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第七十八話  暁帝国と対峙する者

 何処から手を付けるべきか迷いまくっていたら、大分投稿が遅れてしまいました。

 西部地域には、厄介な国が二つ存在する。

 一つはドレイグ王国であり、もう一つはガリスレーン大陸の西に存在する諸島を領土とする<ノーバリシアル神聖国>である。

 この国は、エルフ族の中でも特に高い魔力を保持するハイエルフ族による国家である。

 高い魔力を保持する分強力な魔術を行使出来、魔道具の質も非常に高い。

 魔術がステータスとなっているハーベストに於いては、特別な存在と言える。

 それだけに、選民思想が酷く他種族を見下している。

 赤竜族は、他勢力への警戒心を失っていない事から自身が上と言う前提を持ちつつも、比較的正当に他種族を評価する。

 また、余計なちょっかいを掛けない限りは何もして来ない。

 しかし、魔術至上主義とも言える思想に凝り固まっているハイエルフ族は、優れた成果を上げる他勢力を認める事は無い。

 むしろ、激しい嫉妬心と憎悪を飛ばして攻撃を仕掛ける事さえある。

 その様な所を赤竜族と比較され、多くのヘイトを集めている

 その一方で、自身の成果を誇示する目的もあり、質の高い魔道具を売り出してもいる。

 見下し具合が酷いとは言え、ハイエルフ族の作る魔道具は貴重品であり、あからさまな侮辱を受けつつも訪れる商人は後を絶たない。

 逆に、ノーバリシアル神聖国の横暴に耐えかねて攻撃を仕掛けた国も存在するが、全く歯が立たず逆侵攻を受けて大虐殺を許す結果となっている。

 この様な背景もあり、商人以外に積極的に関わろうとする者が全く存在しない為、何処とも国交を結んでいない。

 結ぼうとした所で植民地化以外する気は無く、各国もその程度の想像はついていた。

 この様にやりたい放題やって来た訳だが、此処最近になり魔道具の売り上げが徐々に落ちていた。

 まともな貿易すら行っていないノーバリシアル神聖国にとって、ほぼ唯一と言える収入源が危機的状況に陥っている事を意味し、激しい怒りを燃やしていた。

 やって来る商人を気紛れに捕えては拷問し、その原因が暁帝国にある事を突き止めた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 そして、現在。



 ノーバリシアル神聖国  サティリエル島



 この島は、魔道具の販売の為に唯一他国民の入港を許可している島である。

 その他の島への接近は、即撃沈の措置を取っている。

「ホウ、この私の魔道具に目を付けるとは、劣等種にしては良い目を持っている様だな。」

「残念ね・・・結構いい顔してるけど、ただの人間族と私じゃぁ釣り合わないわ。」

「見てるだけだと!?冷やかしは此処に留まる資格など無い!」

 そこかしこから聞こえる罵声に、訪れている商人の顔はみるみる歪んで行った。

 その表情を見たハイエルフ達は、更に嘲笑する。

 見た目はこの上無く美しいハイエルフ族だが、その内側は酷く醜いものであった。




 首都  ハル



「我等の稼ぎを横取りしている愚か者が判明したそうだの・・・」

 尊大な態度で問う女は、王女 クリスタル である。

 彼女は、国一番の美貌を持つと名高い人物である。

 その一方で、最も残忍でもある。

 攻め込んだ他国の集落へ自ら赴き、自らの手で見せしめの為の惨殺を行った事は、周辺国で語り種となっている。

「はい。訪れている商人共を捕らえ問い質した所、暁帝国と呼ばれる東の果ての蛮国を目指す者が増えているとの事で御座います。」

「どこかで聞いた事のある名だの。」

「前回の世界会議より、新たな列強国として名を上げた新興国で御座います。」

「おお、思い出したわい。確か、魔力を一切持たない獣の群れであったか。」

 魔力至上主義のハイエルフ族からすれば、魔術を扱えない存在など知的生物ですら無い。

「だが、その様な獣共の作る道具など、我等の作る最高品質の魔道具の足元にも及ばん筈だがの?」

「その通りでは御座いますが、我が国の魔道具の売り上げが落ち込んでいる事は事実で御座います。調査の必要があるかと・・・」

「それもそうだの・・・あまり気は進まんが、暁帝国とやらの情報を仕入れて参れ。それと、その暁帝国製の道具も仕入れて参れ。」

「畏まりました。」

 その後の情報収集により、ノーバリシアル神聖国は暁帝国に対する攻撃の意思を固めた。

 その理由は、「たかが下等な獣如きが、デカい顔をしているのが許せない。」と言う幼稚極まるものである。

 そして、センテル帝国を含む各国に対し、暁帝国に対する討伐の為の戦力供出を命じた。

 当然ながらどの国もけんもほろろであり、ハレル教圏でさえ冷たくあしらう始末であった。

 尚、情報収集の過程で強盗さながらの略奪行為が行われたり、暁帝国に関する情報を吐かせる為に行われた拷問により、少なからず犠牲者が出たのは別の話である。




 ・・・ ・・・ ・・・




 神聖ジェイスティス教皇国  ジェイスティス



 教皇庁では、損壊した箇所の補修作業が行われていた。

 破損した理由は、ノーバリシアル神聖国の使者による腹いせである。

 ハイエルフ族の厄介さは常軌を逸しており、その高い魔力による力の強さも相まって、人間族至上主義を掲げるハレル教圏と言えども門前払いと言う対応すら取れずにいるのである。

