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第九十話  ノーバリシアル制裁3

 制裁終了です。

 元々、全く考えていなかった展開だから、纏め切るのに無駄に時間が掛かりました。

 ノーバリシアル神聖国  ハル



 タタタタタタタタタ ダァン… タンタンタン



 断続的に銃声が鳴り響き、その度にハルは侵攻を続けるセンテル兵に制圧されて行く。

「市街地の六割を占拠しました!」

 新たに上陸した後続部隊によって設置された作戦司令部へ、次々と戦況報告が入る。

「占領地の様子は?」

「抵抗を示す市民は後を絶ちませんが、八割程は大人しくしているそうです。」

「随分と物分かりがいいな・・・」

 当初の想定では、最悪九割の市民が抵抗を示すと見積もられていたのである。

 これまでの行いを鑑みれば妥当な判断だが、それだけに現状を訝しむ。

「騙し討ちをして来る輩が出て来るかも知れん。警戒を怠るな。」

 司令官が命令を出し、迅速に現地へ伝えられる。



 王城



「オイオイオイオイオイ・・・」

 フェイは、呆れ返っていた。

 彼女の目の前には、ガルドを取り巻いていた衛兵が一人残らず倒れていた。

 散々此方を見下して大口を叩いていた癖に、全員一撃でノックアウトしてしまったのである。


 「役立たず共が!!」


 残されたガルドは、血管がはち切れそうな勢いで激怒し、顔を真っ赤にしている。

「さて、こいつ等はこのまま此処に倒れてて貰うんだが、あんたはそうも行かないんだよなぁ。」

「訳の分からん事をほざくな!」

 そう言うや否や、彼の前に巨大な水流が姿を見せた。

「おっと」

 フェイは一言だけ発し、天井近くまで飛び上がって躱す。

 水流の勢いは凄まじく、倒れている衛兵を巻き込みつつ壁を突き破り、城外へと流れ出て行った。

「酷ぇ事する・・・」

「劣等種族如きに負ける役立たず共など、生きている価値は無い!」

 そのまま、全国民を惨殺しそうな勢いであった。

「まぁ、あんたがどう考えてようが関係無いんだがな。あんたには、今までの横暴の責任を取って貰わなきゃならないんだ。」

「横暴だと!?私が、いつ横暴を働いたと言うのだ!?」

「あんただけじゃ無いんだが、散々周辺国にちょっかい掛けといてよく言うぜ。」

「それの何処が横暴だ!?魔術に優れる我等の当然の権利だろう!」

 怒りに任せ、更なる水流がフェイを襲うが、今度はフェイを中心に水流が真っ二つに割れた。

「な・・・何をした!?」

「何をって、魔力を乗せたこの剣で斬ったんだが?」

 信じ難い事をさらりと語るフェイに対し、ガルドは唖然とする。

 同時に、心の奥底から湧き上がる感情を自覚した。

(馬鹿な・・・!この私が、恐怖していると言うのか!?我等よりも劣った、ただの小娘如きに!?)

