第２６話
俺は観念して部屋のドアを開けた。
「お、智也。やっときたか」
「圭介。俺は前途多難だ」
「どういうことだ？」
「メンタルがズタボロだ」
「………ま、なにがあったか知らんが、中入って荷物置けよ」
い草のいい香りがしてとても気持ちいい。
風呂とトイレは別で、清潔感がある。
俺が和室に入ると、そこには浴衣を着た美女が2人並んでいた。
細川が白羽の着付けをしている。
白羽と細川の浴衣姿はもう色気がありすぎてやばい。
白羽は何を着ても似合うって、言いたいのにーー。
「なにジロジロ見てんのよ、どっかいって」
しょっぱなから、白羽は手厳しい。
「神宮寺くんも早く浴衣に着替えたらどう？」
「そうだな。圭介、着替えはどこだ？」
「棚に置いてるぞ」
「ありがと」
俺が脱衣所で浴衣に着替えていると、ガラッと後ろのドアが開いて、洗面所の鏡越しに細川が突っ立っているのが分かった。
俺はパンツ一丁っててて、どうしたらいい？
細川は手で顔を隠してはいるが、バッチリ隙間を開けて俺を凝視した。
「おおおい、人が着替えてんのになにしてんだよ。お前、見んなよ」
「あ、あんたが公衆の面前で裸になるのが間違ってるのよ」
「はあ？俺はちゃんと密閉空間で着替えてたぞ」
「は、早く服着なさいよ。け、結構ドキドキしたりするんだから………」
え？最後何言った？
扉をバンって締めながら話すなよ。
「風呂さ、誰から入る？」
「お、圭介は彼女さんと一緒に入っちゃう？」
「い、いや達也と入るつもりだったんだが……」
「あら、 やっぱり神宮寺くんってど変態ね。なんか見境もなく卑猥な言葉を羅列して」
「俺の発言のどこが卑猥なんだか」
俺は困り切っている。
「私たち、まだ、そ、その………そんな関係じゃないから」
「おう。俺と京佳は健全に付き合ってるからな」
「ね、圭介」
「京佳」
はーい、カットぉ……！
俺と白羽と松木が、いたたまれなくなって目のやり場に困るだろ！
「ねえ、……」
白羽が頬を赤らめて俺とは逆側を向いて言葉を投げかけてきた。
「ど、どうした？」
「い、一緒にお風呂入らない？」
ん………？い、今何と………！
空耳………だよな？
俺は怖いからもう一回聞き直した。
「すまん、もう一回言ってくれ」
「だから私と露天風呂入らないかって何回言ったら聞こえるのよ！」
う、うそ⁉︎
「落ち着けって、白羽。風呂になんか一緒に入れるわけないだろ！」
「………いいじゃん。入ろうよ」
おい、横を見てごらん。
あんだけ、圭介と細川、お２人の世界をお築きになっていたのに、こっちを向いてあっけに取られているだろっ！
俺は今何を言ったらいいんだ？
よく落ち着いて考えろ、俺。
たしかに俺はお風呂に入りたいって言ってしまえばそれはつまり社会的に実質的な死を意味する、こいつは俺を貶めようとしているはず。この手のタイプの犯罪は揉み消せない！
結局、俺は、言葉不足のまま、自分の本心にはないことを言っていた。
「だめに決まっている。まず俺はなぜお前が一緒に風呂に入りたいと言ってきたのか全くわからない。俺を徹底的に日常から避けているお前は俺と一緒にいるのがただでさえ嫌なはずだ。お前は俺のこと嫌いなんだろ？じゃあ、もう金輪際そんなこと言わないでくれよ」
ーーこれ以上、そんな俺に期待させることしないでくれ………。
「もう、いいから。あんたなんか知らないし、この話はなし！」
白羽は急に大声を出し、部屋を出て行った。
「おいっ、待てって白羽…………！」
「おい、達也。俺と細川で白羽、探してくるから」
圭介と細川は駆け足で白羽を追いかけて行った。
俺は後ろ髪を引かれる思いで部屋の扉を閉めた。
部屋には、俺と松木さんが取り残された。
付けていた冷房が、とても身に染みて感じられた。
６月と共に、完結出来ればと思っております……ど、どうでしょうか？
これからもよろしくお願いします。
ブクマ、評価が、欲しいです……！
また、感想を寄せて頂き、ありがとうございます。
