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第六十四話  世界会議

 いよいよ、世界会議の始まりです。

 センテル帝国  小ウォルデ島



 遂に、この時が来た。

 世界会議の為にこの島に建設された議事堂へ、外交官達が入って行く。

「何だが、身が引き締まるな。」

 誰もが穏やかな表情をしながら、陰では猛獣の如く隙を突こうとあらゆる言葉に耳を傾けていた。

 その静かな攻防が、何とも言えない独特な緊張感を生み出していた。

「大丈夫ですか?」

 クローネル共和国代表の コミンドス が、吉田へ話し掛ける。

 彼は、旧クローネル帝国時代にも世界会議に出席した経験を持っている。

 暁帝国に対し、世界会議に関するアドバイスを行ったのも彼である。

「大丈夫だ。むしろ、どんな相手が出て来るのか楽しみだよ。」

 これまでは、実質的に一対一の話し合いばかりであったが、世界会議は世界の主要国が一同に会して行われるバトルロイヤルである。

 歴戦の外交官としては、腕が鳴ると言った所であった。

「頼もしいですな。」

 コミンドスは、自国が主要国から外れた脇役となってしまった事に、僅かながら哀愁の念を覚えた。


「何と言う事だ・・・!」

 一日経って尚、マイケルは衝撃から立ち直れずにいた。

 暁帝国は、スマウグの進言通り魔導船を保有していた。

 更に、魔力を有していない事も事実であった。

 武装は豆鉄砲が一門のみだが、スマウグから聞いた通りだとすれば、戦艦の主砲とは比較にならない程の武装を有している事となる。

「クソッ!」

 圧倒的な国力と技術力で、世界を牽引して来たセンテル帝国。

 その最前線に立ち続けて来たのが、外交部であった。

 その外交部の長として、他国の後塵を拝すのは見過ごせなかった。

(何としても、主導権を獲得せねば・・・!)

 マイケルは、激しい嫉妬心が胸中を支配していた。


「驚いたな・・・」

 そう呟いたのは、モアガル帝国代表の アガリオ である。

 皇帝の意向により、モアガル帝国は暁帝国に関する情報を熱心に収集していた。

 その情報は、代表団へ余す事無く伝えられてはいたが、当然の事ながら半信半疑であった。

 しかし、直に見て事実であると確信するに至ったのである。

「皇帝陛下の仰る通り、西部地域は出遅れてしまった様だな・・・」

 だからと言って、出遅れたままでいる気も無い。

 アガリオは、世界に追い付こうと必死に足掻く。


「痛快だな・・・」

 アルーシ連邦代表となったレズノフは、上機嫌であった。

 あのセンテル帝国を驚かす事が出来たからである。

 未だに大きく劣っているとは言え、ある程度の巻き返しが出来た事を証明していた。

 世界の技術的に劣ると言う認識を覆す事も出来、発言力も増す事が予想された。

「全ては、暁帝国のお陰か・・・」

 かつて、使節団の案内を担当したレズノフは、胸中に若干の複雑さを残しつつも、暁帝国との連携を重視する。


「あれが、暁帝国人か・・・」

 神聖ジェイスティス教皇国代表となっているトーポリは、暁帝国代表団を見つめていた。

 ハレル教圏は、暁帝国との直接的な関係を一切持っていない為、密偵を除いて暁帝国の人間を目にするのは、これが初の機会である。

(見た目は、我等と大して変わらんな・・・)

 敵対国家と自身が似通っていると言う事実は、心底気分の悪い事ではあったが、それを理由として理性的判断をおざなりにする程、トーポリは愚かでは無い。

「何としても、現状を打破せねばな。」

 ハレル教圏は、暁帝国による囲い込みの影響をモロに受けている。

 目に見えて貿易の規模も小さくなっており、死活問題となりつつあった。

 センテル帝国も、徐々に暁勢力圏を重視する方向へシフトしており、リウジネイン達がスマレースト大陸との貿易を一方的に破棄してしまった事も盛大に裏目に出ている状態であった。

