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第六十話  龍退治

 最近、内政や外交ばかりだったので、戦闘シーンを入れてみました。

 インシエント大陸



 この大陸は、暁帝国の影響下で日々発展している。

 しかし、開発が進む毎にその発展の勢いは急激に遅くなっていた。

 その原因は、いくつかある。

 一つ目は、大陸戦争の影響である。

 大陸戦争は、インシエント大陸の歴史に於いて、かつて無い程の人員が動員される大規模な物であった。

 軍属だけでも犠牲者は90万人近くに上り、各地で男手が不足していた。

 加えて、民間人の犠牲者も万単位に上る。

 旧クダラ王国に至っては、2300万もの人口が事実上消滅しており、大陸全体の人口が一気に減少していた。

 二つ目は、旧クローネル帝国の属国である。

 元々、利用価値の低い場所に存在した国々であった為、国も国民も貧しかった。

 その様な状況下で旧クローネル帝国は、僅かな収入でさえ容赦無く吸い上げていた。

 当然無事で済む筈も無く、都市部の整備さえ出来なくなり、どの国も荒れるに任せるしか無くなっていた。

 その様な中で過ごす国民の生活は、悲惨の一言であった。

 再編された各国は、旧属国地域の手当てにかなりの労力を割かねばならず、暁帝国の支援付きでも復興は中々進んでいないのが現状である。

 三つ目は、暁帝国の支援である。

 暁帝国は、インフラ整備を中心とした直接的な開発を行っているが、その結果としてこれまで人の手が全く入っていなかった場所にまで開発の手が伸びる事となった。

 人手不足と旧属国地域の手当により、ただでさえ開発が順調とは言い難い中で開発可能な地域が急激に広がっているのである。

 放置する訳にも行かず、少ないながらもそちらにも人員を派遣する事となり、人員が広い範囲へ分散してしまっている状況にある。

 更に、これまで人の手が入っていなかった事もあり、危険な生物が多数生息してもいた。

 その対応で各国のギルドも大忙しとなっていたが、全てに対応し切る事など到底出来ず、暁帝国軍の全面支援を受ける事となっていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 リティニア共和国



