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第八十八話  ノーバリシアル制裁

 補足

 ハレル教圏の監視ですが、特殊作戦連隊 偵察機 衛星 の三本立てで行っています。

 ドローンもありますが、遠隔地な上にその内引き払う予定なので、数が揃わずネルウィー公国とフェンドリー王国内の監視にのみ使用している状態です。

 ノーバルシアル神聖国近辺海域  強襲揚陸艦対馬



「怪我をされている方は、あちらへ向かって下さい!」

「押さないで下さい!重症の方を優先して!」

 対馬の甲板では、帰還したヘリから捕えられていた商人が次々と出て来ていた。

「た、助かった・・・」

「本当にありがとう。あのままでは、どうなっていた事か。」

「あんた達は英雄だ。今度、サービスさせてくれ。」

 商人達は口々に礼を言い、艦内へ消えて行った。


 スノウは、船室へ戻っていた。

 傷を負った商人が多過ぎる為、医務室は暫くの間立ち入り禁止となったのである。



 ガチャ



 扉が開くと、フェイが入って来た。

 スノウの姿を見ると、安堵した表情をする。

「良かった、自殺でもされてるんじゃ無いかと心配したぜ?」

 フェイは笑顔を見せるが、スノウは笑えない。

「・・・どうでしたか?」

 全く覇気の無い声で問う。

「そうだなぁ・・・色々と凄いモンが見れたんだが、何処から説明しようか?」

「では、作戦が始まった所からお願いします。」

「分かった。作戦が始まったら、予定通りに空からガーッと攻撃が始まったんだ。街中からドーッと炎が上がって大騒ぎだったぜ。そしたら、予定通りに王城から警備兵がドカドカと・・・」

