21 お人好しではない王子たち(カールハインツ視点)
明日はダンスパーティーか………。
面倒臭いな、ルーカスが行けばいいものを。
「兄貴〜! 知ってるか、お人好し令嬢のこと」
ルーカスは人の気も知らずにそんな事を言うが、俺は押し付けられたダンスパーティーが憂鬱で仕方がない。
「あぁ、ニコラ・アーレントだったか?」
「そうそう」
「それがどうした?」
ルーカスが何が言いたいのか分からず顔を顰める。
「婚約者にすれば? そろそろ決めないと困るでしょ〜?」
「はぁ? 何言ってるんだ。馬鹿馬鹿しい」
突然何を言い出すかと思えば婚約者にだと?
俺はまだ婚約者など決めるつもりなどない。
「それは、兄貴が恋しちゃってる女の子がいるからそう言うんだろ?」
「そ、そんなことは無い」
図星をつかれ焦ったがこの事は露見させるわけにはいかない。
「俺は人の顔色ばかり見て、上っ面しか見ない女が一番嫌いだと言っているだろう。」
俺の周りには昔からそんな女ばかりだ。甘ったるい声で近付いてきて俺の権力と顔しか見ていない。
「ふ〜ん。でもさ、兄貴だって分かってるだろ? 恋愛結婚なんて夢のまた夢だって事」
憎たらしいニヤついた顔で言うルーカスに一発入れたい気分だが、言っている事は間違ってはいない。しかし、何故俺に想い人がいる事をこいつが知っているのか。
「だから、そういう訳では……」
「兄貴って意外と甘いとこあるよなぁ〜」
煽るようにルーカスは俺を見た。
「分かったよ。婚約は適当にする。しかし、何故そのお人好し令嬢なんだ?」
婚約は適当に解消すればいいだけだ。
何故、ルーカスはお人好し令嬢を俺に勧めるのか分からない。
「ん? 何となく。胡散臭い同士お似合いかなって〜。」
「聞いた俺が間違っていた。お前も見たことないんだろ、その女」
胡散臭い同士という事は、その令嬢も俺が嫌いな部類の人間なんだろう。
「うん。明日のダンスパーティーに出るかもよ。容姿はとても美しくて長い金髪らしいぞ。惚れちゃったりして〜」
他人事だと思って、軽口を叩くルーカスを軽く睨んだ。
「俺が惚れることは無い。その女、アーレント家だよな?」
「う〜ん。そうだよ〜。アーレント家といえば突然優秀になったよね。何か不正でも働いているのかもしれないね」
「アーレント家を探った方が良さそうだな。それならばニコラ・アーレントに近付くことも納得だ。そういう事だろう?」
ルーカスにしては筋の通った考えだ。そうか。そのためにあの令嬢を勧めたのか。アーレント家、秘密を暴いてやろう。ケヴィン・アーレントは優秀な反面、女に対してだらしないという噂も聞く。
不正が分かれば婚約破棄も簡単だ。
仮初の婚約者になってもらおうかニコラ・アーレント。
どうせ、少し笑いかければほとんど俺の言いなりになるだろう。情報も聞き出せるし、すぐに解消できる婚約関係も手に入れられる。
あとは、どうやって彼女を守るかを考えるだけだ。
大切な彼女を……けれど本当にこれでいいのか?
次話はルーカス視点の話です