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第四話  接触

 遂に異世界人の登場です。

 とある海域



 嵐の中を進む一隻の帆船があった。

 その帆船は既にボロボロであり、いつ沈んでもおかしくない状態であった。

 甲板では、船員達が船を沈めまいと懸命に作業を続けていた。

「クソッタレ、いつまで続くんだこの嵐は!?」

「愚痴を言ってる暇があったらさっさと水を掻き出せ!」

 船は、何度も波を被ったせいで甲板から船内へ浸水していた。

 船員達は、甲板に溜まった海水を掻き出し、船内ではバケツリレーを行って懸命に排水を続ける。

 そのお陰もあり、辛うじて沈まずに済んではいたが、船員達の体力は限界を超えていた。

 そして、悪い時には悪い事が重なるものである。

「あ、ああああ、あれ、アレ、アレを見ろ!」

 船員の一人が叫ぶ。

 他の船員達がそちらを見ると、これまでに無い巨大な波が迫っていた。

「そんな・・・」

「あんなのどうしろと・・・」

「終わりだ・・・」

 大自然の圧倒的な猛威を前に、大半の船員が抵抗を諦めた。



 ドドォーーーーーー

 バキバキバキ

 メキメキメキメキ

 ザバァァァァァァァン



「うおおおおおおお」

「キャアアアアアア」

 波が直撃した結果、これまで耐え抜いて来た舷側が貫かれ、マストは薙ぎ倒され、船員達は荒れ狂う海へ投げ出された。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  横須賀



 東郷が転移してから六ヶ月が経過した。

 本格的な開拓を始めてから三ヶ月、かつて仮拠点があったこの地には、立派な軍港が出来上がっていた。


 建国宣言を行った後、急ピッチで開拓が進むと同時に政府機関の設立が行われた。


 暁帝国

 政治形態:独裁制

 政府機関:財務省

      法務省

      総務省

      文部省

      保安省

      情報省

      国土交通省

      科学技術省

      経済産業省

      国防省

      外務省

      農林省

      水産省


 政治形態は、召喚された全員が東郷の指示の元に動いている為、東郷を筆頭とする独裁制とする事が満場一致で決定された。

 官僚組織の宿命とも言うべき縦割り行政は健在だが、独裁制である事からフットワークは軽く、各省庁間の連携を推進されている事もあり、それなりに横の繋がりが保たれている。


「壮観だな」

 視察に訪れていた東郷は呟く。

「そうですね。現在、この横須賀には第一艦隊を初めとする精鋭が揃っています。我が国で此処より素晴らしい光景は、飛山山脈以外に存在しないでしょう。」

 そう語ったのは、この横須賀基地司令官である 井上 定吉 中将 である。

 彼は海軍随一の理論家であり、各基地の設計や艦船の設計に多大な影響を与えた。

 ただし、彼は直接的な戦闘指揮は苦手としており、そうした事態が起きた場合は部下へ指揮を一任する方針である。

 尚、飛山山脈とは帝国本土中央にある山脈の事である。

 まるで、山が空を飛んでいるかの様に見える事から名付けられた。

「総帥、そろそろ外洋に出てみては如何でしょうか?」

 総帥とは、東郷の事である。

 建国してすぐ、帝国トップの名称を<総帥>とした。

 この三ヶ月間で、東郷は大きく変わっていた。

 一国の長となった事を自覚した事で、以前の様な唯の大学生では無くなっていたのである。

「気持ちは解るが、もう少し待ってくれ。」

 井上の進言に対し、東郷は即答する。

 転移してから今日に至るまで、彼等は外洋へ出ていない。

 最初は本土周辺海域の探索に忙しく、今は法整備が追い付いていないのが理由である。

 そのせいで領海は定まっているが、EEZ(排他的経済水域)はまだ定まってはいない。

 東郷は、国内の準備が整うまでは外洋へは出ない方針を固めており、こうした進言を全て却下していた。

「しかし、今の活動範囲だけでは狭過ぎます。いつ事故が起こってもおかしくありません。」

 現在、あらゆる艦船の活動範囲は殆どが領海内に限定されている(海洋観測艦は例外)為、その狭い範囲内に海軍艦艇だけでは無く、海上保安庁の巡視船まで遊弋しているのである。


