第六十五話 世界会議2
世界会議その二です。
センテル帝国 小ウォルデ島
議事堂では、異様などよめきが沸き起こっていた。
マイケルの暁帝国を牽制する発言に、誰もが仰天した。
暁帝国と協力して行く事がセンテル帝国の総意であるが、明らかにその総意から外れた発言であった。
「ちょ、長官・・・」
マイケルは、止めようとする部下を睨み付けて黙らせる。
(これ以上、暁帝国にリードされて堪るか。世界の中心は、我がセンテル帝国だ!)
「一体どうなっている!?何故、暁帝国を牽制する!?」
レズノフは、大きく動揺する。
「センテル帝国は、此方寄りだったはずだが・・・」
吉田も、予想外の事態に動揺していた。
「どう言う事だ?センテル帝国と暁帝国は、友好関係にあるのでは無かったのか?」
トーポリも、自身に都合が良い状況とは言え、予想もしなかった事態に驚愕する。
(・・・なるほど、そう言う事か。)
センテル帝国代表団を見ると、マイケル以外が慌てている様子が見て取れた。
「クッ・・・あんな馬鹿の為に引っ掻き回されるとは・・・!」
アガリオも、その様子を見て事の真相に気付く。
(クソッ、スマウグ殿が此処にいれば・・・!)
スマウグがいれば、マイケルの暴走を力ずくでも止めたであろう。
しかし、残念ながら此処にはいない。
「確かに、暁帝国は自重すべきでしょう。クローネル帝国を攻め滅ぼし、大陸二つを支配下に治めている。これだけでも欲張りに過ぎると言えるが、更に影響力を増しつつある現状を考えると、いずれは世界を支配する事になるでしょうな。」
トーポリが、発言する。
(この機会を、最大限に利用させて貰うぞ。)
「暁帝国とは、妄想と現実の区別が付かないらしい。世界支配など絵空事でしか無く、増してや異世界などと言う世迷言などあるワケが無い。」
マイケルとしては、暁帝国が説得力の欠片も無い存在である事を言いたかったのだが、それに対する反応は呆れであった。
あっさりとトーポリの意見に追随してしまうマイケルに、全員が呆れ返るしか無かった。
トーポリも拍子抜けしたが、だからと言って遠慮などする気は無い。
「その通りですな。そして、現在の東部地域の情勢を考えるに、暁帝国はセイキュリー大陸への直接侵攻を目論んでいるのでは無いかと考えているのですよ。いや、根拠を提示せよと言われるのは分かっていますよ?しかし、昨今の情勢は明らかに我がセイキュリー大陸を包囲する形となっています。包囲を実行するなど、軍事行動の前準備以外にあり得ないでしょう。」
(よし、これで暁帝国から主導権を奪える。)
マイケルは、仕上げに入る
「それは見過ごせんな。世界会議は、平和維持の為の会議だ。自分勝手な勢力伸長を吹聴する場では無い。」
マイケルは、どこまでもトーポリに追随した。
「自分勝手はどっちだ・・・?」
遂に我慢出来なくなったレズノフが、マイケルを睨み付けて口を開く。
「貴官の発言こそ自分勝手だろう!その様な独りよがりな価値観の押し付けが、平和維持に繋がると本気で思っているのか!?」
「それは、我が国に対する宣戦布告ですかな?」
(成り上がり如きが調子に乗りおって・・・!)
最早、見下している内面を隠そうともしなくなったマイケルは、あからさまに挑発する。
「本音が出たな。口では平和を唱えながら、自分に逆らう者は容赦なく始末しようとするのが貴官の本性だ!開戦したければ、するが良い!我が国は、全力でお答えする!」
レズノフだけで無くアルーシ連邦代表全員が、センテル帝国を敵に回してでも暁帝国と運命を共にする覚悟を決めた。
「我が国は、センテル帝国を非難する。平和を履き違えた貴国とは、行動を共に出来ない。」
「な・・・!」
アガリオが発言し、マイケルは絶句する。
「我が国も同様だ。貴国の勝手に、追随など出来よう筈も無い。」
「我が国も同じく。」
「我が国もだ。」
続いて、ピルシー帝国 エンディエ王国 モフルート王国 も、モアガル帝国へ追随した。
「な・・・何を考えているんだ!?」
(何故だ!?世界の中心である我が国に、何故従わない!?何が起きたのだ!?)
マイケルは、目の前で繰り広げられる現象が理解出来なかった。
マイケルの勝手な行動のツケはあまりにも大きく、その後のセンテル帝国は終始針の筵であった。
暫く後、
「それでは、暁帝国を列強国として承認し、暁勢力圏を公式に承認するものとする。そして、クローネル共和国を準列強国から外し、現状を承認するものとする。」
議長が高らかに宣言し、暁勢力圏の現状が世界に承認された。
第一の議題が終了し、代表団達が大会議堂から退出して行く。
「失礼」
退出した直後の吉田に、アガリオが声を掛けた。
「貴方は、モアガル帝国の代表でしたな。」
「その通りです。アガリオと申します。」
「吉田です。それで、どの様な御用件ですかな?」
吉田は、アガリオの様子から友好的な用件であると予想する。
「我が国は、以前から貴国に大変興味を持っております。可能ならば、友好関係を結びたいとも考えております。」
「なるほど。それは、此方にとっても願っても無い事です。」
(会議中に此方を擁護したのはこの為だったか。それにしても、まさかセンテル帝国を敵に回してまで此方に付くとはな・・・)
暁帝国重視の方針は、ガレベオの意向による所が非常に大きい。
そうで無ければ、こうも直接的にセンテル帝国を敵に回したくないのが、アガリオの本音であった。
「ですが、我が国は貴国と距離があり過ぎます。その為、中々貴国との接触が出来なかったのです。その為に、この様な場を借りての御挨拶しか出来ず・・・」
「気にする事はありません。しかし、確かに離れ過ぎていますな・・・今後、継続的な関係を続ける事になるでしょうし、今すぐは無理ですが迅速な連絡体制の構築に協力しましょう。」
「その様な事が可能なのですか!?」
「可能です。しかし、大規模に行う場合は、それなりの手間と時間を要しますが。」
(やはり、陛下の御決断は間違っていなかったのか!)
