第七十九話 不安定な世界
最近、文章や展開がよれよれになってる気がします。
レック諸島
スマレースト大陸の西に位置するこの諸島は、かつてはセイキュリー大陸との貿易拠点となっていた。
しかし、暁帝国の台頭による影響により、ハレル教圏の圧力が急激に強まり出した。
対暁勢力圏の為にこの諸島を前哨基地としたいハレル教圏は、スマレースト大陸が擦り寄って来ない事に業を煮やし、とうとう実力行使に打って出たのである。
それまで度々送り込んでいた聖職者の数が爆発的に増えた上に、旧来の施設に対する破壊活動が目立ち始めた。
島民は黙って眺める様な事は無かったが、聖職者と共に武官まで上陸しており、露骨な軍事的恐喝を行って来る状況に陥っていた。
自力で対抗する力の無いレック諸島は暁勢力圏に対して救援を要請し、スマレースト大陸同盟を中心とする援軍が派遣された。
現在のレック諸島には、大陸統合軍が駐留している。
ハレル教圏の聖職者達が猛抗議を行って来たが、全員を強制送還とした上で、実力行使に出ようとした武官を排除した。
聖職者に扮した工作員も全員排除され、諸島そのものの情勢の安定化に成功した。
しかし、海の情勢は安定しているとは言い難かった。
レック諸島西岸沖 巡視船 しきしま
『西15キロに、船団を確認!』
「見えましたー。どうしますかー?」
副長は、だらけた声で船長に問う。
「国籍の確認はどうした?」
「あ、忘れてた。」
副長は、悪びれずに舌を出す。
「全く、何年この仕事をやってるんだ・・・」
「そんな事言ったって、疲れてるんですよ。」
「休みは十分に取れてるだろう。」
既に巡視船の増産は完了しており、人手不足は解消されている。
副長の待ち望んでいた休みは、安定して取れていた。
「あー、ハレル教圏の船ですね。」
「まあ、方角からしてそうだろうな。」
「そう言う位なら、確認させないで下さいよ!?」
「それが仕事だろう。」
そう言いつつ、船長は接近する船団を確認する。
10隻の帆船が、隊列も組まずに此方へ向かっていた。
「また民間船か・・・」
船団には、武装らしき物は確認出来ない。
核攻撃以前は、ハレル教圏の軍艦が度々挑発行為を行っていたものだが、現在は大陸外へ逃れようとする民間船ばかりが姿を見せている状況となっている。
「此方ブリッジ、戦闘指揮所へ、聞こえるか?」
『此方戦闘指揮所、聞こえます。』
「接近中の船団へ、威嚇射撃を実行せよ。発砲数は、1発のみ。了解か?」
『接近中の船団へ、威嚇射撃を実行する。発砲数は、1発。了解した。』
前甲板の76ミリ速射砲が、船団へ照準を合わせる。
ドォン…
数拍置き、船団の手前へ着弾する。
船団は、バラバラに回頭を始めた。
「うわー、酷いもんですねー。・・・あ、ぶつかった。」
統率も何も無い船団は、各船が左右バラバラに転舵してしまい、内2隻が衝突していた。
「・・・どーしますか?」
衝突した船から乗員が転落した事を確認した副長は、船長へ問う。
「放置する。」
「いいんですか?」
「沈める訳では無いんだ。放置しても、勝手に救助して帰って行くだろう。」
船長の宣言通り、転落した乗員を救助している様子が確認出来ていた。
「それに、救助して連れ帰ったりしたら、余計なトラブルを抱え込むのは目に見えている。」
「そうですね。」
副長も、その様な事は分かり切っている。
あくまでも、形式として聞いたに過ぎない。
「あ、ミサイル艇が接近しています。」
大陸統合海軍では、漸く自前の蒸気船の建造が始まったばかりである。
その様な実情から、未だにミサイル艇を主力としている。
『此方ミサイル艇十三号、不明船団発見の報を聞き、急行した。状況報告を願う。』
「此方巡視船しきしま、正面に見える船団が不明船団だ。既に威嚇射撃を実行した。船団は退避する素振りを見せているが、その際に2隻が衝突した。乗員の転落も確認している。現在、救助活動中であり、無意味な接触は控えるよう願う。」
『了解した。このまま貴船と共に待機したい。宜しいか?』
「喜んで」
転落した乗員の救助で大わらわな船団とは対象的に、しきしまとミサイル艇は呑気に見物を続けた。
「よし、引き上げろー!」
転落した乗員の救助作業は、終盤を迎えていた。
「おい、大丈夫か!?」
「ハァ… ハァ… すまない、助かった。」
最後の一人が引き上げられ、緊迫した空気が弛緩する。
「それにしても・・・」
その一言から、全員が巡視船の方を向く。
「さっきの水柱、あの船から撃ち出された砲弾によるものとしか思えないが・・・」