 暁帝国の海上保安庁は、保安省の傘下にある。

 その役目は、地球と同じく海の警察機構だが、重武装化が推進されている点で地球とは異なる。

 各管区毎に旗艦となる8000トン級の大型巡視船を1隻ずつ配備しており、76ミリ速射砲一門、35ミリ機関砲二門、重機関銃八挺、放水銃二挺を備え、ヘリを搭載する。

 次いで、主力となる7000トン級の大型巡視船を2隻ずつ配備しており、40ミリ機関砲一門、20ミリ多銃身機関砲二門、重機関銃六挺、放水銃二挺を備え、ヘリを搭載する。

 最大の稼働戦力として、3500トン級の中型巡視船を6~8隻配備しており、20ミリ多銃身機関砲二門、重機関銃四挺、放水銃二挺を備える。

 沿岸警備として、1000トン級の小型巡視船を複数配備しており、25ミリ機関砲一門、重機関銃三挺を備える。

 港湾内の警備を目的とした巡視艇を複数配備しており、重機関銃二挺、発煙弾を備える。

 その他に、臨検や万が一の事態を想定した部隊を編成、搭載しており、一式小銃、P228を装備している。

 また、巡視船はデータリンクと高度なFCSを装備しており、(理論上は)ミサイルへの対処も可能となっている。

 それとは別に無人飛行船を飛ばし、24時間体制で海域監視を行っている。

 これにより、効率的な巡視船の出動の他、不明船の迅速な識別を可能としている。

 此処まで重武装化が推進されたのは、この世界の事情が大きく関わっている。

 東郷は、転移前にこの世界の文明レベルが中世から近世であると言う事を聞いていた。

 地球で言えば、その時代は覇権主義国家が跋扈する時代である。

 人道などと言う言葉は存在せず、舐められれば侵略を受ける。

 平時に於ける最前線にいると言える巡視船は、その最初の犠牲者となる危険性が非常に高い。

 そこで重武装化と、次の二つの条件の内のどちらかを満たした場合、直ちに攻撃を行う方針となっている。


 一  我が方の警告を無視し、領海(法整備が済み次第、EEZに変更)侵犯を強行した場合

 二  我が方に対して、敵対的行動を取った場合

    ただし、軽微な行動に留めている場合は、最初に威嚇射撃を実行する


 味方の犠牲を防ぎ、敵対者を抑え込む為には、これ位の行動は必要だろうと東郷は考えていた。

 ただしその結果、領海内には海軍艦艇と巡視船が入り乱れて過密状態となっている。

 この様な状態が長く続けば、重大な事故が起こりかねないと井上は危惧しているのである。

「総帥」

「失礼します。総帥、緊急連絡です。」

 突然話に割って入ったのは、海上保安庁の職員であった。

 重要な話に割り込まれて井上は機嫌が悪くなったが、職員の話を聞いて驚愕し、自身が話そうとしていた事を忘れてしまう程の衝撃を受けた。

「大型巡視船しきしまが、西部諸島西岸沖10海里近辺で外部の人間と思しき漂流者二名を救助したとの事です。」




 ・・・ ・・・ ・・・




 一時間前、



 西部諸島西岸沖  大型巡視船しきしま



「せんちょー、たいくつですー」

 副長がぼやく。

「やかましい、職務に集中しろ!」

 船長が叱り飛ばす。

「そうは言いますけど、こんな東の果てで何かが起こるワケ無いじゃないですかー。」

 副長が東の果てと言ったのには理由がある。


 この三ヶ月間で南部諸島に設置された<帝国航空宇宙開発機構>により、多数のロケットが打ち上げられていた。

 召喚 組み立て 打ち上げ のサイクルを繰り返すと言う、実際にロケットの打ち上げに携わっている技術者が聞いたら激怒しそうな反則技を使った結果、軍用は勿論、気象衛星等も大半が既に打ち上げられている。