 その様な動揺を、歴戦のフェイが見逃す筈も無かった。



 ダッ



「な・・・!?」

 駆け出したと思った直後には、一瞬で距離を詰めていた。

「最優秀(笑)」

 それだけ言うと、ガルドを殴り付ける。

 抵抗する間も無く、ガルドは意識を失った。



 市街地



 誰もが、王城へと目を向けていた。

 王城から突然溢れ出した水流により、戦闘は停止していた。

 王城の周辺にいた者達は、慌てて退避する。

「今のは・・・?」

 センテル兵が呟く。

「あの水流は、ガルド陛下のものだぞ。」

 市民が呟く。

 暫く呆然としていると、意識を失ったガルドを引き摺ったフェイが出て来た。

「お前等の負けだ!」

 フェイは、一言だけ叫ぶ。

「へ、陛下!」

「そんな・・・!」

 事態を察した市民達は、次々と膝を付いた。

「劣等種族如きが!」

 しかし、僅かに生き残っていた兵士達は、激昂してフェイへ襲い掛かった。

「そんなモンにやられるか。」

 フェイは飄々と躱し、全て返り討ちにした。

 その様子を見た市民達は完全に心を折られ、ただすすり泣くばかりとなった。

「後は任せた。」

 付近のセンテル兵へ向けてそう言うと、ガルドを引き渡す。

「ハル制圧部隊より、旗艦センテルへ。協力者が、最重要目標を確保した。これより、王城制圧を行う。」

『了解した。直ちに、最重要目標を此方へ移送せよ。』

「了解」


 その後、センテル兵による王城捜索が隅々まで行われ、残っていた王族も全員確保された。

 しかし、崩壊したもう片方の王城に生存者はおらず、クリスタルも行方不明扱いとなった。

 ハルは完全に占領され、ノーバリシアル神聖国は完全に統合軍の占領下へ置かれた。

 この一連の戦いにより、一般のハイエルフ達は恐怖に支配された。

 優れた魔術的資質だけではどうにもならない差を直に見せ付けられ、本能的にその絶望的な差を理解し、抵抗の意思を奪われたのである。

 例外は軍人や貴族の他、一部の頑迷な者達であったが、悉く排除された。

 そして、その次に待っていたのは、占領軍による憎悪の視線であった。

 更に、直接手を掛ける者も多数存在し、少なからず血が流れた。

 此処に至り、ハイエルフ族は初めて狩る側から狩られる側へと転落した。

 自身に降りかかる災難に理不尽を覚える者は多かったが、同時に自分達が行って来た事が返って来たに過ぎないと理解する者も一定数存在した。

 この認識の差から、後にハイエルフ族は二つに分かれる事となる。




 ・・・ ・・・ ・・・




 サティリエル島沖  枢機船



「フェイ様から連絡が入りました。ハルが陥落したそうです。」

「分かりました、御苦労様です。」

「失礼します。」

 一人となったスノウは、対馬での話を思い返していた。


「それで、あたし達にどんな答えを期待してるんだ?」

「何か知っている事があれば、是非とも教えて頂きたい。」

 フェイの質問に対し、艦長は事も無げに答える。

 だが、そう言われた所で答える義理など無い。

 互いに暫く沈黙していた。

(ちょっと試してみますか・・・)

 スノウは、ヤケ気味に決断する。

「あなた方が掴んでいる存在は、勇者と呼ばれています。」

 まさかのスノウからの返答に、全員が目を丸くする。

「お察しの通り、私達もその勇者の一員です。」

「スノウ!?」

 フェイが止めに入るが、スノウは意に介さない。

 その様子を眺めていた艦長は、面倒事に巻き込まれる予感に駆られた。


(我ながら、とんでも無い事を仕出かしてしまいましたね。)