「そんな馬鹿な。シーペン帝国の魔導砲でさえ2キロが限界なんだぞ。どう見ても、あの船とは10キロは離れてる。」
「いつの間にか、もう1隻いるし。」
「いずれにしても、これでは復讐なぞ夢でしか無いな・・・戻ろう。」
確かに、セイキュリー大陸を離れる船団は、避難を目的としている船が大半を占める。
しかし、暁勢力圏の方向へ向かう者は、避難が目的では無かった。
「此処まで来て逃げるのか!?敵は目の前にいるんだぞ!俺は、家族を殺されたんだ!おめおめと逃げ帰れるか!」
船員の一人である テリー が食って掛かる。
「俺の家族も死んだ!だが、敵を目の前にしてこんな醜態を晒したんだぞ!危うく、戦う前から死者を出す所だったんだ!死んでどうやって復讐するんだ!?」
テリーに対し、この場の纏め役となっている ジャック が激しく問い質す。
答えられる者は誰もいなかった。
彼等は、悔し涙を流しつつも来た道を引き返す。
「それにしても、何で奴等は攻撃して来なかったんだ?」
「神罰を恐れてるんだろ。俺達を攻撃したら、ハルーラ様がお許しにならない筈だ。」
現状、威嚇攻撃以上の行為を行う事態とはなっていない。
しかし、それが暁帝国に対する誤った認識を植え付けつつあった。
・・・ ・・・ ・・・
センテル帝国 小ウォルデ島
世界会議の開催が半年後に迫り、開催地となる小ウォルデ島は徐々に慌ただしさを増していた。
「今回ばかりは、僅かな失敗も許されん!此度の世界会議には、国運が懸かっていると心せよ!」
職員へ訓示を発しているのは、スマウグである。
何としても前回の失敗を挽回しなければならず、陣頭指揮を執っている。
「前長官の負の遺産はあまりにも大きい。かつての信用を取り戻すには、まだ時間を要するだろうな・・・」
スマウグは、前途多難な道筋に溜息を漏らす。
・・・ ・・・ ・・・
モアガル帝国 キヨウ
「あの厄介者共が・・・!」
ガレベオは、拳を握り締めながら怨嗟の声を上げる。
少し前、ノーバリシアル神聖国から使者がやって来た。
内容は、暁帝国攻撃命令である。
当然断ったのだが、事態はそれだけでは留まらなかった。
暁帝国大使が駐留している事を知った使者は、大使の引き渡しを命じて来たのである。
それ以外の国に対しては地理的に離れている為に断念していたが、同じ西部地域所属である事が災いし、この様な命令を受ける羽目となったのである。
対応した官僚は、流石に激怒して使者を罵倒して追い返した。
それに対する返答は、軍を進めての攻撃であった。
ノーバリシアル神聖国の軍艦は、他国よりも質の高い風送りの魔道具により、最大15ノットを発揮可能である。
魔導砲は存在しないが、戦列艦と同じ配置をしたバリスタを多数搭載しており、射程距離は2キロを超える。
更に、着弾と同時に炸裂し(列強国の魔導砲は、センテル帝国を除いて球形弾となっている。)見た目からは想像も出来ない火力を持つ。
一般歩兵の弓も同様であり、接近は困難を極める。
航空戦力は、飛竜を持たない代わりに大鷲を使役している。
最高速度は200キロ/時であり、黒竜には及ばない。
しかし、機動性は白竜すらも上回り、格闘戦に専念すれば恐ろしい戦力となる。
陸上戦では、魔石精製技術を利用した<魔剣>を多数保有している。
一般的な刀剣よりも高い耐久性を持ち、刀身に魔術陣を刻印する事で、接近戦をこなしつつ魔術を扱える。
また、特に強力な魔術師集団であるハイエルフ族は、一般的に利用されている魔術を行使してもより強力な効果を発揮する。
生半可な力では対抗出来ず、攻め込んだ国は例外無く返り討ちに遭った。
対するモアガル帝国は、列強国の意地を見せる形となった。
沿岸に被害を受けつつも艦隊へ大きな損害を与え、上陸を果たした敵軍を駆逐した。
しかし、受けた被害は小さくは無く、暁帝国から復興支援を受けている。
「奴等は、流石にやり過ぎた。世界会議で連中の吊るし上げと行こうか。」
世界大戦後の軛から解放され、ガレベオは強気の姿勢で臨む。
・・・ ・・・ ・・・
ノーバリシアル神聖国 ハル
「それで、ノコノコ戻って来たのかの?」
「どうか、御慈悲を・・・」
クリスタルの目の前には、伏して許しを請う男がいた。
モアガル帝国侵攻艦隊の司令官である。
「主は面白い事を言うのぅ。」
クリスタルは、いつもと変わらない口調で語るが、その目は怒りに満ちていた。
「我がハイエルフ族の名誉をこの上無く傷付け、この期に及んで生きる資格があると思うておるのか?」
「どうか、御慈悲を・・・」
