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第八十話  前代未聞

 初っ端から武力をチラつかせる相手って、馬鹿っぽい顔をしてるイメージがある。

 テセドア運河  西側入り口



『一時の方向より、艦隊接近!』

 世界会議開催に伴い、運河の警備を行っている二等戦艦ソーラの乗員は、慌ただしく動き回っていた。

「通信員、呼び掛けを開始せよ。」

『了解』

 しかし、艦長は不機嫌な様子でただ決められた通りの手順をこなす。

「最新鋭艦の艦長になった筈なのに・・・」

 ソーラは、二年前に竣工したばかりの新鋭艦である。

 戦艦としては初めて速力20ノットを達成した艦であり、艦長はこの艦を指揮出来る事に大喜びであった。

 しかし前弩級艦である為、一年後に竣工したセンテルの存在により、早速二等戦艦へ格下げされてしまったのである。

 海軍軍人として、新鋭戦艦を任される事は非常に名誉な事である。

 その栄光は、僅か一年で終わりを迎えた。

 尤も、この手の不満は方々で噴出しており、上層部は更に頭を悩ませている。

 尚、センテル級は現時点で3隻が就役しており、1隻が公試を行っている最中である。

『接近中の艦隊は、エンディエ王国艦隊と判明。世界会議出席が目的と判明。編成は、事前通告通りである事を確認。』

「了解した。小ウォルデ島へ通達せよ。」

 不機嫌さが声に出てしまっていたが、どうしても抑え切れなかった。

 世界会議の警備を任される事自は大変な名誉ではあるが、一線級の戦艦で堂々と行いたかった艦長にとって、この待遇は不満であった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 テセドア運河  東側入り口



 同じ頃、暁帝国艦隊が運河へ入った所であった。

「やり過ぎではありませんか?」

 今回の護衛艦隊司令官となった阿部少将に対し、幕僚が進言する。

「今更言われてもなぁ・・・」

 彼等が口にしているのは、海防艦と共に派遣された一隻の実験艦についてである。


 モニター艦 夕張


 主砲の代わりにレールガンを搭載した艦である。

 未だに数回の試射を行っただけであり、実用段階には達していない。

 しかし、威力は桁違いに高い為、消費弾薬の削減が期待されている。


 前回の世界会議の様な事態を引き起こさない為、可能な限り強力な戦力を持ち込んだ方が良いと判断された。

 しかし、実用段階に至っていない装備を持ち込むなど、実際に持ち込まなければならない立場からすれば堪ったモノでは無い。

「使う様な事態が起こらなければいいんだ。」

 阿部は、そう自分に言い聞かせる。




 ・・・ ・・・ ・・・




 小ウォルデ島



「長旅ご苦労であった。早速、宿舎へ案内しよう。」

 スマウグは、各国の代表団の案内に大忙しであった。

 しかし、代表団の空気は明らかにこれまでと違っていた。

(我等が、こうも甘く見られるとはな・・・)

