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第七十五話  勇者

 リアルがゴタついてて、かなり遅くなってしまいました。

 イウリシア大陸



 暁帝国と関係を持って以降、この大陸は大きく変化していた。

 至る所で蒸気機関車が走り、物流が以前とは比較にならない程に活発化していた。

 また、発電施設が建設された事で、家電製品が飛ぶ様に売れた。

 技術的に急速に進歩する中、その技術に合わせた社会制度の変革も迫られた。

 イウリシア大陸も、他大陸と同様に奴隷制が存在する。

 しかし、アルーシ連邦はこの奴隷制に厳しい制限を設けている。

 アルーシ連邦では、奴隷は犯罪者や借金持ちや密入国者と言った自業自得と言える者に限られている。

 流石の暁帝国もこの様な形では強くは言えず、現在も続いている。

 しかし、その他の国はこの様な制限を設けてはおらず、暁帝国からの苦言を受けた。

 その結果、アルーシ連邦と同様の制限を設ける事となった。

 だが、だからと言って奴隷の需要自体がいきなり減少すると言う事は無い。

 この制限に上手く適応した奴隷商人は少なく、買い手からの反発も大きかった。

 そして、各地に違法な市場が蔓延る事となってしまった。

 各国は、近代的な治安維持機関を設立し、次々と摘発を開始した。

 その甲斐あり、違法な市場は急激に勢力を縮めて行ったが、大陸外の商人が関わっている案件も多く、慎重に事を運ぶ必要が生じた。

 この為、潜入捜査も積極的に行われているが、まさかの事態に戦慄する事となる。

 


 アラン王国



 アルーシ連邦の西に位置するこの国は、プルトニウムが確認された事で暁帝国から熱い視線が注がれている。

 暁帝国の技術供与と開発の恩恵もあり、国民は豊かな生活を享受していた。

 しかし、豊かになればなる程、そこへ水を差すハイエナも寄って来る。

「確保!」

 私服姿の中年の男が懐から手錠を取り出し、見た目十代の青年を拘束した。

「クソッ、ハナセ!ハナセヨ!」

 明らかな片言に、溜息が出る。

「また、密入国者か・・・」

 そう呟くと、立派な制服を着た警官がやって来る。

「ハァ… ハァ… 盗難騒ぎがあったと聞いて来たんですが・・・」

「ああ、こいつだ。多分、密入国者だろ。」

 私服の男は、軽く答える。

「あの、貴方は?」

「ああ、俺は・・・」

 そう言いながら、警察手帳を取り出す。

「し、失礼しました!」

「いや、やめてくれ。今は別件で仕事中でな。目立ち過ぎると拙い。」

 既に、手遅れな程に目立っていたが、そう言うと立ち去る。

 彼は、違法な奴隷市場の潜入捜査の為に私服姿でうろついているのである。。

「いたー!あんまり勝手に動かないで下さいよ。」

「君が遅いからだろう。」

 今回の捜査で、助手となっている男がやって来る。

「警部、後でどうなっても知りませんよ?」

 本来の捜査に支障が出たら、酷いお叱りを受ける事は間違い無い。


 暫く後、


 助手の案内で、違法な市場が存在すると言う宿屋へ到着した。

「巧妙に隠れるもんだな・・・」

「連中も必死なのでしょう。没落するかどうかの瀬戸際ですから。」

「それを防ぐ為に、国が動いてるんだろうが。擁護なんぞ出来んな。」

 つい先日まで当たり前に出来ていた事を突然禁止されれば、反発は大きなものとなる。

 それを防ぐ為に新たな規制の煽りを受けた者に対し、政府が優先的に新たな仕事の斡旋を行っている。

 暁帝国による積極的な開発事業により、人手はいくらあっても足りなかった。

 にも関わらず、規制を破ってまでかつてと同じ仕事に居座っているのである。

 宿屋へ入ると、入り口周辺は酒場となっていた。

(・・・いるな。)

