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第七十六話  センテル帝国の改革

 センテル帝国の現状です。

 センテル帝国  ハーク



 暁帝国初参加の世界会議から二年が過ぎた。

 センテル帝国最大の造船所が設立されているハークでは、革新的な艦が竣工した。


 戦艦センテル


 国名を頂くこの艦は、副砲を廃止する代わりに32センチ連装砲四基を搭載している。

 所謂、弩級戦艦である

 諸外国は、「また、強力な艦が出来上がった。」程度の認識しか持たなかったが、当のセンテル帝国にとってはそれ所では無かった。

 何しろ、地球でもドレッドノート一隻の就役により、既存の全ての戦艦が一気に旧式化したのである。

 センテル帝国も同様であり、海軍はパニックに近い状態に陥っていた。

 これを機にサファイア級が全艦退役し、その他の戦艦も二等戦艦へと類別変更された。

 センテル級は、8隻が就役予定となっている。

 しかし、センテル級以前の主力艦は23隻にも及び、未だに3隻が建造中である。

 皮肉にも、諸外国を更に引き離す新兵器の存在が、自国の戦力を相対的に弱体化させてしまったのである。

 そして、その背景に極東の新興国の存在がある事を、殆どの国民は知らなかった。


「見ろよ!今までの艦よりも一回りデカいぞ!」

「すげー!主砲塔が四基もあるぞ!」

「これは、海軍戦力に革命を齎すだろうな。」

「だが、そのせいで既存艦が役に立たなくなる。大量建造をやったツケが一気に噴き出したな・・・」

 新たな新型艦の登場に、多くの国民が大歓喜した。

 一部の国民は、冷静に問題点を指摘する。

 そして、専門家である軍は、その問題点に頭を悩ませていた。



 セントレル  海軍部



「暁帝国・・・恐るべき国だな。」

 海軍部総督である フレッツ は、絞り出す様に呟く。

 戦艦センテルの竣工の報を聞き、海軍部はお通夜の様な空気となっていた。

 センテルの建造は、暁帝国の助言があってこそ成立した。

 世界会議以前から始動していたプロジェクトであった為、世界会議後も継続していた。

 無事に最後まで実行出来た訳だが、センテル帝国にとって革命的と言って良い艦が、暁帝国にとっては骨董品に過ぎないのである。

 更に、センテルの竣工によって大量の旧式艦を抱え込む事となってしまった為、全面的な戦力整備の見直しを余儀無くされる事となっていた。

「外交部の失態は、ある意味僥倖だったかも知れんな。」

 以前は、通商路防衛の為に積極的に艦艇を動かしていたが、世界から白い目で見られた事で以前程の積極的な動きは出来なくなっていたのである。

 それはそのまま予算削減へと直結し、本国へ留まる艦艇が増えた事で、更新がスムーズに進められる環境が整っていた。

「ところで、例の実験艦はどうなっている?」

「後、ひと月程で竣工します。」

 暁帝国の助言により、新たに建造が進められているのは戦艦だけでは無い。

