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第八十七話  勇者の片鱗

 ブックマーク件数が、500を突破しました。

 こうやって見てくれる人が増えるって、嬉しいものですね。

 ノーバリシアル神聖国  ハル



 この街は、かつて無い事態に大混乱となっていた。

「何をしている!?貴様等、それでも誇り高きハイエルフの一員か!?」

 この一帯の部隊を指揮している司令官は喚き続けるが、大鷲を全て失った上でAH-64を相手にしては、一方的な蹂躙を許すだけとなっていた。

「クソッタレ、何なんだアレは!?」

「こんな事が・・・こんな事があってたまるかァ!」

 最優秀である筈の自分達が圧倒されている状況が我慢ならずに攻撃を続けてはいるが、冷静さを大きく欠いている上に有効策が存在しない状態では、屍を積み上げるだけであった。

 その上、この期に及んでも何故攻撃を受けているかを理解していなかった。

 そして、それはクリスタルも同様であった。



 王城



 救出班が残りの遺体を運び出す傍ら、フェイはクリスタルとの戦闘を繰り広げていた。

「ホラホラ、どうした?もう終わりか?」

「フゥーー、フゥーー・・・!」

 当初は互角にやり合っていた二人だが、次第にフェイが優勢となっていた。

 生まれながらに魔術の天才であるハイエルフ族のトップと言えども、それ以上の才能と幾多の経験を積み上げて来たフェイが相手では、勝率は限り無く低い。

「クッ・・・!」

 腕を振り上げたクリスタルを中心に、四方八方へ風が吹き荒れ始める。

 その風は、鋭利な刃物となってフェイへ襲い掛かる。

「チッ・・・!」

 フェイは瞬時に反応すると、必要最小限の動きで避け切る。

(詠唱無しで此処まで連発出来るなんて、反則過ぎるわ!)

 クリスタルは、これまで一度も呪文を唱えていない。

 反面、フェイはいくらかの魔術を扱えるとは言え魔術師ですら無く、詠唱に若干の時間を必要とした。

「何故、当たらぬ!?下等な獣如きが、大人しく切り裂かれてしまえ!」

 クリスタルは、我武者羅に更に大掛かりな風の壁を形成した。



 ビキッ… パキッパキッ



 鋭利な刃物と化した風は、城内の至る所を切り裂く。

 このまま破壊が進めば、遠からず王城は崩壊する。

(まだか・・・!?)

 その事に気付いたフェイは、遂に焦りの色を見せ始める。

「::@--^¥・・。」

 小さく呪文を唱え、クリスタルの攻撃に備える。

「死ねェ!」

 その叫び声と共に、破壊を撒き散らしていた風がフェイへ一斉に襲い掛かった。

「オラァッ!」

 その掛け声と共に周囲へ振り回された剣は、膨大な魔力を内包した突風へと変貌し、風の刃を一蹴した。



 ドサッ



 音のした方を向くと、とうとう限界を迎えたクリスタルが膝を付いていた。

「やっとかよ・・・」

 クリスタルとは対照的に大して消耗していないフェイは、気だるげに戦闘態勢を解く。



 ドガァン!



「うわッ!」

 突如、フェイの目の前に巨大な瓦礫が落ちて来た。

 大きく損傷した王城は、耐久限界を迎えて崩れ始めたのである。

「おい、この遺体で最後だ!撤収するぞ!」

 救出班の隊長が、フェイへ呼び掛ける。

「・・・チッ!」

 一瞬クリスタルへ目を向けたフェイだが、連れて行けば碌な事にならないのは目に見えている。

 クリスタルをその場へ放置し、全員がCH-47へ飛び込んだ。

「出せ!」

 隊長の怒鳴り声と共に、全機が離陸する。



 ドゴゴゴゴゴゴゴ



 轟音が鳴り響き、王城が崩壊を始めた。

 その様子を、全員が機内から呆然と眺める。

『此方掃討班、回収班の離陸を確認した。これより、我々も撤収する。』

 ハルから離れるCH-47の編隊を追う様に、AH-64の編隊も戦場から離れた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 強襲揚陸艦 対馬



