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第七十三話  恐怖

 長らくお待たせしました。

 ハーベストは、新たな時代へと突入した。

 セイキュリー大陸に於いて、三つのきのこ雲が姿を現したのである。

 その姿は、大陸付近を航行していた船舶からも目視出来、大きな衝撃が世界中を駆け巡った。

 当然ながら、その話の信憑性を疑う声が方々から上がったが、暁帝国による根回しにより、各国政府から事実である事が公表された。

 同時に、セイキュリー大陸への立ち入りを制限する旨が通達された。

 世界各国が同時に同じ対応をした事で核攻撃が真実である事を理解したが、次に来たのは暁帝国に対する困惑と警戒の声である。

 各国の大使館へ抗議や説明を求める声が殺到し、大混乱となった。

 そこで各国政府と協力し、事の経緯を懇切丁寧に説明した。

 また、捕縛した工作員の尋問映像や命令書も併せて公開された。

 混乱は暫くの間続いたが、事実が周知される毎に暁帝国に対する警戒は、ハレル教圏に対する恐怖と怒りへと成り代わって行った。

 ハレル教徒で無ければ攻撃の標的とされる危険性が常に付き纏う事もあり、恐怖感は増大の一途を辿った。

 そして、遂に各地でハレル教徒を排斥する動きが活発化した。

 特に、ハレル教徒の滞在数が多いウォルデ大陸での動きは凄まじく、集団暴行に合った挙句に死亡する事件が度々発生した。

 この様な状況下ではあるが、当のハレル教圏にはその様な状況に構う余裕は当然無く、ハレル教徒達は自力での対応を余儀無くされていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 アルーシ連邦  サクルトブルク



 近代化の進んでいるこの街では、早くも巨大モニター付きのビルが姿を現していた。

 此処数日、モニターに映る映像は同じ物ばかりである。

『我等は、世界を救う為に行動している!ハレル教こそが、世界を救えると何故分からん!?』

『何が宗教の自由だ!その様な考えに溺れているから、神罰が下ったのだ!我等の行いは、ハルーラ様の御意志に沿ったものだ!』

 その映像は、捕縛した工作員の尋問映像である。

 その後に、総帥拉致計画と地獄送り計画の命令書が映る。

 次に、スマレースト大陸での戦闘映像の一部が公開される。

 次いで、ホノルリウスの発した声明が公開される。

 そして最後に、核爆発の映像が映し出された。

「何て事だ・・・此処までイカれた連中だったとは・・・」

「もしかしたら、こっちが標的になってたかも知れないんだよな・・・」

「何が、邪悪な異教徒だ!自分の行動を振り返ってから言え!」

 イウリシア大陸は、他大陸よりも近代化が進んでいる事もあり、一般国民に対する周知徹底はスムーズに進んでいた。

 元々、ハレル教圏と激しく対立していた事もあり、反発は小さかった。

「しかし、核兵器だったか?あんなモノが、この世に存在するなんてな・・・」

「ああ。暁帝国との対立は、滅亡以外の選択肢が無くなる。連中の機嫌を損ねない様にしなきゃな。」

 いくら根回しを進めても、核兵器の存在はあまりにも大きく、暁帝国を過度に恐怖する者も多く現れていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  セントレル



 最高幹部の面々は、静まり返っていた。

 シモンの報告により、核兵器に関する全容が掴めたからである。

 もしかしたら、此方にも撃ち込まれていたかも知れない。

 そう考えると、言い知れぬ恐怖に襲われた。

「むぅ・・・」

 ロズウェルドも、唸る事しか出来ない。

 世界を牽引して来た筈のセンテル帝国が、これ程の重大事に何の対応策も打てていなかった。

 完全に、暁帝国に主導権を握られていた。

 その事実に誰もが気付いていたが、下手に動こうものなら今度は自分が蒸発する。

「ゴホン!」

 シモンの咳き込みに、全員がビクリと体を震わせる。

「皆様、どうか落ち着いて下さい。」

 並大抵では無い恐怖感を悟ったシモンは、諫めに掛かる。

「暁帝国は、我が国に対して核を使用する事は有り得ません。」

「何故そう言い切れる!?これ程の力を持ちながら、力ずくで我等を押さえ込みに掛からんなどと、何故言い切れる!?」

 幹部達は、あまりの恐怖で正常な判断力を失っていた。

 ロズウェルドも、食って掛かる幹部達を止める事は出来なかった。

 シモンは、視察で見聞きした事を必死に説明する。

「ま、間違い無いのか!?」

「間違いありません。核兵器の存在を最も恐れているのは、彼等自身なのです。」

 全員が絶句する。

「先程も御説明した通り、核兵器は比類無き強大な力です。しかし、その強大さ故に自分自身さえも滅ぼしかねないのです。彼等は、転移する以前の世界でその恐怖を身を以て味わったと言います。」

