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第八十四話  移民政策の進捗

 最近、指先が冷えて誤字の修正が増えています。

 ネルウィー公国南部



「おかしい・・・」

 スノウとフェイを見送った後、残留組三人は現地軍を引き続き監督していた。

 現地軍の練度が一定以上に達したと判断した三人はネルウィー公国の現状を確認する為、複数の斥候を放つと同時に、自身も国境線付近の集落への潜入を実行した。

「明かりが、見当たらない・・・。」

 夕飯時であり、窓から明かりが漏れていなければおかしい。

 しかし、明かりなどは一切見えず、本来ならば外へ漏れ聞こえて来る筈の話し声すら全く聞こえない。

「どうなってるの?」

 カレンも、想像もしていなかった事態に困惑する。

 此処へ来るまでにも、不可解な事はあった。

 いくら余裕が無いとは言え、ネルウィー公国も砦を建設する等して国境の厳重な警戒を行っている筈であった。

 しかし、その砦さえも人の気配が全く無かったのである。

「・・・行ってみよう。」

 レオンはそう言うと隠れるのを止め、集落へ堂々と足を踏み入れる。

「鍵が、掛かって無い・・・。」

 シルフィーが呟き、家屋の一つへ入る。

「どうなってるのよ!?いくら何でもおかし過ぎるわよ!」

 不可解極まり無い状況に、耐え切れなくなったカレンは叫ぶ。

 そこには、衣服や食料どころか、家具の一つも置かれていなかった。

「誰かいないのか!?」

 レオンが叫びながら全ての家屋を見て回るが、いくら探そうとも人っ子一人おらず、どの家屋にも家具の一つさえ存在しなかった。

「勇者様ーー!」

 そうこうしていると、三人の元に伝令がやって来た。

「・・・此処もですか。」

 集落を見回した伝令は、そう呟く。

「どう言う事だ?」

「ハッ!自分は、此処から西隣の村落を担当している部隊から伝令としてやって来たのですが、そこの村落と、更に西隣の村落も此処と同じく誰もおりませんでした。」

 あまりにも不可解な事態に、三人とも絶句する。

「と、とにかく、これからそっちに行こう。」

 そう言うと、四人は西隣の集落へと向かった。


 暫く後、


「煙・・・?」

 隣の集落へ近付くと、明らかに火事が原因と思われる黒煙が上がっているのが確認出来た。

「これは!?」

 到着すると、全ての集落は丸ごと燃えていた。

「隊長の命により、全ての家屋の放火を実行致しました。」

 同行した連絡員が答える。

 そこへ、隊長が三人に気付いて歩み寄る。

「おお、勇者様。不可解な事に、此処には誰もおらず」



 バキッ



 隊長が吹っ飛んだ。

「ガッ・・・ゆ、勇者様!?」

「焼くなっつったろうがァァァァ!!」

 レオンは、過去の経験から亜人族嫌いである。

 しかし、その経験から民間人への狼藉を誰よりも嫌っているのである。

 それは敵に対しても同様であり、派遣した斥候に対しても民間人へ危害を加えない様入念に命令を出していた。

 また、これまでにも各地でこの事に関する模範を示して来ていた。

 特に、彼の故郷であるドローグ王国では称賛され、追随する者が多く現れていた。

 しかし、ハレル教圏全体で見れば、浸透しているとは言い難い。

 一般的なハレル教徒にとっては、所詮亜人族は抹殺の対象でしか無く、亜人族の住処の事など知った事では無かったのである。

 そして、今回派遣された聖教軍の認識も、殆ど改められてはいなかった。

 その結果が、これであった。

 長い時間を掛けて固まってしまった価値観はそう簡単に改める事は出来ず、現代とは違い略奪行為は兵士に対する報酬の意味合いもある。

 止めたかったとしても、そう簡単に止める事も出来ない。

「レオン、落ち着いて!」

 カレンが止めに掛かった事でひとまず落ち着いたレオンであったが、指揮官として命令を出せる状態には無かった。

「伝令、全部隊へ撤収命令を伝えて・・・。」

「ハッ!」

 シルフィーが迅速に命令を出し、場を納める。

 行為の是非はさておき、全員が撤収を最優先して行動を始めた。


 ネルウィー公国の不可解な状況は直ちに教皇庁へと報告され、大きな衝撃と困惑を与えた。

 フェンドリー王国に対しても偵察を実施した結果、ネルウィー公国と同様の状況にある事が判明する。

 民家に限らず、軍事施設まで人どころか家具一つ見当たらず、教皇庁と言えども疑問符が出るばかりであった。

 しかし、この状況を好機と捉える者も多く、「この機に乗じて侵攻を開始し、ハレル教圏を拡げるべし」と主張し始めた。

 その一方、「現状では、その様な余裕は無い。」と主張する者も一定数存在した。

 特に、リウジネインは経済的な理由と街道整備が途上にある事から強硬に反対した。

 シェイティンも本音は侵攻を始めたかったが、ノーバリシアル神聖国制裁の為に勇者一行を含めた多くの戦力を供出していた事もあり、現時点での侵攻には反対の立場であった。

 しかし、散々辛酸を嘗めらさせられた国境沿いの各国は、独断で行動を開始し始める。




 ・・・ ・・・ ・・・




 インシエント大陸



「こっちだ!こっちに運んでくれ!」

