表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/159

第六十八話  モアガル帝国

 西部地域の本格的な登場です。

 世界大戦を引き起こした諸悪の根源

 これが、モアガル帝国に対する諸外国の評価である。

 実際、モアガル帝国は好戦的な国家であった。

 モアガル帝国の存在するガリスレーン大陸は、見通しの良い広い平原が大半を占めている。

 その広さ故に、遊牧民族が多数闊歩する大陸となった。

 モアガル帝国も同様であり、騎兵の有効活用によって勢力を広げて来た。

 モアガル帝国軍の特徴は、命令伝達を旗によって行う事にある。

 通常、全軍への命令伝達は、鐘や角笛等を活用した音を利用する。

 それが最も伝わり易いからではあるが、敵に命令内容を察知されるリスクも存在する。

 モアガル帝国軍には、その様なリスクは存在しなかった。

 命令を発する特別な音が何も無いにも関わらず、整然と攻撃を行うモアガル帝国軍は、ガリスレーン大陸に於いて恐怖の象徴となっていた。

 兵も精強であり、向かう所敵無しであった。

 しかし、弱点も存在した。

 それが、海軍戦力の貧弱さである。

 モアガル帝国に限った話では無いが、ガリスレーン大陸の国家は大半が陸軍国である。

 勢力を拡げる毎に余裕を持ち始めたモアガル帝国は、周辺大陸の後塵を拝する事の無い様に国を挙げて海軍力の強化に邁進し始めた。

 しかし、成果は上がらず更なる版図の拡大により、陸海の戦力バランスは悪くなる一方であった。

 やがて、大陸の覇者となったモアガル帝国は、本格的に外海へと目を向けた。

 そんな中古代遺跡を発見する。

 明らかに高度なその遺跡は、モアガル帝国に於いても技術発達を加速させた。

 最も欲しがっていた先進的な造船技術も手に入れる事となり、海軍力の大幅な増強も実現する事となった。

 また、古代遺跡の技術は、国内を活性化させた。

 国力の向上も実現した事で、遂に大陸の外へと目を向けた。

 まず目を向けたのが、南である。

 南には、エイハリーク大陸が存在する。

 この大陸は、西から南へくの字に折れ曲がった形をしている。

 そして、その面積の割に人口が非常に少ない事が特徴である。

 大陸西端に存在する準列強国であるエンディエ王国以外は、明確な国境が存在していない程である。

 エンディエ王国も元々そうではあったが、それ故に東からの勢力の侵入に頭を悩ませており、古代中華王朝の様に万里の長城を建設する事で、半ば強引に国境を確定させていた。

 そして、まずはエンディエ王国以外の地域の制覇を目論んだ。

 これが、世界大戦の始まりとなった。

 敵も精強ではあったがモアガル帝国軍も精強であり、そこへ物量差と統率力が加わる事で、全く勝負にならなかった。

 そのまま破竹の勢いで進撃するモアガル帝国軍は、大陸南端の少数部族の集まる地域へと進出した。

 此処までの連戦連勝で調子に乗っていたモアガル帝国軍は、「この地域を制圧したら、そのままの勢いでドレイグ王国も制圧してやろう。」と考えていた。

 ドレイグ王国は、エイハリーク大陸南端から更に南へ少し行った所に存在する島国である。

 大陸南端の諸部族を瞬く間に制圧したモアガル帝国軍であったが、最後の部族である<ズリ族>に苦戦を強いられた。

 それでも徐々に追い詰めて行き、あと一歩の所で事件が起きた。

 ドレイグ王国から、赤竜族の軍勢が大挙して押し寄せて来たのである。

 それでも、せいぜい5000程度の兵力でしか無かったのだが、その圧倒的な戦闘力によりモアガル帝国軍は瞬く間に蹴散らされてしまった。

 この戦いに投入された兵力はおよそ30万であったが、その内10万以上が死傷する甚大な被害を被ったのである。

 赤竜族の住む国と言う事で列強国扱いされてはいたが、小さな島国に過ぎない事から大した事は無いと言うのが、当時の世界の共通認識であった。

 その予測が大間違いである事が証明され、世界中が大きな衝撃を受けた。

 そして、当のモアガル帝国はやられっ放しで済ませると言う発想は無かった。

 ところが、ドレイグ王国の本当の力を知った各国から、このまま攻め込むのは自殺行為であると諭されてしまう。

 その上で、様々な見返りと引き換えに協力を申し出て来た。

 これを聞いた当時の皇帝は、侮辱であると受け止め激怒した。

 多数の嫌味を伴った断りの返事を各国へと送るが、これがモアガル帝国への宣戦の口実として利用された。

 斯くして、世界大戦へと発展してしまったのである。

 流石に、大陸一つの戦線を抱えた状態で世界を相手にするには分が悪すぎると判断し、モアガル帝国はエイハリーク大陸から手を引いた。

 そして、全力で新たな敵となった国々と対抗し、互角に戦い抜いた。