 スノウは、自身の決断に苦笑する。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  セントレル



 ロズウェルドは、最高幹部を集めての定例会議を行っていた。

「・・・でありまして、この件は早急に対応すべきと判断致します。」

「ふむ、確かに無視は出来ませんな。」

「同感です。このままでは最悪の場合、内紛の火種を抱える事になりかねません。」

 幹部の一人が提示した案に、賛同の意が示される。

「では、各方面の労働環境の調査及び改善に関し、賛成の者は挙手を。」

 進行役の言葉に、全員が手を挙げる。

「陛下、御承認をお願い致します。」

「うむ。朕は、今回の決定を承認するものである。」

 まばらに拍手が巻き起こる。



 コンコン



「失礼致します。」

 連絡員が突然入って来る。

「何事だ?」

「先程、ノーバリシアル派遣軍より戦闘終了との報告が上がりました。」

「おお、終わったか!」

 その報告に、控え目の歓声が上がる。

「して、被害は?」

「我が軍は、戦死者19名、負傷者122名となっております。」

 事前に予想していた損害よりも、九割近く少ない数字であった。

「そうか・・・」

 少ない損害で済んだ事は喜ぶべき事だが、それでも犠牲者が出た事にロズウェルドは心を痛めた。

「しかし、信じられない程に小さな損害ですな。間違いは無いのか?」

 その意見に、大半が頷く。

「間違いありません。報告によりますと、暁帝国軍の援護によって被害が極限まで抑え込まれたと言います。」

「・・・ただ、技術的に優れている訳では無いと言う事が証明されたな。」

 いくら優れた武器を持っていようとも、使い方によって強くも弱くもなる。

 今回の損害の少なさが報告通り暁帝国軍に起因するものだとすれば、先進的な兵器の運用に於いても大きく引き離されている事を意味している。

 「運用ノウハウに於いて、僅かでも追い付けるのでは?」と考えていた軍部の期待は、脆くも打ち砕かれる事となった。

「ともかく、最近は暁帝国との関係は改善に向かっております。そう悲観することも無いでしょう。」

 その言葉に、重苦しくなりかけていた空気は緊張へと変わる。

「今度こそ、失敗する訳には行かん。帝国臣民の為に、平和の為に・・・!」

 ロズウェルドは、決意を新たにする。




 ・・・ ・・・ ・・・




 モアガル帝国  ウレブノテイル



 ノーバリシアル神聖国への攻撃を終えた統合軍は、各国の指揮官が再度ウレブノテイルへと集結した。

「まずは、制裁が成功裏に終わった事を嬉しく思う。ハイエルフの王族は、我が軍が小ウォルデ島へ連行している。然る後に、参加国により王族の処遇を決定したいと思う。だがその前に、方々で発生している細かい問題を解決して行こう。」

 スペルアントが話し始め、目下最大の問題についての話が始まる。

「暁帝国では、セイキュリー大陸の小国であるネルウィー公国とフェンドリー王国の民を、根こそぎインシエント大陸へ移民させようとしていると言う。我が国以外にも事前に話を受けた国は多いと思うが、まずはこの事について話をしたいと思う。」

 将軍達の戦後は、まだ当分先である。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  東京



 東郷達は、派遣艦隊から届いた報告に心底安堵していた。

 その内容は、「全参加国からの移民政策の承認を得る事に成功。」である。

 だが、同時に厄介な問題も発生していた。

 ハレル教圏は、あくまでスノウとフェイが黙認すると言う形を取る事が内々に決定された。

 何をどうした所で公の承認を得る事は不可能と言うスノウの判断からの決定であったが、その代償として移民政策を完了するか、途中でバレた場合に勇者一行五人の亡命を認めて欲しいと言い出していたのである。

 小沢は即答を避けたが、東郷を筆頭とする上層部もこの申し出には頭を抱えていた。

 ハレル教圏に於いて、ある意味教皇を超える影響力を持つ勇者一行の協力があれば、移民政策の順調な遂行が可能となる。

 それは、ハレル教圏は勇者一行へ依存していると言える状態にあると言う証左でもある。

 核攻撃以降その傾向はより顕著となっており、勇者一行を受け入れた末にハレル教圏がどの様な行動に出るか予測が付かない。

 それ以前に、事の真相を知ったスノウとフェイはともかく、他三人が承諾するかどうかと言った問題も存在する。

 最悪の場合、その三人から移民政策の詳細が露呈する危険もある。

「報告によりますと、スノウ氏が残り三名を説得するそうです。どうやら彼女は、五人の中では司令塔の様な役割を果たして来たそうなので、説得出来る可能性は十分にあると見込んでおります。希望的観測による面が大きい事は否めませんが・・・」

