27 お人好しの策略
「……聞かせてもらえる?」
セーラは意外と危険な思考の持主だから何を言い出すか不安にもなるがとりあえず聞いてみよう。
「勿論です。まず、カールハインツ殿下と婚約して下さい」
「それは、彼のことを諦めて殿下を好きになれということ?」
「いいえ。違います。利用するんですよ殿下を」
セーラの言っている事がよく分からない。あの胡散臭い殿下を利用するなんてきっと無理だ。知らないうちに、逆に利用されて捨てられるオチが容易に想像できる。
それに、殿下を利用するメリットなんてあるのかな。
「何をするつもりなの?」
セーラは、何かを取りだした。
「これは?」
「前にカールハインツ殿下がいらっしゃった時に落としていかれたものです。」
セーラに促されて見ると、可愛いらしいラッピングが施された袋に入っていたのは女物のネックレスのようだ。
「つまり、カールハインツ殿下には好きな方がいらっしゃるという事ね」
「はい。恐らく。きっとプレゼントなさる予定だったのでしょう」
何となく分かった気がする。カールハインツ殿下には好きな相手がいるが、婚約を陛下に急かされて困っているという状況である。
そして、何かしらの理由で想い人とは婚約できる状況ではない。だから、仮初の婚約者が必要である…………こういう感じかな。
私が初めに考えていたことが現実味を帯びてきたな。
「言いたい事は分かったわ。それで、殿下に仮初の婚約者って分かっていない振りでもすればいいのかしら?」
「それもいいかもしれません。騙せていると思っていらっしゃる殿下を笑うというのも悪くないですね」
セーラの性格は結構歪んでいるなと思ったのは秘密である。
「そんな趣味は私にはないわね。」
「…………冗談ですよ。とりあえず、殿下に想い人がいらっしゃると仮定できるのならお互いのために、暫くの間は婚約者のふりをするというのもいいのではないでしょうか」
セーラの言う事は確かにいいかもしれない。私にも相手にも好きな人がいるとなれば協力し合える。
お互い政略結婚に怯えているわけだから仮にも私達が婚約すれば、少しの猶予ができる。その間に好きな人と一緒になる方法を考え実行に移す。
その後、何かのトラブルで婚約は解消されたという事になれば完璧。
家の名誉? そんなの知らない。そんな事したら父には怒られるだろうな。いっその事、家出でもしてしまおうかな。
今まで頑張ってきたんだもの。少しくらい………いや、その前にカールハインツ殿下と上手く交渉を進めないと。
「セーラ。明日の食事会、絶対に成功させるわ。」
とりあえず、殿下に好きな人がいるという予想が当たっていればいいんだけどね。
でも、やるしかない。勝負は明日だ。