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第七十七話  ドレイグ王国

 これで、列強国紹介は終わりです。

 竜人族には、青竜族 黄竜族 赤竜族 が存在する。

 青竜族は、竜人族の中で最も人口が多く、広く分布している。

 黄竜族は、中部地域を中心に分布しており、スマウグも黄竜族である。

 赤竜族は、全員がドレイグ王国所属であり、他の地域へ出る事は無い。

 竜人族は、自然環境の変化に敏感であり、大規模災害回避に長けている。


 元々、竜人族は西部地域発祥と言われている。

 竜人族は、部族毎の力の差が大きく、様々な確執が生じた事で集合と離散を繰り返しつつ、世界へ広がって行った。

 赤竜族は、力は強いが人口が少なく、他よりも強い団結力を持っていた事で常に一つに纏まりつつ永住に適した土地を探し求めていた。

 その過程で度々攻撃を受ける事態となったが、全て返り討ちにしたと同時に他種族に対する不信感を持った。

 また、どの種族も自身の足元にも及ばない事から、「赤竜族こそが最も優れている。」と考える様になり始めた。

 長い放浪の末に、エイハリーク大陸南端へと降り立った。

 赤竜族は、全員が飛行能力を持つ。

 空から降りて来た赤竜族を見た原住民は、あまりの衝撃に大混乱となった。

 そこは、多くの少数部族が入り乱れている地域であり、原始時代からの面影を残す比較的平和な地域である。

 赤竜族は、この地が心地良いものに感じられたが、流石に原住民を追い出す様な真似をする気にはならず、その地域より南にある島を住処とした。

 赤竜族が生活基盤を整えようと奮闘する中、諸部族が度々貢物を贈りに島を訪れる様になった。

 他種族不信に陥っていた赤竜族はこの行為に眉を顰め、諸部族へ赴いて理由を尋ねた。

 その結果、この島が諸部族に<シャカ島>と呼ばれ、神聖視されている島である事が判明した。

 シャカ島へ平然と移り住んだ赤竜族を見た諸部族は、神の使いであると勘違いしたのである。

 神の使いである事は明確に否定したものの、敬われる事自体は悪い気はせず、これを機に交流を持つ事となった。

 穏やかに時間が流れる中、諸部族の中に邪な考えを持つ者が現れ始める。

 赤竜族の強大な力に着目した者が、これを機に自身の覇権確立の為に利用しようと考えたのである。

 彼等は、周辺に出没する危険生物の駆除を度々依頼した。

 危険生物と言えども、赤竜族から見れば赤子同然であり、常に圧倒し続けていた。

 諸部族による称賛の声は日増しに大きくなり、赤竜族は増長して行った。

 そして、遂に決定的な事件が起こる。

 頃合だと判断した陰謀の主犯は、いつも通りに危険生物の駆除を依頼した。

 場所は、主犯の部族と折り合いの悪い部族の集落である。

 主犯は、危険生物による襲撃で集落が全滅したと涙ながらに話し、敵を取って欲しいと頼み込んだ。

 すっかり乗せられた赤竜族は、未だに集落に居座っていると思われる危険生物へ向けて、空からの攻撃を加えた。

 しかし、そこにいたのは何事も無かったかの様に日々の生活を営む人々であった。

 赤竜族の攻撃を受けて無事で済む筈も無く、何が起きたかを理解する前にその部族は全滅した。

 この悲劇は瞬く間に全部族へと伝わり、誰もが大きく動揺した。

 赤竜族に対する不信感が徐々に広がりを見せる中、当の赤竜族は予期せぬ事態に機能不全に陥っていた。

 攻撃を行った者達に対する糾弾が苛烈を極める中、致命的に間違った情報を流した部族に対する怒りも激しいものとなっていたのである。

 異種族不信が再び顔を見せ始め、諸部族との不和が助長された。

 その状況下で手を差し伸べたのが、主犯であった。

 事此処に至り、赤竜族は主犯が自分達を利用しようとしている事に気付く。

 赤竜族は、主犯を公衆の面前で激しく問い詰め、私利私欲の為に利用しようとした事を自白させた。

 主犯はその場で血祭りにあげられ、赤竜族へ不信の目を向けていた者達は、自身の行いを深く恥じた。

 しかし、同時に恐怖が芽生え、以前の様な積極的な交流は鳴りを潜めて行った。