 山口は、自信無さ気に進言する。

 ハレル教圏の情報収集は核攻撃による混乱もあり、そこまで詳細な予測が可能な程の情報は集まっていない。

 加えて、このどさくさに紛れて潜入した特殊作戦連隊は、ハレル教圏内に存在する亜人族の奴隷の救出作業も行っている。

 救出された者達は既に1万人に迫っており、街道整備で扱き使っていた影響が表に出始める程となっていた。

「しかし、この状況で勇者一行がハレル教圏から抜ければ、此方に利する事は確かです。」

「そんな事は分かっている。だが、分の悪い賭けである事は間違いないぞ。」

 山形の意見に、山口が真っ向から反論する。

「だが、レック諸島の不安が高まっている現状は無視出来ん。奴等には、大陸内で争って貰うのが一番いいだろう。それには、勇者一行が邪魔になる。暗殺も一つの手だが、これまで得た情報から推測すると、大和型を動員しても成功するかどうか分からんぞ。」

 セイキュリー大陸に近い位置にあるレック諸島は、暁帝国とスマレースト大陸の保護下にある。

 しかし、度々やって来るハレル教圏からの船舶の存在に恐怖する毎日を送っており、治安悪化の兆候が表れていた。

 海上保安庁による治安維持活動だけでは抑え切れなくなりつつあるのが現状であり、何らかの抜本的な対策を必要としていた。

「総帥、此処は受け入れてはどうでしょう?」

 山形の説得に閉口した山口を見て、吉田が口を開く。

「理由は?」

「まずは山形元帥の申した通り、ハレル教圏の連携阻止です。この状況で勇者と言う求心力を失ってしまえば、遠からず瓦解する事は目に見えています。瓦解してしまえば、レック諸島へ目を向ける余裕も無くなるでしょう。そして、移民政策がバレてしまった場合ですが、放置すれば良いのです。」

「「「!!」」」

 大胆どころでは無い発言に、その場の全員が仰天する。

「既に、侵攻に備えてハレル教圏に近い位置から順次移民を行っており、役に立ちそうな物資は何も残っておりません。軍部でも、正常な侵攻を行えるラインを超えた事は既に確認済みの筈ですが・・・」

「確認してはいるが、絶対は無い。それに、妨害だけなら軍事行動以外にも方法はいくらでもある。」

 テロ行為は未然に防げているとは言え、それでも心理的な影響は無視出来ない。

 ハレル教圏に対する不信が高まると同時に、不安が増大しているのも確かである。

「その妨害に対する意味もあります。少なくとも、制裁に参加した二名が此方へ着く事は確定していると言って良いでしょう。そして、広く知られている勇者一行を、大陸外のハレル教徒が知らないとは考えにくい。顔を知らずとも、実力を見せれば納得するでしょう。」

「ちょっと待て、まさか・・・!」

「その通りです。勇者一行に、妨害の抑制を行わせます。」

 東郷達は、唖然とする。

 それは、考え得る限り最上位に入ってもおかしくない程の過酷な要求となる。

「あのハレル教圏からやって来る者達を受け入れるのです。これ位して貰わねば、此方としても受け入れられないと考えます。」

「だがそうなると、残り三人が強硬策に出る危険もあるぞ。」

 軍部としては、勇者一行との直接的な衝突は何としても避けたかった。

「それこそ、参加した二名に頑張って貰うしか無いでしょうな。受け入れる条件として、残り三名の説得を確実に遂行する事を提示すれば良いのです。」

 スノウとフェイは、現時点でハレル教を受け入れられなくなっている事は確実である。

 そして統合軍一同の反応から、ハレル教圏の亡命者を受け入れる可能性があるのは暁帝国のみである事も確実である。

 それ故、スノウは暁帝国へ亡命の話を持ち込んだ。

「・・・よし、その案で行こう。」

 少しの沈黙の後、東郷はゴーサインを出した。


 

 今度は、勇者一行に波風が立ちそうですね。

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― 新着の感想 ―
ノーバリシアル神聖国のハイエルフ達は、自らの傲慢さを自覚していなかった。 自分たちの愚かさを、自覚していなかったわけです。 自分たちの愚かさに気付かない者こそが、最悪の愚か者なのに。
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