 トーポリは、布教だけで無く経済的な問題も解決しなければならなかった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 全代表団が、議事堂の中心に設置された大会議堂の円卓を囲んだ席に着く。

 地球の国連安保理事会の様に、各国の代表が円卓の先頭の席に着き、他はその後ろに用意された席に着いた。

 騒めきが支配する中、議長が声を上げる。

「静粛に!静粛にされよ!」

 水を打った様に静かになる。

 中には不満そうな顔をする者もいるが、それを此処で口にする者はいない。


 「これより、世界会議の開催を宣言する!」


 その宣言に、会場の静けさに似合わない熱気が放たれるのを誰もが感じた。

 議長は続ける。

「此処にいる誰もが知っていると思うが、東部地域の情勢が大きく変わった。それに伴い、この世界会議の顔ぶれも少々変わった。まずは、初参加の暁帝国代表に自己紹介をして貰う。」

 指名され、吉田が立ち上がる。

「御使命を頂きました、暁帝国代表 吉田 覚 です。」

 吉田は、簡単に暁帝国に関する説明を行う。

「最後に、我が国は異世界より転移して来ました。転移の原因は、未だに分かっておりません。」

 会場が、一気に騒がしくなる。

「静粛に!静粛に!」

 議長が諫めに掛かり、ひとまず収まる。

 しかし、暁帝国に対する目線は明らかに変わってしまった。

 その中には、事前に事情を知っていた筈のマイケルも含まれていた。

 ともあれ、暁帝国の自己紹介は終わり、最初の議題に移る。

「では、最初の議題へ移る。旧クローネル帝国、現クローネル共和国を準列強国から外すべきとの結論が、センテル帝国で為された。そして、暁帝国を新たに列強国として承認するつもりでもある。この案件について討議したい。」

(完全に、センテル帝国に主導権を握られている訳か。)

 最初の議題からセンテル帝国の存在感が示される形となり、吉田は少し面倒臭くなった。

「私は、反対の立場を表明する。」

 いきなり反対を始めたのは、トーポリである。

「暁帝国は不当な野心を掲げ、一方的にクローネル帝国を亡き者とした。これは、世界大戦へと繋がりかねない危険な行為である。暁帝国は、不当に世界を危険に晒す危険な蛮国である。その様な国に列強国の称号を与え、あまつさえ世界の安定化へ貢献して来たクローネル帝国を準列強国から外すなど、断じて認められるものでは無い。暁帝国は、即刻クローネル帝国を解放し、インシエント大陸及びスマレースト大陸から手を引くべきである。」

(全く、自分の立場も分からん狂信者共が・・・!)

 レズノフは、目に見えて機嫌が悪くなる。

「世界を不当に危険に晒しているのは、ハレル教圏であろう。偽りの正当性を掲げ、民を圧殺している事を知らないとでも思っているのか?」

 ピルシー帝国代表が、早速食って掛かる。

「貴様ァ!劣等な邪教徒如きが、偉大なるハレル教を侮辱するかァ!?」

 シーペン帝国代表が、怒鳴り散らす。

 国際会議の場とは思えない応酬に、暁帝国代表団は呆然とする。

「ハァー、またか・・・」

 センテル帝国代表団は、慣れた様子で眺めていた。

「静粛にされよ!」

 再度、議長が諫めに掛かる。

 取り敢えずは収まったが、両陣営とも睨み合ったままである。

「我が国は、暁帝国を列強国として認める事に賛成する。」

 小康状態に入ったのを見計らって口を出したのは、アガリオである。

 モアガル帝国は、世界大戦を引き起こした元凶と見られている事もあり、列強国の中では発言力が小さい。

 それだけに、発言のタイミングには人一倍気を遣う必要がある。

「・・・どうやら、モアガル帝国は暁帝国と組んで世界を支配したい様だ。」

 早速、トーポリが切り込んで来た。

「我が国の過去の過ちに対する批判は、甘んじて受けよう。だが、この期に及んで世界を支配したいなどと言う世迷言を標榜しているのが何処の誰かは、今更言うまでも無い。」

「まるで、我等がそうだとでも言いたげだな。」

「その通りだ。神の加護と言う名の略奪と侵略を未だに繰り返しているハレル教圏こそ、世界支配を企んでいると言えよう。」

(どの口が言う!?)