 実行犯を一人たりとも逃がさない為、日を分けて順次この宿屋へ捜査員を潜り込ませていたのである。

「おい、この宿の店主は誰だ?」

 助手が、酒場のマスターへ問い掛ける。

「・・・自分だが。」

 睨み付けているかの様な細い目で、助手を見る。

「これを」

 助手が差し出したのは、紹介状である。

「!・・・失礼致しました。」

 途端に、マスターの態度が変わる。

「開店まで、後四時間程御座います。それまで、お寛ぎ下さい。」

 そう言うと、一番高い部屋の鍵を渡す。


 四時間後、


 他の捜査員との打ち合わせを終えた警部と助手は、地下の奴隷市場へと入って行った。

「今宵もやって参りました、幸せなひと時!御来店頂き、誠に有難う御座います!」

 マスターが、司会進行を務める。

「本日は、大陸外から新たな商人が参加しております。お眼鏡に適う奴隷がいるかどうか、是非ともその目でお確かめ下さい。」

 会場が、歓声に包まれる。

「忌々しい・・・」

 警部は、そう吐き捨つつ確保のタイミングを計る。

「それでは、早速その新人に登場して貰いましょう。どうぞ!」

 裏から出て来たのは、聖職者の服装をした中年の女であった。

 明らかにハレル教徒の服装だが、此処でその様な事を気にする者はいない。

 満足行く成果を出せば、出自は問わないのである。

「ワタクシは、手に入れたくとも手に入らない物を持参致しました。」

 そう言うと、繋がれた奴隷が姿を現す。

 その見た目に、誰もが興奮する。

「如何でしょう?誰もが憧れる、暁勢力圏はインシエント大陸の女であります!」

 途端に、全員が青ざめる。

「どうされましたか?この様な機会は二度と無いでしょう。どうか、色好い返事を」


 「確保ォ!!」


 焦った警部が叫んだ。

 直後、捜査員達が押さえ込みに掛かる。

「な、何をするんですの!?」

 聖職者擬きは、あっさりと押さえ込まれた。

 他の者達は、この顛末を眺める事しか出来なかった。

 一刻も早く逃げなければ自分も捕縛されるが、それ以上の深刻な事態を目撃してしまったのである。

 違法な市場とは言え、暁帝国との力の差が分からない程、彼等は愚かでは無い。

 「暁勢力圏へは手を出すな。」と言うのが、彼等の暗黙の了解となっていた。

「全員、その場を動かずに聞け!」

 警部は、その場にいる者全員へ向け、取引を持ち掛ける。

 それは、今回の件を黙認する代わりに、聖職者擬きを中心とする動きの調査に全面協力すると言う物であった。

 その後、迅速に情報は集まり、国王にまで報告された。



 首都  ティハリーン



 白洲は、アラン王国からの緊急の呼び出しを受け、国王と面会していた。

「まさか、その様な事が・・・」

 その後の調査により、聖職者擬きは本物のハレル教の聖職者である事が判明した。

 取り調べの結果、ハレル教圏への核攻撃を知った国外のハレル教徒達は、復讐心に駆られて様々な形で暁勢力圏への攻撃を企図している事を告白した。

 そして、聖職者擬きはウォルデ大陸からイウリシア大陸を経由し、インシエント大陸へと侵入した事が明らかとなった。

 インシエント大陸は、開拓事業と移民受け入れに手一杯の状態であり、旅行者等の外国人を警戒する余裕は無かった。

 その結果、今回の騒動が起こってしまうに至ったのである。

「どうか、寛大な処置をお願いしたい。」

 国王は、恐縮しっ放しであった。

「いえ、貴国の迅速な対応があればこそ未遂で済んだのです。どうか、お気になさらず。」

 穏やかに言う白州だが、内心は怒り心頭であった。

(やってくれたな・・・!大陸外のハレル教徒は、完全排除する位で丁度いいかも知れんな。)

