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第六十一話  セイキュリー大陸の強小国

 この国を出すのに、随分かかってしまった。

 リティニア共和国で龍退治が行われている頃、



 暁帝国  東京



「ジンマニー王国から?」

 東郷は、お休みの最中にやって来た連絡員からの報告に耳を傾けていた。

「はい。何でも、王国の最北端の半島に流れ着いた5隻の船団を発見したとの事です。」

「それで、何でこっちに話を寄越したんだ?」

「その船団ですが、我が国への使節であるとの事です。」


 船団の正体は、セイキュリー大陸北部に存在する<ネルウィー公国>からの使節であった。

 ハレル教圏によって追われている亜人族が集まって成立した国家であり、かつてのフロンド共和国と同じく強小国と呼ばれている。

 ネルウィー公国は、強力な海軍戦力を保有している事が特徴である。

 使用している船はバイキング船とほぼ同じ物であり、上手く風を掴めば20ノットを越える速度で航行が可能である。

 反面、デッキが存在せず全員が野晒しとなる為、他国からは下に見られがちである。

 魔導砲の様な高威力の兵装を搭載出来ない事も欠点である。

 その反面、小型で機動性に長けている為に被弾率が極めて低く、身体能力の高い獣人族を中心とする乗員による切り込みを行っている。

 陸軍戦力も強力となっている。

 ネルウィー公国には、多数の竜人族がいる。

 竜人族の中では最も人口の多い青竜族である。

 そこまで突出した力を持っている訳では無いが、他種族と比較すれば十分強力であり、ハレル教圏からの侵攻を抑え込む一番の原動力となっている。

 竜人族以外も強力であり、正面戦闘以外にも破壊工作等で多大な戦果を挙げて来た。

 ハレル教圏は、完全にネルウィー公国を攻めあぐねている訳だが、大きな問題がある。

 ネルウィー公国には、フェンドリー王国と言う友好国が存在する。

 人間族の国家だが、ハレル教圏と対立しており、度々攻撃を受けている。

 ネルウィー公国とフェンドリー王国は隣国同士であり、どちらかの滅亡は両国の滅亡を意味していた。

 そして、フェンドリー王国はお世辞にも強いとは言えない。

 その為、ネルウィー公国が軍事支援を行っているのだが、その負担は小国には重過ぎるものであった。

 他国と接触しようにも、セイキュリー大陸は最北の大陸であり、その大陸の北部に存在する両国は、ハレル教圏に航路を封鎖されている状態にある。

 その様な事情から、国境付近のハレル教圏の集落を度々襲撃する事で辛うじて持ち堪えていると言う状況となっている。

 しかし、その動きに応じてハレル教圏も軍備を増強しており、進退窮まりつつあった。

 何としてでも別大陸との関係を構築せねばならず、海獣に襲われる危険を冒して暁勢力圏へと訪れたのである。


「どうするかな・・・」

 東郷は、ネルウィー公国との関係構築に大いに悩んだ。

 何しろ、フロンド共和国の時とは事情が違い過ぎるのである。

 旧クローネル帝国との交戦が必至の状況にあり、インシエント大陸のすぐそこに拠点となる昭南島が存在し、各種支援に妨害が入らない地理的条件と環境が整っていたからこそフロンド共和国との関係構築はスムーズに進んだ。

 加えて、旧クローネル帝国の敵対勢力が大きかった事も無視出来ない。

 極め付けが、当時はインシエント大陸の何処とも国交を結べていなかった。

 暁帝国の経済的な問題が解決出来ていない段階ならば関係構築の可能性はあったが、イウリシア大陸とセンテル帝国との友好関係を構築出来ている現状では、何のメリットも存在しない。

 更に、ハレル教圏との対立は確定的となってはいるが、それもイウリシア大陸とセンテル帝国との連携が期待出来る現状では、百害あって一利無しとなりかねない。

 火中の栗を拾うリスクを冒すだけの理由が、全く存在しないのである。

「総帥、一つ宜しいでしょうか?」

 脇に控えていた吉田が、口を開く。

「今回の関係構築ですが、結んでおいた方が将来的なメリットが大きいのでは無いかと思われます。」

「どう言う事だ?」

 東郷には、メリットなど全く無い様に思われた。

「ネルウィー公国とフェンドリー王国が、亡国寸前となっている事はよく分かりました。そして、その状況に我が国が介入しても、リスクばかりが大きくメリットは殆ど存在しません。」