 センテル帝国では、構想しか存在しなかった空母にも梃入れを行っているのである。

 同時に、艦載機となる新型機の開発も進められていた。

 この新型機は、設立準備を進めている空軍にも配備される予定となっている。

 また、暁帝国から輸入した機銃を搭載予定となっている。

「暁帝国の様に圧倒的な戦闘力を持たせるには、今暫くの時間が必要だろう。だが、洋上で航空戦力を活用出来るのは大きな強みになる。何としても、運用法を習得せねばな。」

 フレッツは、気合を入れ直す。



 陸軍部



「全く、短期間でこれ程の成果が出るなんてな・・・」

 陸軍部総督である アーノルド は、呆れた様に呟く。

 海軍と同じく、陸軍でも早くから暁帝国の手が入っていた。

 特に陸軍を慄かせたのが、戦車である。

 センテル帝国では自動車は普及が始まって間も無い事もあり、後方部隊での配備が始まったばかりと言う状況であった。

 前線での運用も検討されてはいたが、高度なインフラが必要とされている事もあり、前線での酷使に耐えないと言うのが一般的な認識となっていた。

 そこへ、暁帝国が戦闘に特化した車両と言う新たな概念を持ち込んだ。

 これにより、センテル帝国での車両運用の一大方針は殆ど決定したも同然となったが、各種車両を開発出来る程の技術もノウハウも持ち合わせてはいない。

 結局、暁帝国の手を借りて開発を進める事となり、初の正式戦車である<ギーグ>を完成させた。

 ギーグは、見た目も性能もルノーFT-17とほぼ同様である。

 車両による近代化が図られる一方、歩兵も近代化が進んでいた。

 遂に、ガトリング砲がお役御免となったのである。

 その後継として、暁帝国から大量のM2の輸入を開始た結果である。

 元の設計が古い事もあり、むしろ暁帝国側から勧められていたのだが、それまで自力で設計を進めていた機関銃よりも高性能で洗練されていた事もあり、M2を採用する方針が決定されていた。

 ただし、自力開発を諦めた訳では無く、細々とだが新たに設計も開始している。

 しかし、一足飛びに高性能を要求している為、遅々として進んでいないのが現状となっている。

 それ以外にも、兵士の基本装備の改定も行われており、実現すれば戦力の底上げが期待される。

「騎兵隊の反応はどうだ?」

「予想通り、戦車の採用に猛反発しております。」

 アーノルドは、苦虫を噛み潰した様な顔になる。

 戦車の運用法は、騎兵と殆ど同様である。

 初期の戦車は機動力こそ騎兵に劣るが、火力、装甲共に騎兵とは比較とならず、騎兵隊が淘汰されるのは当然の成り行きと言える。

 しかし、その騎兵隊に所属する者達からすれば堪ったモノでは無い。

 地球と同様、騎兵廃止論者との激論が繰り広げられており、大混乱となっていた。

 騎兵隊所属の中で戦車を積極的に登用しようとする者は、同じ騎兵仲間から「裏切り者!」と罵られる始末であり、理性的な議論が交わされているとは言えず、解決の糸口は一向に見付からない。

