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第九十六話  翻弄される者達

 何度読み返しても、テンポの善し悪しが分からない。

 センテル帝国  テセドア運河東側入り口



「こ、これは・・・!」

 枢機船の甲板から陸を眺めるレオン達は、想像もしていなかった運河と言う巨大な人口構造物に絶句する。

 セイキュリー大陸に於ける最も巨大な構造物は、各国の王城を除けば教皇庁とそれに繋がる水道橋のみである。

 それすらも、初めて目にする者達に畏怖の念を与えるが、これはその比では無い。

「それにしても、さっきから動いてるアレは何?」

 一通り驚くと、今度は運河の手前を忙しなく動き回っている海軍艦艇へ意識を向ける。

「アレは軍艦だな。この程度の船じゃぁ、まともに近付けもしない。」

「ハァ!?あんなデカい軍艦があるのか!?」

 彼等の基準からすれば、最早動く島と言って差し支え無いサイズである。

 何処までも衝撃的な光景に、再度絶句する。

(本当に、効果覿面ですね。)

 何も言えなくなった三人の様子を見たスノウは、スムーズに説得が成功する事を願う。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  硫黄島沖



 此処では、センテル帝国と暁帝国の合同演習が行われていた。

 ノーバリシアル制裁で浮き彫りとなった航空隊の運用能力欠如の解決に加え、合同作戦での万が一の場合に備えての緊急発着訓練も行っているのである。

 母艦となっているのは、強襲揚陸艦沖縄である。

 制動索は無いがラングレイよりも甲板長が長く、複葉機程度の着艦ならば問題無く行えると判断され、鳳翔級では複葉機を運用するには性能が高過ぎるとの判断から、準空母と言える強襲揚陸艦に白羽の矢が立った。



 ヴゥゥゥゥゥゥゥ・・・・



『此方一番機、間も無く着艦体制に入る!』

 沖縄へ向け、フィースト改が着艦を始める。

「・・・」

 甲板と艦橋から、乗員が固唾を呑んで見守る。



 ダァン!



 若干高度が高過ぎた為に無理矢理降下し、機体が派手に甲板へ叩き付けられた。

「危ない!」

 反動で機体が浮き上がり、前のめりになり掛ける。



 バタン



「ハァーー・・・」

 ギリギリの所で持ち直し、着艦は一応成功した。

「心臓に悪い・・・」

 同乗しているスペルアントは、航空隊の未熟さを実感し歯噛みする。

「今の結果は、制動索が無い事も要因ですな。本艦は、垂直離着艦が前提となっておりますので。」

 艦長は、冷静に分析する。

「それにしても、純粋な空母でも無いのに我が方の空母よりも巨大で立派ですな。これが揚陸艦とは、未だに信じられません。」

「海を越えての軍の展開は、非常に困難です。特に、近代軍ともなると後方支援体制の優劣が戦局に決定的な影響を及ぼしますから、どうしても揚陸戦力は巨大にならざるを得ません。」

 スペルアントは、艦長の説明を黙って聞く。

(我が軍は、全面的な刷新を行っている最中だ。当分の間は、正面戦力の更新だけで手一杯だろうな。)

 暁帝国の影響は、軍事的分野に於いて特に顕著となっており、矢継ぎ早に出される改革案に全く追い付けていない。

『此方二番機、間も無く着艦体制に入る。』

 通信が入り、思考が中断される。

「事故を起こすなよ・・・」

 訓練不足としか言いようの無い自軍の危うさに、思わず口が滑った。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ネルウィー公国



