第17話
「ただいま」
……。
あれ?
家の鍵は開いていたんだけど……誰もいないの?
「誰かいませんかー?」
「あ、お兄ちゃんおかえり」
「いたなら返事しろよ」
麗亜は、俺の言葉に反応することなく、二階の自分の部屋に消えた。
リビングに入り、ソファーにスーパーで買ってきたものを置く。
「はあー、今日も一日疲れたな」
よし。気合い入れて、今日もごはん作るか。
いつものように、キッチンに立つ。
「今日はハンバーグっ……?」
冷蔵庫のドアを開けようとした時ーー
エプロン姿の白羽が立っていた。
か、かわいい……
ふ、不意打ちはなしだろ……
それでも俺は平静を保って、言う。
「どうした、白羽?」
「その……母さんから、もうバイトしなくていいって言われて、家にいられるようになったから……料理を手伝いたくて」
「うん……とっても助かるな。じゃあ、頼む」
そういえば、白羽って料理できるのか?
俺は、ハンバーグの素を白羽に渡す。
お米を冷蔵庫から取り出して、といでいるんだが……?
俺は異変を察知して、白羽の手を掴んだ。
「し、しし、白羽、待て!」
「わ、私なんかおかしかった?」
「お前なんでハンバーグの素とミンチを混ぜる時に……手に持っているのは、一体なんだ?」
「え?……砂糖だけど」
「どこに、砂糖を入れるだなんて書いてある!?」
「じゃあ……塩とか酢とか醤油とかみりんとか味噌とか入れたらダメなの……?」
俺はその場にへなへなと座り込んでしまった。
料理とか以前の常識の範囲だろ……!
本当に、バイトしか、したことないのか?
「し、白羽……料理したことないんだったら、先に言ってくれ……!」
「ご、ごめん……」
「せめて、どうしたらいいのか俺に聞いてくれ!」
もう取り返しはつかないので、ハンバーグに、胡椒を思いっきり入れて、食べることにした。苦渋の決断だ。
コショウ入れればなんとか……うぐっ…………。
こ、こんなマズイ料理は、た、食べたことが……。
「れ、麗亜……生存確認は取れているか……?」
「……お、お兄ちゃん……ど、どうしたの……このハンバーグ…………」
「し、白羽が…………」
「2人とも、ごめんなさい!」
「あ、お兄ちゃん!泡出してる。大丈夫!?」
俺は、その後の記憶はない。
どのくらい寝ていただろうか。
目を覚ますと、俺はソファーの上で寝ていた。
リビングには、白羽だけがいる。
「あっ……さっきはごめんなさい」
「別にいいさ」
「私って……世話になってばかりで……」
「そんなことを気にするな。学生は勉強だけしてればいいって父親が言ってたから」
「……そ、そうだよね」
沈黙に耐えられない。
「風呂にはもう入ったのか?」
「あ、もう入ったよ」
「じゃあ入ってくる」
「そ、その……」
「……ん?」
「勉強教えてください……神宮寺くん、頭いいから……。」
「全然いいぞ。また今度な」
そういえば。
もうすぐ期末テストか……。
校外で受ける模試も多くなるし、ますます忙しくなるな。
低気圧と高気圧のせめぎ合いは、過渡期を迎えている。
弱々しく降る雨は、もうすぐくる夏を予感させる。