 それ以前に、ハイエルフ族と押し問答するなど、誰もやりたがらない。

 ハレル教圏に限らず「ハイエルフ族とは、まともに関わるな。」と言うのが、世界共通の認識である。

 そして、使者の要求(命令)は「暁帝国を討伐する。兵力を差し出せ。」と言う物であった。

 いくら暁帝国と敵対しているとは言え、核攻撃のダメージを引き摺っている上に、ハイエルフ族の為の生贄となる気にはならない。

 即断った所、激怒した使者が派手に魔力を解放し、死傷者を出して帰って行ったのである。

「亜人如きが、調子に乗りおって・・・!」

 リウジネインは、恨みがましく呟く。

「とにかく、犠牲となった信徒を弔わねば。」

 シェイティンは、急いで準備を始める。

 似た様な展開は各国で発生しており、これまではノーバリシアル神聖国から遠く離れていた事で他人事であった中部地域以東の国々も、明確な敵意を持ち始めた。



 シーペン帝国西部  廃村



 此処は、直接的な核の脅威に晒されなかったが、その地域に近い事もあり放棄された集落である。

 そして、その様な場所は隠れ家に丁度良い。

 特殊作戦連隊の一隊が、此処に潜伏していた。

「全く、俺達で実験しないで欲しいな・・・」

 愚痴の原因は、出撃前に支給された装備にある。

 それは、試作されたばかりの新装備であった。

 旧型よりもスリム化され、斬撃に対する備えもされている防護服。

 一見すると、歪曲した鉄パイプにしか見えないパワードスーツ。

 スカウターの様な見た目をしており、ヘルメットに装着されているディスプレイシステム。

 先進個人装備と言える装備を受領している訳だが、新装備は実績が無い分トラブルに見舞われ易い。

 ただでさえ危険地帯へ単独潜入しているのだから、性能は劣っても安心出来る装備を寄越して欲しいと言うのが本音であった。

「まあ、補給体制が出来上がってるだけマシだと思うしか無いだろう。」

 セイキュリー大陸へ潜入した部隊へは、輸送機による定期的な物資投下によって補給を行っている。

『渡り鳥よりヴァイパーへ、間も無く物資投下地点へ到達する。』

「時間通りの到着だ。」

「有難いねぇ・・・」

 補給物資を届けに来た輸送機からの通信が入り、特殊作戦連隊の面々は受け取りの準備を始める。



 ゴオオオオオオオ



 この辺りでは、本来聞く事の無いジェット機のエンジン音が響き渡る。

 暫くすると、C-17の巨体が視界に入る。



 バンッ



 上空へ投げ出された物資コンテナは、勢い良く開いた落下傘により、ゆっくりと地面へ降下を始めた。

『此方渡り鳥、投下完了した。幸運を祈る。』

「此方ヴァイパー、確認した。支援感謝する。通信終わり。」

 投下された支援物資を迅速に回収し、潜伏を再開した。



 リグルス王国  爆心地上空



 物資投下を終えたC-17は、そのまま低空飛行を続けていた。

「これ、物資投下してるって気付かれてないよな・・・?」

「そうならない為に、グローバルホークも低空飛行させてるんじゃないか。」

 C-17とグローバルホークは見た目も役割も全く違うが、センテル帝国を除いて見分けの付く者は極僅かしかいない。

 それを利用し、無意味な低空飛行を繰り返す事で物資投下等の何らかの特別な行動を行っている事を悟られない様にしているのである。

「まあ感付かれたとしても、こんな状況じゃぁ迎撃どころじゃ無いな。対抗手段の無い荷物運びにとっちゃあ有り難い事だな。」

「おま・・・そんな事言ってると、本当に何か起こる」



 ドゴォォォォォォォン



「な、何だ!?」

 謎の衝撃が機体を大きく揺らし、アラートが鳴り響く。

「胴体側面が大きく損傷してるぞ!」

 窓から後方を覗くと、左胴体部分から煙が上がっていた。

「機内に異常は!?」

「確認出来ない!とにかく、上昇するぞ!」

 急激に機体の角度が上がり、この世界の常識を捨て去る勢いで上昇する。

「取り敢えず、主翼やエンジンには異常は無いみたいだ。」

「肝を冷やしたな・・・本気で墜落を覚悟したよ。」

「お前がフラグを立てたからだろう!」

「俺のせいかよ!?」

 後日、二人揃って大目玉を喰らい、キツイお仕置きを受けた。



 地上



 C-17が通過した地点には、勇者一行の姿があった。

「嘘・・・!?」

 シルフィーが、驚愕で目を見開く。

 彼女の視界の先には、損傷しつつも平然と飛行を続けるC-17の姿があった。

 強力な火属性魔術の使い手であるシルフィーは、対空射撃を可能としている。