 事の次第はすぐに本国へと報告され、暁勢力圏の警備体制の見直しが実施された。




 ・・・ ・・・ ・・・




 神聖ジェイスティス教皇国



「・・・とすると、近付く事も出来んと言う事か?」

「左様で。」

「クソッ!悪魔と組んだ邪教徒共が!」

 実権を握ったリウジネインとシェイティンは、頭を抱えていた。

 核攻撃を受けた地域の復興を一刻も早く進めようと奔走しているのだが、派遣した人員が次々と倒れているのである。

 原因は、言うまでも無く被曝であるが、放射線の存在を知らない彼等は、悪魔と契約した事による呪いの類と考えていた。

 いずれにしても、復興が不可能となった影響はあまりにも大き過ぎるものである。

 核攻撃を受けた地域は、主要な街道が整備されている地域であり、物流に大きな悪影響を与えていた。

 特に、神聖ジェイスティス教皇国の隣国であるリグルス王国は、首都が消滅した事で事実上全国民が難民同然と化していた。

 しかし、誰にも手が付けられない程の混乱状態となっている中で、その状況に手を差し伸べる存在が現れた。


 「ワアアアアアアアア!」


 外から、歓声が聞こえて来る。

「何の騒ぎだ?」

 鬱陶しそうにシェイティンが尋ねると、官僚が飛び込んで来た。

「教皇代理、勇者様です!勇者様がお見えになりました!」

 この報告に、全員が狂喜乱舞した。



 教皇庁前



「勇者様だ!勇者様が来てくれたぞ!」

「よかった。これで、皆が救われる!」

「勇者様、どうか邪教徒共に神罰を与えて下され!」

 この騒ぎの中心には、爆心地を平然と通過した五人組の姿があった。

「拙いですね・・・」

「あん?」

「どう言う事・・・?」

「皆さん、かなり追い詰められている様です。このままでは、内紛に発展しかねません。」

「そんな馬鹿な事が・・・!こんな時こそ、皆で一致団結しなければだろう!?」

「一致団結するには、強固な理由が必要です。ですが、現状ではそれを行う余裕すらありません。誰もが、自分の身を守る事すら覚束ないのです。これでは、身を守る為に同じ信徒へ牙を向く危険すらあります。」

