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1 お人好しの令嬢

 

「ニコラ様、今日のお食事は何に致しましょうか」


 優雅にティータイムを過ごす令嬢にメイドが言った。


「どうしようかしら。そうね……お父様たちの好みでいいわ」


 侯爵令嬢ニコラ・アーレントは、専属のメイドであるセーラにさほど興味が無さそうに答えると、紅茶を飲みほした。


「またいつものそれですか?たまにはご自分の好みを通してもいいのですよ」


 呆れるようにそう言ったセーラは空っぽになったティーカップに紅茶を足した。


「ありがとう」


そう微笑んだ彼女にセーラは思わず見とれた。長年仕えている主人ではあるが、彼女の造形の良い顔には慣れないのだ。ニコラの、美しい母親譲りの長い金髪は太陽の光を浴びきらきら輝く。その姿はやはり眩しく見えた。


「お父様はいつ頃帰ってくる予定かしら?」


「遅くなるとは言っていましたよ……遊び人ですから」


 セーラは心底嫌そうにそう答えるとニコラにお菓子を持ってきた。仮にも仕えている立場の者が主人を遊び人と言って良いかは分からないが、セーラにとって主人はニコラただ一人である。


 セーラはニコラより4歳年上で、ニコラが8歳の時から仕えていた。そんな彼女は誰よりもニコラの傍にいた。誰よりも、そう……家族よりもだ。


 ニコラの家族はお世辞にも優しい人たちとは言えないだろう。


 父親は醜い容姿にもかかわらず浮気性で仕事を娘に押し付けるどうしようもない男だ。


 母親は母親でその美貌からたくさんの男から言い寄られていた。普通、既婚女性に言いよるのは非常識であるが、あの男が旦那ならば仕方なかったのだろう。


 もちろんニコラの母親ドリスは全て断っていたが、旦那の浅ましい行動に頭を悩ませた果てに病気を患ってしまい今では寝室から出てくることは無い。むしろ、それが結果的にはニコラにとって良い事になってしまっている。病気を患う前のドリスは、不満をヒステリックに叫び散らしていたのだから。八つ当たり先はニコラだった。現在はそれが無くなったが、滞った仕事は全てニコラ一人でこなす羽目になっている。


 最悪なのはニコラの妹ルイーゼである。父親譲りのお世辞にも美しいとは評されない容姿の彼女は、姉に嫉妬してニコラをことある事に虐げるようなとんでもない性悪令嬢なのだ。


 日常の嫌がらせには飽き足らず、ニコラの婚約が決まった時もルイーゼが相手に一目惚れしたと言い散々駄々をこねて婚約者の座を奪った。


 父親のケヴィンは自分に似たルイーゼを溺愛しており、諌めてくる妻に似てるニコラは見ていて気分が悪かったようだ。そのため、すぐに婚約をルイーゼに代るように言った。


それでも、ニコラは恨み言の一つも零さず微笑みを絶やさないのだ。


 セーラにとってアーレント家の人間、つまりニコラの家族は大切な主人に害をなす敵でしかないのだ。夫人は被害者とはいえ、ニコラをヒステリックに怒鳴りつけ、現在仕事を全て任せている時点でセーラは良い印象を抱くことは出来なかった。


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