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第六十二話  熱を帯びる世界

 今回は、世界会議前の各国の動きです。

 世界会議が一ヶ月後に迫り、世界の緊張は否応無しに高まっていた。



 暁帝国



「来月に開催か。長かった様な短かった様な・・・」

 センテル帝国使節団の訪問から、一年五ヶ月が経過していた。

 クローネル帝国撃破によって世界を騒がせた暁帝国が、初めて歴史の表舞台に立つのである。

 誰もが、例年以上に荒れると予想していた。

「出来る限りの事はやりました。後は、実践あるのみです。」


 暁勢力圏の発展ぶりは、他勢力の注目の的となっていた。

 スマレースト大陸は、開発以前と比較して二倍を超える経済規模となるに至り、誰もが繁栄を謳歌している。

 しかし、その代償として急激なインフレの進行が問題となっていた。

 発展する毎にあらゆる地域から資本が集まりつつあったが、それもインフレによってほぼ相殺されてしまったのである。

 困り果てた大陸同盟は、暁帝国へ助けを求める事となった。

 事態を憂慮していた暁帝国は、直ちに応じた。

 対応策として持ち込んだのが、紙幣である。

 以前から暁帝国との貿易で利用してはいたものの、大陸内での通貨は相変わらず希少金属を利用した旧来の貨幣であった。

 いくら資本が集まっても、昨今のインフレに対応出来る代物では無く、これを機に大々的な紙幣の導入を図る事が決定された。

 しかし、突然の基軸通貨の変更は大きな混乱とハイパーインフレを引き起こす爆弾となりかねない。

 そこで、まずは既存の貨幣を暁帝国が買い取る形で導入が開始された。

 これは、スマレースト大陸の通貨を暁帝国と共通の物とする事を意味していた。

 独自の通貨を持ちたいと言う思惑もあるが、紙幣は何と言っても発行している勢力の信用がモノを言う。

 この信用を上げる目的もあり、まずは貨幣の購入から行われていた。

 現代国家と違い、それ以前の国家にとっての国の信用度の高さとは、金を初めとする希少金属に依る所が大きい。

 その様な事情を抜きにしても、希少金属を備蓄出来る絶好の機会を見逃す手は無かった。

 長年続いて来た暁帝国との貿易と言う下地もあり、紙幣の導入は比較的スムーズに進んだ。

 この動きを見て、インシエント大陸でも紙幣の導入を求める動きが活発化した。

 その動き自体は歓迎すべき動きだが、スマレースト大陸とでは状況が違った。

 大陸戦争直後のインシエント大陸では、人口の大幅な減少から経済規模の縮小が発生していたのである。

 更に、その後の復興や開発も順調には行っていない事で、元の経済規模を維持するのが精一杯と言う有様であった。

 この様な状況下で安定性に劣る紙幣への乗り換えなどを行えば、どう考えても良い結果とはならない。

 しかし、暁勢力圏の通貨を統一する絶好の機会であると判断された事もあり、紙幣の導入自体は確定事項となっている。

 そして、段階的な導入を行う事となり、大陸戦争の被害が小さい順に導入する事となった。

 それ以前に紙幣を導入していたのは、センテル帝国だけである。

 いくら世界最強の列強国の通貨とは言え、紙幣自体がまともに浸透していない以上、使い所は限られていた。

 その状況が、大きく変わり始めているのである。

 真っ先に動いたのは、アルーシ連邦である。

 元々、分業体制を初めとする近代的な体制を独力で構築して来た事もあり、以前から紙幣には注目していた。

 更に、暁帝国の支援により、技術自体も近代へと突入しつつある。

 近代的な基盤が整いつつある中、暁帝国に対しては各種船舶の発注が殺到していた。

 暁帝国の造船業界は、嬉しい悲鳴を上げた。

 発注した船舶が就航すれば、更なる飛躍が可能となる。

 アルーシ連邦は、時代の変化に見事に対応していた。


 この様に、東部地域では経済を中心として、暁帝国の影響力が急激に膨張していた。

 世界会議で、暁帝国を無碍に扱う可能性は低くなったと言える。

 唯一の問題はハレル教圏であるが、センテル帝国とイウリシア大陸を味方に付けている状態では、どれ程此方を敵視していようとも身動きは取れないと考えられている。

「此処で、東部地域が不安定化する様な事になったら拙い。吉田、頼んだ。」

「お任せ下さい。」

 暁帝国は、初の世界会議へ万全の体制で取り組む。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国



「モアガル帝国から、参加の返信が届きました!」

「暁帝国より、オブザーバーとしてクローネル共和国を参加させたいとの事です!」

「シーペン帝国から、待遇改善の抗議が届いております!」

 この国では、来月の世界会議開催へ向け、大わらわとなっていた。

 開催に関わっていない市民達は、恒例の慌ただしさを呑気に眺める。

 同時に、若干興奮してもいた。

 今回の世界会議は、史上前例の無い要素を含んでいるからである。

「とうとうこの時が来たか・・・暁帝国が何を言うか、楽しみだな!」

「東部地域の勢力図を塗り替えちまったんだ。世界にガツンとキツイ一言を言ってくれるに違い無いぜ?」

 未だに一般人にまで実態が伝わっていないのが現状である為、自国が優位であると疑っていない。

 しかし、その上に立つ者達は、その様な事を言ってはいられなかった。



 外交部



「良いか、くれぐれも我が国の品位を貶める様な言動、行動はするな!破った者は、厳罰に処した上で外交部より立ち退いて貰うぞ!」

 一度は引退した元幹部達が、首となった現幹部達に代わり指揮を執っていた。

 その中で、一際気を張っていたのがスマウグである。

 暁帝国へ使節団として赴いて以来、外交部の体質改善に奔走していた。

