第29話
3月10日ーー
修学旅行も終わり、高校生活も終わった。
私は部屋の荷物をまとめて、コソコソと隣の自分の家に運び込む。
「終わりよければすべてよし、なのよ!」
達也くんの家でお世話になり始めた時も、そんな荷物持ってこなかったから大変さはなかった。
「あれ……?」
こんなもの、持ってきたかな……一見すると普通のメモ帳。
私のものではない。
「そうだ、ここに一筆書いておこう」
私はこう綴った。
『さよならは、言いませんから。また達也くんと会えると思って』
トートバックひとつで、東京駅へと向かった。
家を出て、隣の私の家も見上げて……呟くの。
「好きだったよ……達也くん……麗亜ちゃんもありがとうね」
あれっと……俺、どこやった?
彩子に渡すはずのメモ帳……ど、どこやった!?
昨日、圭介の家に泊まっていたから、彩子に手渡そうって思って部屋に置いてたんだが。
『夜、レストランの予約を取っているので、時間を確認しておいて』
あと、色々書いてんだけど。
もし、2人の手に渡ってたら、すっげー恥ずかしい。
プロポーズの言葉まで書いてんだぞ……!
後は……
まあ、大学のこととか親父と電話で彩子のこと、話したこととか!?
いくら部屋を探しても、見つからない。
仕方ないので、昼まで、好きなドラマでも見ていた。
途中、彩子が階段を降りていく音が聞こえたが、特に、気にはならない。
ドラマに夢中だった。
「くそう……お前は今から走れば間に合うだろ……!なにぼんやりしてんだよ。リカは駅にいるっつーの!なにが5分前だよ!?ああああ、ほら……!」
TOKYO・LOVE・STORYの最終話をちょうど見終わって、お昼を食べようと、彩子に声をかけようとするけどーー
いない。
まだ帰ってこないのかなあ、なんて思っていたら、リビングで、麗亜が珍しくテンション低め。
「お、どうした?」
「……お、お兄ちゃん……あ、彩子姉ちゃんが……これ」
おおおおおおお!俺のメモ帳!?
「お、お前、これ見てないよな」
「……見たよ。これしか見てないけど、そんなことより、これ」
『さよなら………………名古屋に向かいますので、このメモを見る頃は、東京駅で新幹線に乗っていることと思います。今までありがとう。白羽彩子』
「う、うそだろ…………い、意味わかんねーよ。とりあえず、電話かける」
…………プープープ。ただ今電話に出ることが……
「つ、繋がらない。どうすればいいんだよ!」
「このバカ兄!あんなドラマ見てる暇なかったでしょ!?気がつかなかったの!?」
ドラマ…………俺って、あいつとおんなじ境遇なのか!?
さっきまで見ていた、あの愛媛の風景が、頭に浮かぶ。
すれ違う、2人ーー
柵のハンカチ、書かれた言葉ーー
毎日、一緒に過ごした子供のころの思い出たちーー
「なあ、麗亜よ。今から向かって間に合うと思うか?」
「あ、当たり前よ」
「行ってくる!」
「ちょ、ちょっと兄ちゃん!?そ、そういう意味じゃない。絶対間に合わないわ」
「お前、ここで俺を見ている奴が居たら、絶対言うぜーー
ーーお前は今から走れば間に合うだろ……!なにぼんやりしてんだよ。彩子は駅にいるっつーの!なにが新幹線乗っているだよ!?ああああ、ほら……ってな」
「お、お兄ちゃん……」
「ここで男、見せなかったら、いつ見せんだよ。もうハタチからはな、俺は老化していくだけだぞ?無茶も今のうちしかできねーよ。麗亜、俺は絶対、彩子を取り戻してくるからな。待ってろよ」
いつまで彩子、お前は俺から遠ざかっていくんだよ。
先のこと伝えなかった俺が悪いけど、もうお前は何も心配いらないんだよ。
俺が、これから守ってやるから。




