35 お人好しの意外な再会
「いらっしゃいませ!これは最近売り始めたんですよ。」
「あら、これいいわね。全て頂戴。」
メラニーさんと客であろう令嬢らしき人が話している。
何となく、街中へ来たけれどいつもの癖だろうか。
メラニーさんの店まで来てしまったようだ。
あの時、しっかりお別れも言えなかったな……。
お世話になったのに恩を返すことも出来てない。
「あの方……」
セーラが店の方を見て口を開いた。
「店主の方を知っているの?」
「いえ、よく見て下さい。あの客………」
メラニーさんに気を取られ見ていなかった女性客を見ると、どこかで見た事のある顔だった。
あのキツそうな顔と派手なドレス。
よく見たらフィリーネだ。
こんな所で何をしているんだろう?
見つかったら面倒くさそうだし、そっとこの場を離れよう。
「セーラ。あっちに良さそうなお店があるわ。」
見なかったことにして、近くの小洒落た店に逃げる事にした。
「やはり、フィリーネ様なのですね。」
セーラは顔色を変えずにそう言った。
「えぇ。あまり仲が良いとは言えないわ。距離を置きましょう。」
「あら?もしかしてニコラさんではなくて?」
あ、一足遅かった。気づかれてしまったようだ。
「はい。パーティーでお会いして以来ですね。フィリーネ様。」
反射的にそう言って笑顔を浮かべた。
「そうねぇ。これから予定はあるのかしら?」
キツめの顔を緩ませフィリーネは言った。
「この後は、そこにある店に入るつもりです。」
フィリーネは庶民的な店に入りたがらないだろう。
ここでお別れできる。
「奇遇ね!私もあそこに行きたかったのよ。屋敷を抜け出して来たのよ。」
私の予想に反してフィリーネは嬉しそうに言うと、私をひっぱりながら店の方へ歩き出した。
「お、お待ち下さい。私が御一緒するなど…………」
絶対面倒臭いことになる。出来れば断りたい。
しかし、既に鼻歌を歌うくらい機嫌が良さそうなフィリーネを止める手立てはなかった。
「そういえば、パーティーの時は私の背中を押そうとガツンと言ってくれましたね!何でもいいから行きますわよ!」
「その節は申し訳御座いません。」
あの時はエルマを助けるために必死だった。
ガツンと言ったつもりは全く無いのだけれど?
結果的にはエルマを助けられたから良かったけれど、我ながら随分と考え無しの行動だったな……。
「私は買い出しに行ってきます。お二人でゆっくりして下さい。」
私がフィリーネに連れていかれている隙にセーラは私達から離れていってしまった。
セーラ……。フィリーネが苦手なのね。
わがまま令嬢で有名だもの。仕方ないか。
「気が利くわね。そうさせてもらうわ。じゃあ、行きましょうかニコラさん?」
「はい。ありがとうございます。」
前より雰囲気が柔らかくなった気のするフィリーネは店をキラキラした黒曜の瞳で見つめていた。
何故かとても喜んでいるみたいだしお茶を飲むくらいは付き合おう。