 モアガル帝国へ宣戦した各国は敵を同じくしているとは言え、自国の利益こそが最優先であり、協力し合うと言う発想は無かった。

 これが、戦火の拡大に拍車を掛けた。

 遂には、アルーシ連邦がエイハリーク大陸へ手を出す事態となり、激怒したドレイグ王国によって駆逐される事となった。

 肝心のモアガル帝国は、西のモフルート王国を最も熱心に攻め立てた。

 また、特に圧力の強いセイキュリー大陸へも度々攻撃を行った。

 しかし、どれ程戦っても決着は付かず、経済事情の悪化により各国は一旦各大陸へ引っ込んだ。

 此処で、センテル帝国が動き始めた。

 モアガル帝国は、艦隊を全力出撃させた。

 その結果、全滅に近い被害を受けて敗北してしまう。

 かつて無い被害の大きさに衝撃が走るが、モアガル帝国は陸軍国である。

 陸戦でなら巻き返しを図れると考え、センテル帝国の上陸を待ち構えた。

 ところが、陸戦に於いても惨敗を繰り返した。

 センテル帝国のライフルの前には、モアガル帝国のマスケットは意味を為さず、得意の騎馬突撃もガトリング砲によって一方的に撃ちのめされてしまった。

 地の利を生かして甚大な被害を与える事もあったが、その度に反撃を受けて大きな損害を被っていた。

 こうして、30倍以上の損失比率を記録し、進退窮まったモアガル帝国は交渉の席へ着いた。

 しかし、そこからがモアガル帝国にとっての地獄の始まりであった。

 世界大戦への戦端を最初に開いたモアガル帝国を、世界中が糾弾し始めたのである。

 どちらかと言えば、隙を突いて喧嘩を売った諸国に戦火が広がった責任があるが、その責任の全てをモアガル帝国へ被せたのである。

 列強国である為、一定の影響力は持ったままであったが、非常に肩身が狭い状況が続いた。

 しかし最近になり、そんな状況に変化が訪れた。

 その原因が、暁帝国である。

 世界会議の場で初めて相対した暁帝国は、大きな存在感を放っていた。

 そして、センテル帝国代表であるマイケルは、暁帝国を強く牽制しに掛かった。

 これが、世界中からの批判を集めた。

 暁帝国さえもセンテル帝国から距離を置き、代わりにモアガル帝国へと近付いた。

 モアガル帝国への厳しい視線は、センテル帝国へと置き換わったのである。




 ・・・ ・・・ ・・・




 そして、現在



 モアガル帝国  キヨウ



 モアガル帝国首都であるこの街では、暁帝国の使節団が訪れていた。

 皇帝による暁帝国重視の政策により、盛大な歓迎を受けていた。

 今回も、吉田が自ら足を運んでいる。

 吉田に対し、ガレベオが自ら接待する。

「いやぁ、この様な遠方まで遥々足を運んで戴けるとは、非常に嬉しく思いますぞ。」

「いえ、我が国は礼には礼で以ってお返し致します。貴国の礼に答えたに過ぎません。」

 ガレベオの必死のアピールに、吉田は淡々と返す。

(余程、酷い扱いを受けて来た様だな。)

 モアガル帝国側の対応は、国を挙げて批判的な態度を恐れている節が見受けられた。

 如何に、世界中から絞られて来たかが窺えた。

「ただ、アガリオ代表とも話したのですが、我が国と貴国は離れ過ぎております。更に、昨今の情勢変化からセンテル帝国との繋がりも弱まり、我々も南回りのルートで訪問する事態となっております。」

 此処までは、態々言われるまでも無い事である。

 そもそも、その様な問題があるからこそ、世界会議まで接触が出来なかったのである。

「ですが、貴国ならばこの情勢を抑え込む事が出来るのでは?」

 ガレベオの発想は、強者による支配的なものである。

 何処よりも早く海を越えた、覇権主義国家の元首らしい発想と言える。

「我が国は、平和主義を国是としております。強権を振りかざしての支配は、望んでおりません。」

「ですが昨今の、特にセイキュリー大陸の態度を見ておりますと、多少の力の誇示は必要では無いでしょうか?それに、暁勢力圏は武力によって成立したのでは?」

 ガレベオの真の狙いは、暁帝国の傘下に入り、二番手として甘い汁を啜る事であった。

 かつては強権を振るって栄華を誇った一方、それが失敗した場合のリスクの大きさも認識したが故に、二番手に甘んじるのが一番利益が大きいと考えていたのである。

 その様な発想故に、武力で敵対勢力を抑え込む事に肯定的な面があった。

「大陸戦争までの一連の武力行使は、相手側からの一方的な攻撃を受けたが故に発生致しました。我が国は平和を愛しているとは言え、自らの身を守る術を放棄した訳ではありません。他国の理不尽な圧政を受け入れる状態は、真の平和とは言えないと考えているからです。だからこそ、我が国は武力を用いて敵対者を排除しました。望んでいた訳では無いにしろ、それが平和を維持する為の最善の方法であったからです。」