 対馬の艦橋では、リアルタイムで戦闘映像が映し出されていた。

『これより、我々も撤収する。』

「フゥ・・・」

 艦橋に、安堵の空気が流れる。

「見たモノが事実だとしたら、アレでもまだ本気では無いと言う事だが・・・」

 その言葉に、重苦しい空気が場を支配した。

 分隊長以上の隊員のヘルメットには、ガンカメラが備え付けられている。

 その映像には、フェイの戦闘が映し出されていた。

 だが、その動きから察するに明らかに手を抜いており、真正面から敵に回せば多大な被害を受ける事は確実と思われた。

「とにかく、受け入れ準備を急げ。」

 艦長の命令と共に、艦内が慌ただしくなる。




 ・・・ ・・・ ・・・




 アウトリア王国



 今日も今日とて、監視メンバーによる残留組の監視が行われていた。

「おっとぉ、随分と早く出て来たな。」

 聖教軍司令部から、何処かの騎士の一隊が出て来る。

 その動きはお世辞にも訓練が行き届いているとは言えず、明らかに肩を怒らせていた。

「また勇者様に、出陣の陳情に来てたらしいぞ。」

 指向性マイクの言葉に、全員が嘲笑する。

「もう何度目だよ?」

「懲りない奴等だ。あんな奴等に付き合わされる勇者連中が、可哀想になって来た。」

 会話の内容から、既にネルウィー公国侵攻の陳情に来ている事は把握しており、現地では最大限の警戒態勢が敷かれている。

「どいつもこいつも、ハルーラ様の御加護とやらでどうにかなると思ってやがる。」

「そんなモノでミサイルが防げるんなら、核攻撃も失敗してるわ。」

 ハレル教徒に対する批判を堂々と繰り返していると、三人が外へ出て来た。



 聖教軍司令部前



「衛兵も、大分手馴れて来たみたいじゃ無いか。」

 レオンは上機嫌に言う。

 最近の三人は司令部に詰めている衛兵に対し、出陣の陳情へやって来る諸侯を門前払いするよう指示を出していた。

 とは言え、元々がまともに訓練もされていなかったほぼ素人であっただけに、当初は対応し切れずに押し切られる光景が繰り返されていた。

 本来、こうした状況に対応しているのはスノウであるが、今はこの場にいない。

 その結果、衛兵は独力での対応を余儀無くされていた。

 しかし、予想以上の頻度でやって来る諸侯のお陰もあり、場数を踏む毎にその対応は洗練されて行った。

「油断は大敵・・・。報告によると、脅迫をやって来る事もあるそうだから・・・。」

「本当にやらかす様なら、その時は俺達の出番だ。」

 陳情にやって来る人物は、当然ながら貴族である。

 国によっては王族が出て来る例もあるが、どちらにしても一般兵にとっては雲の上の存在である。

 その立場を利用し、「会わせなければ・・・」と言うパターンの脅迫を行う者が非常に多いのである。

 しかしどの様な立場にあろうとも、勇者一行はその様な事をやっている者を信用しない。

 出陣など以ての外である。

 各地の諸侯は、無自覚に勇者を敵に回していた。

「・・・」

 話が一段落すると、三人の表情が急に引き締まる。

「カレン、どう・・・?」

「やっと分かったわ、向こうよ。」

「カレンでもこんなに掛かるなんてな・・・」

 カレンは神経質な所があり、昔から他人の視線に敏感である。

 修羅場を潜った事でその感覚はより鋭敏になり、数キロ先の視線すらも正確に探知可能となっている。

「この気配は、かなりの手練れだと思うわ。」

 最近感じていた視線は、気配が曖昧であり正確な方向までは分からなかった。

 しかし、何故かその気配がハッキリして来た為に方向が分かったのだが、どう考えても素人とは思えない。

