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第六十九話  東京事件

 宗教が、本格的に絡んできました。

 前々からやってみたかった事です。

 スマレースト大陸



 この大陸は現在、大混乱となっていた。

 ハーレンス王国南部で、突如として正体不明の化物が大量に出現し始めたのである。

 その化物は人だけを襲い、襲われた人は化物へと成り代わる。

 化物の数は、爆発的に増加していた。

 サイズ共和国に於いて大陸同盟緊急会議が開かれ、<スマレースト大陸統合軍>の出撃が決定した。

 統合軍とは言え、各国の軍を統合運用しているだけであり、何か特別な部隊が存在している訳では無い。

 基本的には、大陸同盟の国家に対し外部からの宣戦を受けた場合に運用される。

 つまり、それ以外の国内の政情不安等に対しては、通常ならば各国の独自の対応で済ます事となる。

 にも関わらず、今回の件では統合軍の運用を行う事となったのである。

 これは、独自に対応した現地のハーレンス王国軍が壊滅的な被害を受けた事が原因である。

 個々の戦闘力は大した事は無いが、会敵した時点で既に10万に達していた。

 大急ぎで搔き集めた現地軍3000では、数の暴力の前に轢き潰されるだけであった。

 そして、国境を越えてビンルギー王国にも被害を及ぼし始めた。

 ビンルギー公国軍も独自に対応したものの、あまりの物量差に遅滞戦闘しか出来ない有様である。

 逃げ遅れた国民も相当数に上り、化物の数は増え続けていた。

 現地軍の逐次投入では歯が立たない判断され、統合軍出動の流れとなったのである。

 その後、先立って偵察隊として在スマレースト暁帝国軍が出動し、化物の詳細な姿が初めて共有された。

 その姿と特性から、便宜上ゾンビと呼称する事となった。



 サイズ共和国



「一体、どうしてこんな事に・・・」

 統合軍司令部では、ゾンビ出現の原因についての検討が行われていた。

 しかし、原因など分かる筈も無い。

「とにかく、今はゾンビのこれ以上の進撃を食い止める事が先決だ。」

「状況はどうなっておる?」

「昨日、ハーレンス王国最北端のゾンビ集団と会敵し、これを殲滅しております。数は500程であったとの事であります。」

 大した数では無いとは言え、初戦が勝利で終わった事にひとまず安堵する。

「問題は、取り残された国民だな。」

 ゾンビの勢力圏となった地域には、未だに相当数の生存者が取り残されている。

 実際の所、勢力圏と言いつつも生存者の方が圧倒的多数に上るのが現状である。

 時間の経過と共に事態を把握し始めた現地人は、行動を開始した。

 大多数が城塞都市へと避難を開始した他、冒険者や軍人、武器を扱った経験のある者が集い、独自にゾンビへの対抗を始めたのである。

 幸いな事にゾンビ単体の戦闘力は低く、その気になれば一般人にも対抗可能な程である。

 移動中を急襲される事態が発生する一方、確実に討伐数も増えており、ゾンビの増加は徐々に緩やかとなりつつあった。

 しかし、まともに移動も出来ない現状では、遠からず瓦解するのは目に見えている。

「城塞都市は、一つも堕とされておらんそうだな。」

「だが、限度がある。いつまでもこのままと言う訳にも行かんだろう。」

 万単位の集団に対しては直接的な掃討は行わず、防御力の高い城塞都市での籠城戦を選択していた。

 その甲斐もあり確実に消耗させてはいるが、外部との連絡の断たれた現状ではいつまで持つか分からない。

