16 お人好しと殿下
「さすがの人気ですね………。皆様の目がギラついていますね」
エルマが静かに口を開く。
全然似てはないんだけど切れ長の目の人を見るとカイを思い出してしまう。重症だなと思い自分でも呆れる。カールハインツ殿下は茶髪に切れ長の緑色の瞳。女性なら誰もが見とれてしまうだろうと言ってもいいくらいの端正な顔立ちだ。
令嬢たちが燃えるのも分かる…………けれど、そんな方を見ても心が全く揺らがない。
早く一ヶ月経たないかしら。人気者と関わるといいことは無いわ。周りの令嬢たちとは対照的に気持ちが沈んでいく。
「本当ね。巻き込まれないようにしましょう」
そう答えて、私が端に寄ろうとした時
「君がアーレント侯爵令嬢かな?」
突然こちらを向いたかと思うと、カールハインツ殿下が口を開いた。
は? なんで、私に………
できれば関わらないで欲しい。その気持ちを隠して笑顔で答える。
「そうですが、カールハインツ殿下何か御用でしょうか?」
「少し、君の噂を聞いて話してみたいと思っただけさ」
誰もが見惚れる笑顔で言うカールハインツ殿下の目の奥がよく見ると笑っていない事が分かる。
そんな胡散臭い笑みを浮かべるんだったら無表情の方がマシだわ。なんて、笑顔で取り繕う私が言えたことじゃないけれど。今すぐ話を終えたいところだけど相手は王太子。
「それは光栄ですわ」
愛想よく返すが、一瞬カールハインツ殿下の目が鋭くなったように見えた。
「ぜひ、アーレント家の事を教えて欲しいな」
もう一度見るといつもの人好きのする柔らかい笑みに戻っていた。カールハインツ殿下は優しくてかっこよくてみんなの憧れ。でも、心の中に奥深い闇を感じたのは私だけだろうか。
周りの令嬢たちは気づいてないのかな?
彼の笑顔が少しぎこちないこと。私の胡散臭い笑みにとても似ている。
「アーレント家の事ですか……?」
私が首を傾げると
「そうだよ。君のお父様はとても優秀で仕事が早いと評判だよ。まぁ、他にも有名だけど………」
にこやかにカールハインツ殿下は言った。
「殿下に認めて頂けるなんて……父も大層喜ぶことでしょう」
笑顔の殿下がとても憎らしく見える。
父は仕事などしていない。後半の言葉は父が女たらしで有名な事かしら? それは正しいわね。
これ以上なんて言っていいか分からず、言葉に詰まっていると音楽が流れ始めた。
「ダンスの時間のようですね。私はこれで失礼致します」
こんな時に殿下といたら周りの令嬢達に勘違いされてしまう。急いでその場から逃げようとしたら、殿下に手を取られた。
「私と一曲踊っていただけませんか?」
甘いマスクでそう言われ、ドキドキする…………ことも無く、断る口実も無いため、周りの目を気にしながら殿下と踊ることになってしまった。