大きく震える司令官は、それ以外の事が言えない。
その様子を見たクリスタルは、衛兵の方を向く。
指名された衛兵は無言で剣を抜き、司令官へ近付く。
「ヒッ・・・や、やめ・・・!」
恐怖に歪んだ司令官の顔を眺め、心底楽しそうな表情をするクリスタル。
ザクッ
「やはり、恐怖した能無しの顔は滑稽で面白いの。」
一通り面白がったクリスタルは、困った表情をする。
「とは言うものの、どうするかの・・・我等に逆らう獣共が多過ぎるの。」
使者を派遣した全ての国に暁帝国攻撃命令を拒否され、モアガル帝国へ派遣した軍が大打撃を受けた事で、ノーバリシアル神聖国の立場は揺らいでいた。
「殿下、一つ方法が御座います。」
部下の一人が、前へ出る。
「言うてみぃ。」
部下は、一通りの説明を行う。
「ホウ、中々面白そうだの。」
「我等、ハイエルフ族の偉大さを世界へ見せ付ける絶好の機会と存じます。その為にも、総力を挙げて事に当たるべきかと。」
「分かった。では、指揮は主に任せるぞ。」
「お任せを。」
新たな策謀の首謀者となった マルコ は、自信たっぷりに返答する。
彼は、クリスタルの部下の中では若手の部類に入る。
しかし、野心に溢れている事もあり、出世の機会を虎視眈々と狙っていた。
今回の件は、その絶好の機会と映ったのである。
失敗する事などまるで考えておらず、自身の名声を高める事しか頭に無い。
尤も、それはマルコに限った話では無い。
先のモアガル帝国攻撃失敗は、司令官や兵員が無能であったと言う以外の発想が無かった。
彼等は、「ハイエルフ族こそが、最強であり最優秀である。」と言う幻想を抱いたまま、致命的な誤りを犯そうとしていた。
・・・ ・・・ ・・・
暁帝国 東京
暁帝国の首脳陣は、新たに発生した問題に頭を悩ませていた。
「モアガル帝国の状況は?」
「取り敢えず、復興は順調に進んでいる様です。ただし範囲が広いので、もう暫く時間が掛かりそうです。」
東郷の問いに、山形が答える。
「まさか、ハレル教圏より厄介な存在がいたとはね・・・」
ノーバリシアル神聖国は、全ての列強国に対し暁帝国攻撃命令の為の使者を派遣していた。
そして、センテル帝国 アルーシ連邦 モアガル帝国 より、その旨が暁帝国へ通達された。
尚、赤竜族はハイエルフ族との仲が非常に悪い為、ズリ族の領地へ入る前に自ら出向いて追い払っていた。
「各国へ出向いて詳細を調べた所、列強国と同等かそれ以上の技術力を保有している事が判明しました。」
佐藤が、調査結果を報告する。
「また古代遺跡か?」
「いえ、独自技術の様です。見た目はどれも中世レベルですが、有り余る魔力を利用する事で近世レベルの力を得ています。観測衛星で観測した所、一般的なハイエルフ族の魔力受容量は、常人の30~70倍程と判明しました。」
物量で圧倒されようとも、力業で跳ね返せる程の差があると言う事である。
「恐ろしいな・・・列強国の国力と技術力があってこそ追い返せたと言う事だな。」
「そうですね。並の国では蹂躙されるだけです。まあ、ドレイグ王国の方が恐ろしそうですが・・・」
事実ではあるが、何の慰めにもならなかった。
「この件に関しましては、モアガル帝国から世界会議に於いて議題に上げたいとの話が大使館より届いております。」
吉田が口を開く。
「まあ、此処までやらかしたんだ。情けは無用だろうな。」
東郷も、否定はしない。
「ノーバリシアル神聖国はそれでいいとして、問題は核攻撃に関してだな。」
核攻撃は、当然ながら世界中へ大きな衝撃を与えた。
世界会議で議題に上がるのは間違い無い。
「ハレル教圏からの突き上げが、どの様に行われるかによりますな。しかし、事前に根回しは行っておりますから、我が方の立場が揺らぐ事は無いでしょう。ただ、人道的観点からすると、方々より批判の声が上がる可能性は否定出来ませんな。」
セイキュリー大陸を除き、世界は核の衝撃から立ち直りつつあった。
しかし、核に対する恐怖感はそのまま残っている。
核の存在そのものに対する是非にまで言及される事態も想定しなければならない。
「主導権は、此方が握っているんだ。上手く躱せるだろうが、何とか頑張ってくれ。」
「分かりました。」
前回の世界会議以降、暁帝国は安定した地位を確保している。
以前の様にそこまで目くじらを立てて必死に動く必要性は無くなっており、どの様にして現状維持に努めるかが最大の関心となっていた。
再度、世界が熱を帯び始める中、予想もしない事態が急激に世界を動かした。
次回から、第二回世界会議になります。