 此処までは、誰もが理解出来る事である。

「でしたら、逆に彼等を此方へ招き入れるのはどうでしょうか?」

「・・・・・・?」

 東郷は、言われている意味が全く理解出来ない。

「つまり、移民です。ネルウィー公国とフェンドリー王国の国民を、丸ごとインシエント大陸へ移民させてはどうでしょう?」

「!?!?」

 ネルウィー公国とフェンドリー王国の人口は、計600万人強である。

 それだけの人口を別大陸へ丸ごと移すなど、無茶を通り越した妄想の類としか思えなかった。

「・・・無理だろ。」

 暫く沈黙して、漸く絞り出した言葉がこれであった。

 輸送手段はどうするのか、ハレル教圏に気付かれたらどうするのか、海獣に襲われたらどうするのか、そもそも世界が容認するのか・・・

 問題点を挙げればキリが無い。

 それ以前に、当事者達が受け入れるとは思えない。

「受け入れられないのでしたら、彼等は見捨てるより他はありませんな。」

 清々しい程に薄情な言葉だが、彼も慈善事業で国家運営を行っている訳では無い。

 一番に考えなければならないのは、国益である。

「そもそも、何で移民なんだ?俺には、メリットよりデメリットの方が大きいと思うぞ。」

 移民は、地球でも深刻な問題となっている。

 欧州で大きな混乱が発生した事は、記憶に新しい。

「移民問題は、国や地域毎の経済格差、民族問題、移民先での扱いの差によって生じる事が殆どです。地域毎の価値観の差によるトラブルも度々起こりますが、この世界の多くの地域では、その価値観の差が小さい事が多い。セイキュリー大陸が特殊なのです。」

 ハーベストでは、単一民族国家が少ない。

 それだけに、あらゆる価値観が長い時間を掛けて混ざり合って来ており、地域毎の差はあれど誤差の範囲に収まっていた。

 単一民族国家との差は大きいが、それ以外では大抵の価値観を共有出来ているのである。

「更に都合の良い事に、インシエント大陸には長命種を敬う風潮があります。人間種以外を亜人族と蔑む者は、忽ち排除されるでしょう。」

 吉田は、この機に乗じてインシエント大陸の人手不足を解決しようと目論んでいた。

 移民による各種手配で大きな負担が掛かる事は間違い無いが、人口の自然増加を待っているだけでは時間が掛かり過ぎる。

 医療技術にも梃入れしているとは言え、人手はそう簡単には増えてくれない。

 そして、ネルウィー公国とフェンドリー王国はこれ以上持ち堪えられない。

 国民の安全を考えれば、このままセイキュリー大陸へ居座り続けるよりも確実である。

 更に、修羅場を潜って来たツワモノ達が暁勢力圏へ加わるのである。

 大きな力となる事が予想された。

「うーん・・・」

 スケールの大き過ぎる話に、東郷はあまり付いて行けていなかった。

「総帥、どうされますか?」

(このままセイキュリー大陸情勢に深入りするのは、絶対にやりたくは無い。一番無難なのは、この件は無視する事だ。だが、それをしたら各国が不信感を持つかも知れないな・・・やるにしろやらないにしろ、提案だけはしといた方がいいかな。)

 周辺国から不必要な警戒感を抱かれる事は、暁帝国の最も避けたい事態である。

 その事態が起こり得ると判断した東郷は、ひとまず提案はしてみる事に同意した。



 外務省



 戻って来た吉田は、早速使節と面会した。

「お待たせしました。」

 使節の顔色は、非常に悪かった。

(・・・いつものか)

 暁帝国を初めて直に見た者達共通の反応である為、意に介さず話し始める。

「さて、貴国の事情は既に聞き及んでおります。結論から申し上げますと、我が国はセイキュリー大陸へは不干渉の姿勢を取ります。」

「そ、そんな・・・」

 声を上げたのは、使節団代表である メイ である。

 彼女は、エルフ族である。

「おいおい、いくら何でも薄情過ぎやしないか?」

 隣の男が立ち上がって抗議した。

 彼は、メイの友人の マーク である。

 狼の獣人族であり、近接戦闘に長けている。

「座れ、マーク。此処は、喧嘩をする場では無いぞ。」

 更に隣の男が、マークを諫める。

 彼は、メイとマークとよく行動を共にしている ケイ である。

 妖人族であり、冷静沈着さを売りとしている。

 吉田は、この三人が事実上の中心人物であると判断した。

「失礼、突然過ぎましたな。」

 吉田は、軽く頭を下げて詫びを入れる。

「謝罪は結構。それで、理由をお聞かせ願いたいのだが。」

 吉田の謝罪が上辺だけの物であると感じ取ったケイは、他の者達が主導権を握られる前に話しを進めようとする。

 吉田は、説明を始めた。

「・・・つまり、我が国に一切のメリットが存在しないのです。」

 絶望

 使節の空気は、その一言に集約された。

「大臣さんよ、それはあまりにも酷過ぎるんじゃ無ぇのか?」

 絶望的な空気をものともせずに、マークが口を開く。

「俺達は、あんたらが困ってる人々を見捨てないと聞いて此処まで来た。だが、どうだ?メリット?危険?失望したぜ・・・俺達は、メリットだとか危険だとかそんなモノの為に躊躇った事は無ぇ!あんた等みたいな恵まれた環境にいる連中には分からんだろうがな!」