 フェイは、説明がド下手である。

 勇者一行の中でもその下手さは評判であり、解読を申し出て後悔した者は数知れない。

 スノウも、やたらと多い擬音に苦戦を強いられた。

「・・・ってな感じだ。分かったか?」

「まぁ、半分位は・・・」

「・・・(泣」

 涙目になるフェイだが、現実は非情である。




 ・・・ ・・・ ・・・




 先遣隊に遅れる事数日、



 派遣軍本隊  戦艦センテル



「先遣隊より入電、[我、商人ノ救出ヲ完了セリ。]以上です。」

「見事なものだな・・・我々も負けていられんぞ。」

 ノーバリシアル神聖国を射程に捉える直前の事であった。

 スペルアントは、静かに闘志を燃やす。


 ノーバリシアル神聖国は多数の諸島から成る島国であり、制圧するには相応の火力と兵力が必要となる。

 本隊の作戦は、以下の通りである。


 一  暁帝国艦隊及びセンテル帝国艦隊航空兵力により、制空権確保を行う。

 ニ  攻撃目標は有人島のみとし、沿岸への全力砲撃により上陸地点を確保する。尚、内陸部の軍事施設に対しては、暁帝国艦隊によるピンポイント攻撃を行う。

 三  センテル帝国軍による第一波上陸を開始する。その際、暁帝国軍による援護を行う。

 四  第二波以降は、その他各国の陸上戦力を投入する。

 五  ハル占領後、王族の確保を行う。


 崩壊した王城はクリスタルの居城に過ぎず、国王の住まう本当の意味での王城は、先遣隊の攻撃目標から外れたもう片方である。

 今回の一件の首謀者はクリスタルではあるが、これまでに繰り返されて来た横暴の清算も一度に行う事が決定している。

 その為、王族の確保は今作戦の絶対条件である。

 また、ハイエルフ族はその有り余る魔力故に民間人であっても戦闘力が高く、抵抗を示す者は例外無く排除すべしとの命令が下っていた。


「航空隊、出撃準備!」

 スペルアントの命令を受け、センテル帝国初の空母である<ラングレイ>が慌ただしく動き始める。

 ラングレイには、予備含めて40機近い艦載機を搭載可能となっている為、二度に分けて攻撃を行う事となっている。

 尚、艦載機はフィーストを改良した戦闘機型と新開発した爆撃機となっている。

 フィースト改は機銃を装備し、単座型となっている。

 その為、小型軽量化を実現し、最高速度が230キロ/時となっている。

 爆撃機は<デイビー>と命名され、100キロ爆弾二発を搭載可能である。

 ただし、照準器などは一切無い為、精度が極めて悪いのが難点である。

「第一次攻撃隊、発艦準備完了!」

 航空士官の報告を聞いた艦長は、甲板へ向かう。



 ヴォォォォォォォォォ・・・・



 荒々しいエンジン音が鳴り響き、空気が鳴動する。

 搭乗員が乗り込み、全ての準備が完了する。

『発艦始めー 発艦始めー』

 エンジン出力が更に上がり、一機目が滑走を始める。

「・・・」

 艦長含め、全員が緊張の面持ちで見つめる。

 機体は、何の問題も無く発艦し、艦隊上空を旋回し始める。

 その後、計12機の第一次攻撃隊の発艦作業が終了し、攻撃隊は目標地点へと飛行を始めた。

「頼んだぞ。お前達に、海軍航空隊の未来が懸かっている。」

 艦長は、期待と不安が入り混じった目で空を見つめた。



 暁帝国艦隊  空母龍驤



 シュゴォォォォォォォォ



 F-3が、射出機によって勢い良く発艦していた。

「攻撃隊、全機発艦しました。」

「センテル側の攻撃隊は、既に発艦作業を終了している様です。」

 今回の制空任務は、暁帝国は航空施設に対する空爆のみであり、制空戦闘はセンテル側が担当する事となっている。

「そう言えば、先遣隊は何処にいる?」

「えー、此処から西へ40海里程の地点にいます。」

「そうか。なら、まだ時間はあるな。」

 現在、小沢は勇者情報を本国から受けていた。

 スノウとフェイが勇者の一員である可能性が高いとの報告も受けており、他のハレル教圏の面々と引き離されている内に移民政策の根回しに加え、ハレル教圏に関する情報収集を進めようとしていた。

