第14話
俺が麗亜の横をすり抜けていこうとした時、廊下の奥から白羽が出てきた。
俺がしゃべり始める前に、白羽が話す。
「おかえり、達也くん……今日から一緒に住まわせてもらうんだけど、ひとつだけ伝えておきたいことがあるの」
「お、おう」
「私はもう達也くんに迷惑をかけたくないから……私が全部悪いの……うっ……うう」
「そんな、いきなり、な、泣いたりなんかしてどうしたんだ」
「だ、だから、もう好きだなんて言わないでよ……」
「えっ……?」
「私はもう達也くんが好きじゃないの!分かってよ……」
「あ……」
「一緒に住むのに恋人なんか、なれる訳ない……もう私を好きだなんてそして……嫌いだなんて言わないで……グスっ……う……うううう」
「あ、彩子姉ちゃん……そ、そんなこと言わなくても」
「う、ううっ……い、いいの……た、達也くん……私の部屋、二階の突き当たりだから、よ、よろしくね」
「白羽……あの昼休みのことなんだけど」
「いいの。ごめんね、もう話したくないの……卒業までだけど、お世話になります……」
「うそよ。うそよ!……そんなことで彩子姉ちゃんはいいの?……気が変わっただけじゃないはずよ」
白羽は横に首を振って、小さく呟いた。
「報われないから」
ーーこんな、ポンポン事態は急変するのか?
麗亜も俺も、2人とも何も言えない。
白羽の表情はあまりにも重い。
負の感情では決してないんだけれどーー
彼女の心の中で、もう、次のステップに踏み出してそうなーー
俺にとってはものすごく怖いことだが、そんな感じがする。
白羽は、涙をぬぐい、二階の部屋に戻っていった。
階段を上る音だけが家に響く。
「兄ちゃん!……細川とかいう女にうつつ抜かしたいるからこんなことに」
「だ、だから今日別れたって」
「違うの……そんなこと今はどうでもいいでしょ……?」
「だから白羽とーー」
「すっごく最低なことしてるって分からないの……?」
「そ、そう……か……だよな」
「それと、なに女の子泣かしてんの?」
「……ご、ごめん」
「誰に謝ってんのよ!遅いわよ、何もかもが。ずっと前から」
俺は沈黙を続ける他なかった。
その後、リビングにいった俺はーー
すでに気持ちの切り替えの終わった白羽を目撃してーー
いろんなことを悟った。
でもーー
一言だけ伝えた。
「さっきはごめん……だからもういっ……」
「今日からよろしくね?神宮寺くん」
白羽は……輝く笑顔を俺に見せてきた。
ああ、白羽は俺に好意なんてもう二度と持つことはない。
幼馴染との、少しだけ芽生えていた恋愛感情は、陽を浴びることはなかった。
もうすぐ、7月がやって来て夏がやって来て秋が来て冬になってーー
卒業。