42 お人好しと手紙
「……あの!すみません。」
走ったせいで息が上がり上手く声が出ない。
しかし、そんなこと今はどうでもよかった。
「いらっしゃい!おや、大丈夫かい?」
メラニーさんは心配そうにこちらを見た。
「はい、大丈夫です。聞きたい事があるのです。」
息を整え、考えを纏めた。
「どうしたんだい?」
店の片付けをする手を止め、訝しげな顔で私を見た。
「カイという貴族を知っていますか?」
「知っているよ。何だ、惚れてんのかい?残念だけどあの子には恋人がいるよ。」
あぁ、そうか今の私はニーナでは無いんだった。
焦って変装することまで忘れていた。
「違います。彼女の……知り合いです。ニーナに貴方に聞いてきて欲しいことがあると言われて………。」
「早とちりして悪かったね。そういう事ならちょうど良かった!」
「ちょうどいい?」
「これ、カイから預かったんだよ。ニーナにもし会ったら渡してくれって。悪いけどニーナに届けてやってくれないか?」
メラニーさんが渡してきたのは手紙のようだ。
「分かりました。」
今すぐ読みたい気持ちを抑えて手紙を大切に仕舞った。
「頼んだよ。それと聞きたかった事は何だったんだい?」
「あ、カイがこの店に最近来たかという事です。」
危うく聞き忘れてしまうところだった。
「手紙を貰ったのは今日の朝早くだったよ。あの二人喧嘩でもしたのかい?」
「あまり詳しい事は……」
「仲のいい二人だったから心配ないとは思うけどね。じゃあ、よろしくね。」
「はい、ありがとうございました。」
軽く頭を下げメラニーさんの店を後にした。
慌てて家を飛び出してしまったから怒られるかもしれない。
それに、セーラが心配しているだろう。
手紙が気になってしまうが家でゆっくり見た方がいいかな。
中身は気になるが、外で見るものではないだろう。
とりあえず落ち着こう、まずは家に無事に帰ろう。このまま焦った気持ちでいては危険だ。
「あれ〜?ニコラさん!こんな所でどうしたの?」
気を落ち着かせようとした時、最近聞き慣れてしまったルーカス殿下の声が聞こえた。
「ルーカス殿下……少し用事があっただけです。殿下はどうされたのですか?」
「え〜、俺?少し街で遊んでただけだよ〜。ニコラさんの方こそもう遅いのに危ないよ。」
遊んでたって…………仕事はないのでしょうか。
いや、遊んでた訳では無いことくらい分かる。ルーカス殿下の事だしきっと何か企んでらっしゃるのでしょう。
「もう、帰りますので大丈夫です。」
会話を終わらせて立ち去ろうとした時
「船着場まで一緒に行こうよ〜。」
と殿下は言って私の隣を歩き始めた。
「そんな、殿下に申し訳ないです。」
「ほら、行くよ〜。」
殿下は私の言葉など、聞こえていないようにそう言うと私を急かした。