収束13
上へ、上へ1歩でも多く、早く。
痛む腰や上がる呼吸の事なんかすっかり忘れて、急な坂道は四つん這いになって這い上がった。只前を上を見続けていると次第に視界は狭まり、天龍が吹き出す強風や周囲の音、色さえも気付かぬうちに感じ無くなっていく。
あと少し・・・もう少しの筈だ・・・
すると向かう先に小さく動く物が見えた。
それは徐々に大きくなり、輪郭が鮮明になってくる。丸い塊から長い物が2本出ていて飛び跳ねる物体が3つ。そう思った時、その塊は動きを止めて此方を振り返った。
2足で立ち上がり、ふわふわで長い耳・・・
「シュガー・・・なのか?」
そう声をかけると2羽のラビットが物凄い勢いで駆け出し、こちらへ襲い掛かってきた。
「な、何をするんだ!?」
慌てふためいていると鮮やかな手さばきであっという間に地面に押し倒され、取り押さえられてしまった。
「いたッ!痛い痛い!やめてくれ」
「うるさい!プレイヤーがこんな所まで追ってきて何をするつもりだ!」
「何にもするつもりなんてない!」
「嘘だ!!」
より一層強くおさえられ、俺は痛みで何も言えず只我慢するしかなかった。すると前から聞き覚えのある声が近づいてきた。
「おい!ヤム、タロそんな事をしている場合じゃないだろ!」
「で・・・でもコイツは」
ラビット達の手が緩んだこの隙を俺は逃さなかった。何とか拘束を振り払うと、目の前の親友に駆け寄った。
「シュガー!俺だコウジだ。覚えてないかもしれないけど、シュガーは俺の恩人なんだ。シュガーが居なかったら俺は生きられなかった。生きる事を教えてくれてありがとう。それだけ」
俺が話し終わると、ラビット達は大きな瞳を丸くさせていた。
「それだけって、そんな事を言う為にオイラ達を追いかけてきたのか?」
3羽のとても驚いた様子に俺は何かやらかしてしまったのかと、無性に恥ずかしくなった。
「いや、ここへ来たのは鳥籠から出るためで・・・そしたら丁度シュガー達が見えたから・・・。でも、ずっと伝えたかったのは本当なんだ!用は済んだから俺はシュガー達には二度と関わらないよ。だから離して貰ってもいいかな?」
話終わると数秒の間の後、3羽は一斉に大爆死を始めた。俺は穴があったら入りたい気持ちになった、きっと顔どころか耳までも赤くなっているに違いない。一通り笑い終わると、シュガーが口を開いた。
「お前、変な奴だな」
「それ前にも言われたよ」
そう返すと今度は他の奴らが話始めた。
「本当、こんな馬鹿なプレイヤー初めて見たぞ!」
「他の奴らもこんなやと助かるっべさぁ」
「それな!オレはタロ、こっちがヤムってんだ。」
「んだ」
「俺はコウジ。よろしくな」
そういうと、またどっと大爆笑が起こる。
「挨拶はそれくらいにして、早く登らないと天龍がくるかもしれない」
確かにシュガーの言う通りだ。オッサンが居ない今、天龍がいつ襲ってきてもおかしくない。
その時、今までに聞いた事の無いような轟音が轟いた。慌てて空を見下ろすと天龍が悶え苦しんでいる。オッサンがやったのか・・・
「くそ!急がないとこっちに来るぞ」
「よし、先を急ごう。」
先へ走り出したシュガーを追いかけるように走り出す。何だか此処へ来たばかりの時を思い出す。シュガーの背中ってこんなに小さかったんだな・・・
不意に後ろを振り返ると後ろについて走っている筈のタロとヤムの姿が見当たらない。
「シュガー!タロとヤムが居ない!どこかで怪我でもしたのかもしれない。俺、引き返してみる」
するとシュガーは足を止めず、振り返る事もせずにこう言った。
「やめるんだ。アイツらが決めた事だ仕方がない。」
「でも!」
「ラビットをなめるな!自分で決めたんだ、本望だろう。オイラ達は上へ登る絶対に、例え手足が無くなっても登りきるんだ!」
俺達は夢中で走った。ほんの一時だったけど、きっといい奴らだった。ありがとう。
前を走るシュガーの顔は見えなかったが、肩が少し震えている気がした。




