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24 お人好しの躊躇

 


 はぁー。もう何日こんな状態なんだろう。


 何事をするにも身が入らない。


 あれから二週間、ぼーっと仕事をしている内にこの日が来てしまった。父からは絶対に殿下と婚約しろと言われ、ルイーゼからは散々嫌味を言われ続けた。


 疲れているのは確実だ。


 何より悩ましいのは……まだ、カイに別れを告げる決意もできていない事だ。


 そして、カールハインツ殿下からの手紙。内容は一週間後に、二人で食事をしようというものだ。



 私の頭を悩ませる二つの事に嫌になりながら、街へ行く支度をした。


「ニコラ様、最近体調が優れないように見えますが本当に行くのですか?」


 セーラが心配そうな顔で私を見る。


「大丈夫よ。少し仕事が溜まって疲れてしまっただけ。心配かけてごめんなさい」


 不安を振り払うようにそう言って微笑んだ。いつものように眼鏡とウィッグをつければ商人の娘ニーナの完成だ。


 そして、いつものように船に乗って店に向かった。いつもと違うのは心から踊り出すようなあの明るい気持ちでは無いことだ。


 カイに別れを告げる。それだけだ。


 そして、メラニーさんの所にニーナの姿で来ることも今日で最後にしよう。


 きっと別れを延ばしたら辛くなるだけだから。


 ニーナとして別れよう。カイが愛しているのはニーナだから。わざわざ、嘘つき令嬢の姿で最悪の思い出として彼の心に残って欲しくない。


 さぁ、店に着いてしまった。カイがもし今日ここに来たら絶対に………。



「あら? ニーナちゃん。いらっしゃい。今日も手伝ってくれるのよね」


「はい!お願いします」


 メラニーさんの優しい笑顔に思わずいつもの声が出る。


 メラニーさんともお別れだ。でも、別れるのは最後でいいよね。


 今日だけ、今日だけは………


 最後の思い出だ。精一杯、働かせてもらおう。



「今日はカイ遅いねぇ。ニーナちゃんも寂しいだろ?」


 ピークが過ぎて、客の少ない昼時になった。


 メラニーさんは私にそう言った。


「そうですね………」


 でも、今日は来てしまった時の方が寂しい。


 変な話だけどね。嫌いにもなってない、むしろ好きで仕方ないのにお別れなんて残酷だ。



「こんにちは。ニーナ、元気だった?」


 ドアに人影が映ったと思ったら、愛しい声が聞こえた。


 会いたかった、いや、来て欲しくなかった彼がそこにいた。


「カイ! 元気だったよ? あのね……後で話したいことがあるの」


「ん? 分かった。俺もちょうど話があったんだ」


 いつもと違う様子の私を心配そうに見たが、カイも寂しそうな顔でそう言った。



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