 アーノルド以下は、この状況に危機感を覚えていたが、あまりにも激しい動きに全く追い付けていなかった。

「これは、暁帝国軍の協力を要請した方がいいかもだな。」

 アーノルドは、かつて同じ道を通って来たであろう暁帝国へ落し所を見出そうとする。



 皇城



「どうか、お願い致します!」

 大帝の前で必死に頭を下げているのは、財務部部長の ケーディス である。

 この様な行動に出た理由は、軍部にある。

 陸海軍共に、暁帝国の助言の元に大規模な改革を進めているが、それに伴う予算があまりにも膨大であり、財務部は悲鳴を上げていたのである。

 連日、陸海軍の官僚との大喧嘩を繰り広げており、その他の業務に支障が出る程となっている。

 また、この様な状況下で空軍の設立も行っているのである。

 世界第二位の国力を誇るセンテル帝国と言えども、これらを一気に進めるには負担が大き過ぎた。

 その結果、ロズウェルドに泣き付いているのである。

「ケーディス、確かに財源には限りがある。だが、国防も重要だ。目の前の金の為に、国の存続そのものを危うくする訳には行かんだろう。」

「で、ですが・・・」

 全くの正論ではあるのだが、ケーディスの頭にあるのは如何にして財布の紐を閉じるかである。

 財務を司る立場としては、可能な限り出費を抑える事が最重要である。

「必要な所に必要なコストを掛けるのは当然の事だろう。コスト削減ばかりを優先した結果が、セントレルタワーの悲劇に繋がった。」

 センテル帝国に高層ビルが建ち始めたばかりの頃、より安い予算で建設を行うと言うコンセプトで建設されたビルが存在した。

 それが、セントレルタワーである。

 だがその実態は、予算削減の為に基礎や支柱の強度を限界以上に落とすと言う物であった。

 当然無事で済む筈も無く、建設中に大崩落を起こし、多数の死傷者を出す結果となってしまった。

「軍は、国家と言う家を支える屋台骨だ。過剰な軍拡は戒めるべきだが、必要ならば出し惜しみはするべきでは無い。」

「で、ですが、現状の改革は、既に過剰な軍拡に当たるかと」

「お前は、軍部が何故この様な改革を行っているのかを知っているのか!?」

 語気を強めた大帝の言葉に、口を閉ざす。

「財務部は、全ての国家運営の根幹に関わっている!であるならば、あらゆる機関が進めている事業にも精通すべきでは無いのか!?ただ金を集めて溜めるだけならば、素人にも出来る!」

 ケーディスは、ロズウェルドの剣幕に震え上がる事しか出来ない。

「既に、我が国は世界最強の国家では無くなった。先の世界会議以来、影響力も減じている。皆があらゆる努力で巻き返しを図っているが、未だに十分とはとても言えん。」

 ロズウェルドは、暗に財務部が努力を怠っていると言っていた。

「莫大な予算が必要とは言え、ある程度の調整は必要だろう。だが、どの様に調整すれば良いかは、何を必要としているかを把握せねば出来よう筈も無い。ケーディス、軍を責める前に、まずは自身の襟を正す事から始めよ。」

 否も応も無く、ケーディスは大慌てで財務部へと戻って行った。

「フゥ・・・」

(マイケルと言いケーディスと言い、こうも状況を把握しておらん者が多いとは・・・)

 ロズウェルドの脳裏には、再度不用意な発言をした官僚によって世界から孤立したセンテル帝国の姿が映し出されていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  東京



 東郷は、センテル帝国の状況報告を受けていた。

「まずは、陸軍から報告します。」

 山形が、口を開く。

「我が軍の援助により、戦車の正式採用に漕ぎ着けました。採用した戦車は、ギーグと命名された様です。それと、M2の輸出は予想以上に順調に推移しています。どうやら、短期間でガトリング砲の更新を行う腹の様です。その他にも、歩兵装備の細かい改定が行われた様でして、順次更新を行っています。」

「戦車以外の車輌は?」

「これまでは明確な運用方針が殆ど定まっていなかったそうですが、我が軍の助言によって大規模な導入を行う方針となった様です。」

「問題点は?」

「騎兵隊の反発が大きい様です。騎兵廃止論が出現しているらしく、連日騎兵廃止論者と激論を交わしているとか。それと、陸軍に限った話ではありませんが、急激な改革で各所に混乱が見られます。」

「まあ、それは仕方無いな。」

 それだけ言うと、山口を見る。

「では、海軍の報告をしましょう。」

 少し嬉しそうに口を開く。

「我が軍の介入により、弩級戦艦が先日竣工しました。」

(妙にテンションが高いと思ったら・・・)

 東郷は、山口の反応に呆れる。

「艦名は、センテルとした様です。センテル級は、計8隻が起工しています。ただ、センテルの竣工により、それ以前の艦が一度に旧式化しています。艦隊整備計画の全面的な見直しを余儀無くされており、大混乱となっています。センテルの竣工により、サファイア級が全艦退役したとの事です。」

「となると、センテル帝国は当分の間はまともに動けないか。」

「そう考えて間違い無いかと。しかし、このまま我が国のリードを許すとは思えません。」

「それはまぁ、そうだろうな。」

 そこで、センテル帝国の話は打ち切られた。

「ガリスレーン大陸はどんな感じだ?」

 今度は、吉田が答える。

「やはり、遠過ぎますな。イウリシア大陸が中継地点としての機能を持たせる為に積極的に動いてはおりますが、焼け石に水でしかありません。」

「だが、どうにもならんだろう。」

「幸い、佐藤が積極的に動いているお陰で、ある程度センテル帝国との不和が緩和されております。」

 古代遺跡の研究を好きに行いたい佐藤の仕事ぶりは真剣そのものであり、センテル側の官僚の心証は概ね良好となっていた。

「これを機に、関係改善を図るべきと考えます。そうなれば、テセドア運河の利用も可能となるでしょう。とは言え、それだけに頼り切るのは問題ですから、南回りルートの整備も継続する必要はあります。」