 情報部の協力の元、徐々にスマウグの活動は実を結んでいたが、堅物揃いの外交官僚は並大抵の相手では無く、完全な体質改善は叶わなかった。

「まぁ、あの様に言っている以上、致命的な事態にはならんだろうが・・・」

 それでも、不安は拭い切れない。

 しかし、その様な不安すらも気に掛けている暇は無かった。

 スマウグにも、世界会議へ向けてやる事が山程あるのである。



 皇城



 ロズウェルドは、自室から世界会議開催準備の喧騒に耳を傾けていた。

「今年から、世界の様相は一変する。だが、平和である事だけは変わらぬ様にしたいな。」

 暁帝国の参入による変化に対し、期待と不安が入り混じった声で呟く。




 ・・・ ・・・ ・・・




 アルーシ連邦



「大統領、正念場です。」

「そうだな・・・」

 暁勢力圏との国交開設に伴い、イウリシア大陸は大きく発展していた。

 しかし、それだけでめでたしめでたしとはならない。

「面倒だが、これを機に世界は大きく動くだろう。特に、北の狂信者共が何もしない訳が無い。何としても、我が国の立場を確定させる。」

 クローネル帝国の敗北を機に、固定化されていた準列強国以上の国の立場は揺らいでいた。

 情勢の不安定化は、発展の大きな障害となる。

 アルーシ連邦は、自国が順調な発展を享受出来るか否かの分岐路に立たされていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 神聖ジェイスティス教皇国



「本当に、暁帝国が出て来るとは・・・」

 教皇庁では、枢機卿達が集まっていた。

 暁帝国を敵視している彼等は、世界会議の場へ暁帝国が出て来る事に落胆を禁じ得ない。

 ホノルリウスは、意に介さずトーポリへ話し掛ける。

「予想出来た事だが、あまり気分は良くないな・・・だが、これで公の場で奴等を糾弾する事が出来る。」

「はい。この機会は、ハルーラ様が与えて下さったのでしょう。これ程の絶好の機会はありません。更に、これまで悉く異教徒共に妨害されて来たハレル教圏の拡大にも利用出来るでしょう。」

 ホノルリウスは、暁帝国を中心とする情勢の変化を神の助けと考えていた。

 神聖ジェイスティス教皇国は、行き詰まった布教の突破口を見出そうと奔走する。




 ・・・ ・・・ ・・・




 モアガル帝国



「憂鬱だ・・・」

「御気持ちはよく分かりますが、口に出すのはお止め下さい。」

 最近、終始気分が沈んでいるのは、モアガル帝国皇帝である ガレベオ である。

 沈んでいる原因は、暁帝国である。

 モアガル帝国は西部地域の国家であり、暁帝国は東部地域最東端に位置している。

 この地理的条件が原因で、西部地域には暁帝国の影響が及んでいない。

 旧来の体制を堅持したい者にとっては都合が良いと言えるが、暁勢力圏の発展ぶりを知る者は時代に取り残されたと考えていた。

「今回の世界会議で、何としてもこの遅れを取り戻さねばならん。」

 モアガル帝国は、急激に変化する世界情勢からの乗り遅れを取り戻そうと必死に足掻く。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ドレイグ王国



 この国は、世界会議へ顔を出した事が無い。

「先程、センテル帝国からの使者がやって来まして御座います。」

「・・・また、世界会議への招待か?」

「左様で。」

「どうでも良い事で煩わせてくれるな。」

「全く。今回は特にしつこく、時間が掛かってしまい・・・」

「何があったのだ?」

「何でも、東の果てで新たな列強国が勃興したとか。」

「どうでも良いな。他種族の集まりなど、どの様に変化した所で気にする程の事でも無い。それより、今年はズリの子供が例年よりも多いそうだ。」

「ホゥ、それは楽しみで御座いますな。」

 ドレイグ王国は、世界情勢に全く無関心であった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ネルウィー公国使節団が暁帝国を離れてから十日後、



 ネルウィー公国



 この国は、現在進行形で大混乱となっていた。

「・・・」

 その様子を、海上から見つめる者達がいた。

 暁帝国の使節である。

 彼等は、ネルウィー公国の使節団に同行してやって来た。

 しかしその結果は、新種の海獣やハレル教圏の新兵器と勘違いして臨戦態勢を取られると言う有様であった。

「やっぱ、アポ無しはマズかったかな?」

 これまでは、混乱こそしたが軍事行動まで起こされる事は無かった。

 事前連絡は大事だと改めて認識した使節達であった。


 暫く後、


 何とか混乱は収まり、メイ達は長老の元へと急ぐ。


 ネルウィー公国は、各種族から<長老>と呼ばれる代表を一人ずつ選出している。

 国家方針は、長老達の合議によって決定されている。

 一応は国家元首が存在するが、合議制によって成り立っている事もあり、あくまでも代表に過ぎない。

 国家元首は公王であり、長老が持ち回りで担当している。

 同時に、各主要都市を統括する立場ともなっている。


 警戒の声が大き過ぎた事もあり、暁帝国側の使節は上陸すら出来ていなかったが、メイ達によって移民に関する報告が為された。

 長老達は、メイの報告を聞き頭を抱えたくなっていた。

「移民なんぞ、出来る筈が無かろう。」

「故郷を捨てろと言うのか・・・!」

「無視すべきでしょうな。」

 当然ながら、否定的な意見ばかりが噴出する。

「長老の皆様、それではどの様にして現状を打破されるのでしょう?」

 メイは、物怖じせずに切り出す。

 長老達は、メイを睨み付けるが、反論は出来ない。

 直接的な会談を開始するには、暫くの時間を必要としていた。



 次回から、世界会議となります。

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