第六十三話 集まる列強
今回から、世界会議編となります。
センテル帝国 ベイジスト海
ウォルデ大陸最大の湖の中心に浮かぶ島が、世界会議の舞台となる<小ウォルデ島>である。
ベイジスト海南側の陸地は、中米の様に左右の幅が狭い(中米よりは広い)。
そして、ベイジスト海の水深は数百メートルの深さがある。
外洋航行を想定した船舶でさえ問題無く活動出来る為、東西を運河で繋いで新たな海の拠点とした。
これが、ハーベストで唯一の運河である<テセドア運河>である。
現在、テセドア運河は厳戒態勢にある。
一般船舶の通行は一切禁じられ、海軍艦艇が往来していた。
『此方戦艦ベノム、モアガル帝国艦隊の運河侵入を確認。二等級戦列艦7隻、三等級戦列艦25隻、大型運送艦1隻。事前通告通り。』
『了解、エスコートを開始せよ。』
西側の作業員達が慌ただしく動き始める。
「一番乗りは、モアガル帝国か・・・」
小ウォルデ島の海岸から、運河の喧騒を眺めているエルフ族の男が呟いた。
彼は、外交部長官である マイケル である。
外交部の職員らしく堅物であり、未だにスマウグの進言に耳を貸さない内の一人でもある。
『間も無く、モアガル帝国艦隊が到着する。港湾要因は、配置に付け。』
スピーカーから指示が飛ばされ、マイケルの周囲も慌ただしくなり出した。
「長官、そろそろ戻りましょう。」
秘書が進言する。
「そうだな。面倒だが、出迎えねばならん。」
世界会議には、各国の外交関係のトップが訪れる。
万が一にも失礼な対応を取れば、最強の列強国の威信に泥を塗る事となる。
マイケルは、すぐに会場へ戻って行った。
・・・ ・・・ ・・・
テセドア運河 東側入り口
『アルーシ連邦艦隊を確認。』
作業員達が、騒めき出す。
「おい、確か事前通告で蒸気コルベットが来るとか言ってたらしいな。」
「ああ。何かの間違いだと思うがな。」
蒸気コルベットとは、地球で言う幕末期の機帆船である。
暁帝国からの技術供与と支援により、少数だが建造に成功していた。
そして、今回の世界会議で大々的なお披露目をしようと言う訳である。
やがて、艦影がハッキリと確認出来る位置にまで近付いて来た。
「!・・・本当に戦列艦じゃないだと!?」
「あの砲の配置は、旧来の魔導砲よりも高性能じゃないと絶対にやらないぞ!」
「一体、何があったんだ!?」
作業員達が騒めく中、監督が怒鳴りつける。
「テメエら、ぼさっとしてないで持ち場に着け!」
慌てて持ち場に着く。
『此方戦艦カタリナ、アルーシ連邦艦隊の運河侵入を確認。1000トン級蒸気コルベット艦5隻。事前通告通り。』
アルーシ連邦艦隊がベイジスト海へ侵入した直後、神聖ジェイスティス教皇国とシーペン帝国艦隊が運河へ差し掛かった。
『此方戦艦カタリナ、神聖ジェイスティス教皇国艦隊の運河侵入を確認。一等級戦列艦10隻、二等級戦列艦8隻、枢機船1隻。事前通告通り。続いて、シーペン帝国艦隊の運河侵入を確認。一等級戦列艦2隻、二等級戦列艦4隻、三等級戦列艦6隻、民間船1隻を確認。事前通告通り。』
枢機船とは、枢機卿の保有する専用船である。
全員が一隻ずつ保有している。
「相変わらず、あの二ヶ国は一緒にやって来るんだな。」
「鴨の親子かな?」
アルーシ連邦艦隊の後と言う事もあり、立派な筈の戦列艦が貧相に見えていた。
「後は、ピルシー帝国と暁帝国だな。」
両国とも、アルーシ連邦と協力関係を築いている事もあり、どの様な艦がやって来るのか嫌でも気になっていた。
・・・ ・・・ ・・・
小ウォルデ島
「レズノフ殿、ようこそいらっしゃった。」
「お出迎え、感謝致します。」
マイケルは、アルーシ連邦の代表団を出迎えていた。
「時にレズノフ殿、貴国はいつの間にあの様な艦を保有出来る様になられたので?」
アルーシ連邦は、一般的には技術力が劣っているとされているが故の問い掛けである。
「お恥ずかしながら、我が国単独ではあれ程の艦を建造出来なかったでしょう。」
「ほう・・・と言う事は、技術協力を得たと言う事ですな。して、その相手は?」
「暁帝国です。」
「!?」
(な、何を言っているのだ!?まさか、スマウグの戯言は真実なのか!?)
事此処に至り、マイケルは漸くスマウグの言葉に意識を向けた。
尤も、スマウグ本人はこの場にいない。
(クッ・・・こんな事なら、スマウグの奴を呼び寄せておくべきだった!)
