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第六十六話  急変する世界情勢

 また、かなりの間を開けてしまいました。(汗

 暁帝国  東京



「やってくれたな・・・!」

 吉田の報告を聞いた東郷の声は、怒りで震えていた。

「見た所、センテル帝国の意向を外れた発言の様に思えました。発言者本人以外はかなり慌てていましたから。しかし、吐いた唾は飲めません。センテル帝国を巻き込んだ戦略を、根底から見直す必要があるでしょう。」


 マイケルの独断行動による影響は、各所に出始めていた。

 まず、擁護された形となったハレル教圏は、セイルモン諸島海域での積極的な活動を見せ始めていた。

 この活動にアルーシ連邦は対抗する構えを見せており、緊張は否応無しに高りを見せている。

 この動きが、スマレースト大陸方面へと波及する可能性も否定出来ず、大陸同盟は神経質となっていた。

 また、ハレル教圏からセンテル帝国へ向かう宣教船や商船の数も加速度的に増えている。

 真っ先にマイケルを批判したアルーシ連邦は、センテル帝国へ公式に非難声明を行うに至った。

 この動きにより、イウリシア大陸とウォルデ大陸の結び付きは大幅に弱まり、暁勢力圏への依存を高めた。

 モアガル帝国を筆頭とする西部地域もセンテル帝国に対し不信感を抱き、非難声明は行っていないがセンテル帝国との距離を置き始めている。

 これは、センテル帝国を中心とする体制が崩れ始めた事を意味し、各地で辛うじて保たれていた均衡が少しずつ揺らぎ始めていた。


「センテル帝国は、当てにならないだろうな。」

「そうですな。少なくとも、三年間は当てには出来ません。」

 公式の場で、それも世界会議の場での発言ともなれば、撤回など出来よう筈も無い。

「センテル帝国とは距離を置こう。技術許与も無期限停止にする。」

「宜しいので?」

「此処で弱腰な態度を見せたら、それこそ付け入られる。」

 いくら平和を謳っていても、弱肉強食と言う世界の本質は変わらない。

 だが、センテル帝国の穴を埋めるのは、並大抵の事では無い。

 東郷は、世界会議の報告から打開策を考える。

「吉田、モアガル帝国がこっちに興味を示してるんだよな?」

「その通りです。友好関係を結びたいと明言しております。」

「モアガル帝国を、アルーシ連邦の様に支援は出来るか?」

「難しいですな・・・モアガル帝国の代表とも話しましたが、距離があり過ぎます。」

 モアガル帝国は、西部地域北半球に存在する<ガリスレーン大陸>東部の国家である。

 北半球と言う事は、直進すればセイキュリー大陸付近を通過しなければならない。

 それより南の航路を取ろうとしても、間にウォルデ大陸がある為、大きく迂回しなければならない。

 テセドア運河を通ればある程度省略出来るが、現在の情勢を考慮すれば利用は控えるしか無い。

 こうなってしまっては、残るはイウリシア大陸方面を迂回する南回りのルートしか無くなってしまう。

 しかし、南半球から大きく迂回する事となる為、効率が非常に悪くなる。

「北ルートを強行突破するのも一つの手ですが、間違い無くハレル教圏とぶつかります。」

「・・・しょうがない。南回りでいいから、何とかモアガル帝国とのパイプを作ってくれ。」

 距離の問題はあるが、センテル帝国との関係を弱めてモアガル帝国と組む事を決定した。

「山形、スマレースト大陸だが・・・」

「はい。大陸同盟は、我が軍の増員を求めております。それと、実際に侵攻を受けた場合、エンフィールドライフルだけでは対応し切れない可能性もあります。機関銃の引き渡しも始めるべきかと。」