 マイケルは、口には出さずにモアガル帝国を罵倒した。

「ハレル教圏は、暁帝国を諸悪の根源にしたい様だが、相手の事をもっとよく調べるべきだな。善悪の基準をハレル教のみに依存したやり方を続けては、近い内に致命的な誤りを犯す事になるぞ。」

 かつて、世界大戦へと発展したドレイグ王国への侵攻失敗は、相手を侮ったが故に発生した事態であった。

 更に、後にセンテル帝国に対しても同様の失敗を犯して惨敗した。

 センテル帝国に関しては何処の国も同じだが、二度も同じ失敗を繰り返したモアガル帝国は、どの様な相手も決して侮ってはならない事を何処よりも学んでいた。

 対するハレル教圏は、センテル帝国に惨敗したのはキツイ罰であると考え「ハレル教徒としての忠を尽くせばハルーラ様の加護の元、いずれはセンテル帝国を圧倒出来る。」と豪語していた。

 現在は、ホノルリウスがトップにいる事もあり「今はまだ時期尚早である。今暫くは耐えるべし。」と考えてはいるが、ハレル教が絶対である彼等に相手を侮らないと言う発想は無い。

「御気遣い痛み入るが、此処で貴国と言い争っても意味は無い。当事者の話を聞いてみようか。」

 トーポリは、顔を真っ赤にして怒鳴り返そうとするシーペン帝国代表を抑えつつ、話を振る。

「我が国は、この様な場で指摘されずとも、元より準列強国の座を降りるつもりでいます。」

 話を振られたコミンドスは、淡々と答える。

「な、何を言われるのだ!?このまま、邪教徒共の言いなりになるのを良しとされるのか!?正気に戻られよ!」

(弱ったな・・・)