『攻撃開始まで、後10分。』

『敵軍、間も無く攻撃予定地点へ到達する。』

『了解、各機はそのまま待機。』

 ネルウィー公国へ侵攻したバスティリア王国軍は、戦力を半減させつつも進軍を止めなかった。

 移民が完了していない地点まで残り約30キロにまで迫っており、遂に排除する方針が決定した。

 暁帝国軍は、無人機と戦闘ヘリによる攻撃を実施し、地上戦はネルウィー公国軍が担当する。

 既に全軍の配置は完了しており、後は攻撃開始時間を待つばかりとなっていた。



 バスティリア王国軍



「フゥ・・・ハァ・・・」

「クソが、何で何も無いんだ・・・」

 此処まで意地で進軍を続けて来たバスティリア王国軍ではあるが、最後まで留まった彼等の忍耐も限界に達しようとしていた。

 これまでに発見した集落や砦にめぼしい物は何も無く、本国に緊急手配して貰った物資は、離反した元兵士達によって多くが略奪されてしまい、補給は不十分となっていた。

 これにより更なる離反者を招くが、最初の離反者と違い途中で物資の調達が行えなかった為に、大半が途上で行方不明となっていた。

 そして、最後までの留まった者達は、「コケにしてくれた亜人共を、何が何でも倒す!」と気合を入れ直したが、物資不足で消耗を続け、何処を探しても人っ子一人見付けられない現状にやる気は空回りを続けるばかりであった。