(ムードメーカーか、厄介な奴だ・・・)

 外交の場とは思えない暴言の数々だが、マークの勢いによって他の使節が絶望から這い上がって来ていた。

「一国を動かす者は、一時の感情に流される様では務まりません。そして、何よりも考えなければならないのは、国防と国益です。どの様にすれば、自国を守れるのか。どの様にすれば、国民の生活を守れるのか。それは、貴国も同じでは無いのですかな?それを、放棄しろと仰るので?」

「「「!!」」」

 吉田から発せられる空気が、突然変わった。

 それは、いざとなれば恩人すらも見捨てて国益を追求する歴戦の外交官の空気であった。

「では、貴国の国益に適う話をしよう。」

 ケイが切り出す。

「貴国は、ハレル教圏と対立を深くしている。我が国との連携は、ハレル教圏を抑え込むのに一役買うと思うが?」

「我が国は、イウリシア大陸とセンテル帝国と友好関係にあります。ハレル教圏を抑え込むのに、貴国との連携は必要とはしておりません。」

 取り付く島も無いとは、この事である。

 彼等には、ハレル教圏抑え込みの為の連携以外に外交カードは存在しない。

 鉱物資源も存在するが、セイキュリー大陸以上に豊富な資源の存在するイウリシア大陸と深い関係を結んでいる時点で、外交カード足り得ない。

 また、それ以外の特産品等は存在しない。

 完全にお手上げであった。

 再度、絶望的な空気が漂い始める。

「一つ、質問があります。」

 此処で、吉田が切り出す。

「貴国の目的は安全保障と思われますが、それはセイキュリー大陸で無ければならないのですかな?」

「?・・・どう言う事でしょう?」

 使節は、問われている意味が全く分からなかった。

「つまりですな、此方へ移民してみるのも一つの手では無いかと思うのですよ。」


 「「「!!!?」」」


 突拍子も無い提案に、ケイでさえ表情が変わる。

「そ・・・そ、そんな事が可能なのですか!?」

 メイは、夢物語を聞いている様にしか思えなかった。

「同意があればと言う前提が必要ですが、可能です。」

(向こうから此方へ来れないなら、此方から向こうへ行けばいいと言う事ね。)

 メイは、僅かながら希望を見出したが、ケイは警戒の色を濃くする。

「吉田殿、その移民だが、どれ程の規模で行うつもりだ?」

「一人残らず移民させるつもりです。更に、貴国の友好国であるフェンドリー王国も同様の措置を取りたいと考えております。」

 この返答に、更に警戒の色を濃くする。

(本当に全国民を移民させたら、事実上その国は消滅する。我が国とフェンドリー王国の滅亡は、セイキュリー大陸に於けるハレル教圏の拡大を意味する。果たして、それが良い事と言えるかどうか・・・)

「吉田殿、移民を行うとなるとかなりの負担が予想されるが、そうまでして移民を推進する理由は何だ?」

 吉田は、インシエント大陸の問題を説明する。

「なるほど・・・」

(こいつ等の狙いは、我等を取り込んで自国勢力圏を強化する事か。それに、大した旨味の無い飛び地を支援し続けるよりは利益になる可能性も高い。加えて、巨大な負担を掛けてまで他国民を脅威から救い出したとなれば、世界から確固たる信用も得られる。逆に、此処で見捨てては不信感を持たれる危険もあるか。)

 ケイは結論を出すが、この様な小規模な使節団で決定するには大き過ぎる問題である。

「吉田大臣、この件は一旦持ち帰らせて戴きます。」

「そうでしょうな、この場では決められますまい。しかし、再度此処へ訪れるのも困難でしょう。連絡体制の構築の為にも、あなた方に同行した使節団を送り出したいのですが。」

「分かりました、よろしくお願いします。」

 最後は、吉田とメイの握手で終わった。


 後日、使節団と共に、4隻の神風型海防艦がセイキュリー大陸へ向けて出港した。



 ちょっと無理矢理過ぎたような気がする。

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