「それは、どう言う事だ?」

 想像を大きく超える内容に、ロズウェルドも身を乗り出す。

「彼の世界では、冷戦と呼ばれる数万発もの核兵器を突き付け合う対立構造が、50年にも渡って続いたと言います。もし、一発でも敵国へと撃ち込まれれば、数万発もの核兵器の撃ち合いへと発展し、全世界が滅亡していた事でしょう。実際に、その瀬戸際まで行った事があると言います。世界中が大混乱へと陥り、日用品の買い占め等が発生したと言います。キューバ危機と呼ばれているそうですが、危機と呼称している事からも如何に危険な事態であったかが伺えます。」

「・・・・・・」

(あんなモノが、数万発だと!?)

 それは、恐怖以外の何物でも無い。

 そして、その様な恐怖を受け続けて来た国が、この世界へとやって来た。

「シモンよ、そうであるならば何故さっさと核兵器を廃棄しないのだ?転移前の世界ならばともかく、この世界では必要無いだろう。」

「そうですな。核兵器が無くとも暁帝国に敵う国などいない。であれば、核兵器など必要無いでしょうな。」

「その通りですな。この期に及んで保有を続けるなど、武力による世界制覇を企んでいるとしか・・・」

 ロズウェルド以下は、暁帝国に対し疑心暗鬼となる。

「核兵器の廃棄に関しましては、何度も検討はされた様です。そして、保有を継続する事が決定されました。その理由に関してなのですが、此方を御覧下さい。」

 シモンは、資料を配布する。

「!・・・こ、これは・・・!」

 それは、ウォルデ大陸の地図であった。

 センテル帝国を以てしても作製出来ない程の精巧さに、思わず目を見張る。

「い、一体、どうやってこんな物を・・・?」

「暁帝国は、人工衛星と呼ばれる大気圏外を飛行する観測機器を多数保有していると言います。」

「!!」

 この期に及んで出て来た、暁帝国の新たな技術に衝撃を受ける。

「どうやら、暁帝国はこの星の外がどうなっているかを既に知っている様です。高度数百キロを超える高空から撮影を繰り返し、その様な精巧な地図を完成させたと言います。」

 何も言えずに地図を眺める一同だが、ある事に気付く。

「シモン総監、この模様は何だね?」

 地図上には、地形とは関係無い大小様々な線や円が描かれていた。

「それは、探知した魔力だそうです。この地図は、世界中の魔力の動きを精密に探知した物であり、魔術的な動きを逐一監視可能となっております。」

 つまり、暁帝国に対する唯一のアドバンテージになると思われていた魔術が、既に通用しなくなっていると言う事である。

「そして、今度は此方をご覧下さい。」

 新たに、二枚の地図が配布される。

「これは・・・何処だ?」

 その地図には、陸地が無かった。

「此方は、南極付近となります。そして此方は、星の裏側となっております。つまり、東部地域よりも東側と西部地域よりも西側の地域となります。」

「!!」

 最早、驚く事しか出来ない。

「そして、この地図に映っている魔力が、暁帝国が核兵器を廃棄しない理由となります。」

 その地図には、ウォルデ大陸の地図とは比較にならない膨大な魔力が映し出されていた。

「この魔力は、どれ程のものなのだ?」

「暁帝国でも測定を継続している最中であり、正確な所は分かりません。しかし、我が国の主力戦艦を1万隻揃えた上で、一年間動かし続けても有り余る程だと言います。」

 一体、何処からこれ程膨大な魔力が集まったのか、想像も付かない。

「原因は不明ではありますが、これが自然現象とは考え辛いとの結論でいる様です。」

「ふむ・・・もしこれが人為的な現象であった場合、恐るべき脅威である可能性は捨て切れんな。」

「はい。暁帝国と言えども、これ程の膨大な魔力を集中、保存する術は持たないと言います。敵対勢力による行動であった場合、通常戦力では対抗出来ない可能性もあるとの結論でいるそうです。」

 暁帝国でさえ対抗出来ないなど、悪夢でしか無い。

「これは、此方から文句は言えんな。」

 結局の所、センテル帝国はこれまで通り傍観するしか無かった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 セイキュリー大陸