「分かった。その辺は任せるから、急いで送ってくれ。後、大陸同盟の海軍はどうなってる?」

 スマレースト大陸同盟とインシエント大陸連合は、イウリシア大陸と同じく海軍も近代化も図っている。

 しかし、アルーシ連邦と違い近代的な体制を一から構築しなければならなかった事もあり、遅々として進んでいなかった。

「正直、未だに戦力化出来るとは言えない状況です。整備が間に合わない場合に備え、ミサイル艇を利用した訓練を実施しております。」

 山口が答える。

「そうか・・・」

 スマレースト大陸を巡る情勢は、いつ激化してもおかしくない。

 だが、その様な情勢下に於いても、未だに蒸気船一隻建造出来ていないのが現状であった。

「総帥、我が軍による直接侵攻を行えば宜しいのでは?」

 山形が、セイキュリー大陸への直接介入を進言する。

「まぁ、戦力的には出来るけど、直接侵攻は絶対にやらない。」

 宗教勢力に対する攻撃が碌な事にならないのは、地球を見れば明らかである。

 技術力や軍事力ではどうにも出来ない思想的な問題が根底にあり、どの様な方法でも中東の米軍の様に泥沼化するのは目に見えていた。

「向こうの対応次第では、攻撃だけはやる。けど、侵攻は絶対にやらない。」

 東郷は、念を押して宣言した。




 ・・・ ・・・ ・・・




 神聖ジェイスティス教皇国  ジェイスティス



「トーポリ、よくやったぞ!」

「全ては、ハルーラ様のお導きです。」

 ホノルリウスはトーポリを褒め称えるが、トーポリは謙遜する。

 世界会議の顛末を大々的に公表した結果、ハレル教圏全体がお祭り騒ぎとなっていたのである。

 「今は、耐え忍ぶ時だ。」としたホノルリウスの判断が正しかった事が証明され、教皇としての地位は安泰となった。

 そして、誰もがセンテル帝国との結び付きを強めようと動き始めた。

 気の早い者は、「センテル帝国は、ハレル教へと鞍替えした。」と考え、布教を始める始末であった。

 尤も、その結果はお察しである。

 トーポリは、マイケルの独断の末の展開であった事を理解していたが、それ以外の者達はホノルリウスを除いて都合良く解釈していたのである。

 その結果、一般のハレル教徒に対する宣伝も、願望に拠る部分が多くなっていた。

 布教には失敗したとは言え、センテル帝国が世界中から白い目で見られ始めた為に、商業的な結び付きは嫌でも強くなっていた。

 貿易に関する責任を負う立場であるリウジネインはこの結果に機嫌を良くしつつも、ホノルリウスの名声が更に上がる結果となってしまったが為に、本人にとっては差し引きゼロと言える結果となった。

 その状況を打開する為、シェイティンと組んで予々準備していた計画を始める。




 ・・・ ・・・ ・・・




 モアガル帝国  首都 キヨウ



「以上が、世界会議に関する報告となります。」

 アガリオは、皇帝ガレベオに対して報告を終える。

 まさかの展開に、ガレベオは動揺を隠せない。

「暁帝国とセンテル帝国が対立してしまうとは・・・」

「表立って激しく対立する事は無いでしょう。先程も申し上げました通り、センテル帝国の一連の行動は、一官僚の独断によって引き起こされたものである事は間違いありません。」

「ううむ・・・それで、お主は暁帝国に付いた訳だな?」

「その通りです。」

 暁帝国との関係を築く事には成功したものの、列強国であるモアガル帝国でさえ手に負えないかも知れない厄介な事態に片足を突っ込みかねない事態となってしまった事に、ガレベオは自国の進退に大きく悩む。

「・・・暁帝国は、前向きな返事をしたのだな?」

「はい。友好関係の構築は願っても無い事と。」

「そうか。ならば、センテル帝国とはある程度距離を取り、暁勢力圏とイウリシア大陸との関係を強めよう。」

 覚悟を決めたガレベオは、困難な道のりを選択した。

 不安定な情勢から無縁でいたモアガル帝国は、自ら修羅場へと足を踏み入れ始める。




 ・・・ ・・・ ・・・




 アルーシ連邦  サクルトブルク



「面倒な事をしてくれおって・・・!」

 フレンチェフは、世界会議の顛末を聞いて憤慨していた。

「全くです。」

 レズノフは、フレンチェフに同意する。

「既に、大使館に抗議を行う様に指示を出しています。」

「それは良いが、それで状況が好転する事は無い。」

 流石のフレンチェフも、この様な状況への対応策など考えてはいなかった。

「大統領、やはり暁勢力圏との結び付きを強めるべきでは?」

「クッ・・・こうなってしまった以上、仕方無いか・・・セイルモン諸島の状況に気を配れ。センテル帝国とも距離を置く。」

 フレンチェフは、暁帝国へ依存する構図を最も警戒している。

 その為に様々な手を打とうと奔走していたが、マイケルの勝手により全てが水泡に帰してしまっていた。

「しかし、一つ朗報があります。」

「何だ?」

 レズノフは、世界会議初日の大会議堂の外での展開を目撃していた。

「暁帝国は、モアガル帝国との関係構築に意欲を示している様でした。もしこれが上手く行けば、本大陸が中継地点としての価値を持つ可能性があります。」

(・・・何もやらないよりはマシか。)

