお別れするのではなかったのですか?」



「あの時泣いていたのはニコラだったのだろう。」



「そうかもしれませんね。」


 初めて私達が会った時も、私は泣いていた。

 しかし、その時とは違う。



「もう君を悲しませない。だから、ニコラ………君のことをこれから長い時間を掛けて教えて欲しい。」


 熱っぽい殿下の目に、胸が射抜かれたように痛む。


「今は悲しいのではないですよ………ただこの涙を止める方法が分からないのです。私にも殿下のこと………教えて下さい。」


 震える声で絞り出した声は今にも消えそうで殿下に届いているのか不安になる程だった。





 偽りだらけの私達の愛は偽りではなかった。そう証明できる日が来るまで私は殿下を信じていこうと整理のつかない心で密かに思った。




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