 この状況に業を煮やした赤竜族は、遂にシャカ島へ完全に籠り切りとなり、外界との交流を完全に断つ事となった。

 諸部族は、赤竜族との断交に寂しさを覚えつつも、若干の安堵感も漂っていた。

 しかし、赤竜族との断交による影響は直ちに現れ始めた。

 それまでは、赤竜族を崇める事で纏まりを見せていた諸部族同士による抗争が始まったのである。

 更に、危険生物の往来も激しさを増し始め、被害は増加の一途を辿った。

 事此処に至り、漸く赤竜族の果たして来た役割の重さを理解した諸部族は、再度の交流を持つ為に度々シャカ島を訪れた。

 しかし、何度訪れても門前払いを受けるだけであった。

 積極的な交流を持っていた為に排除する様な事は無かったが、異種族不信の赤竜族にとっては既に諸部族を信用し切れない段階にあったのである。

 この事実を知った全部族は悲嘆に暮れ、シャカ島信仰は悔悟の役目を果たし始めると同時に、その責任を巡っての争いが勃発した。

 この様子を見た赤竜族は、益々異種族不信に凝り固まって行ってしまう。

 やがて、責任を追及する者がいなくなると純粋な勢力争いへとシフトして行くが、シャカ島信仰はそのまま残り、赤竜族に対する悔悟の念は受け継がれて行った。

 その様な状況の中、勢力図を一気に塗り替える存在が現れた。

 <ズリ族>である。

 ズリ族は、とある弱小部族を追放された少年が、その才能を生かして自身の影響下にある者達を纏めて出来上がった部族である。

 その才能は半端なモノでは無く、成立直後は人口1500人程度であったズリ族は、約8年後には40万を数える程となった。

 少数部族の人口は極めて少なく、3万の人口を擁していれば大勢力と言える。

 如何に並外れた偉業かが分かる。

 その過程で多くの部族が併呑され、残りの部族は北へと追いやられて行った。

 大陸南端がズリ族の一大勢力圏として安定する中、北部では大変革が始まった。

 遂に、モアガル帝国の大規模侵攻が始まったのである。

 順調に大陸各地の制圧を続けるモアガル帝国軍は、南下するとズリ族によって北へと追いやられた部族と接触した。

 その実情を目にしたモアガル帝国軍は戦うまでも無いと判断し、諸部族に対して降伏を迫った。

 しかし、この頃のモアガル帝国軍はドレイグ王国を侵攻する気でいた事もあり、抵抗する部族も一定数存在した。

 とは言え、どうやっても勝てる相手では無く、瞬く間に蹴散らされてしまう。

 そうして順調に進撃を続けるモアガル帝国軍の前に、ズリ族が立ちはだかった。

 ズリ族の兵力は5万を数えており、この一帯の勢力としては突出して多い。

 しかし、30万の兵力を擁する上に、多数の騎兵、竜騎兵まで擁するモアガル帝国軍に勝てる筈も無い。

 武器も、比較にならない。

 イクルアと呼ばれる、剣と槍を足して二で割った様な刃物。

 イウイサと呼ばれる、先端がこぶ状となった棍棒。

 飛び道具は、投げ槍のみ。

 防具は、皮の盾のみであり、実質裸同然である。

 マスケットや魔導砲で武装したモアガル帝国軍とは、天と地以上の差が存在した。

 ところが、最初に交戦したモアガル帝国軍一個軍団は、九割以上の戦死者を出して敗走してしまった。

 大きな衝撃を受けたモアガル帝国軍だが、被害はそれだけに留まらない。

 本隊から少しでも離れた少数部隊は瞬く間にズリ兵の包囲を受け、後方部隊はゲリラ攻撃を受けた。

 これに対し、竜騎兵を主軸とする攻撃を行うが、臨機応変に散っては集まり、集まっては散るズリ軍に対しては、大した効果を挙げられなかった。

 挙句の果てに、持ち込んだマスケットを鹵獲、使用する有様である。

 しかも、本家であるモアガル帝国軍よりも効果的な使い方をしており、上から下まで大混乱となった。

 此処まで苦戦が続いた理由は、ズリ軍の運用にある。

 ズリ軍は歩兵しか存在しないが、行軍距離は一日で80キロに達し、会敵すれば数キロの距離を全力疾走して来る。

 騎兵に匹敵する機動力を全軍が有している事で、敵に対応の暇を与える事さえ無い。

 加えて、編成には連隊制を採用している。

 柔軟な編成と運用を可能とし、近代的戦術を確立していたのである。

