22 お人好しではない王子たち(ルーカス視点)
今回はルーカス視点の話です
俺は少し前から気づいていた。
兄貴が平民の女に想いを寄せていることを。これはバレたら大変な事になる、考え無しの俺にも分かる。兄貴はいつも真面目で、仕事もミスなど無いし社交も完璧だ。
ずっと一緒にいた俺にすら、見破るのが難しい作り笑顔と優しい人格で乗り切ってきた。あの性格は何から何まで本人と違う。本性は捻くれ者の腹黒王子だ。
王になる者としては仕方がないことだが、ある日から少し顔付きが変わった。
何もかもつまらないという顔をしていた兄貴が、少しだけソワソワしているような気がしたんだ。
何処かに出掛けていくようだが、何処に行くのか聞いても街に行く、の一点張り。
こっそり後をつけたんだ。良くないとは思ったんだけど、これは女がいると思ったから仕方ないよね。
「久しぶりだな。会いたかったよ」
「私もです。また、会えて良かったです」
後をつけて分かったのは、兄貴は身分差の大きな娘に夢中である事だ。それも下級貴族だったら救いはあったが平民だ。どう頑張っても一緒になる事は出来ないだろう。
俺には止める義務がある…………だが俺には出来なかった。
早めに止めれば良かったんだろうけど、あんなに幸せそうで屈託の無い笑顔を人に見せている兄貴を止められる自信がなかった。
いや、違うな。兄貴の幸せを奪えなかったんだ。でも、ここまで拗らせてしまうとは思わなかった。父上にも婚約者を決めろと兄貴も言われるようになった。
俺は馬鹿なんだろうな。まぁ、兄貴の方が馬鹿だけど。
どうかしていた俺は、二人の恋を成就させてやりたいなんて思ってしまった。それか、相手の女の子に兄貴を嫌いになってもらうしかない。
俺は密かに相手の女の子について調べるようになった。
そして、一つの仮説を立てた。
これが本当ならば二人は幸せになれるかもしれない。
まだ二人には大きな壁があるけれど、必ず…………。
そのために頑張って貰わないとねニコラ・アーレント侯爵令嬢。
「随分難しい顔をされてますね、美しい顔が台無しになってしまいますよ。ニコラ・アーレント嬢?」
俺はそう声を掛けた。
彼女は、分かりやすく驚いた顔をした。兄貴と踊っている時、感じた違和感。笑顔だけれど全く嬉しそうじゃない。
兄貴と全く同じ胡散臭い笑みだ。
鎌をかけたら、やはり兄貴の事を狙っていない事が態度からもよく分かった。ニコラさんと呼ばせてもらおう。彼女は俺の義姉になるかもしれないんだしね。
ニコラさんは頭が良いみたいだ。俺の思惑の一つには気付いているようだ。
一つはアーレント家に不正がないか見極めること。
そしてもう一つは、兄貴と両想いになってもらう事だ。
兄貴は平民と恋に落ちてるんじゃなかったのかって?
それだと幸せにはなれないからね。
でも、俺の仮説が正しければ二人は、物語に出てくるような運命の人っていうやつなんじゃないかな。
運命の人ならきっと上手くいくはずだからさ。
二人とも鈍感だな〜。俺には二人の秘密分かったのにさ。最悪の場合は俺が王位を継ぐことになるかもしれない。ここが物語の世界みたいに上手くいくといいけど。
次話はニコラ視点に戻ります(*_ _)♡