 代表団の様子から、如何にセンテル帝国の影響力が落ち込んでいるかを痛感する。

「スマウグ殿」

 呼び止められて振り向くと、そこには吉田がいた。

「おお、吉田殿ではないか。また会えて、嬉しく思うぞ。」

「此方こそ。しかし、出来れば前回の世界会議でお会いしたかったですな・・・」

 スマウグは、苦虫を噛み潰した顔をする。

 前回の世界会議では、暁帝国の実態を理解しない者が多くを占めていた。

 マイケルが代表となっていたから当然とも言えるが、その影響でスマウグは窓際へと追いやられていたのである。

「何、今回は大丈夫だろう。もし愚かな真似をしようとする者がいれば、力ずくでも抑え込んでやるつもりだ。」

「頼もしい事ですな。総帥も、貴国をパートナーとして迎えたがっております。我々も、その為の協力は惜しみませんぞ。」

 両者は、今度こそ連携を取る為に動き出す。




 ・・・ ・・・ ・・・




 翌日、



 大会議堂



 全代表団が、大会議堂へと集まった。

 前回から変わっている事は、クローネル共和国代表団が不参加である事と、神聖ジェイスティス教皇国の顔ぶれが大きく変わっている事位である。

 神聖ジェイスティス教皇国の代表は、シェイティンが務めている。

 前回と同じく、大会議堂全体が異様な熱気と緊張感に包まれていた。

「これより、世界会議の開催を宣言する!」

 議長の宣言により、緊張感が増幅される。

 核攻撃に端を発する情勢変化に、誰もが不安を隠せずにいた。

「では、最初の議題へ移ろう。諸君も知っての通り、ハレル教圏が壊滅的打撃を受けた。事前通告を受けた国も多いだろう。この件について討議したいと思うが、まずは暁帝国と神聖ジェイスティス教皇国から、それぞれ事の経緯を説明して貰いたいと思う。」

 議長に促され、吉田が立ち上がり説明を始める。

 とは言え、これまで各国へ行って来た説明を繰り返したに過ぎない。

「・・・以上が、核攻撃に至った経緯であります。」

「出鱈目を抜かすな!」

 シェイティンが怒鳴り声を上げる。

「では、続いて神聖ジェイスティス教皇国に説明をして戴く。」

 シェイティンは立ち上がり、拳を握り締めながら声高に説明を始める。

「暁帝国の主張は、欺瞞に満ちたモノであると言う事を最初に申し上げておく。」

 予想通りの第一声に、誰もが冷めた目を向ける。

「暁帝国の提示した証拠は、全て巧妙な偽装によるものであり、あの様な行為を我等が行った事実は一切存在しない。スマレースト大陸の騒動は、真の神罰が降り掛かった結果であり、暁勢力圏の存在が如何に大罪であるかを証明したものである!」

(どうでもいいから、客観的な証拠を示せよ。)

 シェイティンの説明になっていない主張に、苛立ちが見え始める。

「前教皇ホノルリウスは暁帝国の恫喝に屈し、我等の関与を仄めかす声明を発した。しかし、背教審理を執り行った結果、ホノルリウスが暁帝国と通じていた事が明らかとなったのだ!暁帝国のあの強大な力は、悪魔と手を結んだ結果として手に入った物であり、あろう事かホノルリウスはその悪魔の力に魅せられた。その圧倒的な悪魔の力を欲し、また自身にその力が振るわれる事を恐れ、敬虔なハレル教徒を裏切った結果があの様な惨劇を生んだのだ!その惨劇に際し、ハルーラ様は我等を御救い下さらなかった。ホノルリウスの背教行為に御怒りになられたからだ!あの男一人の勝手により、我等ハレル教徒は、かつて無い罰を受ける事となった!だが、その元凶こそが暁帝国なのだ!ハレル教以外の異教を崇める事を良しとする邪悪な思想を持つ暁帝国こそ、諸悪の根源である!」

 悪魔とは、ハレル教に於いてはハルーラ以外に崇められている神や、悪事を行う空想上の存在に対する呼称となっている。

 また、敵対国の元首等も悪魔の化身とされる場合もある。

 しかし、その様な事はハレル教徒以外にとってはどうでも良い事である。

「・・・説明は、以上で宜しいか?」

 議長も、説明になっていない主張に困惑を禁じ得なかった。

 直後、怒号が飛び交い始めた。

「下らん御託を並べるな!」

「証拠を示せ!証拠を!」

「あんた等の言う悪魔は、何処にいるんだ!?」

「此処は、妄想を吐き出す場じゃあ無いぞ!」

 ハレル教圏両国を支持する理由は全く存在せず、ホノルリウスやトーポリの様なバランス感覚を持たないシェイティンは、この事態に動揺した。

(何故だ!?ハルーラ様の御加護を、何故理解出来ない!?)