 そして、衛星を使った星の調査が行われた結果、様々な事が分かった。


 一  この星は、地球より遥かにサイズが大きい。

 二  帝国本土より東側に陸地は存在しない。

 三  南極に近い地点に、正体不明のエネルギー反応がある。


 地球より巨大であるにも関わらず重力は地球と同じであり、暁帝国より東には大陸どころか小さな島一つ存在しない。

 そして、謎のエネルギー反応を捉えた地点を詳細に観測したが、何も無い。

 何もかもが不可解であり、佐藤でさえも頭を抱えていた。


「そう言う事を言っていると、本当に何か起こるぞ?」

 副長のフラグとも取れる発言に、船長が忠告する。

「まーさーかー、そんな事あるワケな」

『二時方向、帆船と思しき漂流物を発見!』

「「・・・」」

 フラグが成立した瞬間であった。

 双眼鏡で覗くと、確かにマストの一部と思われる物体と多数の木片が浮いていた。

「明らかに人工物だな。」

「そ、そうですね・・・」

 そらみたことかと言う空気を隠そうともしない船長に、副長が気まずそうに答える。

「ん?あれは・・・」

 船長は、木片に何かが引っ掛かっている事に気付く。

「人だ!」

「人ォ!?」

 副長は、信じられないと言う声を上げた。

「よく見ろ、あの木片に掴まっている!」

「・・・ホントだ。」

「どうしますか?」

 船員が尋ねる。

「無論、救助する。」

 船を慎重に近付けて行くと、漂流者は二人いる事が判明した。

 直ちに救命艇が降ろされ、漂流者へと近付く。

「行け!」

 艇長が指示を出すとダイバーが飛び込み、漂流者と接触した。

「大丈夫か!?生きてるか!?」

 声を掛け、軽く揺さぶるが、反応は無い。

「意識不明!」

 艇長へ報告を入れると、それを聞いた無線手は無線機を操作する。

「しきしまへ、漂流者はいずれも意識不明。これより、救助を開始する。」

 ダイバーへ合図を出すと、漂流者は救命艇へ引き上げられた。

 しきしまへ戻ると、待機していた救護班が漂流者の容態の確認を行う。

 意識は無かったが、まだ生きていた。

「衰弱が酷い、低体温症になり掛けているぞ!」

 救護班は、慌ただしく動き出す。

「船長、すぐに本土に連絡した方が良くありませんか?」

 治療室へ運ばれた漂流者の報告を聞き、副長が進言する。

「そうしよう。後、もう少し生存者の捜索をしよう。こんな所までたった二人で漂流して来たとは思えない。」

 捜索は暫く継続されたが、他に生存者は見付けられなかった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 西部諸島  多良間島



 西部諸島に存在する多良間島は、起伏の極めて少ない平坦な島である。

 それ故に利用出来る土地が多く、総合病院が設立されている。

 この病院に、救助された二人が搬送された。



 多良間島沖



「さて、どうしたもんかな・・・」

 多良間島へ向かっている船内で、東郷は呟いた。

「直接会ってみない事には何とも。」

 田中大将が答える。

「漂流者の意識は回復したのか?」

「いえ、まだです。」

「そうか、到着までに回復してくれればいいんだがなぁ・・・」

 不安は尽きない。

「しかし、意識が回復してもどの様に接触すれば良いかが問題です。」

 最大の不安要素はそれである。

 東郷を含め、暁帝国の面々はこの世界について何も知らない。

 漂流者からすれば彼等は命の恩人となるのだが、無知を晒してしまったらどの様な態度に出るか判らない。

 普通ならば、懇切丁寧にこの世界について教えてくれると考える所だが、此処は地球では無い。

 もし、その漂流者が高貴な身分ともなれば、どうなるのか想像も付かない。

 最悪、その漂流者の国を相手に早速開戦と言う展開もあり得る。

 開戦しても敗ける事は無いだろうが、今現在何よりも欲しいのは情報である。

「丁寧に、だが毅然と対応するしか無いな。」

 何一つ具体性が無いが、何も判らない現状ではそうとしか言えなかった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 多良間島病院前



「お待ちしておりました」

 多良間島の病院へ到着した東郷達を、医師が出迎える。

「急に悪いな。早速だけど、漂流者の様子は?」

「つい先程、意識が回復しました。」

「二人共か?」

「はい」

 待ち時間が無くなった事に、一行は少しだけ安堵する。

「なら早速話をしたいが、その前に漂流者について判っている事を教えてくれ。」

「解りました」

 病院の控室へと移り、医師が話し出す。


 一  発見した漂流者は二人だけであり、他は遺体すら見付からなかった。

 二  性別は、二人とも女である。

 三  二人は酷く衰弱しているが、命に別状は無い。

 四  先程、意識が回復してから尋ねると、二人は姉妹の様である。

 五  二人の服装だが、片方は軽装で、もう片方はまるで魔法使いの様な見た目である。


「魔法使いね・・・」

「あくまでも見た目の話です。そう言う民族衣装があるのかも知れません。」

 正気を疑われたのではと思った医師は、慌てて弁解する。

「今すぐに面会は出来るか?」

「はい。二人とも意識はハッキリしておりますので、問題はありません。」

「案内してくれ」

「解りました、此方へどうぞ。」


 案内された病室へ入ると、見た目十代後半の二人の少女が目に入った。

 突然大人数で病室へ入ったせいか、片方は警戒の目を向け、もう片方は怯えている。

(かわいい)