 いくら装備に大きな差があろうとも、近世の軍勢で近代的戦術を駆使する敵を相手にするには、多大な出血を必要とした。

 しかし、物量の差は如何ともし難く、徐々に被害を増したズリ軍は追い詰められて行った。

 それでも、戦力を減じつつも少ない戦力による効果的な反撃を繰り返し行っており、その度に大きな被害を受けるモアガル帝国軍は、その粘り強さに舌を巻いた。

 そして、とうとう首都である<アウレンディ>が戦場と化した。

 そこでは、軍属以外も戦闘に加わった。

 モアガル帝国側としてはいい加減降伏して欲しい所であったが、あくまで徹底抗戦を貫く以上は仕方が無かった。

 此処まで抵抗を続けるのは、やはり赤竜族に対する悔悟の念が根底に存在していた。

 ドレイグ王国に対する攻撃を明言しているモアガル帝国軍は、どれ程の犠牲を払ってでも撃退しなければならない相手なのである。

 しかし、圧倒的な戦力差はどうにもならず、ズリ族の滅亡も秒読みとなってしまう。

 その時、シャカ島から赤竜族が姿を現した。

 赤竜族の攻撃はズリ族のそれとは比較にもならず、一方的な蹂躙となった。

 腕の一振りで十数人の兵士が吹き飛ばされ、火炎魔術で戦列が丸ごと一つ焼き尽くされ、黒竜すらも呆気無く撃墜された。

 何とか反撃を試みるものの、マスケット程度では赤竜族の頑丈な鱗を貫通させる事は出来ない。

 魔導砲で反撃しようにも、素早く動く一個人に当てるなどほぼ不可能である。

 ズリ族の生存者は、突然起きた惨状を呆然と眺めていた。

 そして、一通りの災禍が過ぎ去ると、赤竜族が自分達を守ってくれた事に気付き、感動で涙を流しながらひれ伏した。

 赤竜族は、当初からモアガル帝国軍の動きに気付いていた。

 いくら外界に対する関心を失ったとは言え、外部からの侵略に対する警戒心まで失ってはいなかったのである。

 モアガル帝国軍の動向は上空から逐一監視されており、その情報は筒抜けであった。

 そして、ズリ族との戦闘が始まると、監視を行っていた赤竜族は目を疑った。

 誰もが、赤竜族の守護を叫びながら戦っていたのである。

 何世代も前の過ちを未だに引き継ぎ、赤竜族の為に殉じるその姿に、流石に心を動かされた。

 シャカ島へと戻りズリ族の救援を提案するも、彼等の上にいる族長は頑として首を縦には振らなかった。

 しかし、日を追う毎に「ズリ族を救援すべき。」との声は増して行き、遂に根負けした族長が直々に監視

に出た。

 そして、赤竜族の為に戦いを続けるズリ族の姿に、涙を流した。

 こうして、全会一致でズリ族に対する救援が決定したのである。

 以降、赤竜族とズリ族は密接な関係を築く事となり、世界大戦中にアルーシ連邦軍が侵攻してきた際には、赤竜族が一日で撃退した。

 この件を切っ掛けに外部の人間に対し排他的となってしまったが、外部の情報の必要性を認識したズリ族が、赤竜族との窓口を買って出た。

 センテル帝国からの世界会議の案内もズリ族を通して行われる様になり、ひとまず接触するだけならば穏便に済む様になった。

 しかし、最近になって集まり出した情報に、赤竜族は徐々に警戒感を強くしていた。

 大陸沿岸付近を、見た事も無い巨大船が度々航行する様になっていたのである。

 そして、時折ズリ族の集落を訪れる旅人からの情報により、その船の出所が暁帝国である事が判明した。




 ・・・ ・・・ ・・・




 そして、現在



 ズリ領  首都 アウレンディ



 此処では、年に一度の儀式が執り行われていた。

 集落の中心の広場に、この一年間に産まれたばかりの赤ん坊が並べられている。

 赤ん坊の下には巨大な魔術陣が描かれており、その周囲を複数の赤竜族が取り囲む。

「我等からの祝福を受け取り給え!」

 赤竜族の一人がそう叫ぶと、全員が一斉に魔術陣へ魔力を注ぎ込む。

 魔術陣が激しく光り出し、赤ん坊へとその光が殺到する。

 やがて光が消え、先程よりも血色の良くなった赤ん坊が姿を現した。

「これで終わりだ。さあ、抱いてやると良い。」

 赤ん坊の両親達が、一斉に我が子へと駆け寄る。