「静粛にされよ!静粛にされよ!」

 議長が声を張り上げるが、喧騒は中々収まらない。

「貴様等、偉大なハレル教の教示をまだ理解出来ないのか!?やはり、教化しなければならん様だな!」

 その一番の原因は、シーペン帝国代表による不用意な暴言の数々である。

 ハレル教=正義 である彼等は、自身の過ちに気付く事は無い。

 しかし、これ等の暴言によって売り言葉に買い言葉となり、収拾の付かない混乱を生み出していた。

「・・・」

 スマウグは、この喧騒を黙って眺める。

 以前ならば開催国の怒りを恐れ、これ程の騒ぎが引き起こされる事は有り得ない筈であった。

(まさか、此処まで帝国の存在が薄まっているとは・・・)

 暁帝国の存在感が増し続けている事も原因ではあるが、如何にマイケルの失言が大きなものであったかを証明していた。

「失礼致します。」

 センテル帝国の将来をこれまで以上に憂慮し始めたスマウグの元に、連絡員がやって来て耳打ちをする。

「・・・何だと!?」

 普段のスマウグからは想像も出来ない大声が、大会議堂全体に響き渡った。




 ・・・ ・・・ ・・・




 スマウグが声を上げる少し前、



 テセドア運河  西側入り口付近



「あそこか・・・」

 そう呟くのは、ノーバリシアル神聖国のマルコである。

 彼の視線の先には、テセドア運河の入り口が薄っすらと見えていた。

「我等の船を以てしても、此処まで掛かるとは・・・手間を掛けさせてくれますな。」

 マルコの脇に控える副官が、口を開く。

「フン、その分の埋め合わせはたっぷりして貰う。我等を無視して世界の在りようを決めるなど、断じて許される事では無い。」

 彼等は、以前から世界会議の存在は知っていたが、「劣等種族の会議など、大した価値は無い。」と考え、興味を示さなかった。

 しかし、そこへ暁帝国が出席しているとなると話は変わって来る。

 事前に行っていた暁帝国攻撃命令の失敗と相まって、ハイエルフ族の憎悪は相当なものとなっていた。

『此方、センテル帝国海軍所属、戦艦ソーラ。現在、この海域の船舶の航行は禁じられている。所属と編成と航行目的を伝えよ。』

 突如、通信魔道具よりは言った通信に、驚きの声が上がる。

「何と、我ら高等なハイエルフ族に対し、この様な高慢な態度を取る愚か者がいるとは・・・」

「センテル帝国ですか・・・世界最強を名乗っているそうですが、その誤りを正す必要があるでしょう。」

 あまりにも安易に、攻撃の方針が固まってしまった。

『繰り返す、所属と編成と航行目的を伝えよ。返答無く直進を続ける場合、敵対の意思ありと認め撃沈する。』

 この言葉に、全員が激昂した。

「部を弁えぬ蛮人が、よく聞け!我等は、ノーバリシアル神聖国艦隊だ!」

 通信魔道具を通し、驚きのあまり息を呑む音が聞こえる。

「我が艦隊の目的は、世界会議の破壊だ!世界で最も優秀たる我等ハイエルフ族を無視する会議なぞ、存在してはならん!死にたく無くば、驕り高ぶって世界会議に出席する外交官共を、全員此方へ引き渡す事だ。だがその前に、我等を撃沈するとのたまう貴様等を血祭りに上げよう。後悔しながら死んで行け!」

