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第九十一話  波乱の前触れ

 西部地域情勢は、距離的に出しづらいですね。

 モアガル帝国  ウレブノテイル



 いくつかの問題を話し合い、最後の問題が連合軍の前に立ちはだかった。

「さて、ノーバリシアル神聖国の亡命希望者だが、どうするか・・・」

 亡命希望者はいずれも良識を持った者達ではあるが、ハイエルフ族である事が足枷となり、受け入れに前向きな見解を示す国は皆無であった。

「取り敢えず、当事者の意見を聞きたい。」

 指名され、レスティが口を開く。

「我々は、セイキュリー大陸へ向かいたいと考えております。」

 全員が、その意見に固まった。

「・・・・・・すまん、何と言った?」

「セイキュリー大陸です。東部地域の最北の大陸です。」

「待て待て待て、無謀過ぎるぞ!」

「そうだ。悪い事は言わんから止めておけ。」

 人間族で無い彼等がセイキュリー大陸へ渡ればどうなるかは想像は付く。

 ハイエルフ族を好く者はいないとは言え、進んで死地へ向かう者を止めないなどと言う事は、まともな良識を持つ彼等には出来なかった。

「あの、どう言う事でしょう?セイキュリー大陸に何があるので?」

「何がって、ハレル教が何をやって来たか知らないのか?」

 ノーバリシアル神聖国の情報能力は、他種族に対する見下しが酷い事もあり、ザルどころの話では無かった。

 レスティ達も入って来ない情報を知る事など出来ず、世界情勢に極めて疎い事に変わりは無い。

 詳細を聞いたレスティ達は、絶望するしか無かった。

「そ、そんな・・・では、ケミの大森林も・・・」

 <ケミの大森林>とは、セイキュリー大陸西部に存在する大陸最大の森である。

 あまりの深さに、ハレル教圏では闇の森とも呼ばれている。

「ケミの大森林って、あの開発不可能とか言われてる森だよな?」

「その筈ですが、そんな所へ行きたいなんて・・・」

 スノウとフェイが呟き、レスティはその呟きに希望を見出す。

「と言う事は、手付かずのまま残っているのですか!?」

「ああ。殆ど手付かずだが、人が住める程生易しい環境じゃあ無いからだぞ。考え直した方がいい。」

 ケミの大森林には、インシエント大陸の未開発地域に引けを取らない程の危険生物が多数生息している。

 それだけに、人里へ現れたとなれば正規軍を派遣する程の騒ぎにまでなるのである。

「実は、ハイエルフ族は主義主張の違いから大昔に二つに別れたと言う伝承があるのです。その内の片方が、セイキュリー大陸のケミの大森林を住処にしていると言われています。」

「「「何だって!?」」」

 その様な情報は、どの国も知らなかった。

 そもそも、ハイエルフ族はノーバリシアル神聖国にしかいないと言うのが共通認識である。

「詳しい経緯は不明ですが、向かう事が出来るのはそこしか無いと考えます。」

 全員が難しい顔をする。

 人の手が入っていない場所であるならば、ハレル教圏であろうとも生存の可能性は十分にある。

 しかし、問題はどうやってそこまで行くかである。

 ハレル教圏の船舶を利用するのは以ての外であり、現在のセイキュリー大陸へ好き好んで近付く者は他にはいない。

「すまんが、この件は一旦保留とさせてくれ。」

 スペルアントが締め括り、亡命問題は棚上げされた。

「次は、王族の処分に関してだ。現在、小ウォルデ島で手筈を整えている。亡命希望者も、一旦小ウォルデ島へ来てくれ。」

 この場で話すべき問題は全て終了し、最後の清算は小ウォルデ島へと持ち越された。




 ・・・ ・・・ ・・・




 神聖ジェイスティス教皇国  教皇庁



「まだ見付からんのか!?」

 リウジネインの怒鳴り声が響き渡る。

 此処最近、彼の機嫌は日に日に悪くなっていた。

 核攻撃によって滞っていた物流をどうにかする為、彼が主導する新たな街道整備が進んでいるのだが、その計画が大きく遅れているのである。

 その原因は、整備の為に大量動員を行った亜人族の奴隷が、大量に行方を眩ませている事にある。

 勇者一行が前面に出る事でハレル教圏は済んでの所で瓦解を免れているが、このまま経済が行き詰まったままの状況が続けば、かつてハレル教が勢力を伸ばした時期と同じ現象が発生しかねない。

 そうなってしまえば、ハレル教圏は空中分解してしまう。

 それだけに街道整備は遅れが許されず、リウジネインは気が立っていた。

 にも関わらず、狙い澄ました様に発生したトラブルに、声を上荒げずにはいられなかった。

(クッ、こんな理不尽があってたまるか・・・!)

