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12 お人好しの帰宅

 


「ただいま」


 小さな声でそう言って家に入った。


「おかえりなさいませ。ニコラ様がご無事で何よりです。荷物は全てお持ち致します」


「ありがとう。私は大丈夫よ」


 すぐに出迎えてくれたセーラに安心した。心配してくれる家族はいないけど、こんなに優しいメイドがいるではないか。沈んでいた気持ちを誤魔化すようにそう思うとセーラと共に部屋へ戻った。


「あーら? ご無事でなによりですわ! お使いはできましたのね、お姉様」


 部屋に戻る途中で会ったのはルイーゼだ。また、飽きもせず私にそんなことを言っている。疲れているせいで頭に全く入ってこない。


「買い出しはバッチリよ。ルイーゼあなたが欲しがってた香油あったわよ」


「と、当然ですわ!たまには役に立つのね」


 口ではそう言いつつ嬉しさが隠しきれないのか私から香油を直ぐに受け取ると落ち着きの無い様子でそう言った。


「喜んでくれてよかったわ。それと、明日ダンスパーティーの招待状が届いていたわ。ルイーゼどうする?」


「もちろん行きますわ!と言いたいところだけど明日は婚約者との食事会よ。お姉様、行ってきて頂戴。みすぼらしいドレスで笑われてくるといいわ」


 それだけ言うとさっさと廊下を歩いていってしまった。


「あの豚野郎!私が今すぐ食事に毒を………」


 さらに口の悪くなったセーラは今にもルイーゼを殴りに行きそうな顔で睨んでいる。


「だめよ。それよりも明日のダンスパーティーに出なければならないとなれば支度しなくてはならないわ。手伝って貰えるかしら?」


 気は重いがダンスパーティーに行かなければならなくなってしまった。


「もちろんです。明日はニコラ様を一段と輝かせてみせますよ!」


 急に元気になったセーラと部屋に入るといつもの日常に戻ったのだと落胆する。


「ありがとう。セーラ。楽しみにしてるわ」


 自分でも取り繕えていないことは分かったが、そう言うのが精一杯だった。


「ニコラ様、パーティー苦手ですものね。美しすぎて注目の的になってしまいます」


 ちょっとズレているがパーティーが苦手なのは事実だ。


「そんなことないわ。セーラ、明日はよろしくね」


 それだけ言って私は今日出来なかった仕事に取り掛かった。


「もう!たまには休んでください!」


 呆れて言うセーラの声を無視して資料に目を通した。資料の中にはルーカス殿下についてのものがあった。


 明日のダンスパーティーはルーカス殿下が出席するようだ。


 ルーカス殿下は第二王子で人気だが、それよりも人気なのが第一王子であるカールハインツ殿下だ。私は直接見たことは無いが、いつも笑みを絶やさず柔らかな物腰で多くの令嬢を魅了しているらしい。


 婚約者がいないことから水面下で令嬢たちの熾烈な争いが勃発している。


 なんと恐ろしい。本当に関わりたくない。


 端正な顔立ちに優しい物腰、性格も良くて次の王を約束されている立場。どこから見ても完璧な男性だ。人気になるのも頷ける。とりあえず、彼がダンスパーティーに来なくてよかった。


 明日のパーティーにはルーカス殿下がご出席の予定だ。 彼は婚約者を伴って出席する予定との事だから令嬢たちの争いも心配ないだろう。


 久しぶりのパーティーは不安だがこれも家のためだ。ルイーゼが行けなかったのは誤算だがたまには社交界にも顔を出した方がいいだろう。


 憂鬱な気持ちは依然として変わらないが気合いを入れ直して明日のパーティーの支度を始めた。


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