 マルコは代表して宣言すると、戦闘配置を命じた。



 戦艦 ソーラ



「小ウォルデ島へ通達!」

 艦長は、ノーバリシアル神聖国艦隊接近の報告を命じる。

 同時に、戦闘配置を下令した。

 センテル帝国艦隊の編成は、以下の通りである。


 戦艦:1隻

 装甲巡洋艦:2隻

 防護巡洋艦:4隻

 フリゲート艦:4隻


 それに対するノーバリシアル神聖国艦隊は、戦列艦擬きを含む艦艇が500隻となっている。

「初めての事態だな・・・」

「そうですね。これまでは、間違って迷い込んだ漁船はいましたが、こんなバカな真似をする奴等はいませんでした。」

 副長の言う通り、世界会議を狙った襲撃など前代未聞であった。

 ただでさえセンテル帝国に対する攻撃は、自殺行為に等しい。

 にも関わらず、よりにもよって主要国が集まる世界会議を狙うなど、全世界を敵に回す行為に外ならない。

 ドレイグ王国でさえ、全世界を一度に敵に回す行為は愚かであると考えているのである。

 ハイエルフ族が、如何に愚かかを証明していた。

「確か、奴等の装備は射程2キロ程度とか言う話だったな?」

「ええ、速力も最大15ノット程度とか。」

 艦長と副長は、呆れ気味に敵の情報を確認する。

 負ける要素は、万に一つも無かった。

「距離10000で攻撃を行う。それ以上は近付かず、常に優勢な間合いを維持しろ。」

 最も遅いソーラでさえ20ノットに達している以上、優位な位置から一方的に攻撃可能となる。

 そして、距離10キロは戦艦と装甲巡洋艦の有効射程内となる。

 ただ届かせるだけならば、防護巡洋艦にも可能である。

 センテル艦隊は、単縦陣を形成しつつ敵艦隊左翼を横切る形を取る。

 ノーバリシアル艦隊は五列縦陣を取っていたが、既に陣形は崩れており、一塊の船団と化していた。

 そして、その船団の周囲を旋回しつつ砲撃を行い、最終的に並走するのがセンテル艦隊の狙いである。

「距離は!?」

『13600!』

 センテルの就役によって気分が落ち込んでいた筈の艦長は、これから起こる海戦に気分を高揚させており、口調にも自然と力が入っていた。

「後続艦へ通達!各艦の距離を500メートルに保て!」

 距離を1キロに保っていた艦隊は、迅速に正確に距離を詰める。

「機関全速、20ノット!」

 許される限り、最大の速力を発揮する。

『距離、11000!』

 攻撃開始距離へ刻々と近付き、緊張感が否応無しに高まる。

『距離、10000!』

 艦橋要員が、一斉に艦長を見る。

「砲撃開始!」



 ドォォォォォォン



 前甲板の30.5センチ連装砲が火を噴き、二発の砲弾が吐き出された。

 暁帝国製のストップウォッチを持った副長が、砲撃と同時に計測を開始する。

「5 4 3 2 1 弾着!」

 遠方で水柱が上がる。

「遠弾です。」

 標的よりも奥へ着弾したが、一番手前の艦を標的としていた事もあり、複数の艦が木っ端微塵となった。

『5隻轟沈、2隻転覆!』

 見張りからの報告が入る。

「攻撃を継続する!」

 初弾から戦果を挙げたものの、砲撃精度が低かった事もあり、艦長は満足出来ずにいた。



 ドォォォォォォン



「装甲巡洋艦サンファン、砲撃開始しました!」

 ソーラのすぐ後ろの艦が、指定距離に達した事で砲撃を開始した。

「5 4 3 2 1 弾着!」

 副長が淡々とカウントダウンし、弾着の掛け声と同時に水柱が上がる。

「狭叉です!」

 その報告に、艦長は拳を握り締める。

「此方も負けるな!訓練の成果を見せてみろ!」

 艦長に発破を掛けられ、乗員は気合を入れ直す。



 ドォォォォォォォン



 第二射が放たれ、全員が固唾を呑んで見守る。

「5 4 3 2 1 弾着!」

 水柱が上がり、見張り員から歓喜の声が上がる。

『直撃!目標に直撃しました!』

「ヨシッ!」

 誰もが喜びの声を上げた。

「まだだ、まだ敵は大量に残ってる!僚艦に負けない戦果を挙げて見せろ!」

「「「「「ハッ!」」」」」

 敵は、軍民問わない攻撃の意思を示しており、万に一つも取り逃がす事は許されない。

 艦長は、弛緩した空気を引き締め直し、戦闘続行を命じた。



 世界会議の警護をしている艦隊は、一応精鋭で固められています。

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