 よりにもよって、自身が実権を握った時期にこの様な災難に見舞われる運命を呪った。



 シーペン帝国



 ギルドの関係者でも無ければ近付かない鬱蒼とした場所に、怪しい一団が蠢いていた。

「落伍者はいないな?」

「あ、ああ。だが、本当に俺達を逃がしてくれるのか?」

「疑り深いな・・・あんた等以外にも、既に1万人以上解放してるんだ。」

 それは、ハレル教圏で奴隷となっていた亜人族と、救出を行っている特殊作戦連隊である。

 彼等は、既に整備されている脱出ルートを通り、ネルウィー公国を目指す。

 隊長が地図を取り出すと、説明を始める。

「いいか、現在地は此処だ。此処からネルウィー公国までは、ちと遠過ぎる。そこで、トラックで途中まで送り届ける。」

「トラック?」

「輸送車両だ。馬の要らない大型の馬車とでも思ってくれればいい。所定の場所まで行ったら、向こうの要員に引き継ぐ。」

 それだけ言うと、移動を始める。

「ちょっと待て、その向こうについて詳しく聞きたいんだが。」

「悪いが、俺達も殆ど把握していない。ま、向こうに着けば分かるさ。」

 彼等は、万が一情報が漏洩した場合に備え、情報の細分化を行っている。

 別のエリアに関して知っている事は、連絡の為に必要な最低限の事項のみである。

 こうすれば、万が一の場合が発生しても、一網打尽にされる事態だけは防げる。

 ともあれ、元奴隷達は若干の不安を抱えつつも、順次ハレル教圏から脱出して行った。




 ・・・ ・・・ ・・・




 エイハリーク大陸南部  東側海域



 制裁を終えた各国は一旦軍の撤収を行い、後日改めて外交官を小ウォルデ島へ派遣する事となった。

 そして暁帝国艦隊は アルーシ連邦 ピルシー帝国 艦隊のエスコートを行いつつの撤収となった。

「遅いーーーー・・・」

 巡行10ノットの速力に、移民政策の承認と言う激務を果たした小沢は呻く。

「司令官、あまりその様な態度を取られますと、部下に示しが付きません。」

「山場は越えたんだからいいだろう。後は、のんびり帰って休暇を満喫するだけだ。」

 副官の苦言も、今の小沢には届かない。

「帰るまでが遠足と言います。此処で気を抜いて余計なトラブルを持ち込んだら、休暇は返上ですよ?」

「この期に及んで、何処の誰がトラブルを持ち込むんだ?唯一の懸念はハレル教圏だが、今回に限っては心配する必要も無い。」

 明確な脅威が存在しない為に副官は黙るが、艦隊のトップにこんな気の抜けた態度を取られ続けるのは不満であった。



 RRRRRRRRRRRR



 どうにか態度を改めさせようと思考を巡らせていると、艦内電話が鳴り響いた。

 副官は、急いで受話器を取る。

「どうした?」

『此方、CICです。エイハリーク大陸より、所属不明の飛行物体が多数接近中です。』

「何!?」

『飛行物体の速度は毎時120キロ程度ですので、接触までにはまだ時間があります。指示を願います。』

「司令官!」

 小沢は、直ちに戦闘配置を命じた。

 龍驤から、警戒の為に4機のF-3が発艦する。

「全く、こんなタイミングでトラブルなんか起こらなくてもいいだろうに・・・」

「司令官が気を抜き過ぎたからでは無いですか?」

 正体不明の飛行物体が接近しているとは思えない程気の抜けた空気ではあるが、速力からして脅威度は低いと判断されているが故の事である。

「それにしても、凄い数だな。」

 飛行物体の総数は、200を超えていた。

 これ程纏まった数を確認するのは、大陸戦争以来である。



 戦闘機隊



『此方ファルコンリーダー、間も無く不明編隊を目視する。全機、警戒を怠るな。』

『ファルコン2、了解。』

『ファルコン3、了解。』

『ファルコン4、了解。』

 4機は、奇麗な編隊を組みつつ目標へ接近する。

『見えた、対象を目視。』

『派手な赤色だな。白竜より見付け易い。』

『隠れる気ナシだな。まぁ、偽装してもレーダーか赤外線で丸見えだけどな。』

 口々に侮りの台詞を吐く僚機に対し、隊長は違和感を感じていた。

(赤い飛行物体なんていたか?)