「よーし、降ろすぞー!」

「これでいいか?」

「こっちを手伝ってくれ!」

 移民政策は順調に進み、入植者は200万人を突破しようとしていた。

 当初は、暁帝国から提供されたプレハブ小屋を住居としていたが、現在は殆どがまともな住居へと変わっている。

 入植者の増加と共に官僚の負担は増え続け、過労で倒れる者が続出すると言うトラブルはあるが、人間族より優れた資質を持つ亜人族が急激に増えた事により、人手不足はある程度解消されていた。

 特に、大きく遅れていた旧属国地域の後始末に於いて大きな力を発揮し、現在は再開発の段階へと移っている。

 旧属国地域の開発が遅れていた一番の原因は、その地域の住民に対する手当であった。

 総人口900万人にもなる困窮した国民を抱える事となっていた為、その手当に多くの予算を割かなければならなくなっていたのである。

 また、まともな整備もされず荒れ放題であった国土は衛生上の問題も抱えており、「一旦更地にした方が良い。」と暁帝国の専門家が呟いた程であった。

 そして、その様な問題からこの地域の作業員達は度々発病し、尚更遅れを見せた。

 時間が経過する毎にモチベーションは低下し、能率は下がり続けた。

 手当てを受けた住民も作業へ加わったが、お世辞にも有用とは言えなかった。

 困窮して体力が低下していた事も無理も原因ではあるが、それ以上に「再度、搾取構造に取り込まれるのでは?」との恐れが、モチベーションの低下を引き起こしていたのである。

 この状況を一変させたのが、移民である。

 彼等は、厳しい環境で戦い続けてきた猛者であり、死んだ魚の様な目をしてダラダラと作業に励む住民達へ喝を入れた。

 そして、自らキツい作業へ向かい汗を流した。

 この行動は住民の心を打ち、徐々に生気を取り戻して行く事となった。

 そして、これまでの惨状が嘘の様にやる気に満ち溢れる姿がそこかしこで見られる様になり、お荷物に近い状態となっていた旧属国地域の住民達が有用な人材へと変わった事で、人手不足は更に解消された。


「それにしても、暁帝国は恐ろしいな・・・」

「いやー、味方で良かったわー。」

「その味方に、初対面で怒鳴り付けた奴がいたと思うが?」

「そ、それを此処で言うか!?」

 休憩しているマークとケイは、雑談に花を咲かせる。

 本格的な移民が決定した事で移民試験団は解散となり、メイを含む三人は交代で連絡任務をこなしていた。

 現在は、メイがネルウィー公国へ帰還している。



 ガガガガガガガガガ



「それにしても、暁帝国は恐ろしいな・・・」

「それ、さっきも言ったからな。」

 彼等の目の前では、暁帝国の作業員が様々な重機を持ち込んで建設作業を行っている。

 現在、彼等が建設しているのは水道施設である。

 水道技術は元々存在していたが、水源から水を垂れ流しているだけであり、余程の余裕が無ければその規模も極めて限定的である。

 水道一つ取っても圧倒的な差の存在する暁帝国に、移民して来た者達は例外無く身震いした。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  暁帝国大使館



「どうするかなぁ・・・」

 大使である原は、頭を抱える。

 彼は現在、移民政策に関してセンテル帝国との調整役を任されている。

 世界的な承認を得る為には、センテル帝国の協力が不可欠となる。

 しかし、現状では上手く行っているとは言えなかった。

 初参加の世界会議に於いて連携して電撃的に承認を得る筈が、マイケルの独断によって流れてしまい、次の世界会議に於いて今度こそ承認を得る筈が、テセドア事変によってまたも流れてしまったのである。

 現状、この件を認知しているのはセンテル帝国以外では、フレンチェフとガレベオとその側近のみである。

 国毎に個別に根回しを行えば、意思統一に時間が掛かり過ぎるのは目に見えている。

 加えて、ハレル教圏が承認する筈も無い。

 むしろ、露骨な妨害行為に及ぶ事は容易に想像が付く。

 その為、全ての主要国が集まる世界会議に於いて、問答無用で承認を得る必要があった。

 だが、現在の進捗具合から後三年も待ってなどいられず、頭を抱えているのである。

「原さん、外交部のスマウグ長官から連絡です。極秘に話があると・・・」

「スマウグ長官から?」



 外交部



 外交部へ赴いた原に対し、スマウグ自ら出迎える。

「よくぞ参られた。さあ、此方へ。」

 応接間へと通され、早速本題へと入る。

「極秘の話との事ですが、突然どうされたのですか?」

「うむ。実は、移民の件で提案があるのだ。」

 センテル帝国では、移民政策は対岸の火事に過ぎず、関心は低い。

 しかし、暁帝国に対する好感度稼ぎに加え、ハレル教圏に対する有効な牽制の材料となり得るとの判断から、賛同する方針が決まっている。

 しかし、関心が低い事からあまり長引かせたくないと言うのが本音である。

「現在、ノーバリシアル神聖国制裁の為に、主要国が一同に会している。つまり、疑似的な世界会議の様相を呈していると言う事だ。そこで、その場に於いて移民に関する承認も得てしまえばどうかと思うのだが、どう思われる?」