 この儀式は、永続的な身体強化を行う儀式魔術である。

 赤竜族の豊富な魔力だからこそ可能な芸当であり、この恩恵を受けているズリ族の平均寿命は90歳に達する。

「これで、今年の子供達も無病息災で人生を全う出来る事でしょう。感謝の念に堪えません。」

 赤竜族の男に近付き口を開いたのは、ズリ族族長 シーカ である。

「気にする事は無い。この儀式は、我等にとっても楽しみでな。」

 シーカに答えたのは、今回の儀式の代表を務めた ウムガル である。

「ところで、暁帝国に関して何か分かった事はあるか?」

「僅かですが、北東部族に訪れた旅人が暁帝国の事を知っていたとか。」

 モアガル帝国を退けて以降、ズリ族は生き残っていた北の少数部族を、北方からの壁兼情報の受け皿として残している。

「暁帝国は、此処五年程の間に台頭して来た東の果ての新興国との事です。前回の世界会議から影響力を強めており、センテル帝国を凌駕しつつあるとか。」

「ふむ、最近になって近海に姿を見せた巨大船も、暁帝国の物だと思うか?」

「旅人の話では、モアガル帝国へ向かう暁帝国の船舶との事です。」

「モアガル帝国だと!?」

 ウムガルの反応は、全赤竜族の総意と言っても過言では無い。

 よりにもよって、ズリ族を滅ぼし掛けた、あのモアガル帝国である。

 赤竜族にとっては、何処よりも憎らしい相手であった。

「この件は、至急族長へ知らせねばならん。少し早いが、御暇させて貰おう。」

 そう言うと、シャカ島へ向けて颯爽と飛び立った。



 ドレイグ王国  シャカ島



 シャカ島へと戻ったウムガルは、早速島の中心に鎮座している族長の元を訪れた。

「族長、ただ今戻りまして御座います。」

「・・・随分早いな。」

 ウムガルをジロリと一瞥し、族長 アンカラゴル が一言だけ呟く。

「ズリ族長シーカより、火急の報せをお持ちして御座います。」

「・・・聞こう。」

 ウムガルは、暁帝国の動向を話す。

「何と!よりにもよってモアガル帝国へ付くとは・・・!」

 アンカラゴルの怒気を受け、散乱している小石が鳴動する。

「して、暁帝国は此処への侵略でも企図しておるのか?」

「現状では何とも・・・ズリの者達も、暁帝国に関し把握している事は極僅かで御座います。」

「ふぅむ・・・暁帝国については、今後も動静を監視する必要がありそうだな。」

「御意」

 そこへ、別の男がやって来る。

「族長、ただ今東の海域の監視より戻って御座います。」

「ご苦労。それで?」

「ハッ。やはり、徐々に数が増して御座います。」

 彼が監視していたのは、暁帝国の船舶である。

 あまりにも巨大で慣れない形状の為、かなり厳重な警戒態勢を敷いて動静を見定めているのである。

「族長、手遅れになる前に、先制攻撃を仕掛けるべきかと存じます。」

 ウムガルは、前のめりに進言する。

「・・・いや、暫く様子を見る。」

「!・・・何故ですか!?このままでは、かつての悲劇を繰り返しかねません!」

「ウムガルよ、お主は急ぎ過ぎだ。我等は、ズリの民と共にこの地を守護している。この地を守り通せるならば、他はどうでも良い。外部へと目を向け過ぎる余り、この地を疎かにする様な事があってはならぬ。」

 それでも、ウムガルは漠然とした不安を抱き続けていた。

 その不安の根底には、核攻撃の存在があった。

 核攻撃の余波は、遥か遠いシャカ島にも及んでいたのである。

 気付くか気付かないかの微弱な振動が確認されただけであり、それを核攻撃と断定する事など出来よう筈も無い。

 しかし、自然環境の変化に敏感な竜人族としての直感が、暁帝国に対する警鐘を無意識の内に鳴らしていた。

 それは、アンカラゴルも同じではあったが、他種族を見下す習慣とシャカ島防衛の義務が、積極的な行動を邪魔していた。

 しかし、警戒を強化した分だけ外部との衝突が発生する危険が高くなる。

 その事実に気付かないまま、不安定な世界の泥沼へと嵌まろうとしていた。



 赤竜族の身長は、2~3メートルとなります。

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