『ファルコンリーダー、どうする?』

 僚機からの問い掛けに対し、少し迷った末に接近を命じた。

『!・・・あれって、竜人族じゃないか!』

『ちょっと待て、この辺りの竜人族って・・・』

 隊長は、色が赤い理由を悟る。

『此方、ファルコンリーダー!旗艦龍驤へ、接近中の飛行物体は赤竜族の大編隊だ!』



 第二艦隊



 戦闘機隊からの報告を受けた艦隊は大騒ぎとなった。

「ノシフスキー提督、大至急艦隊を退避させて下さい。」

『了解しました。』

 小沢の求めに、ノシフスキーは迅速に応じた。

 アルーシ ピルシー 両艦隊では不満の声が続出したが、赤竜族が接近している事を聞くと大慌てで指示に従った。

「間に合うといいが・・・」

「無理でしょう。」

 両艦隊の最高速力は、12ノットに過ぎない。


 暫く後、


 艦隊上空には戦闘機が多数待機し、艦隊も対空戦闘態勢にある。

『間も無く、目視可能圏内へ入る。』

 艦隊の緊張感は、最高潮に達する。

『対象を目視、物凄い数です!間違い無く赤竜族です!』


 「そこの艦隊、止まれェェェェェェい!!」


 先頭の赤竜族の男が、一個人が発しているとは思えない大声で怒鳴る。

「我は、ドレイグ王国より遣わされし ゴルナー なり!貴様等に問う!何故、その様な大艦隊を率いているのか!?我がドレイグ王国と、ズリの領地へ攻め入る意図があるのでは無いか!?」

 この問い掛けに、全員が頭を抱える。

 よりにもよって、赤竜族が余計な警戒心を抱え込んでしまったのである。

「返答の用意を。」

 小沢は、それだけ言うとマイクを持つ。

「用意出来ました。」

『私は、当艦隊司令官小沢治です。我々は、貴国及びエイハリーク大陸に対する攻撃の意図は持っておりません。我々の目的は、世界会議を襲撃したハイエルフ族国家ノーバリシアル神聖国制裁でした。その制裁が完了し、現在帰投中です。繰り返します、我々にそちらを攻撃する意図はありません。』

 暫しの沈黙を挟み、再度ゴルナーの声が響き渡る。

「貴様等の所属を問う!」

(そんな事も分かって無いのか!?)

 声に出さず悪態を吐き、返答する。

『我々は、暁帝国に所属しています。本艦隊は、暁帝国海軍第二艦隊です。』

「お、おい、何かヤバくね?」

 乗員達は、暁帝国を名乗った瞬間に向けられる殺気が増幅した様な気がした。

「攻撃の意図が無いと言うのなら、何故モアガル帝国へ加担する!?更に、見ればアルーシ連邦艦隊もそこにいるでは無いか!」

『問われている意味が理解出来ません。アルーシ連邦もモアガル帝国も、ノーバリシアル神聖国制裁に加わっています。本件は、世界の主要国が一同に会して行われました。行動を共にしているのは当然です。』

「その様な事を言っているのでは無い!」

 艦隊は、騒めき出す。

「アルーシ連邦もモアガル帝国も、かつてズリの民を脅かした愚か者の集まりだ!何故、その様な愚か者と行動を共にするのだ!?」

 突然の主張に、誰もが混乱する。

 暁帝国では世界大戦の詳しい経緯を把握しておらず、いつの事を言っているのか理解出来なかったのである。

 小沢は、早速スペルアントと連絡を取る。

「ノシフスキー提督、今の彼等の主張はどう言う事ですか?」

『世界大戦の事と見て間違い無いでしょう。モアガル帝国は、真っ先にエイハリーク大陸全土を攻めましたし、我が国も攻め入りました。』

 小沢は、頭を抱えるしか無かった。

 とは言うもののこのままと言う訳にも行かず、何とか返答する。

『両国とも、既に交戦の意思はありません。世界大戦以後、情勢は大きく変化しています。直接見聞きして戴ければ理解されるでしょう。』

「信用出来ん!我等は、その様な戯言に耳を貸す事は無い!」

『でしたら、こう言うのはどうでしょうか?後日、センテル帝国小ウォルデ島にて、今制裁にて捕らえたノーバリシアル神聖国の王族の処遇を巡る会談が行われます。そこに参加されてみては?』

