36 お人好しの意外な再会(2)
「それで、あの男なんて言ったと思いますの?」
紅茶を豪快に飲むとフィリーネは荒々しくそう言った。
「フィリーネ様が怒る事では?」
「そうよ!それで、私決めましたの。」
さっきからずっとこの調子だ。
紅茶を飲みながら延々とフィリーネの愚痴を聞かされている。
そろそろ眠たくなってきた。
「どうされたのですか?」
「あの男のこと調べたのですよ。恥ずかしい秘密の一つでも広めてやろうと思いましてね。」
元々きつい顔をさらに歪めながらフィリーネは言うと、突然神妙な面持ちになり私を見つめた。
「それで何か収穫はあったのですか。」
実はあまり話を聞いていなかったせいで誰の事を言っているのかも分かっていない。
「それが…………黒い噂がでてきたのよっ!」
「そうなんですね。」
みんな好きだなそういうの。
フィリーネは悪い顔をしているけどそんな根も葉もない噂信じていたら疲れてしまうだろう。
「ちょっと、反応薄過ぎですわ!」
「それは申し訳ございません。」
興味湧かないし、というかほとんど社交界に出てこなかったせいで誰の事を言っているのか分からない。
「でも、貴方にも多少なりとも関係ありましてよ。」
私の反応が気に食わないのか、何とかして興味を引こうとしてくるように見える。
「それは誰の噂でしょうか?」
「貴方の元婚約者のユリウス・トレーガーよ。」
なるほど。たしかに関係は少しあるかもしれない。
今はルイーゼの婚約者だ。嬉しい事に奪われたので今は殆ど無関係と言っても過言では無い。
「もしかして、今までの話全てユリウス様の事でしたか?」
「それが分からず聞いていたの?普通、聞けば分かるでしょう。貴方って意外と適当なのね。」
怒らせてしまったかと一瞬不安になったがフィリーネは先程と変わらず楽しそうだ。
「そうですね。ユリウス様に何かあったのですか?」
聞かずとも勝手に話してくれそうな勢いだが、このままだとまた長い愚痴が続きそうだ。
「武器の密輸に手を出しているって噂なのよ。ほら、最近不正が問題になっているじゃない?決定的な証拠が全くないとの事ですけどね。」
フィリーネが声を低くして周りに聞こえない囁き声で言った。
「武器の密輸…………ですか。」
もっと浮ついた噂なのかと思ったから少し動揺してしまった。