「ああああああああ!私の村があああああああ!」

「ハルーラ様ああーーーー!!どうかお救いをーーー!!」

「お前等が背教的な行いをしたからだろう!?死んで償え!」

「貴様こそ背教者だろうが!殺してやる!」

 直接的な核の脅威に晒されたハレル教圏は、阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 三つのきのこ雲は、大陸のあらゆる場所から一望出来、世紀末的な光景に誰もが恐怖した。

 一般の信徒は、故郷が消滅して発狂する者 ひたすら救いを求めて祈る者 理性を失い暴徒と化した者 に分かれて内戦同然の状態となっていた。

 その状態を納める力を持つ教皇庁は、更に深刻な事態となっていた。

「教皇様、これは貴方が招いた結果ですぞ!」

「違うだろう!あの枢機卿擬きの独断専行が引き鉄となったのだ!」

「何を言っている!?あの様な声明を出したから、この様な事になったのだろう!?」

「貴様等は、いつまで責任の擦り付けに精を出すつもりだ!?」

 ホノルリウスとウマが合わない者達が、この機に乗じて責任追及を行っているのである。

 現状を一刻も早く納めたい者達と激しく対立しており、身動きが取れなくなっていた。

 また、核攻撃に恐怖し、何もせずに引き籠っているだけの者も一定数存在する。

 当のホノルリウスは、この状況に恐怖しつつも必死に次の策を思案していた。

「皆の者、此処はハルーラ様の手足となって動く者が集う場だ。敬虔な信徒が苦しんでいる状況で、この様な事にいつまで時間を浪費する気だ?」

「貴方がこの状況を招いたのだ!忌々しい邪教徒共に迎合する様な真似をして来たから、ハルーラ様はかつて無い程に激怒されたのだ!」

「まだそんな事を言うのか!?あの攻撃は、暁帝国によるものだ!いつまでも内紛に精を出していたら、それこそ付け入られるぞ!」

「野蛮な邪教徒共に、あの様な大それた真似が出来る訳が無いだろう!」



 バンッ



「議論は終わりだ!」

 突如、大量の衛兵が雪崩れ込んで来た。

「貴様等、何の真似だ!?・・・!」

 衛兵を率いていたのは、リウジネインとシェイティンであった。

「教皇様、貴方には此処で退いて戴きます。」

「貴様等!」

「連れて行け!」

 ホノルリウスは、問答無用で連行された。

 リウジネインとシェイティンは、この機に乗じて自身を支持していた大司教の協力の元、牢獄から脱出していたのである。

 そして、国内でこの惨状をホノルリウスが原因であると喧伝して回り、捌け口を求める信徒の支持を集めた。

 ホノルリウスを排除する機運が目に見えて高まり、今回のクーデター同然の行為へと繋がったのである。

「成功しましたな、シェイティン殿。」

「この状況です。いつもの面倒な儀式なども無く、我等が臨時の教皇として振舞う事が出来ます。」

 教皇は、枢機卿や大司教が参加しての選挙によって選出されている。

 信徒の声を届けると言う建前がある為に選挙と言う形を取ってはいるが、煩雑で面倒と言うのが参加者の本音である。

「しかし、これ程の罰を受けるとは・・・ホノルリウスの勝手による代償は大きいですな。」

「とにかく、復興を急ぎませんと。それとこの状況ですから、ハレル教圏の分裂が起こってもおかしくありません。早急に対策を立てる必要があるでしょう。」

「その通りですな。一番確実で手っ取り早いのは、外部に捌け口を作る事ですが・・・」

 その後、ハレル教圏の方針は大きく変わる事となる。



 シーペン帝国



「・・・許さない!」

 一人の青年と四人の少女が、爆心地付近の惨状を眺めていた。

 しかし、あるのは建造物の基礎か、炭化した木片であった。

 奇跡的に原形を保っている死体も散見されたが、年齢も性別もまるで判別出来ない。

 そして、この惨状を作った暁帝国を憎悪する。

「教皇庁へ向かいましょう。きっと支援して下さるわ。」

「それよりも、困ってる人が一杯いる筈・・・。先に助けないと・・・!」

「そうね。今は、人々を助ける事こそが一番よ。」

「分かった分かった。なら、教皇庁へ行く道すがら助ければいいだろ。」

「皆・・・行くぞ!」

 強い意志を湛えた五人は、新たな道へと踏み出す。



 山場を一つ越えたせいか、中々進まない。

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