 ガレベオは、これまでとは全く違う価値観に触れ、言葉を失った。

「そして、貴国は我が国との友好関係を望みました。我々は、それに応えました。貴国と平和的な関係が築けると判断したからです。何故ならば、貴国は徒に戦火を拡大した結果、どうなってしまったのかを最もよく御存知だからです。」

「・・・・・・」

 ガレベオの戦略は、この時点で破綻したと言っても良かった。

 しかし、その戦略よりも有意義な関係を結べる事を予感した。

(時代が、変わる・・・)

 モアガル帝国は、世界大戦後の体制から解放されようとしていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国



『・・・この台風は、非常に強い勢力で、非常にゆっくりとした速度で北上しております。台風の進路上の地域は、大きな被害が出る事が予想されます。』

 本土西部では、観測史上最大の台風が直撃していた。

 ハーベストの一般的な国々であれば、存続が危うくなる程の大きな被害を受けたであろうが、現代水準の技術と危機意識を持つ暁帝国は、それ程でも無かった。

 一部の山中の道路が土砂崩れで一時通行止めとなり、増水した河川付近の住宅に床下浸水の被害が出た以外は、公共交通機関が大幅に乱れた程度であった。

 しかし、その様な事情を知らないこの世界の者達の中に、歓喜を以って眺める者達が存在した。

「凄まじい嵐だ・・・!我等が手を下すまでも無く、ハルーラ様が自ら手を下されたのだ!」

「この事は、すぐに教皇庁へ報告しよう。放って置いても、大きな被害が出る事は確実だ。この状況での実行は、むしろもう一つの計画に悪影響が生じる危険がある。」

 彼等は、暁勢力圏の破壊工作の任を負っているハレル教圏の工作員である。

 彼等の常識に照らし合わせれば、これ程の台風の直撃を受ければどれ程の大国であろうとも、無事では済まない。

 この台風は、東郷達の知らない所で文字通りの天の助けとなっていた。

「後の事は、連中に任せよう。」

 そう言うと、大陸連合の客船に紛れ込んで撤収した。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ハーレンス王国  とある村落



 ハーレンス王国最南端の海岸沿いに、小さな海沿いの村が存在する。

 その村の近くに、怪しい人影が蠢いていた。

 まるで、泥酔したサラリーマンの様な覚束ない足取りで、村へと近付いていた。

 既に夕飯時であり、外には誰もいない。

「おお、上手そうな肉だな!」

「ちゃんと魚も食べなさい。」

 インフラ整備の恩恵により、この様な最果ての村の食糧事情も改善されていた。



 ドン… ドン… ドン…



 直後、扉を叩く音が方々から聞こえ始める。

「・・・何だ?」

 誰もが不審に思い、身を低くする。



 バキッ!



 そうこうしていると、扉が破られた。

「グガァァァァァァ・・・!」

 乱入して来たのは、人の形をした見た事の無い化物であった。

 地球人が見れば、それをゾンビと呼んだだろう。

 数十のゾンビが村へと乱入し、村人達を無差別に襲った。



 グチュッ…  グチャッ…



 吐き気を催すおぞましい音を立てながら、ゾンビは村人達を喰らって行く。

 すると、喰われた筈の村人が立ち上がり、残りの村人を襲い始めた。

 あまりにも唐突に始まったこの惨劇から逃げ切れた者は誰もおらず、ゾンビと化した村人達は北を目指して歩き始めた。


 村の近くの茂みから、この惨劇を眺める者達がいた。

「クックックッ・・・作戦は成功だ。後は、放って置いても勝手に増える。」

「長かった・・・漸くだ。漸く、我等がハレル教が世界に広がる時が来たんだ!」

「我等は、その第一歩を踏み出す栄誉を与えられた。」

 彼等は、暁帝国へ潜入した工作員と、時を同じくして派遣された工作員である。

 彼等は、自らの未来が栄光で彩られていると疑わなかった。

 彼等は、悠々と帰途に着いた。

 スマレースト大陸は、密かに惨劇の時を迎え始めた。



 バ〇オかな?

 デッ○ラかな?

 L〇Dかな?

 7〇TDかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