44 お人好しの妹と陰謀
一話ユリウスとルイーゼの話を挟みます(*_ _)
これは、ニコラが街へ飛び出して行った時の事である。
「ユリウス様〜!会いたかったですぅ〜。」
ルイーゼは甘ったるい声でそう言うと、久しぶりに会った訳でもない婚約者に抱きついた。
「あぁ、私もだよ。」
ユリウスは誰もが見蕩れるような完璧な笑顔で答えた。
「早く貴方と結婚したいわぁ。」
猿に似た顔を赤くしてルイーゼはユリウスを見つめた。
「私もだよ。あれ?今日はいつもと違う香油をつけているのかな?」
「えぇ、お姉様から頂いたのよ。いつも仕事を手伝ってくれるお礼って言ってたので遠慮したのだけど姉からの好意を無下には出来なくて……。」
平然とルイーゼは言うと困ったような表情をして見せた。
「この香りはシャクナゲだね……。」
「ユリウス様と会うと言ったらこれをつけていきなさいと言われたのですよ。」
「ニコラ嬢がそう言ったのかい?」
それを聞いたユリウス一瞬鋭い目付きをしたが、ルイーゼは浮かれていて気づいていなかった。
「そうですよ。シャクナゲがピッタリだって言ってました。」
「ルイーゼはシャクナゲの意味を知っている?」
静かな口調でユリウスはルイーゼに問い掛けた。
「花に意味なんてあるんですか?」
ルイーゼは何を言ってるんだ、という間抜けな顔をした。
「なら、いいんだよ。そうか、ニコラ嬢がねぇ。」
ユリウスの小さな呟きはルイーゼには聞こえなかった。
「もう、ユリウス様ったらお姉様の事はいいですから。」
ルイーゼは彼がニコラの話をする事が気に食わないのか頬を膨らませてユリウスの腕に抱きついた。
「あはは、そうだね。目の前にこんな素敵な女性が居るのに申し訳ないことをしてしまったね。」
困ったような顔をしたユリウスはそう言ってルイーゼを抱き寄せた。
「お姉様と私どちらが魅力的ですか?」
「もちろん………君さ。」
溶けるような甘い声でユリウスは囁くと、ルイーゼは姉に対しての優越感に浸った。
………本当に素敵だよ。こんな簡単に利用できるなんてとても魅力的だ。
だが、君の姉は思ったより手強いみたいだな。
ルイーゼはユリウスの心など知らず、姉から奪った婚約者の座を楽しんでいた。
「結婚したら、アーレント家の事も俺に任せてくれていいよ。可愛い君に負担はかけられない。」
「ユリウス様は優しいですね。全てお任せ致しますわ。」
ユリウスを信じて疑わないルイーゼはそう答えた。
「そうだ、これをニコラ嬢に渡しておいてくれ。君と結婚するなら義姉になる訳だから挨拶代わりにね。」
「分かりましたわ。」
ルイーゼはあっさり受け取ると、ユリウスとの未来を思い描いて破顔した。
「君の姉とはもう少し話さなければならないからね……。」
ユリウスは妖しく微笑み、そう言った。
「何か仰いましたか?」
「気の所為だよ。さあ、行こうか。」
ユリウスの声は風に掻き消されルイーゼの耳には届かなかった。