26 お人好しの動揺
カールハインツ殿下から食事の誘いか……。
普通に考えておかしい。一目惚れとかそんな可愛らしい話ではない。
これは絶対なにか裏があるはずだ。今日の食事会で見極めなければならない。 不安な気持ちを抑え込み、セーラを呼んだ。
「ニコラ様、明日の食事会ではこちらのドレスがお似合いかと」
セーラは何着かドレスを持ってきてくれた。
「ありがとう。でも少し派手かしら。」
とても美しいドレスだけれど派手過ぎる。カイの事を忘れようとしいる中こんな派手なドレスで殿方とお食事なんて気分にはなれない。
「ねぇ、セーラ……。貴方はクルトと上手くいっているの?」
「えぇ。最近はあまり会えていませんが文通はしています」
クルトはセーラの恋人で違う侯爵家に仕えている。
「そうなのね。良かったわ」
自分で聞いといて、こんなに薄っぺらい反応をするなんてどうかしている。
「どうされました? カールハインツ殿下との食事会、緊張されていますか?」
「たぶん、そうなのかしらね……」
自分でもなんでこんな質問をしたのか分からない。
セーラが恋人と上手くいっているのはこっそり手紙を書いているのを見ていたから知っていた。いつも通りに戻ったつもりでいたけれど、思った以上にカイとの別れが辛かったようだ。
それともセーラの言うように殿下との食事会に緊張しているのか。もし、そうだとしてもこの緊張はアーレント家の行く末に対しての不安からだろう。
考えるとどんどん不安になってくる。こんな調子ではセーラにまた心配されてしまう。
「ニコラ様、お慕いされている方がいらっしゃるのですか?」
黙り込む私にセーラは言った。
きっと、セーラは私がカールハインツ殿下の事を好きになったのではないかと思っているようだ。
それは全くない、絶対無い。
「べつに殿下の事が好きという訳では無いのよ。」
こんな風に言ったら、本当に殿下を慕っているみたいに聞こえてしまうかもしれない。
「知ってますよ。毎月、買い出しに行かれる時会っている方がいるのですよね? 」
焦った私を見てセーラは柔らかく微笑んでそう言った。
「え、何でそれをセーラが知って…………」
セーラには何も言っていないはずなのに?
「ニコラ様は街へ行く時、とても楽しそうで私はそれが何より嬉しかったのです。もし、私が言ってしまったらニコラ様は辞めてしまうのではと思い…………申し訳ありません」
「いいえ。私ってそんなに分かりやすいのね」
自分で隠し通せていたと思っていたのが恥ずかしい。そして、セーラが優し過ぎる。たしかに、セーラにバレていると分かっていたら街に行かなくなっていたかもしれない。
「幼い頃から見てきましたからね。失礼かもしれませんがそろそろ素直になられてもいいのでは?」
「素直……? それは、どういう事かしら」
まさか、私が聞き分けの言い振りをしていたのも恋人を諦めた事もセーラには全て分かっていたと言うの……?
「想い人の事も、あなたを虐げる家族のこともですよ」
セーラは悪どい笑みを浮かべ、ひと呼吸おくと
「私に、妙案がございます。」
と言って私を真っ直ぐ見つめた。