第30話
私は今、博多行きの新幹線に乗り込んだ。
自由席は、空いていた。
実は、ちょっとだけ、期待したんだけどね……ドラマっぽい展開。
ホームで待つ私を引き留めに来てくれて、ギリギリ間に合って……。
それでも私は、行っちゃうんだけどね……。
神宮寺くんが好きなドラマと、似たようなシチュエーションじゃない?
これまで、神宮寺くんには迷惑ばかりかけてきた。
私って、すごい狭い世界で生きているんだと思う。
友達もいないし、お金もないし、ないない尽くし。
今までのこと、全部水に流して、イチから名古屋で頑張る。
母が、少しでも楽になって、それで喜ぶのなら、働いて働いて、人生、終わっていいい。
いままで、こんな私を好きって言ってくれた、神宮寺くんのこと……忘れないから。
こんなこと、考えていたら、すぐに名古屋に着いてしまった。
席を立ち、車両のドアが開くと同時に名古屋駅のホームに降り立った。
えっ……………………こんなことってある?
「彩子。家、帰るぞ」
「ど、どうしてここに……?」
「いいから。これ、東京行きの切符」
「わ、私は名古屋で働いて……」
「俺が言わずにいたのが悪かった。話は新幹線の中でしようぜ」
ホームを移動して、東京行きの新幹線に乗る。
達也くんは、私を離さないように、固く手を握っている。
「なあ、彩子。これまで、いろいろな面でさ、大変だったと思う」
「……うん」
「イチバン大事なのはさ、お金……か、これまでの彩子にとって。でもな、これから先、長い時間を過ごしていくのに、たくさん……例えば助けがいるだろ……?俺だけを頼ってくれないか?」
「……そんな私、何もできないよ」
「バカ言ってんじゃねーよ。彩子は彩子だろ、いいとこいっぱいある。自信持てよ。飾る必要もないし」
「ねぇ……達也くん……もう一回、好きになってもいいの?」
「ああ」
「こ、これからもよろしくお願いします」
「……あ、改められると恥ずいな」
「それはないよぅ。男の人は言わずにいるのが美徳なのかもしれないけど、女の子は一から十まで言って欲しいの」
「別にいいっしょ。言わなくても、雰囲気で」
「雰囲気ってなによ!」
「結婚してくれ…………あ、あああ、う、うそだ。俺何言ってんだ!?前言撤回!」
「な、なに言ってのんよ!言い切ってよ。ここまで来たら結婚よ。結婚!そうよ。紙出そ?役所に」
「お前、変わりすぎだろ……さっきまでのお前はどうした?」
その頃、名古屋駅近くのヘリポートでーー
「きょ、京佳……お前、ハンパない金持ちだな」
「あら、圭介くん、気づきなさいよ。細川財閥よ?」
「そ、そうだな……で、あいつ、上手くいったかな?」
「もちろんよ。部下からの報告は上がっているわ」
「…………お、おう」
「怖がらないでね?浮気なんかしたら…………いい?」
「は、っははい!」
「んふふ、圭介くんは私が一生面倒見てあげるのよ。よそ見、しないでね?」
「よ、よく分かりました」
いかがだったでしょうか。
これまで、読んでくださった方々には、感謝の言葉しかありません。
ブクマ、評価、感想を頂いたことに至っては、幸せな気分になりました。
次作、お待ちください。いつか、皆さまの目に留まったら幸いです。
本作の後日談は、改めて出します。お待ち下さい。
あき池の作品をこれからもどうぞよろしくお願いします。
では。