 流石に、この様な状況が続いた事では引き返そうと考える者も多くなってはいるが、既に敵領内へ深く分け入っている為に、単独で引き返すのは自殺行為に等しい。

 その為、止む無く進んではいるのだが、未だに撤収を命じない上層部に不満が溜まり続けていた。

「補給長、食料はどれ位持ちそうだ?」

「後、五日と言う所でしょう。」

「そうか。なら、まだ行けるな。」

「司令官、兵等に休息を取らせるべきです。既に、彼等の疲労は限界に達しております。」

「亜人共を根絶やしにすれば、いくらでも休息は取れる。まずは、奥地に引き篭もる奴等を早急に見つけ出すのだ。」

 その上層部では、司令官の無謀な命令が横行するばかりであり、少なくとも食料が尽きるまでは進軍を停止する事は無いと言う悲惨な様相を呈していた。

 だがそれは、進軍出来ればの話である。



 ゴォォォォォォォ・・・・



「な・・・こ、この音は・・・!」

 突然響き渡る音に、全員が竦み上がる。

 大破壊以降、各地で聞かれる様になった音である。

「戦闘配置、戦闘配置ィー!」

 指揮官クラスの者達が駆け回るが、その対応の迅速さに比して全体の反応は鈍かった。



 ドォォォォォォォン



 そうこうしていると、隊列のド真ん中に巨大な火柱が立ち上った。

「ヒッ・・・!」

 爆炎に捲かれて、或いは爆発の衝撃に巻き込まれて逝く者達を目の当たりにし、誰もが恐怖で立ち尽くす。



 ドドドドドドドドォォォォォォン



 だが浸っている余裕は無く、連続して吹き上がる爆炎により、犠牲者は爆発的に増えて行く。

「ヒィィィィィィ・・・!」

 恐慌状態となった司令官は、真っ先に逃げ出した。



 バタタタタタタタタ



 しかし、そんな音が聞こえたかと思うと、正体不明の飛行物体にあっという間に先回りされてしまう。

「く、来るなァァァァァァ!」

 司令官は、持っていた銃を我武者羅に発砲した。

 だが、射程外にいる敵に当たる筈も無く、貴重な弾丸を空費させただけであった。



 ドガガガガガガガガ



 突如、飛行物体が轟音を響かせたかと思うと、マスケットとは比較にならない威力の弾丸を連続して吐き出し、司令官は周辺の地面ごと抉り取られた。

 巻き上がった粉塵が晴れると、そこに司令官の姿は無く、僅かに確認出来る赤い地面が、そこに人がいた事を示していた。



 暁帝国軍



『此方アパッチ、指揮官クラスと思われる人物を確認。これより・・・とォ、発砲を確認、攻撃する。』

『敵軍、約八割を撃破。残敵、散り散りになって逃走中。』

 阿鼻叫喚となっているバスティリア王国軍とは違い、暁帝国軍は淡々と与えられた任務をこなす。

 その様子を後方から眺めるネルウィー公国軍の面々は、戦いとは呼べない一方的な展開に唖然とする。

『敵の大半は、森林地帯を目指している模様。』

『入り込まれると面倒だ。その前に殲滅せよ。』

『了解』

 一切の手心を加える事は無い。

 間も無く、バスティリア王国軍は全滅した。


 同じ頃、フェンドリー王国へ侵攻したエイスティア王国軍は物資不足に危機感を持ち、ギリギリ帰還可能なラインで撤退を開始していた。

 ただし、再度の侵攻をされては面倒な為、無人機による攻撃により数を目減りさせる事となった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  小ウォルデ島



「ようこそお出で下さいました。」

「う、うむ・・・」

 小ウォルデ島へ上陸したウムガルとゴルナーを官僚が出迎えるが、緊張から煮え切らない返事しか出来ない。

 そのまま案内を受け、進んで行く。

「奇麗に整えられた島だな。」

「確かに。だが、それ故違和感が拭えない。」

 ドレイグ王国は、風雨を凌げる程度の整備しか行われておらず、まともな建造物は殆ど存在しない。

 可能な限り元の自然な状態を保っておきたいと言う風潮による方針だが、それだけに人の手で奇麗に整備された小ウォルデ島の景色は、異様なものに映っていた。

 更に進んで行くと、各国の外交官が入り混じる議事堂へと到着した。

「ゴルナー」

「分かっている。」

 二人は、最大限警戒を引き上げる。

 島へ到着する以前から感じていた違和感が、此処に来て確信に変わったのである。

(感じていた乱れは、魔力によるものであったか。)

 竜人族として自然環境に敏感である事が、逸早く島内に潜む異常を察知した。

(さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・)


「事前に把握してはいたが、一気に顔触れが変わったな。」

 議事堂前で出迎えをしているスマウグは、冷や汗が止まらなかった。

 スマウグも竜人族である事から、ある時を境に島へ近付いて来る異常に気付いていた。

 そして、今正にその異常が目の前に現れているのである。

「御無理を言って申し訳ありません。」

 謝罪をしたのは、スノウである。

 竜人族が警戒していた異常の原因とは、勇者一行の膨大な魔力である。

 赤竜族でさえ圧倒する程の魔力量であり、魔力を察知可能な者からすれば、警戒するなと言うのは無理な話であった。

 しかし、その様な胸中とは裏腹に、勇者一行の方が心臓を握り締められる思いを味わっていた。

(こ、こんな建造物が地方にあるのかよ!?)

 レオンは、声には出さず絶叫する。

 目の前の議事堂だけでも脅威的と言えるにも関わらず、使節団の宿泊施設も必要以上に立派である。

 世界会議の為に見栄を張っている事は確かではあるが、それを実現可能な国力を肌で感じ、背筋が寒くなる。

 同時に、スノウの言っていた事が事実である事を理解した。

 議事堂へと入ると、スノウが口を開く。

「あの、少し此処で待っていて下さいますか?」

「どうした?」

「えぇとですね・・・そのぉ・・・」

「ん?」

 顔を赤らめるスノウに対し、レオンは意味が分からず首を傾げる。

「分かったわ、此処で待ってるから!」

「え、ちょっと、どう言う事だよ?」

「レオンは、少し黙る・・・!」

 察したシルフィーとカレンが、強引に話を締めた。

(やる気だな・・・)

 その様子を見ていたフェイは、本当の目的を正確に理解した。


 四人と別れたスノウは、目的の者を探してうろつく。

(誤魔化す為とは言え、何とはしたない事を・・・!)