「対馬に連絡してくれ。」




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国艦隊  第一次攻撃隊



「壮観だな。」

 飛行隊長は呟く。

 彼等は、飛竜とは比較にならない高度な技術を要する航空機を操っている。

 更に、初の空母艦載機による実戦である。

 この上無い名誉である。

「そろそろだが・・・」

 腕時計を見ると、暁帝国航空隊との合流地点に到達している筈である。

 辺りを見回すが、それらしき機影は見当たらない。

『此方、暁帝国海軍第二艦隊空母航空隊だ。センテル帝国の諸君、聞こえるか?』

 通信魔道具から、無駄に元気の良い声が聞こえて来る。

「感度良好だが、何処にいる?」

『上だ。高度10000。』

「10000!?」

 現在、彼等の高度は2000である。

 全員が、必死に目を凝らす。

『隊長、アレでは!?』

 部下からの通信が入り、指を差している方向を見る。

「・・・アレか?」

 そこには、確かに人工物としか思えない飛行物体がいた。

「何てスピードだ!」

 その機体は、目測で800キロ/時は出ていた。

 誰もが、圧倒的などと言う言葉では生温い程の差を実感し、歯噛みする。

『敵航空施設上空に到達した。これより、空爆を実施する。』

「もうか!?」

 悔しがっていると、あっという間も無くそんな通信が入る。

『よーい・・・投下!・・・・・・弾着、今!』

 そうこうしていると、通信を通して攻撃の様子が実況された。

『攻撃成功。敵航空施設の破壊に成功した。だが、大鷲の出撃は止め切れなかった。全部で7羽だ。』

 その報告を聞き、呆然としていた隊長は気合を入れ直す。

『此方は、対空装備を用意していない。後は任せる。』

「全員聞いたな!?一番槍は取られたが、此処からは俺達の出番だ!海軍航空隊の名を轟かせるぞ!」


 『『『『応!!』』』』


 威勢の良い返事が一斉に返って来る。

『敵を目視!数、7!』

 正面から、大鷲が此方へ向けてやって来た。

「旗艦センテルへ!我、敵を発見!これより、交戦を開始する!」

 全機が増速し、機銃の安全装置を外す。

「まだ・・・まだだ・・・」

 海戦とは比較にならない相対速度に、距離を測る隊長は無意識に声に出る。

「今だ!」



 ダカカカカカカカカ



 12機のフィースト改が、一斉に機銃弾を吐き出す。

『どうだ!?』

 すれ違い後ろを向くと、2羽の大鷲が落下して行くのが見えた。

「たったの2機か・・・」

 隊長は、戦果の少なさに落胆する。



 バタバタバタバタ



「ん?」

 奇妙な音に気付いて見ると、主翼の一部が切り裂かれていた。

 鋼管羽布張りの機体である為、刃物を刺せば易々と通ってしまう。

 しかし、フレームに異常が無ければ特に支障は無い。

 全機が急旋回し、敵を正面へ捉えようとする。

 それは、敵も同じであった。

 再度、正面反航戦となる。



 ダカカカカカカカカカカカ



『3機撃墜を確認!』

 12機で挑んでいるにも関わらず、中々撃墜出来ない事に苛立ちが募る。

(帰還したら、猛訓練だな。)

 現状、空母航空隊は訓練不足であった。

 ラングレイ竣工から一年余りしか経っておらず、当然と言えば当然である。

『敵機、逃亡します!』

 部下の声に我に返ると、大鷲が旋回せずに遠ざかっている事を確認した。

「追うぞ!」

 その後の展開は、哀れの一言であった。

 30キロ/時もの速度差に加え、6倍もの物量に追い回されているのである。

 航空隊は、逃げる大鷲をバラバラに追い掛け回し、衝突寸前まで行ってしまった機体も存在した。

 そして、「初の実戦は、味方同士の衝突が最も危ない時であった。」と、公式の記録に残る事となってしまったのである。




 ・・・ ・・・ ・・・




 先遣隊  強襲揚陸艦対馬



 スノウとフェイは、艦長に呼び出されて艦橋にいた。

「急にどうしたんだ?何か、戦況に変化でもあったのか?」

 フェイは、艦長へ尋ねる。

「いえ、本隊も作戦を開始していますが、今の所は順調に推移しています。お呼びしたのは、それとは別件です。」

「別件?」

「ええ。我が国の方針に関わる事で、時間に余裕のある今の内にお耳に入れておいて貰いたい事があるのです。」

(煩いのがいない今しか無いからな・・・)

 艦長も、ハレル教圏の面々の態度の悪さには辟易していたのである。

 そして、移民政策に関する情報が公開された。

「な・・・な、な・・・」

「こ、こんな事が・・・こんな事って・・・」

 ハレル教圏と敵対しているとは言え、此処までの事を実行しているとは想像もしておらず、咄嗟に言葉が出ない。

「そちらにとっては受け入れ難い案とは思いますが、現地住民からは好評です。既に、他の主要国からは賛同の意を受けています。」

(根回しは済んでいるのですか。さて、どう返事をしたものか・・・)

 盲目的な信徒では無いスノウとフェイは、ハレル教圏の立場の拙さをより正確に理解した。

「我が国では、この件によるハレル教圏各国の暴走を懸念し監視を行っているのですが、どうやら感付かれている様でして、大規模な軍事活動を準備している動きが複数確認されています。」

 二人は、絶望の底へと叩き落された。

 各国が承認している事業を軍を進めて妨害などすれば、本格的に世界を敵に回してしまう。

 だが、更なる追い打ちが二人を襲った。

「それと、この軍事行動の前触れと言いますか、偵察行動らしき動きが確認されていまして・・・」

 モニターに映ったのは、残留組の三人であった。

「レオン!」

「あいつ等、何やってんだ!?」

「知り合いで?」

(しまった!)

「ええ。軍指揮官と言う立場上、方々に顔見知りがおります。」

 あくまでも一軍の長として振舞っている以上、こんな所で素性を明かす訳には行かない。

「そうですか。ところで、これをどう思いますか?」

「・・・これは?」

 モニターに映し出されたのは、衛星による魔力反応である。

「これは、地上の魔力を観測したものです。体内の魔力も観測可能となっています。そして、これがあの三人の魔力です。」

 明らかに異常な魔力が映し出され、二人は動揺を隠せない。

「それと、失礼ながらあなた方の魔力も観測済みです。」

(本当の目的は、そちらでしたか。)