此処に来て、マイケルは考えを改めようとしたが、今更ジタバタしてもどうにもならなかった。
完全に気を逸した形となったマイケルは、情報不足のまま暁帝国を相手にしなければならなくなってしまったのである。
『間も無く、神聖ジェイスティス教皇国及び、シーペン帝国艦隊が到着する。港湾要因は、配置に付け。』
不安は否応無く増して行くが、時間は容赦無く過ぎて行った。
・・・ ・・・ ・・・
センテル帝国沖 暁帝国艦隊
吉田を筆頭とする代表団は、客船の船橋から近付いて来る陸地を眺めていた。
「あれが、テセドア運河か。」
「あ、大臣、ピルシー帝国艦隊です。」
見ると、丁度ピルシー帝国艦隊が運河へ侵入した所であった。
ピルシー帝国艦隊も、蒸気コルベット艦を動員していた。
ただし、アルーシ連邦程の余力は無い為、一隻のみである。
「我が国の支援があったとは言え、よく間に合いましたね。」
「まぁ、あの程度の規模の艦なら、そこまで大規模な港湾能力の強化を行わなくとも建造出来るからな。」
対する暁帝国艦隊は、いつもとは違う編成であった。
第零艦隊
第一七戦隊
DE 神風 DE 朝風 DE 春風 DE 松風
第一九戦隊
DE 沖風 DE 澤風 DE 矢風 DE 羽風
主力艦隊とは別の地方隊を動員した臨時艦隊である。
本来の予定では主力艦隊を派遣する筈であったが、運河の幅の問題から特に空母が通れない事が判明した。
巡洋艦以下ならば問題無く通れるが、狭い運河で少しでも自由に動き回れる艦を護衛に着けた方が良いと判断され、地方隊を二個戦隊集めた臨時艦隊が編成された。
「それにしても、これから外交を行うとは思えない物騒な空気ですね。」
目に見える範囲だけでも、戦艦を含む10隻の軍艦が遊よくしている。
「クローネル共和国から聞いた通りだったな。」
世界会議へ出席経験のあるクローネル共和国の情報は、暁帝国にとって非常に貴重な物であった。
当初は護衛無しで派遣を行う予定であったが、どの国も砲艦外交まがいの行為をしていると言うアドバイスが入った為、艦隊を派遣する流れとなった。
「世界大戦を再度起こさない事が目的の筈だが、軍事力を全面に出すとはな・・・」
言わずにはいられない矛盾である。
『此方、センテル帝国海軍所属、戦艦カタリナ。貴艦隊の所属と航行目的と編成を伝えよ。』
搭載していた通信魔道具から、通信が入る。
「所属は、暁帝国。航行目的は、世界会議への出席。編成は、海防艦8、客船1。」
船長が答える。
『確認した。テセドア運河への侵入を許可する。』
許可を得た艦隊は、単縦陣を組んで運河へ侵入した。
「さて、此処からだ。」
吉田は、気を引き締める。
・・・ ・・・ ・・・
暫く後、
小ウォルデ島
小ウォルデ島の沖合に、参加国全ての艦隊が停泊していた。
世界会議参加国は、以下の通りである。
中部地域
列強国 センテル帝国
東部地域
列強国 アルーシ連邦
列強国 神聖ジェイスティス教皇国
準列強国 ピルシー帝国
準列強国 シーペン帝国
西部地域
列強国 モアガル帝国
準列強国 エンディエ王国
準列強国 モフルート王国
新規参加
暁帝国
オブザーバー
クローネル共和国
「世界会議の開催は、明日からとなります。本日は、此方で御宿泊下さい。」
案内を受けた吉田達は、贅を凝らしたホテルへと入る。
割り当てられた部屋へと入り、一息つく。
「さて、明日からだ。」
翌日から、この小さな島で世界が大きく動き出す。
・・・ ・・・ ・・・
ネルウィー公国
暁帝国使節団が海上で待機している頃、メイ達は長老達と睨み合っていた。
「暁帝国は、少なくとも対案を提示して来ました。此方を無視する事が出来たにも関わらずです。更に、この移民は此方の同意を前提としていると明言しています。強制では無いのです。」
長老達は、驚いた。
長い間人間族に虐げられて来た事もあり、人間族が自分達に配慮する様な素振りをする事が信じられなかったのである。
「それは、信用出来るのか?」
当然の心配である。
「少なくとも、嘘を言っている様には見受けられませんでした。」
ケイが答える。
「加えて、彼等は自国の国益を第一に考えておりました。純粋な善意で助けたいなどと発言する者よりは、信じ易いとも考えます。」
その回答を聞き、長老達は暫し悩む。
「ふーむ・・・」
「・・・・・・」
「何と言うか・・・」
あまりにも結論が出ない為、メイは焦れて来る。
「そろそろ結論をお願いします。」
「・・・・・・会ってみるか。」
使節団の上陸が許可された。
複数の国が集まっての外交は、描くのが滅茶苦茶難しいです。
また、かなり時間が掛かりそうです。




