表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/32

第9話





翌朝、俺は起きると、すぐに立ち上がった。


ここが白羽の部屋であることを思い出し、3秒で頭をフル回転させた。


もう、普段なら、俺の家で朝ごはんを作っている時刻。


「今日、白羽は学校行くんだろうか……?」


俺の書き置きを残すのもいいけど……ほっとくのもな。


もう、体はしんどくないのだろうか?


俺は、自分の家から、体温計をとってきた。


熱を測るのに、脇に体温計を入れても、犯罪じゃないよな……これは義務。


……ピピッと音が鳴って、液晶をみると、36度2分と表示されている。


平熱だな……よかった。


きっと、普段の疲れが溜まってしまったんだろうな。


ま、一回起こしてみるか。


「白羽、起きろ」


「……寝るの……んん」


これは、起きてるな。


「おい、白羽。学校、遅れるぞ」


「……おはよ……ふぁ……」


白羽は、少し乱れた格好で、背伸びをするので、こう、見えるんだが……!


「おはよう。じゃあ、俺は家に戻るからな」


朝から、そんな刺激はいらない俺は、そそくさと部屋を抜け出した。



家に戻ると、麗亜はすでに起きていた。


「おはよう、彩子姉ちゃんはどうしたの?」


「お前、ニヤニヤしてるけど、なーんも、なかったからな。特にお前の好きそうなこと」


麗亜は俺をスルーした。


「さっさと、朝ごはん出してよ」


毒入れようか……?


俺は召使いじゃないんだぞ!


沸々と湧き出る不満を抑え、キッチンに向かった。


オーブンを少し温めておいた後、パンを焼いた。その間、電子レンジをフル稼働して、次々と冷凍食品を解凍していく。


弁当に、必死におかずを詰め合わせ終わった時、パンも焼き上がり、麗亜に出した。


俺は、麗亜に無言で、パッとお皿を奪い取られた。


……ちょっとイラってきたけど!


「時間のない中、頑張る俺にありがとうの一つもないのかよ」


「あん?」


麗亜は通常運転で、愛想もヘッタクレもない。


俺はその言葉を聞いて、キレそうになったがーー



インターホンが鳴り、玄関にいき、ドアを開けた。


そこには、学校にいく準備をした、白羽が立っていた。


「どうした?」


白羽は、少し頭を下げて頼んできた。


「昨日は、看病してくれてありがとう……で、その……ご、ごはん食べさせてほしいの……お願い」



あれー?


やっぱり、不思議だけどな……こんなにも人の態度って、一日や二日で変わるものなのか?


でもーー朝ごはんくらい家で食べ……いや、病み上がりですよね……女性には優しく。


も、もちろん、お安い御用です……!


「は、入って、リビングで朝ごはん食べてるから」


「……ご、ごめん。失礼します」


白羽は朝だというのに、きちんと靴を揃えて、家に上がった。


小さい頃だったらーードタドタ、駆け込んでいたのに。


あ、前みたいに騒がれると……困る、か。




リビングに入った白羽は、麗亜と仲良く話している。


俺はキッチンで白羽の分のトーストを作る。……あれ、おかしいな……?


俺、朝抜きか……!


加えて、レンジで温めた牛乳を出した。


「あ、ごめん……達也くんはもうごはん食べたの?」


「ああ、じゃあ学校行く準備してくる」



俺は脱衣所に直行して朝シャン。


あっぶねー、昨日風呂入っていないの忘れるとこだったよ。


俺は、制服に着替え、バッグを持って、一階に降りた。




もう、麗亜と白羽は靴を履いて、玄関先で待っている。


「お兄ちゃん、早く」


「もうちょっと待てよ」


「麗亜ちゃんもお兄ちゃんにやさしくしたら?」


白羽はなんて優しいんだ……!


「いいの。これくらいで、ちょうど図に乗らないから」


それに比べて、うちの麗亜は……。


つーか、なんだと?


「誰が調子にのってるんだ?」


「え、兄ちゃん」


ま、俺と麗亜で争ったところで、結局俺は負けるんだ……!


「ところで白羽は学校に行っても体調は大丈夫なのか?」


「うん。昨日、しっかり寝れたから」


「それはよかった……なあ、白羽」


「なに?」



「その……お前ってお風呂、入ったか?」




…………あ、俺、やらかした?


歩くのをやめて、2人ともこっちを睨みつけてくるんだが……?




「あ、俺は朝入ったんだけど……え?……ご、ごめん……?ふ、2人ともどうしたの?」




「……サイテー!何女の子に聞いてんのよ、このカス兄!」


麗亜は俺を思いっきり殴った。


「お前。痛いんだよ!」


「ほら、彩子姉ちゃん泣いてんじゃん。どう落とし前つけんのよ!」




「し、白羽……ご、ごめん」


「達也くん、どうしてそんなこと聞くの……」





そのまま白羽は、走り出し、俺と麗亜はその場に取り残された。


「このバカ!ほんとダメ人間よ。サイテー!」


「言ったことは仕方ねーじゃん」


「こんな、女の子に言っちゃいけないことド定番が、分かんないの?」


「……」


「学校ついたら、土下座でもするのね」


「……はい」




校門を通り過ぎて、いつものように……あ、今日はちょっと違って俺を睨みつけたけど……麗亜は走っていった。


「おはよう、達也……ってお前、老けた?」


「……察してくれ」


「あー、あれか、お前の彼女さんか?ありゃ大変だな」


「……それもそうなんだが」


「すんごい噂になってるけど」


「……やめてくれよ……俺は静かに生きたいんだ」


「でさ、お前、どうやって付き合い始めたんだ?どっちが告白したんだ?いつから付き合ってたんだよ?なんで俺の耳に入れなかったんだよ」


「お前、質問は一つずつにしてくれ」


「ああ、悪い。まあ、あとででも聞かせてくれ」


「昼休み……あ、昼は無理っぽい」


「うん、わかってるから……ほら、お前の彼女さん、お待ちかねだぞ」



気が付くと、教室の扉の前だった。



今の俺の頭の中は、白羽に土下座することでいっぱい。


よし……。


扉を開き、白羽の席のところまで歩みを進めた。


俺は膝を付いて、頭を床につけた。


「申し訳ありませんでした!」



俺は、いいよって声が聞こえると思っていたがーー


次の瞬間、頭が重くなった。


足で踏まれてるのか?


「……ほ、ほんとにごめん……な、なんでもします……お、お許しを」





でも、次に聞こえた声は、白羽のものではなかった。



「あーら、達也くんも大変ね。自分がなさったこと、しっかりと分かってらっしゃるのね?言ったよね、今。『なんでもします』って」


この声は……細川か……!


「ち、違う……俺が謝ったのは細川じゃない……!」


細川が俺に乗せていた足をどけたので、俺は顔を上げた。


俺が抗議の声をあげようとした瞬間ーー


体をかがめて、土下座している俺の耳元で囁いた。





「昨日、私が家から帰った後、なにしていたのかしら……?」






こいつ……どっかで俺の姿を見ていたのか……?


俺は背筋が冷えて切って、すくっと立ち上がり、自分の席に座った。



もう、目線を右に振ることなんて、できなかった。


ただ、白羽に謝ることが、結果として出来なかったことだけは、分かった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