 微々たるものだが、暁勢力圏の経済的植民地となるよりはマシと言える。

 フレンチェフは、同大陸の他の国家を巻き込み、準備を始める。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  セントレル



 皇帝を中心とする最高幹部は、緊急会議を開いていた。

「マイケル外交部長官は、暁帝国と対抗する態度を取った模様です。暁帝国は自重すべしと。」

「何たる事だ・・・!」

 ロズウェルドは、拳を握り締めて激怒する。

「マイケル長官は、その直属の部下によって取り押さえられております。ですが、既に手遅れと言って良いでしょう。」

「アルーシ連邦から、大使館を通じて抗議の声が寄せられたとの報告もあります。マイケル長官は、かなり身勝手な発言を連発した様であり、我が国の信用と威信は地に堕ちております。」

「暁帝国からの通達もあります。既に開始しているものを除き、全ての技術提供を無期限停止するとの事です。」

 想像以上に深刻な事態に、重苦しい空気が支配する。

「今回の発言を、ハレル教圏は外交的勝利と考えている節が見られます。我が国へ積極的に布教しようとする動きが確認されました。我が国内に駐在している、暁帝国技術者への攻撃を目的とした工作員が紛れているとの未確認情報もあり、予断を許しません。」

 情勢は、刻一刻と悪化していた。

 しかし、今のセンテル帝国には、この情勢を止める力は無い。

 たった一人の勝手によってこれまで積み上げて来た物が崩されてしまった事に、ロズウェルドは怒りを大きくする。

「・・・西部地域はどうなっている?」

 誰もが大帝の怒りに慄く中、構わず話を進める。

「モアガル帝国が、暁帝国と積極的に接触しております。暁帝国も、積極的に応じる構えを見せているとの事です。また、他の国々も同様に暁帝国へ接触しようと動いており、我が国とは距離を置きつつあります。」

「ドレイグ王国につきましては、相変わらず無関心を貫き通しております。」

 世界規模で、目に見えてセンテル帝国の影響力が落ちている事が証明されていた。

「一刻も早く対策を立てねばなりません。」

「どうすると言うのだ?」

「まずは、マイケル長官を解任します。後継には、スマウグ殿が適任でしょう。スマウグ殿を筆頭に、世界会議での失言の修正を行います。」

「待たれよ。世界会議での発言を、無かった事にすると言われるおつもりか?」

「その通りです。元々、帝国の意思から外れた発言の数々なのです。何ら問題は無いかと。」

 前例の無い案に、動揺が走る。

「その様な真似は許さん。」

 しかし、ロズウェルドが反対した。

「一度、国家の意思として表明した発言を簡単に覆すなど、それこそ不信感を増長させる元凶となる。その様な無節操な行いなど、断じて許す訳には行かん。」

「しかし、このままでは・・・」

「今回の件は、マイケルのみの責任にあらず。あの様な愚か者を選出した我等にもある。今は、耐え忍ぶしかあるまい。」

 聖断は下った。

 センテル帝国は、向こう三年間世界の主役の座から降りる事となった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ネルウィー公国



 初の会談から約一年後、

 ネルウィー公国で、<移民試験団>の編成が完了した。

 代表は、メイが務める事となった。

 同時に、ケイとマークが補佐となる。

「志願者は3000名となりました。此方が名簿になります。」

 名簿を受け取ったのは、山口元帥である。

 いい加減、艦隊を率いたい欲が抑え切れなくなっていた為、戦闘が無いネルウィー公国への派遣に同行する事を了承させたのである。

「確かに。それでは、道中はお任せを。」

 山口は、張り切って護衛任務へ着く。

 本国から輸送船を連れて来てはいたが、ハレル教圏に察知されない為に小規模な船団となっていた。

 一度に全員を輸送する事は不可能となり、船団にはネルウィー公国自前の帆船も加わる。

「阿部少将が聞いたら、羨ましがりそうだな。」

 山口は、艦橋から船を見下ろせて御満悦であった。

「元帥、帆船では我が艦隊に付いて来れないのでは?」

「甘く見るんじゃ無いぞ。ああ見えて、20ノット以上出せる化物だからな。」

 艦長が進言するが、全く意に介さない。

 そして、全ての準備が整うと出港し、移民政策の第一歩を踏み出した。



 世界情勢は複雑怪奇。

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