 事此処に至り、呼び出した目的が五人の素性調査にある事に気付く。

「我が国では、ハレル教圏に関する情報収集が進んでいます。それによると、ハレル教徒の求心力を集める強力な力を持つ五人組が存在するとか・・・」

 勇者と言う単語は敢えて使わなかったが、此処まで言われてしまえば誰の事を言っているかは分かってしまう。

 緊張感は、嫌でも高まっていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ノーバリシアル神聖国  サティリエル島



「劣等種族共がァァァァ!」

「何故だ、何でだ!?」

「どうしてこんな事を!?」

 元々、魔道具の売り込みの為に賑やかであったサティリエル島だが、現在の喧騒は阿鼻叫喚と言えるものであった。

 制裁の発端となったこの島は、真っ先に攻撃対象となっていた。

 沿岸には大量の戦列艦が並び、遠方には機帆船や装甲艦が軒を連ねていた。

 当初は、沿岸に設置されたバリスタから反撃を行っていたが、圧倒的な物量と火力の差には敵わずあっという間に無力化されてしまい、現在は一方的に嬲りものにされている。

 援軍を要請しようにも、ハルが急襲された事で軍全体が機能不全に陥っており、いくら要請しても返事すら返って来なかった。

 救いようの無い状況に、誰もが<劣等種族>に対する憎悪を撒き散らすだけとなっていた。


「沿岸の制圧を確認しました。」

「上陸を開始せよ。」

 スペルアントの命令により、揚陸艦が前へ出る。

「何だアレは!?」

「変わった形の船だな・・・」

「オイ、浜辺に乗り上げたぞ!」

 各国の艦の乗員達は、見慣れない形状をした揚陸艦に驚きの声を上げた。

 そして、浜辺へ乗り上げた揚陸艦から出て来たギーグを目撃し、また驚きの声を上げた。

「クッ、凄い揺れだ・・・」

 ギーグの乗員は、砲撃によって出来たクレーターの中を進むギーグの揺れに翻弄されつつも、そのクレーターの中を難無く進む性能に驚嘆する。

 事前砲撃があまりにも苛烈であった為、海岸線には誰もおらず順調に進撃して行く。

「!・・・一時方向、敵の一隊を発見!」

 覗き窓から、弓を構えたハイエルフの一隊が目に入る。

「停車!」

 車長の命令に即座に反応し、操縦手は車両を止める。

「・・・この方式は、どうにかならんモノかね?」

 ギーグは主砲が肩持ち式となっており、照準を合わせるには狭い車内で体勢を頻繁に変えなければならない。

 照準に苦戦している中、先手を打ったのはハイエルフの方であった。


「フン、やはり劣等種族だな・・・そんな所でモタモタしていたら、いい的だ。放てェー!」



 バヒュゥーーーーー・・・

 ドガッドガッドガッドガッドガッ



 放たれた矢は、着弾と同時に手榴弾並みの爆発を起こす。

 内、三発がギーグへと命中した。

「はっはっはっはっはっは、その程度で我等に挑もうとしていたのか!」

 嘲笑の嵐が吹き荒れるが、煙が晴れると同時にピタリと止まる。

「な・・・む、無傷だとォ!?」

 これまで一方的に敵を吹き飛ばして来た彼等は、初めて吹き飛ばされる立場となった。



 ドンッ



 鈍い音が聞こえた直後、彼等は奇妙な浮遊感を覚えた。



 ドガッ



 乾いた爆発音が聞こえ、全身が激痛に襲われた。

「ウガアアア・・・な、何がァァァァァ!?」

 見ると、味方全員が体を欠損している事が分かった。

(グゥゥゥゥ・・・か、回復を・・・かいふく・・・)

「・・・・・・」

 激しい痛みは次第に薄れ、少し経つと全員がその場で事切れた。


「こいつは、恐ろしいな・・・」

 車長は、目の前で起きた惨劇に身を震わせた。

 世界を圧倒して来たセンテル帝国であっても、完全に無傷で戦いを終えた事は無い。

 しかし、今の戦闘は実現不可能と思われていた無傷と言う結果を叩き出した。

 センテル帝国は、これまで以上に効率的で無情な戦いへと身を投じようとしていた。



 現時点では、ハレル教圏は後ろで控えています。

 指揮官不在ですからね・・・

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