31 お人好しの興味(2)
「俺の恋人は君もわかっていると思うが平民で商人をしている」
「そうなのですか」
商人か……。確かに王族と結ばれるには厳しい身分だな。
殿下の心を射止めた商人の女性…………。
絶世の美女とかなのかな。
あまり想像出来ないなぁ。
「彼女は気取らない笑顔が素敵だったんだ。王族として生きていくには彼女を諦めなければ無かったのは分かっていた。だが、何より彼女と居る時だけは本当の自分になれるような気がして………」
私が居ることを忘れているかのような口振りで殿下はそう言った。こんなこと言ったら烏滸がましいのかもしれないけれど私と殿下は似ている気がする。状況は勿論、殿下も今まで自分の気持ちを押し殺して生きてきたのだろう。
王族の責任の重さは私には計り知れないが、自分の心に嘘をついて生きる苦しさは痛い程分かってしまう。
「殿下も苦しかったのですよね…………」
思わず相手が殿下であるというのにそんな言葉が漏れてしまった。
「君もそうだったのだろう、さっき惚気けている時に不覚にも共感してしまった」
怒る訳でもなく殿下はそう言って微笑んだ。
……………!
まただ。
いつもの胡散臭い笑みではない殿下の少し困った笑顔に思わずドキッとする。今のは殿下がかっこいいからとかそんな安い理由ではない。
目じりを下げて笑うあの顔がカイに似ていたからだ。
切れ長の目が似ているのかもしれないけれど、それだけではないような気がする。
「惚気けていたって! そんな事ありません」
殿下を見ていてあまり聞いていなかったが、惚気けていたつもりはなかった。
「まぁ、いいけど。似た者同士協力し合おう」
私の必死の言葉も軽くあしらわれてしまった。何にせよ殿下との交渉は成立した。これから、どうにかしてカイともう一度会って思いを伝えなければならない。
殿下も上手くいくといいな。
ただの協力関係とは言えども、私と似た境遇だったと知ってしまった今、彼の幸せを願わずにはいられない。
それと、セーラとルーカス殿下はどこに行ったのかしら?
ルーカス殿下は本当に何を考えているのか分からな方だから少し心配だわ。
セーラの事だから大丈夫だとは思うけどね…………。
カールハインツとニコラが話している時、セーラもまた厄介な男の相手をしていた。
「殿下、失礼ですが頭は大丈夫でしょうか?」
抑揚のない声でセーラは言うと、目の前の男を見た。
「心配してくれてるの〜?優しいね、さすがニコラさんのメイドだね〜。」
茶化すようにルーカスは笑ったかと思うと突然、好戦的な笑みを浮かべセーラを見た。
「真面目に答えて下さらないつもりですか。先程の提案、本気で仰っているのならば私はニコラ様のために全力で殿下の事を止めますよ。」
セーラは主人の前では見せたことの無い冷たい瞳でルーカスを静かに睨みつけていた。
次話はセーラとルーカスの話が入ります