「話が通じればいいんだけどな・・・」

 レオンは、不安気に言う。



 高台



「ホントにレベル高いな・・・」

「全くだ。それにしても、その二人を侍らせてるあの男は許せんな・・・!」

「羨まし過ぎるだろ!」

 カレンの感じていた視線は、監視メンバーである。

 当然ながら気配を消しつつの監視であったのだが、レオンに対する嫉妬心からその気配を抑え切れなくなっていたのである。

 上層部には言えない大失態であるが、今の彼等には些細な問題であった。

「ん?こっちの方角を指差して、何を喋ってるんだ?」

 全員が、指向性マイクを見る。

「何処かの手練れの気配を感じてるみたいだが・・・話が通じれば?何の話だ?」

「いや、本当に何の話だ?」

「手練れって誰の事だ?何処ぞの間者が紛れ込んでるのか?」

 魔力反応を確認するが、それらしき反応は無い。

 今度は、双眼鏡を手に取り目視で捜索を行う。

「やっぱり誰もいない。だとすれば・・・」

「まさか・・・」

 顔を見合わせる。

 全員の脳裏に、最悪の予想がよぎる。

 瞬時に監視体制から戦闘体制へ移行し、撤収を始めた。

「ッ、こっちに来るぞ!」

 三人の魔力反応が、恐るべき速度で近付いていた。

「クソが、ホントに人間か!?」

 三人はただ走っているだけなのだが、身体能力に秀でる獣人族でさえ圧倒する程の速度が出ている。

 パワーアシストによって身体能力の底上げがされている彼等でさえ、振り切る事は適わなかった。

 間も無く、はっきりと目視出来る距離にまで近付かれる。

「チッ、やるぞ!」

 全員が振り向き銃を構えるが、

「「「!!」」」

 銃口を向けた時には、既に至近距離に三人がいた。

 この様な距離での戦闘では、銃火器では不利となる。

 しかし近接戦に移行しようにも、その様な隙を見逃してくれるとも思えない。

(どんだけだよ!?)

 全員が、内心悪態を吐く。

 あっという間に追い付いた足の速さもそうだが、見るからに戦闘慣れしており、これまでに戦って来た軍勢とは一線を画す実力がある事が窺えた。

 だが、構えているだけで仕掛けて来る様子は無く、奇妙な膠着状態が生まれていた。


 三人は、困惑していた。

 彼等の目の前には、黒を基調とした見た事も無い服装をした六人組が構えている。

 見た所、常人ならざる実力がある事が窺えた。

 持っている武器は明らかに銃ではあるが、これまでに見た事も無い形状をしており、何の素材を使用しているのかも分からない。

 それ以外にも見た事の無い装備が多数目に入り、どう対応すれば良いのか判断しかねていた。

(間違い無い。こいつ等からは、魔力が感じられない。)

 彼等を最も困惑させているのは、一切の魔力を持たない事である。

 ハーベストの生物は、どれ程貧弱であろうとも生まれつき魔力を内包しているのが当然であり、ゼロと言うのは有り得ない。

 しかし、その有り得ない事象に直面している事が、尚更対応を難しくさせていた。

「・・・」

 沈黙が場を支配する。

(隙が無いな・・・)

 単純な実力は明らかに三人の方が上だが、未知の相手であるだけにどの様な隠し玉を持っているか分からない。

 話をしようにも、一切の隙を見せない状態でその様な行為に及べば命取りとなる。

 場の静けさに似合わない極限状態の緊張感を感じつつ、対応策を考える。



 ゴォォォォォォォ・・・・



 そうこうしていると、上空からこれまで何度も聞かされた轟音が聞こえて来た。

(こんな時に・・・!)