 ネルウィー公国と交戦した際には、何度も竜人族の攻撃の出鼻を挫いて来た。

「有り得ねえ・・・」

 強気な発言が目立つフェイも、想像もしていなかった光景に呻く。

「もう、あんな高度にまで・・・」

 スノウは、C-17の上昇力と飛行高度を見て驚愕する。

 飛竜の上昇限度(約4000メートル)を大きく超える高度を飛行する存在を、五人の中で最も博識な彼女でさえ知らなかった。

 改めて、対峙している敵の強大さを認識し、無力感に苛まれる。

「何でだ・・・何でだよ・・・」

 小さな呟きが聞こえ、全員がその方向を見る。

「何でこんな事するんだ!?俺達が何をしたって言うんだ!?」

 声の主は、レオンであった。

 地獄送り計画を知らないレオンは、涙を流しながら喚き続ける。

「しっかりして!」



 パンッ



 カレンが前に出ると、レオンの頬を叩いた。

「レオン、貴方は私達の希望なのよ!貴方がそんな事でどうするの!?」

 凄まじい剣幕のカレンに、レオンの動きが止まる。

「そんな風に喚くのが、勇者のやる事なの!?違うでしょ!?出来る限りの事を率先してやろうって言ったのは、貴方じゃない!」

 カレンの目に、涙が浮かぶ。

 レオンと同じく、カレンも無力感に打ちひしがれていたのである。

「いつもみたいに、あたし達の前に立ってよ!元気良く行こうって言ってよ!」

 他の三人も、不安気な目でレオンを見る。


 レオンは、ネルウィー公国の東の国境と接する<ドローグ王国>で生まれ育った。

 しかし、まだ10歳にもならない頃、彼の集落はネルウィー公国軍の襲撃を受けた。

 両親は殺され、生存者は数える程しかいなかった。

 その惨状を目の前で見せ付けられたレオンは復讐心を胸に刻み込み、戦う道を選ぶ。

 生存者達が必死に止めに掛かったが、レオンは止まらなかった。

 彼には、自信があった。

 それは、両親から何度も聞かされた話である。

 彼の家系は、何故か一際強い力を持つ子供がよく生まれて来る。

 両親は、遥か昔の英雄の末裔だからだと言い聞かせていた。

 英雄の事は分からないが、強い力を持っている事はよく分かっていた。

 冒険者ギルドへと向かう道すがら、装備を整える為に必死に稼ぎ、晴れて冒険者となったレオンは、意気揚々と戦いに出始めた。

 年端も行かない子供であった事もあり、馬鹿にする者も大勢いた。

 しかし、誰も敵わなかった。

 恐るべき勢いで頭角を現して行く彼が注目されるのに、大した時間は掛からなかった。

 いつの間にか、王国の冒険者の中心人物とまでなっていた。

 この頃になると、両親から聞かされた英雄物語が彼の胸中を支配しつつあった。

 先祖の様な立派な英雄になりたいと熱望したレオンは、大勢の冒険者を率いる立場となった。

 「行こう!」とレオンが叫び、全員が気勢を上げる光景が名物となった。

 その光景に感化され、更に多くの人が集まった。

 ネルウィー公国の脅威に晒され続けるドローグ王国にとって、レオンは希望の象徴とまでなっていた。

 活躍を続ける毎にレオンの名声はハレル教圏全体へと伝わり始め、遂には教皇の耳にも届いた。

 レオンは、ハレル教圏全体の希望の象徴となり、彼の望む英雄となった。

 その過程で、フェイ スノウ シルフィー カレン と出会い、パーティーを組み始めた。

 レオンは、突出した力を持つ為に、それまでまともにパーティーを組む事が出来ずにいたのである。

 そのレオンと同等の資質を持った四人が現れた事で、晴れてパーティー結成の流れとなった。

 その後も彼の姿勢は変わらず、先頭に立って「行こう!」と叫び続けた。


 レオンは、漸く自身の役目を思い出す。

 カレンは、レオンの自信に満ちた後ろ姿と決め台詞に勇気付けられて此処まで来た。

 そして、それはカレンに限った話では無い。

「カレン、ごめんな。危うく自分の役目を見失うとこだった。そうだ、喚いてる場合じゃない。今も、助けを求めてる人が大勢いるんだ。」

 気を取り直したレオンを見た四人は、安心した表情を見せる

 レオンは、順繰りに仲間を見る。

「皆、行こう!」

「「「「おーー!!」」」」

 誰もいない廃墟に、五人の歓声が上がった。

 かつて無い脅威へ立ち向かう勇者達は、ブレる事無く歩みを再開する。



 ハイエルフ族は、鎖国政策を敷いている訳ではありません。

 具体的な軍事力については、追々説明して行きます。

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