 一番効果的とは言え、もっとマシな口実があったのでは無いかと赤面しながらひたすらに後悔を続けた。

「あっ」

「おっ」

 そうこうしていると、探していた現代的な服装をした集団を見付ける。

「・・・何かあったのですかな?」

 スノウの赤面を見た吉田は、思わず尋ねる。

「な、何でもありません、何でもありません!」

「大臣、デリカシーに欠けます。」

 スノウの慌てぶりから察した女性官僚が、吉田を睨み付ける。

 理解した吉田は、背後から向けられる鋭い視線に冷や汗を流した。

「それはともかく、無事に連れて来られた様ですな。」

「ええ。ですが、いつあなた方と会わせれば良いのか決めかねています。この事は、三人にはまだ話していませんし・・・」

 何とか本題へと移り空気を整えた吉田に対し、スノウは物憂げに答える。

「まずは、この島を訪れた本来の目的から片付けるべきでしょうな。内容が内容ですから、時間が掛かる事が予想されます。その間に、此方と出会う為の段取りを整えて行けば良いでしょう。此処でなら、他の者達に察知されるリスクもかなり低いですからな。」

「分かりました。」

 一通りの確認が終わると、スノウは大急ぎで戻って行った。

 あまり時間を掛けていると、色々な意味で終わってしまう。

「さて、どう転ぶ事か・・・」

 スノウの後ろ姿を眺めつつ、吉田は呟く。


 翌日、


 大会議堂へと集まった使節団に囲まれる様に、ノーバリシアル神聖国の王族が立たされていた。

 彼等の腕には封魔の腕輪が装着されており、周囲を衛兵に取り囲まれている。

 また、万が一の事態に備え、各国も軽装ながら少数の護衛を伴っていた。

「これより、臨時世界会議を開催する!」

 安直なネーミングだが、一々会議の名称を考える余裕も無い程急な事態であった為、世界会議の名を流用する事となった。

「先頃発生した世界会議への妨害行為は、諸君も知っての通りノーバリシアル神聖国によるものであった。そして、全会一致で採択されたノーバリシアル制裁は成功裏に終わり、見ての通り王族を捕らえる程の大成功となった。彼等の責任を明らかにする事が今会議の目的ではあるが、これを機にこれまで彼等の行って来た横暴の清算を全て取らせる事が既に決まっている。その為、異例ではあるが当事者である中小各国にも参加して貰った。二度とこの様な愚かな事態を繰り返さぬ為にも、忌憚の無い意見を聞かせて欲しい。」

 一言で言えば、会議は荒れに荒れた。

 「忌憚の無い意見を」などと言ってしまったが為に、各国が本当に忌憚の無い意見を叫び続けていたのである。

 本来ならば有り得ない光景ではあるが、今回は中小国も多数参加している。

 それ等各国は、当然ながらこの様な場に出席した経験など持たない。

 通常であれば歯牙にも掛けられない程度の存在でしか無い為に、この臨時世界会議は自身の存在を世界へ示す千載一遇の好機と映ってしまっているのである。

 その結果が、他国よりも声を張り上げようと必死になる、およそ国際会議の場とは思えない光景を生み出していた。

 無秩序な叫びは怒号となって大会議堂を覆い尽くし、最早聞き分けは不可能であった。

 結局、この日はまともな結論を出せずにお開きとなった。


 その夜、



 神聖ジェイスティス教皇国宿泊施設



「何とも野蛮だったな。」

「あたし達が言える事でも無いけどね。」

「疲れた・・・。」

 レオンとシルフィーとカレンは、早速世界の荒波に翻弄されてしまい、疲労困憊していた。

「ねぇ、制裁の時もこんなに酷かったの?」

「いえ、その様な事は全くありませんでしたよ。」

「今回がおかしいだけだ。」

 疲労困憊の三人に対し、スノウとフェイはあっけらかんとしていた。

「気負い過ぎだな。あんなのを真に受ける必要は無いぞ。」

 あまりの差に唖然としている三人に対し、フェイは一言だけアドバイスをする。

「その通りです。それよりも、もっと重要な事で気負うべきしょう。」

「もっと重要な事?奴等の処遇以外に何も無いだろう?」

 スノウの言葉に、フェイの顔が強張る。

「暁帝国の事ですよ。」



 あああああああ

 残留組との絡みが難しすぎる!(魂の叫び)

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