 東郷のいつもの第一印象である。

(それにしてもこの格好・・・)

 東郷は、医師の証言通りの格好をした二人の少女に既視感を覚える。

 まるで、RPGの登場キャラクターの様な出で立ちであった。

(冒険者ギルドの所属だと言われたら、信じてしまいそうだ。)

 黙っていても仕方が無いので、話し始める。

「思ったよりも元気そうで安心したよ。」

 二人の少女は、今度は困惑の表情を浮かべた。

(何か変な事言ったか?)

 少女達の反応に不安を覚えるが、話を続ける。

「まずは自己紹介をしよう。俺は、東郷 武尊だ。あんた達の名前を聞いてもいいか?」

 少しの沈黙の後、軽装の少女が答える。

「あたしはアイラ。こっちは妹のアイナ。」

 もう片方の少女が軽く頭を下げる。

「今度はこっちから質問いい?」

「いいぞ」

「あんた達、一体何者なの?見た事も無い格好してるし、この建物も見た事も聞いた事も無いわ。」

「その質問にお答えする前に、あなた方の置かれている状況について説明します。」

 そう言ったのは、藍原中将(昇進した)である。

 藍原は、この島の西の海域で二人を発見した事、他に生存者はいなかった事、最寄りのこの病院へ連れて来た事を説明した。

「そう・・・」

 他に生存者がいない事を聞き、二人は悲し気な顔をする。

「それで、あんた達の質問についてなんだが、落ち着いて聞いてくれ。」

 東郷は、異世界人と接触した時の為に用意しておいた<設定>を使う事にした。

「俺達は、この世界の人間じゃあ無いんだ。」

「・・・・・・ハァ?」

 東郷は、こう言う時の為に「暁帝国は、異世界から国ごと転移して来た」と言う設定を作っていた。

 正気を疑われる事は間違い無いが、「半年前からチート能力を使って国を創りました」と言うよりはマシだと考えた結果であった。

 一通りの説明が終わると、アイラが口を開く。

「信じられないわね」

 アイナも同意見らしく、頷いていた。

「まぁ、そうだろうな。」

 東郷も、そう簡単に信じて貰えるとは思っていない。

「だが事実だ。」

「証拠は?あんた達が異世界から来た証拠はある?」

「何でこの世界に飛ばされたか、原因は判っていない。」

 「神様に異世界に送り込まれました」と言ったところで信じられるワケが無いので、原因不明と言う事にしていた。

「だが、一つ見て欲しい物がある。」

「何かしら?」

「カーテンを開けてくれ」

 余計な情報を与えない為に、閉め切られていたカーテンを開ける様に指示を出す。

「な、なに・・・アレ・・・?」

 そこから見えた物は、島の沖合に停泊する鳳翔型空母 蒼龍 である。

 衛星による調査により、この星には現代程の大型船が存在しない事が判明している。

 それならば、現代艦を見て貰う事で明らかに異質な存在であると言う事を手っ取り早く理解して貰おうとした訳である。

「あー、大丈夫か?」

 唖然として動かない二人に、恐る恐る話しかける。

「あ・・・あ、あんた達、一体・・・」


 暫く後、


「それで、信じて貰えたかな?」

「信じられないけど、信じるしか無いみたいね。」

「それは良かった」

 取り敢えず、話を進められそうな事に安堵する。

「じゃあ早速だけど、教えて貰いたい事がある。」

「この世界の事?」

「そうだ」

「解ったわ。でもその前に、一つ言っておかなきゃいけない事があるわ。」

「?」

「助けてくれてありがとう。」

「!」

 初めて見せた笑顔に、思わずときめいた東郷であった。



 フラグじゃないよ?

 次回から、本格的にストーリーが始まります。


 補足

 巡視船ですが、海軍との混同を避ける為に、船名を平仮名にしてあります。

 EEZですが、覇権国家が多いと言う設定なので、同盟国以外を入れる事は一部例外を除いてしないと言う方向で行きます。

 ただし、商売程度なら許可さえ取れば可能とします。

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[気になる点] >東郷は、医師の証言通りの格好をした二人の少女に既視感を覚える。  まるで、RPGの登場キャラクターの様な出で立ちであった。 病院に運び込まれたのなら、海水で濡れた服ぐらい着替えさせ…
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