 この国は、インシエント大陸北東部に位置する国である。

 旧クローネル帝国から最も遠く、暁帝国との縁は最も薄かった。

 しかし、それだけに開発し甲斐のある土地でもあった。

「・・・やり過ぎだったんじゃない?」

 ギルドへ入った男が呟く。

「まぁ、この世界の基準からすれば、ウチの開発速度は異常だからなぁ・・・」

 隣の男が答える。

 彼等の目の前では、新たに開発されている土地で出現した危険生物の討伐依頼が殺到していた。

 冒険者達にとっては稼ぎ所ではあるが、魔導砲を持ち込んでも敵うか分からない生物も多く、放置されたままの依頼が過半を占めている。

 正式に軍を派遣しようにも、全く手が回らないのが現状であった。

 その結果、彼等の出番となった。

 受付前の行列に並び、漸く順番が回る。

「ああ、暁帝国軍の方ですね!」

「そうです。要請があったので、此方に伺いました。」

 困った時の暁頼みと言うワケである。

 ギルドを介しての仕事である為、兵士達にも報酬が渡される。

 丁度良い小遣い稼ぎともなっていた。

 ギルドを通すと言う形にしたのは、依頼頻度が高過ぎるからである。

 軍を動かすには、多額の予算が必要となる。

 いくら圧倒的な国力を持つ暁帝国とは言え、大規模な戦争を行った上で大陸二つの開発事業を抱える状態での各種の討伐は、負担が大き過ぎたのである。

 各国の事情を全く考慮しない勢いで開発を進めた暁帝国の自業自得でもあるのだが、発展に尽力した結果でもある為、どの国も文句は言わずに快く支払いに応じている。

「それで、今度は何が出たのですか?」

「それが・・・ドラゴンです。」

 地球の伝説でも描かれている通りのドラゴンである。

 ただ強力なだけでは無く、非常に狡猾でもある。

「大昔には、人類との激しい生存競争を繰り広げていたそうですが、古い文献に記録されているのみでして、最早伝説の類となっていたんです。」

「その伝説が、実在していたと・・・」

「はい。余程上手に隠れていたらしく、発見者は直前まで気付かなかったそうです。気付いた時には、目の前に恐ろしい巨体がいたとか。」

 未開拓地域には、事前に偵察機を飛ばしていた。

 その偵察機にも発見されていないのだから、相当に高度なスニーキングスキルを持つと言う事となる。

「よく情報を持って帰れましたね。」

「発見者も、何で無事か分からないそうです。気が付いたら逃げ切れていたと。」

 それが、証言の信憑性を下げていた。

 とは言え、未開拓地域は元々危険度が高い地域である為、中隊規模の調査隊を派遣した。

 その結果、全滅に近い被害を受けて逃げ帰って来たのである。

 生存者達は、口々に「ドラゴンに襲われた!」と証言した。

 生存者達の精神状態が不安定であった事もあり、またしても証言の信憑性を疑う声が上がった。

 しかし、損失率九割と言う尋常では無い被害を被っていた事もあり、事実であると結論された。

 大規模な軍の派遣も考えられたが、現状では困難となっている。

 加えて、未開拓地域を担当する部隊は、優先的にエンフィールドライフルを支給されている。

 ライフルが効かない化物でも多少の足止めなら可能であると踏んでいたが、被害の大きさから推察するに足止めすら出来なかった様である。

 こうなってしまっては、暁帝国軍を頼る他に無い。

「これは、ヤバ過ぎるな。」

 損失率九割に達するなど、旧日本軍の玉砕を除けば相当に珍しい事例である。

 暁帝国が関わった戦闘の大半はかなり高い損失率を叩き出しているが、圧倒的な技術格差があってこそであり、適切に運用出来てこそである。

「分かりました。後は、此方に任せて下さい。」

 龍退治は、暁帝国軍の仕事となった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 在リティニア共和国暁帝国軍司令部