ガレベオは、皇帝の決断に深く感謝した。
「マイケル殿」
「・・・」
トーポリは、マイケルに声を掛けるが、振り向いたマイケルの表情は何とも言えな不気味な物であった。
流石のトーポリも若干怯んだが、話を進める。
「先程は我が方に味方して戴き、感謝の念に堪えません。」
「・・・」
「やはり、センテル帝国こそが世界の中心たるべきでしょうな。」
「やはり、そう思うか!?」
「え、ええ。勿論です。」
マイケルの食い付きの速さに、トーポリはまたも驚く。
(相当参ってるな・・・)
内心ではマイケルを嘲笑しつつも、一切表に出さずにセンテル帝国を煽て上げる。
「君は、よく分かっているな。やはり、君の味方でいるべきだろうな。」
「何と有り難いお言葉・・・!」
「だが、残念な事に今すぐと言う訳にはいかんのだよ。本国で根回しをせねばならん。」
「十分です!成功をお祈りします!」
このやり取りは各国の面前で行われ、マイケルの知らない所でセンテル帝国の威信は更に堕ちてしまった。
マイケルは、その様な事にも気付かないまま嬉々としてハレル教圏へ味方する事を決めた。
その後、数日掛けて各議題について話し合われ、世界会議は終了した。
「本議題の決定を持ちまして、世界会議を終了と致します!」
議長の宣言と共に、拍手が巻き起こる。
しかし、誰一人として笑ってはいなかった。
マイケルの不用意な発言が、新たな波乱を巻き起こす事は容易に想像出来る事態であった。
・・・ ・・・ ・・・
小ウォルデ島 桟橋
「レズノフ殿」
「ん?おお、吉田殿。初の世界会議は如何でしたか?」
「いやはや、まさかの展開で右往左往してしまいましたな。」
「本当に<まさか>でしたな。」
流石のレズノフも、苦々しい表情を抑え切れなかった。
「何にしても、我が国は貴国の味方として今後も発展を遂げて行くでしょう。」
「頼もしいお言葉です。我が国も、協力を惜しみません。」
互いに握手を交わし、それぞれの船に乗る。
「忌々しいセンテル帝国の影響力が大幅に衰えた。これこそ、ハルーラ様の御加護に違い無い。教皇様の仰る通り、これまでは我慢すべき時であったのだな。」
トーポリは、一刻も早く朗報を伝えたい気分に駆られていた。
シーペン帝国代表も、同様の気分であった。
全代表団が去った後、マイケルは上機嫌に声を上げる。
「さて、当面の方針は決まった。暁帝国を抑え込みつつ、ハレル教圏を支援せねばな。それこそが、我が国の為だ。」
だが、彼の部下は誰一人同調しようとはしない。
「どうした、何を黙っている?これからやる事は多いのだぞ?そんな事では、持たん」
ガシッ
「な、何をする!?」
「長官、貴方の独断行動は、到底容認出来るものではありません。貴方を拘束させて頂きます。」
マイケルは、三人掛かりで押さえ付けられた。
「き、貴様等!」
事の顛末は余す事無く最高幹部へと伝えられ、マイケルは投獄された。
・・・ ・・・ ・・・
ネルウィー公国
「センテル帝国とだと!?」
暁帝国使節の発言に、長老達は仰天した。
「本当に、あのセンテル帝国なのか?センテル帝国を味方に付けるなど、とても信じられん!」
「間違い無く、あのセンテル帝国です。」
「・・・・・・」
ネルウィー公国の様な存在にとっては、センテル帝国は雲の上の存在である。
「我が国も、センテル帝国に負けない技術を保有しておりますが、世界への影響力と言う点では、センテル帝国には到底及びません。」
「それは言い過ぎだろう。センテル帝国と同等の技術を有するなどと」
「長老、間違いありません。」
ケイが口を挟み、再度沈黙する。
「しかし、いくら優れた技術を保有していようとも、それだけでは世界を説得出来ません。その点では、確かな実績を持つセンテル帝国には、到底及ばないのです。ですが、そのセンテル帝国が味方に付けば、今回の移民に関しても世界的な承認を得られるでしょう。」
「だが、それをハレル教圏が承認するとは思えん。」
「ハレル教圏と言えども、センテル帝国を正面切って敵に回す様な真似は出来ません。少なくとも、表立っての反発や妨害は起こらないでしょう。」
「つまり、それ以外の妨害は起こり得ると言う事か・・・」
それでも、これまでの状況と比較すれば、遥かにマシと言える。
悩んだ末に、結論を下す。
「使節殿、我々は貴国をよく知らない。それは、我が国民も同じだ。その様な場所へいきなり全員移り住めと言われても、大きな反発が起こるのみだろう。だが、だからと言って何もしない訳にも行かん。そこで、まずは貴国のこの提案を国民へ公開し、志願者を募りたいと思う。」
「少数の志願者による、試験的な移民を実施すると?」
「その通りだ。その結果次第で、全国民の移民について結論を出したいと思う。」
「分かりました。ただし、国民への公開は慎重にお願いします。センテル帝国を含む各国への根回しは、これからですので。」
「心得た。」
ちょっと短いですが、これで終わりです。




