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25 お人好しの悲哀

 

「それで、話って何?ニーナがそんな悲しそうな顔をするのは珍しいね」


 いつもと変わらない優しいカイに、言おうとしていた言葉が上手く出てこない。


 別れよう、それだけで終わるのにその言葉がどうしても喉の奥で消える。


「あ、あのね。カイ………」


「あぁ、そうだ俺も話があるんだよ。話しにくいなら俺から先に言うよ。」


 そう言って微笑むカイに何も言えず頷いた。


「実は俺、婚約させられそうなんだ」


 その言葉を聞いた瞬間、何も考えられなくなった。


「え、本当なの…………?」


 ほとんど動かない口ではそう言うのがやっとだった。


 悲しげに私を見つめるカイの瞳が事実であることを物語っている。


「うん。前、出ないって言ったダンスパーティーに代理で出ることになったんだ。そこで会った令嬢と家のために政略結婚しないといけないかもしれなくてさ。でも、俺は何とかして断るつもりだよ……」


 カイはそう言っているが、政略結婚を断るのがどんなに難しい事かはよく分かっている。


 ほとんど無理だ。でも、これならカイの事諦められそうだ。手の届かない所に行ってしまえばきっと次第に忘れていくだろう。


 どう頑張っても私とカイは一緒になれない運命だった。そう割り切るしかない。私なんかが幸せになろうとしたからこんな事になったのかな。


 もう、仕方ない事だ。今なら別れを告げることが出来る。


「そっか、カイ実は私も同じ感じでね、結婚しなきゃいけないの」


「え、ニーナは商人だろ?政略結婚なんて………」


 私の顔を今まで見た事ないくらい驚いた顔で見つめるカイがいた。


「ううん。最近、商売が上手くいってなくて大商人の人に嫁ぐことになってしまったの。だから、ごめんなさい。もう貴方とは会えないの」


 こんな時でも嘘はすらすらと出る自分に嫌気が差してきたが、肝心の別れの言葉は喉の奥に引っかかってなかなか出てこない。


「そんな、ニーナどうにもならないのか?」


 カイは今にも泣きそうな顔でそう言った。


 泣きたいのは私だよ────


 なんて身勝手な気持ちに支配されそうな私は人生で1番最悪な気分だった。


「さようなら。もう会えないね。どうか幸せになって」


 背を向けてそれだけ言って夢中で走った。


 カイが何か言ったのが僅かに聞こえたが振り返ってしまったら、お人好しのニコラ・アーレントには戻れない気がした。


 その後のことはあまりはっきりと覚えていない。どうやって帰ったのかもしっかり覚えていないが、目が覚めたら自分のベッドにいた。


 放心状態で船に乗って帰ったんだろうけど、無事に帰ってこれただけマシなんだろう。


 これから、カイとはもう二度と会えないのに何のために生きるんだろう?


 次の日まではそう思っていたのに、不思議な事に少し経ったらいつも通り仕事をしていた。



 私って凄いな……………なんて事は無いけど。


 こんなにも、心の支えだったはずのカイを失ってもこんなに落ち着いていられるなんて思わなかったなぁ。


 もう、いっその事罠でもなんでもいいからカールハインツ殿下と婚約してもいいかもしれない。


 あっ!忘れてたけど明日だったわ。殿下と食事をするの………。


 重い気持ちのまま、殿下と食事なんて最悪だわ。あのパーティーにいた御令嬢たちは、きっと羨ましがるだろうな。 私の気なんて知らないでさ。



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