 依頼を受けた暁帝国軍は、早速偵察機を飛ばして目標の捜索を始めた。

「いくら偽装が上手くても、熱まで隠してるとは思えんなぁ。」

 かつての未開拓地調査とは違い、今回は赤外線を主体とする捜索である。

「お、これじゃねぇか?」

 操作員が、大きな熱の塊を見付ける。

 周りの者達が集まり出した。

「丁度、龍のみたいな形になってるな。」

「全長は、目測で20メートル弱ってトコか。」

「そんな図体で、今まで見付からなかったのかよ!」

 ざわつく中、映像を通常に切り替える。

「うわっ、こりゃ分からんわ。」

「見事に地形に溶け込んでるな・・・」

「地上部隊を送り出したら、かなりの被害が出そうだな。」

 龍の表面は、生息地域に見事に溶け込んだ迷彩となっていた。

 偵察機に気付いているのか、ピクリとも動かない。

 その後も詳細に調査を行い、目標の大まかな能力を予測した。


 暫く後、


 司令部の主要な人員が集まり、作戦会議が開かれた。

「先日の調査の結果、様々な事が分かった。」

 粘り強く張り付いた結果、龍は動き出した。

 狩りを行ったのだが、その動きを詳細に分析し、更にわざと近付いて挑発も行った。

 それ等の行動から分かった事は、


 一  飛竜と同様に飛行能力を持ち、最高速度は500キロ/時にもなる。

 二  機動性は、白竜を除く既存のあらゆる生物を上回る。

 三  攻撃能力は、直接的な打撃の他に、火炎放射や火炎弾攻撃を行い、非常に強力である。

 四  表面の鱗の強度は、RHA換算で60ミリ程度と推測される。

 五  体内に膨大な魔力が確認されており、飛行や攻撃に魔力を使用している。


 遭遇する事は、イコール死を意味していた。

「大昔には、こんなのがウヨウヨいたのか・・・」

 どれ程の地獄絵図であったのか、想像も付かない。

 これ等の情報を元に、討伐方法が練られて行く。

 その結果、


 一  攻撃は戦闘ヘリ主体とし、地上からの接近は行わない。

 二  事前調査の情報から戦闘ヘリを上回る空戦能力がある為、第一撃はグローバルホーク搭載の対地ミサイルとし、そのまま地上へ釘付けにする。

 三  戦闘ヘリによる攻撃を開始する。

 四  行動不能となるまで波状攻撃を行い、最終的に輸送ヘリ搭載の歩兵部隊による戦果確認を行う。

 五  必要があれば、対戦車ミサイル等による攻撃を行う。


 となった。

「かなり大掛かりになりますね。」

「仕方無いだろう、これ位しないと此方が危ない。」

「大昔の連中は、どうやって戦ったんだ?」

「伝説の剣を見付けた勇者でもいたんじゃないか?」

「・・・・・・」

 絵に描いた様なファンタジーエピソードであるが、魔術が現代兵器にボロ負けしている現実を目の当たりにしている彼等に言わせれば、「銃が一番だ!」である。

「子供達の夢を壊す事になりそうだが、安全には代えられん。念入りに準備を進めてくれ。」




 ・・・ ・・・ ・・・




 未開拓地域上空



 本来、閑静な筈の未開拓地域は喧しい騒音に包まれていた。

 普段とは違う騒ぎに、様々な種類の鳥が留まっていた樹から慌てて飛び立つ。

 この喧騒の原因は、鳥の逃げた空に存在した。

 三機一組のAH-64の編隊が多数飛行している姿を、あらゆる獣が目撃する。

 待ちに待った龍退治である。

 この任務に参加した者達には、<ドラゴンスレイヤー>の称号が授与される(待遇には一切反映されない)。

 AH-64の後方には、歩兵を載せたUH-60が後続している。

「・・・まぁ、知ってた。」

 搭乗員の一人が呟く。

 多数のローターが空気を叩く音に交じり、お馴染みのあの音楽も流れていた。

「ワーグナーを用意するとはねぇ・・・」

「そりゃぁ、ヘリと言ったらこれだろ。無い方がどうかしてる。」

 UH-60には観戦武官もいるのだが、妙にテンションの高い兵士達に全く付いて行けなかった。

 付いて行く気も無かったが・・・

 そうこうしていると、攻撃予定地点に到着した。

『此方グローバルホーク、目標が動き始めた。景気付けの音楽が、モーニングコールになっちまった様だぞ。』

『此方アパッチ、手遅れになる前にもう一度お眠り頂く。始めてくれ。』

『了解ィ、攻撃開始!!』



 ゴォォォォォォォォォ・・・



 ワーグナーの目覚ましによって鬱陶しそうに起き上がった龍は、上空から別の音が近付いて来る事に気付き、上を向いた。



 ドォン… ドォン… ドォン…



 直後、対地ミサイルが連続して直撃し、飛び立とうとした龍は仰向けに倒れた。



 ガアアアアアアアッ!!



 ダメージを受けはしたが、大して効いていないのか雄叫びを上げる。

『うおー、キレてるキレてる。』

『無駄口を叩くな!第一編隊、攻撃を開始せよ!』



 シュパパパパパァァァァァァァーーー・・・



 一式空対地誘導弾が、一斉に龍へ向かって撃ち出される。

 攻撃される側は堪ったモノでは無いが、どうしようも無かった。



 ドドドドドドドドドドドドドドドド



 全弾が、龍の胴体へ無慈悲に着弾する。

『・・・・・・』

 集団いじめとも取れるこの光景に、全員が何とも言えない気分となる。

 ミサイルの嵐が収まり、爆煙が晴れると、傷だらけの龍が悶えていた。



 ガアア・・・グワアァァ・・・ガ・・・ガ・・・



 既に息も絶え絶えとなっていたが、脅威となる存在を見逃す気は無い。

『第二編隊、攻撃開始せよ!』



 シュパパパパパァァァァァァァーーー・・・

 ドドドドドドドドドドドドドドドド



 第二次攻撃が終了し、爆煙が晴れると、仰向けに倒れたままピクリとも動かない酷く欠損した龍の様な物が姿を現した。

『・・・歩兵部隊を降下させろ。』

 UH-60が前へ出る。

 目標のすぐ近くで懸垂降下を行い、対戦車ミサイルを構えながら更に近付く。

「此方観測班、目標の撃破を確認した。」

『了解。総員、任務は完了だ。速やかに撤収するぞ。』

 その後、龍の残骸を回収し、真っ青となった観戦武官を送り届け、いつもの様にあっさりと終わった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 リティニア共和国  ギルド



 依頼達成の報告の為に、暁帝国軍から派遣された二人の兵士がギルドを訪れた。

「あ・・・」

 二人が入ると、直前までの喧騒が嘘の様に静まり返る。

「な、何だ?」

「何か、マズい事でもやらかしたか?」

 二人は狼狽えるが、


 「「「「「ウオオオオオオオオオ」」」」」


 突然、静寂は歓声へと変わった。

 再度、狼狽える二人。

「聞いたぞ!ドラゴンを倒したんだってな!」

「半ば伝説になってたドラゴンスレイヤーを、この目で拝める日が来るとは思わなかったぜ!」

「あんた等は英雄だ!」

 賞賛の言葉を次々に掛けられ困惑したがいつまでもそうしている訳にも行かず、速やかに依頼達成の報告を行う。

 その後は「どうやって倒した!?」と質問攻めにあったが、ただの弱い者いじめをしただけであった為、苦笑いをしらながら明言を避けて大急ぎで駐屯地へと戻って行った。


 撃破された龍は、その首が首都であるメンデギスへと送られ、国威発揚に大いに利用された。

 観戦武官から聞かされた暁帝国軍の圧倒的な戦闘力に政府関係者は若干顔色を悪くしたが、大きな脅威が一つ取り除かれた事を大いに喜び、未開拓地域の開拓事業に明るい展望を見出した。



 何か、龍に名前が欲しかったのですが、思い付きませんでした。

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