「暁帝国軍は何をしているのだ?」

 肝心の暁帝国軍は、ビンルギー公国からの迂回攻撃を実施する為に移動中である。

「前線へ到着し、攻撃準備が整うまでには、後一日掛かるとの事です。」



 バタン



「暁帝国軍の連絡員が到着しました!」

 統合軍が待ちかねていた人物が、漸く到着した。

「申し訳ありません。直前に、本国より緊急連絡が入りましたもので。」

「構いませんよ。して、その緊急連絡とは?」

「それが、今回のゾンビ騒動の真犯人が判明したとの事です。」




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  東京



 スマレースト大陸での異変が表面化する少し前、

「こんな時間になっても、昼の様に明るい・・・」

 時間は深夜、常識的に考えれば真っ暗闇になっていなければおかしい。

 しかし、暁帝国にその常識は通用しない。

 世界中で様々な噂が流布する様になったこの国は、商人を中心とする好奇心旺盛な者達の憧れの的となっていた。

 直接足を踏み入れた者達は、周囲から羨望の眼差しを向けられ、様々な事を語って聞かせた。

 曰く、山の様に巨大な建造物が、大地を埋め尽くしている。

 曰く、象よりも巨大な飛行物体が、移動手段として利用されている。

 曰く、夜になっても建造物から眩い明りが外へ漏れ出し、昼の様に明るい。

 同じ世界に存在する国とは思えない、荒唐無稽な話を聞かせた。

 大抵は笑われてしまうが、貿易の為に寄港する暁帝国の船舶を目撃している者も多く、真剣に耳を傾ける者も多かった。

 その一方で、激しい嫉妬や憎悪を胸中で滾らせる者達も存在した。

「魔力も持たない邪教徒風情が・・・!」

「クソッ、盗み出した知識を使って、これ程までに発展しているとは・・・」

 怨嗟の声を上げ続ける彼等は、台風で退避した工作員とは別働の工作員である。

 彼等の目的は、混乱に乗じる形で遂行される。

「・・・仕方無い。これ以上は成功率を下げる。行くぞ!」

 彼等の目的は、一般人の存在しない場所に存在する。


 暫く後、


「・・・物々しいな。何の飾り気も無い。」

「大罪を犯した邪教徒らしいですな。」

「だからこそ、ハルーラ様の怒りに触れ、国土を破壊された。」

「万死に値するのは当然だ。だが、我等の真の目的は、世界の救済だ。」

「その通り。ハルーラ様の名の下に、世界を統合する事こそが、世界の人々を救う事になる。」

 彼等は、これから行う事がその第一歩となると信じて疑わなかった。

「よし、行くぞ。この国に住まう人々を救うのだ。」

 その一言から、全員が一気に冷静になる。

 彼等の進む先には、東郷の住まうこの国の中枢が堂々と建っていた。

 一番外側の壁を軽々と越え、更に奥へと進もうとする。



 ジリリリリリリリリリリリ



 直後、けたたましい警報が鳴り響いた。

「な、何だと!?」

「何故だ!?罠も見張りもいないのに・・・!」

「言ってる場合か!退くぞ!」

 慌てて壁から飛び降りる。


 『止まれッ!』


 着地すると同時に、左右から警備兵が現れた。

『無駄な抵抗はやめろ!抵抗するなら、容赦はしない!』

 瞬く間に包囲され、照明により完全に捕捉される。

「クソッ!これでは、突破出来ない。」

「どうします!?」

「邪教徒共に投降など出来る訳が無いだろう!大丈夫だ。奴等は、魔術を知らん劣等な邪教徒だ。」

 そう言うと、呪文を唱え始める。



 ダァンッ!