「司令官!?」

 副官が抗議するが、小沢は耳を貸さない。

 暫くの沈黙の後、意外な返答が返って来た。

「族長に伝えよう。後日、ズリの領地へ連絡係を派遣するが良い!」

 それだけ言うと、彼等は飛び去って行った。

 静寂が海上を支配し、誰もが呆然とする。

 しかし、龍驤の艦橋は例外であった。

「いいんですか、あんな事言って!?」

「そうは言うが、交戦を避けるにはああ言うしか無いだろう。」

「これは、下手すれば外交問題に発展しますよ!」

「死ぬ気で根回しをやるんだよ。」

 結局、小沢の休暇は返上となった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ドレイグ王国



 帰還したゴルナーは、早速アンカラゴルの元へ向かった。

「族長、只今帰還して御座います。」

「御苦労。では、早速聞かせて貰おう。」

 ゴルナーは、見聞きした事を話す。

「何と、あの馬鹿者共を叩き潰すのが目的であったとは・・・だが、本当にそれだけなのか?奴等は、この上無い愚か者ではあるが、魔術的素養は本物だ。奴等の力を我が物とし、此方へ向かって来る事もあるかも知れんぞ。」

「無論、彼奴等の言を全て信じた訳では御座いませぬ。しかし、彼奴等は捕えたハイエルフ共の王族の処遇を決める為の会談を行い、そこへ我等を招待すると申しておりました。」

 アンカラゴルも、この話には目を見開いて驚愕した。

「何と、間違いでは無いのか?我等は、此度の件には一切関わっておらぬ。常識的に考えれば、受け入れるとは思えぬ。」

「騙し討ちの可能性は否定出来ませぬ。しかし、所見を述べさせて頂けば、少なくともこの提案を申し出た小沢と言う者、この者に関しては信用して良いのではと思われます。」

「ズリの民以外の異種族を信用すると言うのか?」

 アンカラゴルは、怒気を孕んだ目でゴルナーを睨み付ける。

「族長、最早この地を守護する為には、外部の情勢を積極的に知る必要があるかと存じます。小沢に関して申し上げれば、誠意ある対応を取っておりました。内心がどの様になっているかまでは測れませぬが、少なくともいきなり攻撃を行うと言う事態は有り得ないと断言出来ます。」

 アンカラゴルの怒気に晒され、冷や汗を掻きつつも断言した。

 そこへ、ウムガルがやって来る。

「族長、失礼致します。」

「どうした?」

「ズリ族長シーカより、新たな情報をお持ちして御座います。」

「聞こう。」

「現在、我等が警戒しております大艦隊の動きに関してで御座いますが、ハイエルフの国家であるノーバリシアル神聖国攻撃の為である事が判明致しました。先の情報から推察致しますに、主要国が全会一致で攻撃の意思を固めたものと判断するが妥当と思われます。」

 ゴルナーの主張と一致する報告を受け、アンカラゴルは沈黙する。

 同時に、これまでに無い世界の激しい動きに晒され、どう動けば良いのか判断しかねる。

「族長、本件に関しましては、ズリの民と言えども収集可能な情報は此処までで御座います。しかし、本件は無視して良いものでは御座いません。此処は我等が直接動き、情勢を見定める必要があるかと存じます。」

 またしてもゴルナーと一致する見解を示され、遂にアンカラゴルは決断した。

「・・・分かった。ウムガル、ゴルナーよ、お主達には小ウォルデ島へ出向いて貰おう。」

「「ハッ!」」

 これまで外部へ目を向けて来なかったドレイグ王国が、遂に歴史の表舞台へと姿を現そうとしていた。



 これから、見直しを行います。

 大分話数が増えたので、結構かかると思います。

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