 彼等は、歓声を以って迎える信徒に対し、手を振り返しながら暗い話をしていた。

 勇者と呼ばれている彼等は、ハレル教圏に於ける切り札とも言える存在である。


 幼い頃から喧嘩に滅法強く、出る所が出ている勝気な性格の女戦士

 フェイ

 機を見るに敏であり、その流麗な立ち振る舞いと品行方正さから、多くのファンが存在する特級魔術師

 スノウ

 同じく特級魔術師でありながら、その寡黙さと小柄な見た目から、やはり多くのファンが存在する

 シルフィー

 元気が取り柄のムードメーカーであり、高度な剣術を誰よりも使いこなす女騎士

 カレン

 そしてこの四人を束ね、勇者と呼ばれている張本人である男

 レオン


 元々は、ギルドに所属する一介の冒険者であったが、その卓越した戦績から教皇の注目を浴びた。

 ネルウィー公国とも度々戦っており、竜人族の部隊相手にも引けを取らない程の戦闘力を持つ。

 また、各地に生息する危険生物の駆除も行っており、世間一般からの支持も厚い。

 教皇庁入口へ到着すると、丁度シェイティンが出て来た所であった。

「ハァ… ハァ… ゆ、勇者殿、よくぞ来て下された!」

 突然の訪問を受けて走って来た為、呼吸が大きく乱れていた。

「シェイティン様、どうか落ち着いて下さい。慌てなくとも、私達は逃げたりしませんから。」

 スノウが一歩前に出て、シェイティンを諫める。

「いや、申し訳無い。立ち話も何ですな。早速、客間へ御案内しましょう。」


 客間へ通された五人は、早速話を始める。

「まさか、枢機卿自らの出迎えを受けるとは、思いもしませんでした。」

 レオンは、通常ならば有り得ない対応に、未だに驚きから抜け出せずにいた。

 通常、要人の出迎えは大司教が行い、教皇や枢機卿は直接的な出迎えは行わない。

「そう言えば、勇者殿には御伝えしておりませんでしたな。」

 シェイティンは、政変の事を説明する。

「・・・そして、私とリウジネイン殿が臨時に教皇代理として教皇庁を取り纏めております。」

 まさかの展開に、五人は咄嗟に声が出ない。

 現場を直接見聞きして来たからこそ迅速な対応が必要な事を誰よりも把握しているだけに、悠長に内輪揉めに精を出していた事が信じられなかったのである。

「教皇代理、そんな事は後にするべきだったと思いますがね。」

「その通り・・・」

 フェイとシルフィーが、鋭い視線を向ける。

「も、勿論、我等も無策でいる訳ではありません。」

 冷や汗を掻きながらも、シェイティンは説明する。

「クソッ、亜人共は血も涙も無い奴等だな・・・!」

 レオンが激昂するが、ネルウィー公国がハレル教圏を攻撃しようとしている訳では無く、ハレル教圏が勝手に疑心暗鬼に陥っているだけである。

「それよりも、攻撃を受けた地域に近付けないと言うのが気になります。私達は、その地域を通過して此処へ来たのですが・・・」

「何と!?あの原因不明の呪いを跳ね除けて、此処までやって来られたのですか!?」

 スノウが口にした疑問に対し、シェイティンは驚愕する。

「呪いですか?そんな気配はありませんでしたが・・・」

「うん、無かった・・・。」

 カレンが首を傾げ、シルフィーが同意する。

「今以って原因は判然としておりませんが、あの地域に近付くだけで誰も彼もが突然苦しみ出すのです。その後、例外無く死に至ります。死因も一切不明です。これでは、我々の知らない何らかの呪いの類としか考えられません。」

 復興が行えないと言う現実に直面し、絶望的な空気が漂う。

「いや、悲嘆に暮れるのは後だ。何でか分からないが、俺達は無事なんだ。なら、俺達が出来る限りの事を率先してやろう!」

 気を取り直したレオンが、声を上げる。

「お、いい事言うねー。あたしも手を貸すぜ。」

 フェイが支持する。

「私も同じです。レオン様一人を行かせる訳には参りません。」

 少し慌てた様子で、スノウが追随する。

「私も・・・、負けない・・・!」

 静かに、しかし語気を強めた言葉で、シルフィーも対抗する。

「ちょ、ちょっと、私も忘れないで!」

 出遅れたカレンが、大慌てで割り込む。

「流石はハルーラ様に最も愛された方々だ。我々も、出来る限りの支援を致しますぞ。」



 バタン



 シェイティンが賞賛の言葉を口にしたと同時に扉が開き、リウジネインがやって来た。

 笑顔で世辞を述べた後、現状の説明を始める。

「あなた方は別ですが、その他の者達はあの地に近付く事さえ出来ません。そこで、新たな街道を整備する事が決定致しました。」

 経済関係を担当して来たリウジネインは、物流が酷く滞っている現状がどれ程危機的かをよく理解している。

「あの地域を見捨てると言うんですか!?」

 レオンは、リウジネインの無慈悲な判断を承服しかねる。

「落ち着いて下され!我々も、見捨てたくは無いのです。ですが、現状では近付く事さえ出来ず、それ以外にも多くの問題を抱えているのです。であるならば、出来る事から始めるより他はありません。」

「レオン様、気持ちは分かりますが、リウジネイン様の仰っている事が正しいです。」

 スノウにも諭され、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

「ですが、あなた方ならば問題無く向かえる事は分かりました。そこで、まずはあの地域の調査をお願いしたい。どうか、お引き受け願えませんか?」

 シェイティンは、頭を下げる。

 リウジネインも、後に続く。

「レオン、どうする?」

 フェイが尋ねる。

「・・・分かりました。引き受けます。」

「有難い!必要な物があれば言って下され!すぐに御用意します!」


 準備を終えると、五人は直ちに出発した。

 教皇庁から出ると、またも信徒からの熱烈な視線に晒された。

 一刻も早く現場へ向かいたい一行は、若干の困り顔をしつつ信徒の視線に応えた。

 リウジネインとシェイティンは、その様子を教皇庁の窓際から眺める。

「まさか、あの呪われた地を平然と歩けるとは・・・」

「やはり、勇者一行はハルーラ様の愛を受けた方々なのですな。」

「いや、正に。勇者一行がいれば、暁勢力圏なぞ一捻りでしょう。」

「当然です。しかし、我等も負けてはいられませんぞ。」

「その通りですな。我等は我等で、信徒を導かねばなりません。」

 勇者が先頭に立った事で希望を取り戻したハレル教圏は、徐々に安定を取り戻して行った。

 しかし、核攻撃による被害は尋常な物では無く、安定したところで全てが元通りと言う訳には当然行かない。

 特に、リグルス王国は国としての機能を喪失しており、難民の手当てに莫大な労力が必要となっている。

 勇者一行と言えども、核の災禍の前には全てに手は回り切らず、無力感に何度も苛まれる事となった。



 よくあるチート持ちって奴ですな。

 敵に回ったらどうなるのか、やってみたかった。

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