 シーペン帝国代表が説得を続ける中、トーポリは自身が取れる札の少なさに辟易していた。

 既に、イウリシア大陸とセンテル帝国が暁帝国寄りとなっている事は明らかであり、先程の応酬でモアガル帝国までもが暁帝国寄りとなっている事が明らかとなってしまった。

 ハレル教圏は、事実上孤立状態であった。

「この様な事、認めんぞ。暁帝国は、即刻クローネル帝国を解放せよ!」

「我が国は、クローネル共和国を属国化している訳ではありませんぞ。」

 シーペン帝国代表の命令とも取れる要求に対し、吉田は淡々と答える。

 クローネル共和国は、事実上暁帝国の言いなりではあるが、主権国家としての地位を確保している。

 解放しろと言われても、「何から解放するんだ?」としか言えない。

「大嘘を吐くな!暁勢力圏とは、暁帝国の属国の集まりでは無いか!暁勢力圏内の国々が、暁帝国の方向ばかりを向いているのが何よりの証拠だ!」

 この暴論には、呆れるしか無かった。

 トーポリも、頭を抱えたくなっていた。

「だとすれば、ハレル教圏の国々は全て神聖ジェイスティス教皇国の属国ですな。」

「な・・・き、貴様・・・!」

 誰もが予想出来た反論ではあるが、シーペン帝国代表は反論されるとは全く思っていなかった為、言葉に詰まる。

 自分(ハレル教徒)の意見こそが絶対と思っているからこそではあるが、何より彼我の力関係を理解していないと言う致命的な認識がこの様な言動の一番の理由である。

「暁勢力圏は、我が国では既に承認されている。イウリシア大陸も同様に承認していると聞いた。」

 此処で、マイケルが口を開く。

 センテル帝国の助け舟が入っては、どうやっても覆せない。

 ハレル教圏は、完全に孤立してしまった。   ・・・と、思われた。

「だが、暁帝国は、そろそろ自重すべきでしょうな。」




 ・・・ ・・・ ・・・




 ネルウィー公国



 メイ達と長老達との話し合いから数日後、

 暁帝国使節団は、漸く上陸を果たした。

 ケイの案内の元、長老達の集まる屋敷へと向かう

 向けられる視線は敵意と警戒ばかりであったが、命の保証がされているだけマシと思うしか無かった。

 やがて、目的地へと到着する。

 長老達の向ける視線も、やはり敵意と警戒であった。

「会談に応じて戴き、感謝致します。」

 長老達は驚いた様子であったが、丁寧な挨拶が功を奏し、話が通じる相手と言う認識は持たれた。

 しかし、相変わらず警戒は全く解かない。

「さて、君達は我が国民を残らず移民させようと言っているらしいな。」

「その通りです。可能ならば支援を行いたいとは考えているのですが、位置的にそれも難しく」

「その様な事情はどうでも良い。」

 長老達は、暁帝国の提案する移民を、自国を滅ぼすだけの愚策としか見ていなかった。

 これまで必死に守ってきた国を捨て去れと言われている様なものである為、何処の国であろうとも受け入れ難い内容である事は間違い無い。

 だが、それ以上に人間族を一切信用していない事が、移民に対する過剰な拒否反応を生んでいた。

「まず我等は、君達の言う事を一切信用出来ない。理由は、言わずとも分かるであろう?」

「はい。あなた方が、これまで受けて来た仕打ちを考えれば・・・」

 ハレル教圏から受けた迫害は勿論の事、友好国である筈のフェンドリー王国にも、ネルウィー公国を疎む者が少なからず存在している。

 その一番の理由は、「亜人族の国家と仲良くしているから、こんな苦労をする羽目になったんだ!」と認識している一般国民が多いからである。

 客観的に見れば誰が悪いのかは一目瞭然であり、それを理解しているからこそ布教が上手く行かないのだが、当事者からすればその様な事を言っている余裕は無い。

 その為、最も手っ取り早い方法を取ろうとする者が多いのが現状となっている。

「我等は、これまで己の力のみで度重なる攻撃を跳ね返して来た。確かに今は厳しい状態が続いているが、国を捨てる程の事態は起こり得んよ。」

「それは早計でしょう。」

「・・・何?」

 長老達の目付きが鋭くなる。

 使節達は、必死に東部地域の情勢変化について説明した。

「ハレル教圏も、貴国と同様に余裕を無くしつつあります。いずれは、なりふり構わない行動に出るでしょう。」

 長老達は騒つくが、簡単に信じようとはしない。

「長老、こいつ等は本当の事を言ってるぞ。」

 突然、マークが口を開いた。

「いつかは分からんが、ハレル教圏は行動を起こすぞ。ヤケになって、こっちに全軍で突っ込んで来るかも知れねぇ。」

 直情傾向のあるマークだが、彼の危機管理能力は並外れている為、全員が聞き耳を立てる。

「俺は、移民なんて難しい事が正しいのか分からん。だが、今のままじゃあ駄目なのは分かる。手遅れになる前に、早く何か手を打たないと本当にヤバいぞ。」

 マークに此処まで言われてしまっては、無視も出来ない。

「フーム、現状では、移民以外に有効な策は存在しないな・・・」

「いや、しかし・・・」

 少し悩んだ末に、使節に対する質問が飛んだ。

「一つ聞きたい。我が国は、小国とは言えど歴とした独立国だ。全国民を移民させるとなると、事実上その国は滅亡する。ハレル教圏は喜ぶだろうが、それ以外の国は許容するのか?」

 いくら暁帝国の影響力が強まっているとは言え、この様な問題は単独では解決出来ない問題である。

 だからこそ、事後承諾とは言えセンテル帝国による暁勢力圏の承認と言う手続きが存在した。

「勿論、各国に対する根回しは必要となります。」

「纏まるとは思えんが・・・」

「我が国は、センテル帝国と友好関係にあります。」



 意外な展開・・・になったかな?

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