18 お人好しとルーカス殿下
「有名………私がですか?」
「うん。お人好し令嬢ってね」
あぁ、またそれか。自分の行動が招いた呼び名だけどあまり好きにはなれないな。
「確かに。そう呼ばれているみたいですね」
「嫌なんだ?」
私の言葉にルーカス殿下は不思議そうに言った。
「私は優しくもないですし、そう呼ばれるほどのこともしていませんので」
「ふ〜ん。なんか、噂と違うね。こうやって話してみると、兄上といる時は噂通りだなって思ったんだけどね〜」
緩い口調でそう言った殿下は私の言葉を待っているのか、少しだけ私に視線を向けた。
「それはどういう意味ですか、カールハインツ殿下といた時と今、そんなに変わらないかと思うのですが」
掴みどころのない雰囲気のルーカス殿下の心は読めないが、私を試すような視線に得体の知れない恐怖を感じた。
「さっきまで、ずっと笑顔だったのにさ。今はね〜、なんだか辛そうな顔してる」
「私がずっと笑顔の人間だと思っていたということですか。そんなに器用ではありませんよ」
私も人間だ。そんなにいつでも笑っていられるほど強くはない。
「でもさ、兄上の前だと楽しそうだったよね。君も兄上の隣を狙っているの?」
ルーカス殿下は急に鋭くなった瞳で私を見つめた。
もしかして、私がカールハインツ殿下と踊ったから狙っていると思われた? 冗談じゃない!
これだから嫌だったんだ。
それに、ルーカス殿下はきっと私の本心を見抜いている気がする。
「狙っていないと分かっていて質問されているように感じますわ。もし、私が殿下を狙っているならば、もう少しアピールする筈ではありませんか? ここで夜風に当たろうとはしないはずですわ」
少しキツイ言い方になってしまったが、しっかりと弁解しておかないと後で面倒臭い事になりかねない。
「分かってたんだ。うん、だってニコラさん兄上に全く興味無さそうだったし。みんな兄上と踊ったら見惚れて暫く動けないんだよ〜」
面白そうに言うルーカス殿下だが、分かっていたならなぜ私に聞いたのか?
「そうなんですか。生憎、私には想い人がいますので……」
「え〜。でも君は兄上好きになるでしょう?」
言っている言葉の意味が分からない。さっき興味が無いと断言したばかりだ。
「仰っている事の意味を量りかねます。」
「あんなにかっこいいんだよ〜? 絶対、好きだって。気づいてないだけだよ。」
この人、カールハインツ殿下のこと大好きなのか…………?
殿下を好きにならない人はいない筈だから、好きじゃない私を洗脳しようとしているの?
そんな無駄なことしないか。
なんにせよ、わたしが想う人はカイただ一人。カールハインツ殿下の事をかっこいいとは思ったとしても好きにはならない。
「先程も言ったように私には………」
「今度さ、兄上を君の家に連れてくよ! きっと相性いいと思うんだよね。だからさ、少しでいいから君のこと試させて?」
私の言葉を遮ってルーカス殿下はそう言った………。