「!・・・し、しかし、その様な事をしてしまえば、余計な混乱を生み出してしまいます!そうなってしまえば、肝心の制裁も失敗してしまう恐れもあります!」

「無論、それは十分有り得る事態だ。だが、貴国は後三年も待てるのか?」

 原は、閉口するしか無かった。

「我が方が入手した情報によれば、ハレル教圏の代表者は話が通じる手合いの様だ。しかも、かなりの影響力を持っている。盲目的に怒鳴り散らす事は無かろう。無論、我が方の代表には協力するよう指示を出しておく。」

「それならば、可能性はあるかも知れません。貴重な情報を感謝します。」

 原は、直ちに大使館へ戻ると本国へ連絡を取った。

 その後、この提案は採用され、小沢へと伝えられた。

 当の小沢からすれば、「無茶を言うな!」であったが、何よりも時間が惜しかった為、抗議は受け付けなかった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 モアガル帝国沖



 バタタタタタタタタタ



(こ・・・こここ、怖いいいいい!)

(何だこれ何だこれ何だこれ!?どうなってるどうなってるどうな・・・)

 スノウとフェイは、完全なパニック状態に陥っていた。

 二人が乗っているのは、暁帝国のSH-60である。


 休憩を挟んで再開された会議では、再度捕えられている商人が問題となった。

 しかし、無視は出来ないと判断された上、此方の能力を見せ付けると言う意味もあり、本隊の進出に先駆けて救出を行う事が決定した。

 しかし、ハイエルフ族の目を掻い潜っての潜入など、スノウとフェイ以外には特殊作戦連隊にしか出来ない芸当である。

 後方支援体制の問題もあり、暁帝国軍へスノウとフェイが同行する形を取る事が決定した。

 当然ながら、ハレル教圏からの反対意見が噴出したが、フェイが怒鳴り付ける事で半ば強引に抑え込まれた。

 そして、揚陸艦によって接近する事となり、現在移乗中である。


「おおおおお、落ちちないよなななな!?」

「落ち着いて下さい。間も無く着艦します。口を閉じないと、舌を噛みますよ。」

 スノウは辛うじて冷静さを取り戻したが、フェイは全く落ち着けなかった。



 ズンッ



「イペーーーーー!」

「ああ、だから言ったのに・・・」

 機長の注意も空しく、フェイは舌を噛んでしまった。

 取り敢えず医務室へと連れて行かれたフェイに対し、スノウは艦橋へと案内された。

「対馬へようこそ。」

 艦長が挨拶する。

「暫くの間、御厄介になります。」

「救出作戦につきましては、追々決めて行きましょう。現在、情報収集を行っている最中ですので。」

「情報収集ですか?それは、どの様に?」

「偵察機を飛ばしています。これ以上は公開出来ません。」

「・・・分かりました。フェイの様子を見に行きたいのですが、宜しいですか?」

「構いませんよ。」

 案内に従い、スノウは艦橋を後にした。

「思ったのと違ったな。」

「そうですね・・・」

 艦長と副長は、早速罵倒して来るのではと構えていた。

 しかし、その様な事は無く、予想外の礼儀正しさに肩透かしを食らっていたのである。

 互いに素っ気ない態度を取っていたとは言え、これまでの事を考えればこの程度で済む方が異常と言える。

「まぁ、余計なトラブルが起きそうに無い事が分かっただけでも良しとしよう。」

 そう言うと、出港準備を下令した。


 スノウは、開いた口が塞がらなかった。

 当初、ヘリへ乗せられた事で泡を喰ったが、艦長との顔合わせで頭が冷え、冷静に乗っている艦を見極めようとしていた。

 しかし、いくら見た所で理解を超えているとしか言いようが無く、再度パニック状態となっていた。

「着きまし」

「わぷっ!」

 パニックで注意散漫となっていた為に、案内人にぶつかってしまう。

「失礼しました!」

「い、いえ。それで、此方になります。」

「此処ですか。有難う御座います。」

 赤面しつつ医務室へ入ると、涙目のフェイが目に入った。

「あー、ズノーー、いふぁいびょー・・・」

「フェイ、何を言っているのかわかりませんよ。」

 フェイはスノウに抱き着くが、対するスノウは微妙な表情をする。

「かなり強く噛んでしまったみたいですね。一応問題はありませんが、暫く痛みは引かないでしょう。」

「ぶわーーん!」

 トドメを刺されたフェイは泣き崩れるが、自業自得な面が大きいだけに掛ける言葉が見付からなかった。

 そうこうしている内に、対馬を含む先遣隊は出港した。



 大晦日を迎える前に、制裁を終了したいです。

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