「うーん、そうだな・・・次の世界会議も近いし、丁度いいかも知れないな。それで、肝心のガリスレーン大陸はどんな感じなんだ?」

「危ないですな。各国の突き上げが、徐々に強まっております。」

 モアガル帝国以外の各国は、モアガル帝国が悪役に仕立て上げられて来たのを良い事に、暁帝国に対し「これを機に、モアガル帝国を追い落とすべし。」と主張している。

 その裏には、モアガル帝国に代わり自国が準列強国として大陸を統治したいと言う思惑が存在する。

 暁帝国との関係構築は、その絶好の機会と言える。

 しかし、多くの国が同じ事を考えていた事で、徐々に不協和音が大きくなっていた。

 これに対する暁帝国は、モアガル帝国以外とは国交を結んでいる途上である事を利用し、余計な陰謀を画策している諸国との国交開設を保留した。

 各国の外交官は顔面蒼白となったが、こんな所で情勢を不安定化させられる程、暁帝国にも余裕がある訳では無い。

 インシエント大陸の開発で軍が引っ張りダコとなっている事に加え、移民政策も推し進めているのである。

 更に、セイキュリー大陸外にいるハレル教徒による活動が、徐々に活発化している現状も存在する。

 港湾都市での警戒を強化した結果、住民の拉致は未然に防止出来ていたが、公共施設の破壊工作を行う例が増加傾向にあった。

 現状は、その辺の棒で叩いて壊す程度のものだが、現地住民のストレスは徐々に溜まっている状況にある。

 センテル帝国との関係改善は、この様な動きに対応する意味合いもある。

「せめて、エイハリーク大陸との関係を持てれば・・・」

「エンディエ王国以外は、難しいでしょうな。」

 エイハリーク大陸の住民には、国家と言う認識が薄い。

 国境線すら曖昧なのだから当然とも言えるが、南回りルートの途上にある事を考えると、西部地域の有力な拠点となる事が期待出来る。

 しかし、国家対国家と言う関係を持つ事が、価値観の違いからエンディエ王国以外困難であり、現状は放置するより他に無い。

「それに、あの海域を通っている船舶によりますと、ドレイグ王国が我が国を警戒している可能性があるとの事です。」

「え、どーゆーこと?」

 現在、民間でもモアガル帝国向けの船舶が往来し始めているが、度々竜人族らしき影が目撃されているのである。

「竜騎兵と間違えただけじゃないのか?」

「確認しましたが、あの一帯に飛竜を利用する勢力は無いとの事です。」

「・・・」

 流石に不安になる。

 世界大戦では、たった5000で30万の軍勢を返り討ちにした程に高い戦闘力を誇るのである。

 現代兵器よりも強いとは思えないが、無傷で勝利出来るとも思えない。

 加えて、プライドが無駄に高いと評判の赤竜族が治めている国である。

 どんな些細な事から関係が拗れるか分からない。

「こっちから接触は出来ないか?」

「どうでしょうな。正直、あまりやりたくはありませんが・・・」

「無策でいるのは拙いだろう。最低でも、情報収集はやってくれ。」

「分かりました。」

 これまでは、「触らぬ神に祟りなし」の方針でいたが、向こうからアクションを取って来たとなれば動かざるを得ない。

 西部地域も、徐々に不安定さを増していた。



 少々歪かと思われますが、短期間で超弩級戦艦まで建造した英国面がおかしいのです。

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