 この轟音が鳴り響くと、一帯はパニックへ陥る。

 実害は無いが、厄介極まり無い存在である。

「ッ!」

 突如、これまでに無い悪寒を感じ、三人は咄嗟に身を伏せた。



 ドォォォォォォォン



 三人のすぐ後ろで大爆発が起こり、地面を大きく抉る。

「クッ、待て!」

 爆発からは逃れたが、その隙に六人組が背を向けていた。



 ドォォォォォォォン



 起き上がろうとした所で、更なる大爆発が体を揺らす。

「何て足してやがる!」

 レオンは、六人組の足の速さを見て吐き捨てる。

「早く追うわよ!」

 カレンの掛け声で我を取り戻し、すぐに追跡体制を取る。

 確かに、六人組の足の速さは尋常では無いが、それを軽く上回るのが勇者一行である。



 ドォォォォォォォン



 走り始めた所へまた大爆発が起こるが、冷静に見極めて躱す。

「空から、何かを撃ち込まれてたんだな。」

 レオンが呟くが、シルフィーが恨みがましい視線を六人組へ向ける。

「この攻撃は、あいつ等を援護してる様に見える・・・。」

「何だって!?」

 そこへ、更に一発飛んで来るのが見えた。

 進路は明らかに此方であり、六人組を攻撃する素振りは見受けられない。

「ハッ・・・!」

 シルフィーが飛行物体へ手を翳すと、赤い閃光が飛行物体へ向けて飛び出す。



 ドガァァァァァァァン



 閃光が命中すると、その場で爆発した。

 シルフィー得意の対空射撃である。

「いいぞ!」

 レオンの誉め言葉に、シルフィーは顔を赤らめる。

 だが浸る余裕は無く、更に一発が飛んで来る。

「今度は、俺がやる!」

 レオンはそう言うと、一気に10メートル以上跳躍する。

「うおおおおおお・・・!」

 掛け声と共に一閃すると飛行物体が真っ二つとなり、あらぬ方向へと落下して行った。

 真っ二つとなった飛行物体は、地面に激突してから数拍置いて爆発した。

 難無く着地し、更なる攻撃に備える。

「・・・もう、来ないのか?」

 追撃が来る様子は無く、戦闘体制を解く。

 辺りを見渡すが、六人組の姿は見当たらない。

「カレン、どうだ?」

 カレンは首を振る。

「駄目、もう何の気配も感じない。」

「クソッ!」

 追撃出来ないならば、この様な所でいつまでも油を売る訳には行かない。

 三人は、聖教軍司令部へ引き返し始めた。

「それにしても、あいつ等は一体・・・」

 帰り掛け、六人組について話す。

「あたしには、魔力を感じられなかったわ。二人はどうだった?」

「私も同じ・・・。」

「俺もだ。」

 自分がおかしくなっていたのではと思い始めていた三人は、全員が同じであった事に安堵する。

「それだけじゃ無い・・・。あの空からの攻撃も、魔力が感じられなかった・・・。あれだけ大掛かりな攻撃なら、必要な魔力も膨大になる筈なのに・・・。」

「斬った感じからすると、あれは金属製の何かだ。魔道具かどうかは分からないが、魔術の類じゃ無いな。」

 三人揃って首を捻るが、結論は出ない。

「けど、あの音は聞き覚えがあるわ。二人もそうでしょ?」

 カレンの問いに、二人は頷く。

「ホントに気分悪いけど、そうだとするとあいつ等は・・・」

 それ以上は言わなかったが、言わずともその先は分かる。

 暁帝国にマークされている。

 ハレル教圏最高戦力である自分達が、敵対勢力に目を付けられるのは当然の事である。

 最悪、暗殺も視野に入れなければならない。

「無暗に外に出ない様にしないとだな。」

「じゃあ、帰ったら慰めて・・・。」

「あ、ズルい!あたしも!」

 この一件により、後にアウトリア王国の警戒レベルが跳ね上がる事となる。




 ・・・ ・・・ ・・・




『監視対象の撤収を確認した。』

 通信が入り、監視メンバーが姿を見せる。

「・・・見たか?」

「ああ、生身でミサイルを斬ったぞ。」

 彼等は、目撃した監視対象の戦闘力に身震いする。

 とてもでは無いが、相手など出来ない。

「監視してるのもバレたし、手を引いた方がいいな。」

 その後、アウトリア王国へ潜伏している班は全員が撤収する事となった。

 軍上層部では、勇者一行の見せた常人離れした戦闘力に恐れを抱き、個人装備の強化へ邁進する事となる。



 もっとカッコいい戦闘シーンが出来れば良かったんですが、近代的なドンパチしか出来ないんです。

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