 途端に、頭部を撃ち抜かれて絶命する。

「ッ!」

『魔術を使おうとしても無駄だ!もう一度だけ警告する!無駄な抵抗はやめろ!』

「何故だ・・・何故、こんな事に・・・」

 最早、悲嘆に暮れるしか無かった。

「ウグッ・・・」

 突如、一人がうずくまった。

『!・・・クソッ、確保だ!これ以上の自決を許すな!』

 うずくまった男は、隠し持っていたナイフで自決を図っていた。

 それに気付き、慌てて残りを確保すべく警備兵は動き出す。

 唐突な動きに、残りはまともに抵抗も出来ずに取り押さえられた。


 後日、


「驚いたな・・・まさか、此処までやるとは思わなかったな。」

 東郷は、多少顔色を悪くしながら呟く。

 いずれは、何か直接的に仕掛けて来るとは思っていたが、いきなり東郷本人を直接狙って来るとは思っていなかった。

「それで、目的は俺の暗殺か?」

「それが、その・・・」

「?」

 言い辛そうにしながらも、説明が始まる。

 今回の件は、言うまでも無くハレル教徒による事件である。

 目標が東郷である事も言うまでも無い。

 そして、その目的は暁帝国のハレル教への改宗であった。

 暁帝国は、宗教の自由を認めている。

 それを大罪と見做し、東郷自身の口からハレル教への改宗を促そうとしていたのである。

 その為に東郷を拉致脅迫し、神聖ジェイスティス教皇国で演説させようと言うのが、今回の事件の全貌である。

「侵入者は5名でした。内、3名を確保し尋問した所、奴等の国内の拠点が判明しました。他にも、予備の拠点を複数持っていた様です。」

 それは、何処にでもあるビジネスホテルであった。

 徹底した捜索の結果、証言の裏が取れた。

「部屋に残された所持品の中に、国章付きの命令書がありました。それと、総帥に演説させる為と思われる原稿も発見されました。」

 その内容は、自分が如何に大きな罪を犯してしまったかを認め、全国民と共に悔い改めてハレル教へと改宗する事を長々と綴った文章であった。

「・・・・・・」

 あまりの内容に、怒りで言葉も出ない。

「証言によりますと、もし総帥が演説を拒否した場合は、拷問の末に我が国に対して人質として譲歩を引き出そうとしていた様です。更にそれも失敗した場合は、総帥を公開処刑して我が国を混乱させた隙に直接侵攻する事を目論んでいた様です。」

 確保した3人は、「それこそが、民を救う為の行いだ!」と躊躇い無く吐き捨てていた。

「原理主義的な連中には、話は通じないみたいだな。どうしたものか・・・」

 今回の件で外交官を派遣しても、碌な結末とならない事は目に見えている。

(センテル帝国との連携が無くなった弊害がデカいな・・・)

 いくら暁帝国も影響力を増しているとは言え、かつてのセンテル帝国の様に問答無用で敵対国を抑え込める程では無い。

 そして、以前決断した様に直接侵攻など以ての外である事が、より確信出来る事態ともなっていた。

(話が出来ないなら、警告しか無いか。)

 東郷の結論は、旧クダラ王国の時と同じ手段を取る事であった。

 そう結論を出し、太田を呼ぼうとした時、



 バンッ



「し、失礼します!」

 大慌てで連絡員が入室した。

「先の侵入未遂事件の続報が入りました!」

「落ち着け。」

 東郷が諭すが、一向に落ち着きを取り戻す気配が無い。

「証言に出て来た他の拠点を捜索したところ、こんな物が・・・」

 それは、別の場所で同時進行していた計画について書かれていた。

「じ、<地獄送り計画>?」

 その計画は、闇属性魔術によって作成したゾンビを、暁勢力圏の国民へ襲わせると言う物であった。

 それを、神による罰であると大々的に喧伝し、ハレル教圏へのプロパガンダとすると同時に、暁勢力圏の結束を弱めようと画策していたのである。

 東郷拉致計画は、この計画による混乱と連携する形で遂行する事を要請していた。

「先の大型台風の直撃により、我が国内での計画実行は中止されたとの事です。恐らく、直接手を下すまでも無く、壊滅的被害が出ていると判断されたのだと思われます。」



 バンッ



「失礼します!緊急事態が発生しました!」

 更に続けようとした所へ、別の連絡員が割り込んで来る。

「ハーレンス王国で、謎の有害生物が出現!急激に増殖し、大きな被害を齎しているとの報告です!」

「ッ!」

 立て続けに発生する異常事態に、東郷は息を呑んだ。

「スマレースト大陸の情報は、最優先で持って来させろ!」

「「「ハッ!」」」

 連絡員は、すぐに動き出した。

 東郷は、暫くの間眠れぬ日々を過ごす。



 正直、宗教勢力とのやり取りは、手探りの状態です。

 何か、気になる点やアドバイスがあれば、遠慮無く指摘してください。

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